清水理史の「イニシャルB」
サブAPで無線LANをオフロード +2000円でSynologyのNASをアクセスポイント化する
2016年8月1日 06:00
SynologyのNASにUSB接続の無線LANアダプタを接続すると、無線LANアクセスポイントとして利用することが可能になる。オフロード用のサブアクセスポイントとしてNASを構成してみた。
日本導入が待ち遠しい「RT1900ac」
今回のお題に関係なくもないが、まずは雑談を少々。
現状、国内では入手できないが、Synologyの無線LANルーター「RT1900ac」が、ちょっと普通じゃない。
つい最近リリースされたSRM(Synology Router Manager)1.1で、ファイアウォール機器などで採用されているIDS/IPS(侵入検知・遮断)機能や、Google SafeSerchを利用したコンテンツフィルタがサポートされただけでも、「おっ」と思わせるが、NASとしての機能がオマケではなく、やたらと本格的なのだ。
同社のWebからしか情報が得られないため、不確定な要素もあるが、設定画面はSynologyのNASに搭載されているDSMとそっくりなうえ、ユーザー管理やアクセス権管理などもNASの管理とほぼ共通、FileStationと呼ばれるブラウザ上で動作するファイルマネージャーからファイルを管理したり、外部ユーザーとファイルを共有するためのURLを作成することももちろん可能。DLNAサーバーとして稼働させることもできるようになっている。
しかも、NASと同じようにパッケージで機能を追加することが可能となっており、RADIUSサーバーをインストールして無線LANで802.1xを利用したり、CloudStationと呼ばれる同期機能をインストールすることで、OneDriveやDropBoxのようにPCやスマートフォンのデータをリアルタイムに共有フォルダと同期させることもできる。
ストレージにはUSB 3.0接続のHDDやSSDを利用できるほか、SDカードスロット(SDXC UHS-I対応)も備えており、大容量が必要ないなら、無線LANルータ兼NASとして十分すぎるほどの実力を備えている。
通信機器ベンダーとしての歴史が浅いだけに、アンテナなどのアナログ的な部分の完成度が心配されるが、同社のエントリー向けのNASと自社内で競合するんじゃないかと心配されるほどNAS機能が充実している。
同製品のWebページに「Game-changing software experience」と記載されている通り、まさに既存の無線LANルーターのルールを変えるような製品で、かつて同社やQNAPのNASが国内NAS市場に新風を吹き込んだときと同じような雰囲気を持っている。
無線LAN機器だけに、日本導入には認可が必要なうえ、サポートなどの問題もありそうなので、国内導入は期待薄な部分もあるが、メーカーおよび代理店の方には、ぜひ国内導入を検討してほしいことを、この場を借りてお願いしたいところだ。
Synologyの無線LANをNASで
というわけで、いくら熱望しても手に入らないものは仕方がないので、今回はSynologyのNASを無線LANアクセスポイントとして利用する方法を紹介する。
「NASはNASとしてだけ使えればいいでしょ」と思う人もいるかもしれないが、無線LANにつながる機器が年々増え続ける状況を考えると、無線LANルーターそのものを高性能にするだけでなく、複数の接続先を用意して、接続先を分散させるというのも対策としては効果的だ。
実際、ハイエンドの無線LANルーターは、「トライバンド」などの名称で、5GHz+5GHz+2.4GHzと、5GHz帯を2系統搭載することで接続を分散させる方向で進化しつつある。電波を使う以上、同一チャネルで同時通信する機器が増えれば増えるほど、1台あたりの速度が低くなるのは避けられないので、物理的に接続先(=チャネル)を増やしてしまえばいいという発想だ。
もちろん、安い無線LANルーターを入手して、フロアごとに使い分けるというのもアリだが、もしもSynologyのNASを使っているのであれば、2000円前後で入手できる古いUSB無線LANアダプタを活用することで、NASを無線LANアクセスポイントとして稼働させることができる。
たとえば、既存の無線LANルーターはイーサネットコンバーターでテレビと接続し、映像ストリーミングなどのためにIEEE 802.11acの1300Mbpsを1台のクライアントで占有させつつ、スマートフォンなどあまり速度を要求しないもののひんぱんに接続し、しかも台数が多い機器はNASにつなぐ、といった使い分けをすれば、複数機器での帯域の取り合いによる速度低下も避けられるというわけだ。
対応無線LANアダプタは限られる
それでは、実際にSynologyのNASを無線LANアクセスポイントとして設定してみよう。今回利用したNASは、2ベイのDiskStation 212だ。筆者がはじめて購入したSynologyのNASで、数年前のモデルだが、まだ最新のOSが利用可能な現役の製品だ。
これと組み合わせる無線LANアダプタだが、今回はバッファローの「WLI-UC-AG300N」を利用した。IEEE 802.11n/a/b/gに対応した最大300Mbps対応で、USB 2.0接続の無線LANアダプタだが、すでに販売終了となった古い製品だ。
今回は、この製品をネット上で2080円(代引き手数料含めると2480円)で購入した。
IEEE 802.11ac時代に、300Mbpsの11nというのはかなり時代遅れだが、実はSynologyのNASが対応する無線LANアダプタで、国内で入手できるモデルはごく限られている。
詳細は、こちらで検索してほしいが、今回利用したWLI-UC-AG300Nを含め、無線LANアクセスポイントとして利用可能な製品は数製品しか存在せず、しかもそのほとんどが販売終了の古い製品となっている。
このため、最初の難関はUSB無線LANアダプタを入手することになるが、あくまでもサブの無線LANアクセスポイントとして使うことを考えると、IEEE 802.11nでも十分なうえ、むしろジャンク扱いで安くなった無線LANアダプタが使えることのほうがありがたい。
これで5000円以上の出費が必要なんてことになれば、それこそ安いIEEE 802.11acルーターでも買ったほうが遥かにお得だからだ。
無線LANルーターにもなるが……
使い方は簡単で、本体のUSBポートに無線LANアダプタを接続し、設定画面(DSM)から「Wi-Fi」の設定を実行すればいい。
設定は、「コントロールパネル」の「ワイヤレス」から実行する。最初に設定するのは動作モードだ。「ワイヤレスAP」「ワイヤレスルーター」「ワイヤレスネットワークに接続する」の3種類から選択できるので、今回は「ワイヤレスAP」を選択する。
「ワイヤレスルーター」として構成してもいいが、今回、利用したDS212には有線LANポートが1つしか搭載されていない。このため、WAN側で使ってしまうとNASそのものにも無線LANでアクセスするしかなくなるため、今回はルーターとして構成した。
これで、「DiskStation」という名前でクライアントから接続可能になるが、そのままではセキュリティが設定されていないため、各種パラメーターを設定する。
「Wi-Fi」タブを開くと「ホットスポット1」という接続先が登録されているので、これを選択して「編集」をクリックする。
「ワイヤレスモード」は対応する規格だ。一般的な無線LANルーターの場合、5GHzと2.4GHzで別々のチップを搭載しているため同時通信が可能だが、USB無線LANアダプタを利用する場合は5GHzか、2.4GHzかの排他となる。
標準では、「n」(2.4GHzのIEEE 802.11n)が選択されているが、5GHzを使いたい場合は「an」を選択する。チャネルは自動でかまわないが自分で指定することも可能だ。
暗号化はセキュリティ設定で指定する。標準では「None」になっているので、「WPA/WPA2個人」を選択し、パスワードを設定しておこう。これで、通常の無線LAN同様、クライアントから接続が可能になる。
なお、WPSにも対応しており、設定画面から「WPS」ボタンをクリックすることで自動接続も可能だ。
また、時間を指定した接続コントロール機能として「パレンタルコントロール」も搭載されている。MACアドレスでクライアントを指定することで、接続時間を設定できるので、子供の端末の接続時間を制限したい場合に活用するといいだろう。
眠らせておくのはもったいない
以上、SynologyのNASを無線LANアクセスポイントとして利用する方法を紹介した。USB接続の無線LANアダプタなので、電波の届く範囲に限りもあるうえ、速度も300Mbpsが上限となるが、スマートフォンやプリンターなど、さほど高い速度での接続が必要のない機器をこちらに接続することで、既存の無線LANルーターの帯域を邪魔しないようにすると効果的だ。
課題は対応するUSB無線LANアダプタを入手することだが、今ならまだ通販などで手に入るうえ、中古品などを探せば、もっと安く手に入る可能性もある。すでにSynologyのNASが自宅にあるなら、この機能を眠らせておくのももったいないので、ぜひ活用するといいだろう。