第1回:ファイル/FTP/WebサーバーとしてNASを活用する
●多機能・高性能なハイエンドNASが身近な存在に
データの保存や共有から、より高度なサーバーとしての活用へ。「NAS」をさまざまな用途に活用しようという動きが広まってきている。
HDDの大容量化や低価格化が進んだ恩恵で、NAS(Network Attached Storage)は、これまで小規模なオフィスや家庭などで手軽に利用できるリーズナブルなストレージとして普及してきた。すでにUSB接続のHDDとさほど変わらぬ価格で購入できる低価格製品も存在しており、ストレージ市場の一角を担う存在としても認知度が高まっている。
しかしながら、その一方で、単純な容量だけでなく、より多機能で高性能なNASを求める声も高まりつつある。特に中小やSOHOなどのビジネス用途では、複数のユーザーで利用した際でも快適に利用できる高いパフォーマンス、HDDの故障でも大切なデータを確実に保護できる信頼性、そしてファイルサーバーとしてだけでなくFTPサーバーやWebサーバー、メディアサーバー、アプリケーションサーバーなどさまざまな用途に使える多機能なNASが求められている。
このようなNAS製品は、これまで企業向けのハイエンド製品しか存在しなかった、海外メーカーを中心に、多機能でありながら、リーズナブルな製品が身近な存在になってきた。
たとえば、今回取り上げるQNAPの製品が代表的だ。高性能かつ低消費電力なCPUに加え、RAIDによるデータを保護実現する複数のドライブベイを搭載し、FTPサーバーやWebサーバーなどの機能も標準で搭載しつつ、さらにQNAPならではのプラグインシステムによって、次々に機能を拡張することができるようになっている。
QNAPのTS-459 Pro。高性能かつ低消費電力のCPUと4つのベイを搭載した多機能・高性能NAS |
これにより、さまざまな用途への活用が可能だ。容量不足になったUSB HDDからのステップアップ、古くなったファイルサーバーのリプレイスなどはもちろんのこと、Webサーバーの移行によるホスティング費用の節約、リモートアクセス環境の構築、グループウェアの導入など、1台で何役もこなすことが可能となっている。
とは言え、はじめてNASを使う場合、どのように利用すれば良いのかが不安な場合もあることだろう。そこで、ここでは実際にQNAPのNASを利用しながら、さまざまな用途に活用するための具体的な方法を紹介していくことにする。
●QNAP TS-459 Proをファイルサーバーとして利用する
初回となる今回はNASとしての基本的な使い方を紹介する。まずはファイルサーバーとしてNASを使えるようにしてみよう。
今回、設定例として取り上げるのは、QNAPの「TS-459 Pro」だ。4つのベイを搭載した中小・SOHO向けの製品で、デュアルコアのAtom D510(1.66GHz)と1GBのRAM、2系統の1000BASE-Tを搭載した製品となっている。
側面 |
正面 | 背面 |
パワフルなCPUによって複数アクセスを快適に処理できるうえ、RAID5やRAID6の構成によるHDDの障害の耐性や2系統のLANによるネットワーク障害の耐性も実現しているモデルだ。価格も実売で10万円以下となっており、中小やSOHOなどで導入しやすい価格になっている。
なお、ほぼ同じ構成ながら、より高性能なCPU(Atom D525 1.8GHz)を搭載した「TS-459 Pro+」も新たにラインナップに加わった。さまざまなサービスを利用する場合は、新モデルを選ぶのも1つの選択肢だ。
まずは、ハードウェアのセットアップを行う。標準ではHDDが搭載されていないため、フロントのベイからトレイを取り出してHDDを装着する。市販の3.5インチHDD(2.5インチでも可)をトレイにセットし、ネジで固定。再びベイに装着する。
続いて、背面にネットワークケーブルと電源ケーブルを接続し、フロントパネルの電源ボタンを押せばTS-459 Proが起動する。しばらくして、ビープ音が聞こえてくれば起動は完了だ。
まずはフロントからトレイを取り出してHDDを装着 |
背面にLANケーブルと電源ケーブルを接続 | フロントの電源ボタンを押すとシステムが起動する |
続いて初期設定を行う。TS-459 Proのフロントに搭載されている液晶パネルを見ると、LANポートに割りあてられたIPアドレスを確認できる。設定画面はポート8080でアクセスできるので、ネットワーク上のPCでブラウザを起動し、「http://IPアドレス:8080」と入力すれば設定画面にアクセス可能だ。
液晶パネルは、低価格のNASでは搭載されていないことが多いが、あると設定や運用が非常に楽になるので、NASを選ぶ際のポイントとしてチェックするといいだろう。
フロントの液晶パネルで設定情報を確認可能。IPアドレスだけでなく、HDDの温度やRAIDの構成情報なども確認できる | QNAP TS-459 Proの設定画面。グラフィカルでわかりやすいインターフェイスを採用している |
設定画面が表示されたら、まずは言語を変更する。海外製のNASでも、最近はきちんと多言語対応となっているため、英語が苦手という場合でも安心だ。
表示が日本語になったら、「管理」をクリックして設定画面にアクセスする。管理用のIDとパスワードが付属のセットアップガイドに記載されているので入力すれば設定画面が表示される。
NASの設定をするときはトップページから「管理」を選択。この画面からファイルマネージャなどのNASの機能を利用したり、インターネット上のフォーラムなどにもアクセスできる | ディスクやアクセス権などの設定項目がわかりやすく整理された設定画面。NASの管理はここから行う |
最初に設定すべきなのはディスクの設定だ。メニュー画面から「ディスク管理」の「ボリューム管理」を選択すると、作成可能なディスクの構成が表示される。HDDが故障した際でも運用を続けたり、復旧できるようにするにはRAID1/5/6のいずれかを選択すべきだが、RAID1/6では容量が半分、RAID5では3/4になる。今回は2台のHDDが同時に故障しても対応可能なRAID6を選択したが、容量を多く確保したい場合はRAID5を選ぶのも悪くないだろう。
なお、ボリューム作成時に暗号化も選択できる。外部に漏れては困る重要な情報を保存する場合は暗号化を設定しておくといいだろう。
ディスクの管理画面。利用するRAIDのレベルに合わせて手軽に設定可能。ここではHDDが2本故障してもデータを保護できるRAID6を選択した | 大切なデータを保管する場合は暗号化を設定することも可能。企業などで使うときは、設定しておくと安心 |
作成を実行すると、ボリュームの作成、フォーマット、RAID6の同期という流れで作業が進む。すべて完了するまでには、HDDの容量にもよるが数時間ほどかかるものの、フォーマットまで完了すればファイル共有の利用は可能だ。
15分前後でフォーマットが完了すればアクセスが可能となる。標準で「Public」や「Multimedia」などの共有フォルダが作成済みとなっているので、ネットワーク上のPCからすぐにデータの読み書きが可能となる。
なお、パフォーマンスについては以下のようになった。ミドルレンジのNASとしてはかなり高速なので、パフォーマンスに不満を覚えることはないだろう。
フォーマットが完了するとPCからアクセス可能(RAIDの同期はバックグラウンドで実行される)。標準でいくつかのフォルダが作成済みとなっているためすぐに利用できる | CrystarlDiskMark 3.3dの結果(100MB)。クライアントにはCore i7 860/RAM8GB/HDD1TB/1000BASE-T/Windows 7 UltimateのPCを利用 |
ファイルサーバーとしてはの最低限の設定はこれだけだ。もちろん、このまま利用してもかまわないが、実際に企業などで運用する場合は、このほかに以下の設定をしておくと良いだろう。いずれも設定画面から項目を選択するだけで手軽に設定することができる。
1.サーバ名の変更(システム管理の全般設定)
標準では「NAS+MACアドレスの一部」となる。わかりやすい名前に変更しよう。
2.IPアドレスの変更(システム管理のネットワーク設定)
標準ではDHCPから取得する設定。固定したい場合は変更する。
3.ドメインの設定(ネットワークサービスのMicrosoftネットワーク)
ActiveDirectoryのドメインが構成されている場合は参加可能。
4.ユーザーとグループの作成(アクセス権管理のユーザ、グループ)
ユーザーやグループごとにアクセスできるフォルダを制限したい場合に設定する。
5.共有フォルダの作成(アクセス権管理の共有フォルダ)
標準以外の共有フォルダを利用したい場合に作成する。
6.容量制限(アクセス権管理の容量制限)
いわゆるクォータの設定。ユーザーごとの制限も可能だ。
●FTPサーバーでファイルのやり取りを可能にする
社内のファイルサーバーとして利用可能になったら、続いて、外出先からもNAS上のデータにアクセスできるようにしてみよう。
外出先からのアクセスを実現する方法は大きく2つある。1つはWebファイルマネージャを使う方法だ。文字通り、ブラウザーを利用してNAS上のファイルを参照することができる機能となっており、標準で有効になっている。
Webファイルマネージャはポート8080、もしくは443を利用してアクセスするので、まずはルーターのポートフォワードで、8080か443をTS-459 Proに転送する設定をする。TS-459 ProのIPアドレスを固定してから、ルーターの取扱説明書を参考に設定しておこう。
ルーターの設定が完了したら、続いてDynamic DNSの設定を行う。TS-459 Proの設定画面から、システム管理のネットワーク設定を開き、「DDNS」タブをクリックするとDynamicDNSの設定が可能だ。あらかじめdyndns.comなどのアカウントを取得してから、ドメイン名を設定する。
この状態で、外出先からPCを利用して、「https://xxxx.dyndns.org」や「http://xxxx.dyndns.org:8080」のようにDynamic DNSのアドレスにアクセスすれば、設定画面が表示されるので、「WEBファイルマネージャ」を選択後、ユーザーアカウントでログインすれば、NAS上のファイルにアクセスできる。もしも、外部の人と共有したい場合はゲスト用のアカウントを作成しておくと良いだろう。
【ポートフォワード】Webファイルマネージャは標準で有効になっているため、ルーターの設定をするだけで利用可能。ポートフォワードで8080を転送する | 【DDNS】DynamicDNSを利用すればIPアドレスが固定されていない場合でも外出先からアクセス可能。TS-459 Proから各種サービスを利用できる |
【ファイルマネージャ】ブラウザを利用して外出先からアクセスすることで、NAS上のファイルを参照できる |
外出先からのアクセスを実現するもう1つは、FTPを利用する方法だ。同様に、TS-459 ProのIPを固定し、ルーターでポート21をフォワードする設定を行ってから、Dynamic DNSの設定をする。Webファイルマネージャを利用する設定が済んでいる場合はルーターでポート21をフォワードするだけだ(後述するSFTPを利用する場合はポート22を設定)。
なお、FTPサーバーは標準で有効になっているが、TS-459 ProではSSL/TLSを利用したFTPSやSSHを利用したファイル転送SFTPなどのセキュアなFTP転送の利用も可能となっている。このうちFTPSは標準では無効になっているので、利用する場合は事前に有効にしておくと良いだろう。
アクセス可能なユーザーやフォルダは、ファイル共有の設定に準ずる。つまり、ファイル共有の目的でアカウントを作成し、そのユーザーにフォルダへのアクセスを許可すれば、自動的に同じアカウントを使ってFTPも利用できることになる。このあたりは、どのような運用をするかを事前に検討すべきだろう。外部の人にアカウントを発行する場合は、アクセスできるフォルダに十分な配慮も必要なので、アクセス権管理でユーザーや共有フォルダの設定を確認しておこう。
これで外出先のPCから、FTPクライアントなどを利用することでNASのファイルにアクセスできるようになる。なお、SFTPやFTPSを利用する場合は、専用のクライアント(FileZillaなど:http://filezilla-project.org/download.php?type=client)を利用する必要がある。通常のFTPはセキュリティに課題があるため、可能な限り通信内容を暗号化できるSFTPやFTPSを利用した方がいいだろう。
FTPも有効になっているので、同様にポートフォワードとDynamicDNSの設定をすれば外出先から利用可能 | セキュアな転送をしたい場合は、SFTPやFTPSを利用するといい。対応クライアントを利用すれば安全にファイルをやり取りできる |
●Webサーバーとして運用する
このようにQNAP TS-459 Proを利用することで、社内のファイル共有、外部とのデータのやり取りがカンタンに実現できるが、さらにWebサーバーとしてTS-459 Proを活用することもできる。
Webサーバーは、機能としては標準で実装されているものの、サービスとしては稼働していない。このため、利用する場合は、事前に設定画面から有効にしておく必要がある。と言っても、設定はカンタンで、「ネットワークサービス」の項目にある「Webサーバ」で「Webサーバを有効にする」にチェックを付けるだけだ。
これで、ブラウザを利用してNASのホスト名やIPアドレスにアクセスすれば、Webページが表示される。
Webサーバを有効にすればホームページによる情報の発信などが可能。チェックを付けるだけですぐに有効にできる | 有効後、ブラウザでアクセスすると標準のページが表示される。ページの発行手順が記載されているので、この通りにやればWebサーバーとしてすぐに利用できる |
稼働しているWebサーバーはApacheとなるが、バージョンなどはPHPを利用して手軽に確認できる。ヘルプにも記載されているが、「」というコードを記述したファイルをNASの「Web」フォルダに保存し(PCから共有フォルダとして参照できる)、事項すればPHPやApacheなどのバージョンを確認可能だ。
また、仮想ホストも利用することができる。設定画面で仮想ホストを有効化後、ホスト名や利用するポート番号、発行するファイルを保存するフォルダを指定すると、そのポートでWebサーバーを運用することができる。
社内のイントラネット用、社外公開用、テスト用など、さまざまなWebサーバーをTS-459Pro1台のみで運用することができるわけだ。
このように、TS-459ProをWebサーバーとして活用すれば、これまでホスティングしていた自社のサイトを社内のNASへと移行することができ、月々のコストを節約することができる。最近では、Twitterやブログなど、情報発信の手段が多様化していることから、外部公開用のWebサーバーの規模を縮小して、自社に戻すという選択も十分に検討できるだろう。
また、Webサーバを利用することで、WebベースのアプリケーションをNAS上で稼働させることも可能となる。PHPは標準で稼働しているうえ、詳しくは次回以降で解説するが、MySQLやSQLiteなどのデータベースも後から追加することも手軽にできるので、さまざまな活用が可能だ。
PHPの簡単なコードを書けばバージョンなども参照可能 | 仮想ホスト機能も搭載。複数の用途のWebサーバーとして利用することもできる |
●無限の可能性を秘めたNAS
このように、QNAPのNASは、これまでの「NAS」の概念にしばられない非常に多機能かつ高性能な製品となっている。
今回は、ファイルサーバー、FTPサーバー、Webサーバーとしての基本的な使い方を紹介したが、さらに便利な使い方が可能となっている。次回以降は、さらにiPhoneなどからも使えるマルチメディアサーバーとしての活用やiSCSIを利用した本格的なエンタープライズストレージとしての可能性などについて掘り下げていく予定だ。
関連情報
(清水 理史)
2010/9/6 00:00
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