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NTT東日本は、なぜ今「高麗人参」栽培に挑むのか? AIを活用した「アクアポニックス」の実証始まる
調布市に設けられた設備で、錦鯉と人参の循環型水耕栽培
2026年6月2日 16:45
NTT東日本株式会社は6月2日、株式会社再春館製薬所、株式会社テクノーブルとともに、循環型農業「アクアポニックス」とICTを融合したオタネニンジン(高麗人参)のスマート栽培モデル確立に向けた実証実験を開始すると発表した。
これまでもスマート農業やアグリテック(Agriculture:農業+Technology:技術 の造語)に取り組んでいる同社だが、本件は特に「オタネニンジン」や「アクアポニックス」と、あまり耳慣れないキーワードが多い。まずは、これらを1つずつ整理していきたい。
江戸時代には広く栽培されていた「オタネニンジン」
オタネニンジンは「高麗人参」や「朝鮮人参」とも呼ばれ、いずれも同じもの。非常に高い滋養強壮作用がある植物として知られ、江戸時代には幕府が広く栽培を推奨し、各藩に種が配られたことから「御種人参」の名が付いたという。なお、現在一般に「ニンジン」と呼ばれる野菜は、セリ科であることから昔は「セリニンジン」とも呼ばれた。オタネニンジンはウコギ科である。
薬(漢方薬)や薬味酒、健康食品やドリンク剤、化粧品などの原料として広く利用されるが、現在、国内で使用するオタネニンジンは、約99%を輸入に依存している。
その大きな理由は、栽培難度の高さにある。利用できる根を得るには5~6年の年月が必要で、その期間栽培を続けることも容易ではない上に、一度収穫した畑では10年以上の期間を空ける必要があるとされる強烈な連作障害があり、同じ畑で作り続けることが難しい。
幅広く利用され、高付加価値の(高値で売れる)植物だが、栽培難度が極めて高く、ほぼ全てを輸入に頼っているのが、オタネニンジンの現状だ。
水産養殖+水耕栽培の循環型農業「アクアポニックス」
農業の手法として水耕栽培(Hydroponics)が普及していることを、聞いたことがある人は多いだろう。土を使わず水と液体肥料で野菜を育て、工場のような施設で、季節や気象条件に左右されず、年間を通じて安定した収穫が得られる。
アクアポニックスは水産養殖(Aquaculture)+水耕栽培の造語で、水産養殖施設と水耕栽培施設を組み合わせて水を循環させる手法だ。液体肥料を混ぜた水を流す水耕栽培と異なり、魚などの水生生物を飼育する水槽の水を植物の側に流すことで、そこに含まれる魚の排泄物が植物の養分となる(排泄物のアンモニアを微生物に分解させる)。そして、植物側を通ってきれいになった水を、また水生生物の水槽に戻す。
これにより、化学肥料や農薬を使わない完全オーガニックな水耕栽培が実現でき、土地を選ばず、水資源も節約できる。ビジネスとしては、植物だけでなく水生生物を育てて扱うことも可能となる。同社では「自然に負荷をかけず、自然の力を最大限に引き出す」新しい栽培のあり方を検証するとしている。
難しいオタネニンジンをアクアポニックスで栽培
今回発表されたオタネニンジンのアクアポニックスの取り組みは、栽培難度が高いオタネニンジンを、アクアポニックスにより栽培する、その手法のモデル確立を目指したものとなる。これまでのハードルだった連作障害は、水耕栽培によりクリアできる。また、育てる期間も短縮可能だそうだ。
もちろん、水槽と水耕栽培施設をつなげるだけで、すぐにオタネニンジンが育つわけではない。そもそも根菜類を水耕栽培するのは難しいとも言われるが、メダカと数本のオタネニンジンのような小規模な環境から実験を繰り返し、現在の施設を構築して1年ほどで、ようやく本格的な実証に入ることになったという。
「スマート栽培モデル」という通り、ICTをフル活用し、各種センサーから取得した水温や水質、栽培環境の照度、気温、湿度などのデータをクラウドに集積し、AIによりアクアポニックスの環境全体を管理するとともに、よりよい栽培条件を模索していく。
水温や水質といった条件のほか、水槽の魚の数とオタネニンジンの数との関係によっても、育成状況が変わるという。このように膨大な変数がある中、AIを利用して最適な条件を探ることになる。現状は、アクアポニックスによるオタネニンジン栽培の目処が立った段階で、再現性が高くビジネスとしての収益性も高いモデルとして確立させるべく、取り組みが続けられる。
根だけでなく茎や葉にも注目し、新製品開発を目指す
実証では、従来さまざまに活用されているオタネニンジンの根の部分だけでなく、茎や葉の部分にも注目しているという。既存の栽培方法では多くの農薬を利用するため、茎や葉は利用できなくなってしまうが、無農薬のアクアポニックスでは問題ない。そして、茎や葉には多くの有効成分が含まれることを示唆するデータもあるという。
アクアポニックスで栽培されるオタネニンジンは、既存の製品の材料になるのではなく、成分を分析して有用性を検証しつつ、新たな製品を開発するための素材となるという。実証に協力する再春館製薬所とテクノーブルは、いずれも漢方薬品や健康食品・化粧品のメーカーであり、再春館製薬所はオタネニンジンの新たな活用法の検討、テクノーブルは成分分析の役割を担う。
今回、オタネニンジンのアクアポニックスに取り組むのは、高付加価値であることが大きな理由だとのことだが、蓄積されたデータやノウハウは、ほかの植物への応用も期待される。




