清水理史の「イニシャルB」

国内での知名度を上げられるか? TP-LINK「Archer C7」

 TP-LINKから登場した「Archer C7」は、IEEE 802.11acに準拠したミドルレンジの無線LANルーターだ。海外での知名度は高いTP-LINKだが、果たして国内のユーザーに受け入れられるのだろうか? その実力を検証してみた。

無難な選択

 今回登場したTP-LINKのArcher C7に限らず、このクラスの無線LANルーターは、ひと口に言えば無難な製品が多い。

表1:競合比較
Archer C7AtermWG1800HP2WXR-1750DHP
実売価格1万250円1万200円9900円
対応規格IEEE 802.11ac/n/a/b/gIEEE 802.11ac/n/a/b/gIEEE 802.11ac/n/a/b/g
通信速度1300+4501300+4501300+450
LAN1000Mbps×41000Mbps×41000Mbps×4
WAN1000Mbps×11000Mbps×11000Mbps×1
USBUSB 2.0×2USB 2.0×1USB 3.0×1
  • ※実売価格は2016年7月22日時点のAmazon.co.jpのもの

 実売で1万円前後という価格帯を維持するには、ハイエンドモデルのようにとことんパフォーマンスを追求するわけにもいかず、かといって思い切った付加機能を搭載するわけにもいかない。

 もちろん、実際に運用する上では、IEEE 802.11ac準拠で最大1300Mbpsという速度は十分なうえ、USBポートに接続したストレージのファイルを共有できれば、家庭内でのファイルのやり取りに困ることもない。

 よって、「無線LANルーター買おうと思うんだけど」と相談されれば、個人的にはまず間違いなく、このクラスの製品を勧めるが、まあ、その、何というか……、はっきり言ってしまうと、レビューするにはネタも乏しく、面白みに欠ける。

 今回のArcher C7は、「?」と思える部分もあり、購入後、運用する際は少し注意したい点もあるが、全体的にはよくまとまったコストパフォーマンスの高い製品と言っていいだろう。

TP-LINK「Archer C7」。IEEE 802.11ac準拠で最大1300Mbps対応の無線LANルーター

もう少し小さくてもいい

 というわけで、実際に製品を詳しく見ていくことにしよう。

 本体サイズは幅243×奥行160.6×高さ32.5mmと、3ストリーム対応の無線LANルーターとしては若干大きい。ちょうど、手元に競合となるAtermWG1800HP2(111×170×330mm)があったので比べてみたが、幅がちょうど2倍ほどとなった。

 3本ある外付けのアンテナも我が家にある無線LANルーターコレクションの中でももっとも長く、デザイン的にスリムな印象があるわりに、意外に設置スペースを要求する。サイズ的にはもう少し小さくてもいい。

 デザインで特徴的なのは、天板側に横方向に入った溝で、よく見ると溝の側面に細かなスリットが設けられており、デザイン的なアクセントだけでなく放熱にも利用されている。

 個人的には、この溝で分断された天板が、どうも3枚の板が並べられたように見えて仕方がない。何となく「すのこ」を連想してしまうのは、世代のせいだろうか。

正面
側面
背面
天板には放熱も兼ねた溝が2本入っている。どことなく「すのこ」に見えるのは筆者だけだろうか

電波法違反に注意

 スペックは、前掲の表のとおりIEEE 802.11ac/a/n/g/b準拠で、3ストリームMIMO対応によって5GHz帯が最大1300Mbps、2.4GHz帯が最大450Mbpsとなっているが、ユニークなのが利用する電波の周波数帯がグローバル対応になっている点だ。

 具体的には、設定画面の無線LANの設定項目で「地域」という項目が用意されており、このリストボックスで「日本」はもちろんのこと、「ドイツ」や「アメリカ合衆国」など他国も選択できるようになっている。

地域を選択可能だが、日本以外は選択しないこと

 もちろん、日本以外を選択すると、国内で認可されていない周波数帯を利用することになり、法令に違反することになるが、こういった方式の製品を見かけたことがなかったので、正直、「これってOKなんだ」と驚かされた。

 しかも、日本に至っては、「日本」という選択に加えて、「日本1」「日本2」「日本3」「日本4」「日本5」「日本6」が用意されており、ちょっと意味がわからない。

 選択した番号によって、5GHz帯の範囲が変わるのか? と思ったのだが、どうやらどれを選択しても5GHz帯の範囲は変わらない(標準の「日本」以外ではリンク速度が落ちる場合もあった)。しかも、W53、W56は使用不可で、使えるのは36、40、44、48のW52のみ。

 DFSの煩雑さなど、実質的な運用を考えると、結局W52を使うことになるので、問題ないといえば問題ないのだが、どうにも腑に落ちない点が多い。

 1つ言えるのは、国内で稼働させる以上、間違っても日本以外の国を選ばないこと。そこだけ注意してほしい。

5GHz帯で利用できるのはW52のみ

WPSボタンの長押し=初期化

 使いやすさという点も、特に悪くもなく、良くもない。接続はWPSでクライアントをつなげばいいので、特に難しいことはないし、初期設定もウィザード形式で接続方式やアカウントを設定していく伝統的な方式だ。

 スマートフォンが主流となった現代の通信機器らしく、スマートフォン向けのアプリ「TP-LINK Tether」も用意されており、このアプリから本体の設定を実行することもできる。

 ただし、WPSに対応しないiOSなどは、手動で設定するしかない。こういったあたりは、QRコードなど、簡単に設定できる方法を用意している国内メーカーに劣る印象だ。

初期設定はウィザードで進めるよくある方式。クライアントの接続もWPSか手動となる
スマートフォン向けのアプリ「TP-LINK Tether」。接続クライアントをグラフィカルに表示可能

 なお、設定画面にアクセスするためのパスワードはamin/adminで、初期設定のクイックセットアップウィザードでは変更されないので、後で変更しておくことを強くお勧めする。

 また、クライアントをWPSで接続するときに利用する本体の「WPS」ボタンが、リセット(初期化)ボタンを兼ねているという、こちらもなかなか理解しがたい仕様になっている。国内メーカーの無線LANルーターは、ボタン設定による接続の際、一定時間ボタンを長押しする仕様になっているため、そのつもりで8秒ほど長押しすると、本体設定がきれいさっぱり初期化される。

 くれぐれも、このボタンを8秒以上、長押ししてはいけない。

WPSボタンがリセットボタンを兼ねている。国内メーカー製品のように長押しすると初期化されるので注意

付加機能を試す

 付加機能としては、USBポートに接続したストレージの共有とペアレンタルコントロールが利用可能だ。

 USBポートは背面に2ポート用意されており、複数のUSBストレージ、もしくはUSBストレージ+USBプリンターという使い方が可能となっている。多くのルーターが1ポートのみということを考えると、2ポート用意されているのは、本製品ならではの特徴と言える。

 試しに、256GBのSSDをUSB経由で接続し、有線LAN経由で速度を計測してみたのが以下の画面だ(CrystarlDiskMark5.1.2使用)。シーケンシャルで20MB/s前後なので、USB 2.0接続であることなどを考えれば妥当な値と言える。

 Windowsのファイル共有に加え、FTPを有効にすることも可能なので、外出先からのアクセス用として活用することも可能だ。共有アクセスのアカウントも、1アカウントのみだが、設定画面用のadminとは別に用意できるようになっている。家庭での利用には十分だろう。

USB接続のSSDを接続し、有線LAN接続のPCから速度を測定した結果
Windowsファイル共有のほかFTPアクセスも可能

 一方、ペアレンタルコントロールは、MACアドレス(もしくはIPアドレス)ベースに接続時間を制限できるほか、IPアドレスやドメイン名を指定したローカルのリストによるアクセス制限が可能になっている。手動でリストを管理する方法はあまり現実的とは言えないため、基本的には時間制限によるコントロールのみが可能と考えておくといいだろう。

ペアレンタルコントロールも利用可能。ルール、ホスト、ターゲット、スケジュールを個別に設定し、それを組み合わせる方法となる

独特な仕様を理解して使えば悪くない

 以上、TP-LINKのArcher C7を実際に試してみたが、実売1万円前後の無線LANルーターとしては価格相応の機能と性能を備えているという印象だ。参考までに、筆者宅の各フロアで計測した速度の値も掲載しておくが、3階でも200Mbps以上の通信ができているので十分な性能と言える。

通信速度テスト
1F2F3F
5GHz728530299
  • ※サーバー:Intel NUC DC3217IYE、Windows Server 2012 R2
  • ※クライアント:MacBook Air 11(2013)+ASUS EA-AC87

 ただし、ところどころ日本の発想とは異なる仕様があり、少しクセがある印象だ。決して実用上は困らないのだが、たまに「?」と悩ませられることがあるので、それを理解したうえで使う必要がありそうだ。

 ライバルと比べたときの決定的な差異化ポイントも少ないため、正直、国内での知名度があまり高くない現状では、ユーザーに選んでもらえる魅力にも乏しい。今後、ラインナップが拡充されるなど、メーカーとしてのイメージが定着してきてからが、本格的な勝負となりそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。