清水理史の「イニシャルB」
「7年前のNAS」をQNAPに替えたら、速度と容量が数倍に、管理も楽になった件
QNAP「TS-231P」へ移行してみた
2017年9月11日 06:00
「NASを頻繁に買い替える」という人は少ないと思う。
ふと気が付くと「HDDの寿命を気にしながら何年も使い続ける」なんてことに
なりがちだが、NASやHDDは技術の進歩も大きい分野でもある。
最新モデルに買い替えることで、容量の増加や高速化、高機能化、そして管理やメンテナンスの容易さなど、様々なメリットを享受できる。
HDDの劣化を気にしながら使うぐらいなら、古いNASからの移行を検討してみてはいかがだろうか?
入れ替えのメリットや実際の方法について、検証してみた。
取り返しがつかなくなる前に!
NASというのは、一度、運用を開始してしまうと、なかなか入れ替えが難しいものだ。
外付けHDDの代わりとして使っている1ドライブのNASや、減価償却が終わった社内の法人向けNASなど、導入から7~8年が経過した古いNASを使っている人も少なくないことだろう。
保存しているのは大切な文書やなくなったら困る写真や動画だし……。ともすればテラバイトクラスに膨れ上がるほど容量は多いし……。使っているのは自分だけではないから長時間停止できないし……。
それに、なにより、「め ん ど く さ い!」。
しかし、そうは言っても、決断のタイミングがいつかは訪れる。
いつの間にか90%を越えた容量表示に驚くくらいならまだマシな方で、ある日突然、HDDの故障を知らせるビープ音が鳴り響くようなことになれば、それはもう絶望的だ。
というわけで、取り返しがつかなくなる前にNASの入れ替えを検討したいところだが、今はそのタイミングとしては悪くない。
台湾などの海外NASメーカーが日本に進出して数年が経過したが、このようなメーカーが台頭したおかげで、それまでに比べてはるかに高性能かつ多機能なNASが、リーズナブルな価格で手に入るようになった。さらに、こうした製品の評価や運用ノウハウなどが、日本語のウェブサイトなどにも蓄積されるようになってきている。
例えば、QNAPの「TS-231P」は、実売2万2000円前後で購入できるリーズナブルなSOHO向けの2ベイNASキット。デュアルコアで1.7GHz駆動の高性能なCPUと、1GBという豊富なメモリを搭載しており、このクラスのNASとしては、なかなかコストパフォーマンスが高い製品となっている。
このような海外製NASの最大のメリットは、とにかく多機能な点だ。7~8年前のNASとなると、基本となるファイル共有機能以外の付加機能と言っても、動画などを再生するためのメディアサーバー機能や簡易的なリモートアクセス機能程度となるが、QNAPなどの海外製NASでは、各種のアプリをスマートフォンのようにオンラインから簡単に追加できるようになっている。メディアサーバーやリモートアクセス機能などはもちろん、ファイル同期、クラウド連携、VPN、メールの一元管理、クラウドメモなど、さまざまな機能が利用できるわけだ。
古いNASを入れ替えれば、空き容量不足や故障の不安などの悩みから解放されるだけでなく、こうした豊富な機能を活用できるというわけだ。
海外製NASの場合、基本的には標準ではHDDが搭載されていないため、別途、HDDの購入が必要だが、3~4TBのHDDを2台購入したとしても、5万円前後で大容量、高性能、かつ多機能なストレージ環境を手に入れられることになる。
メリット(1):速度が倍以上になる例も、8年前との比較ではリード5倍
では、実際、7~8年前のNASと、現在主流のNASを比べた場合、どれくらいの性能差があるのだろうか? 実際に古いNASを用意して、Western DigitalのNAS用HDD「WD Red WD30EFRX(3TB)」×2を搭載したQNAPのTS-231Pと性能を比べてみよう。
今回用意したのは、2008年に発売されたバッファローの4ベイNAS「LS-Q4.0TL/5R(当時のメーカー販売希望価格は7万4300円)」と、同じくバッファローから2009年に発売された1ベイNAS「LS-XH1.5TL(当時のメーカー販売希望価格は2万4200円)」だ。
それぞれのスペックは以下の通りだ。バッファローの製品は、CPUや搭載メモリなどが非公開となっているが、海外のユーザーサイトなどで搭載チップが明らかになっているため、非公式な情報となるが比較のために掲載しておく。
それにしても、今やNASでもデュアルコア、クアッドコアが当たり前の時代であることを考えると、MHzクラスのCPUには、さすがに古さを感じるところだ。
TS-231P | LS-XH1.5TL | LS-Q4.0TL/5R | |
発売年 | 2016年 | 2009年 | 2008年 |
CPU | Alpine AL212 DualCore 1.7GHz | 88F6281 1.2GHz※ | 88F5182-A2 400MHz※ |
RAM | 1GB(DDR3) | 256MB | 128MB |
搭載HDD | 0(ベイ2) | 1 | 4 |
LAN | 1000Mbps×2 | 1000Mbps×1 | 1000Mbps×1 |
USB | 3.0×2 | 2.0×1 | 2.0×2 |
消費電力(動作時) | 15.6W | 24W | 80W |
※海外Wikiサイトによる非公式な情報のため、参考程度に考えて欲しい
以下は、有線LANで接続したPC(Core i7-7700、RAM16GB、Windows 10)から、各NASに対してCrystalDiskMark 5.2.1を実行した結果だ。
2009年発売のLS-XH1.5TLは、シングルドライブながら高速モデルとして発売された経緯もあり、TS-231Pと比べてシーケンシャルリードでは約0.63倍と健闘しているが、書き込みは約0.36倍と、やはり速度的に物足りない。
一方、2008年発売のLS-Q4.0TL/5Rとの比較では、実にシーケンシャルリードはわずが1/5以下、ライトに至っては1/8と、大差が付く結果となった。
なお、TS-231Pの値は、ほぼ有線LANの1Gbpsの上限(114.4×8=915.2Mbps)となっており、NASの性能をすべて出し切っているわけではない。TS-231PにはLANポートが2系統搭載されており、これを束ねてLAG(リンクアグリゲーション)を構成することができるが、その場合、1Gbps×2系統で合計で2Gbpsの帯域を利用できる。つまり、潜在的な能力としては、上記の結果を上回る、さらに高い性能を秘めている。
実際、この差は普段の利用シーンにも大きく影響する。ビデオカメラの映像などの大きなファイルをNASに保存する機会は多いが、TS-231Pでは、数GBの映像ファイルをコピーしても、待ち時間は30秒ほどで「少し待つ」程度。一方、LS-Q4.0TL/5Rに関しては6分以上と、終わるまで待っていられずに、別の作業をしたり、席を立って放置しておくことになる。これでは時間のムダだ。
ランダムアクセスの性能も、TS-231Pは古いNASに比べて数倍速いため、例えば、デジタルカメラの写真を数百枚いっぺんにコピーする、といった操作も格段に速い。試しに667ファイル、3.12GBの写真をコピーしてみたが、こちらも30秒もあればコピーが完了する。5分以上かかるLS-Q4.0TL/5Rから比べると、「世界が一変する」といっても過言ではないほど高速だ。
TS-231P | LS-XH1.5TL | LS-Q4.0TL/5R | ||
1ファイル(3.46GB) | Read | 00:37.7 | 00:54.9 | 03:44.0 |
Write | 00:36.2 | 01:50.6 | 06:40.9 | |
667ファイル(3.12GB) | Read | 00:42.2 | 01:07.6 | 04:25.3 |
Write | 00:38.1 | 01:49.6 | 06:41.4 |
NASの設定に関しても同様だ。古いNASは、画面遷移1つとっても反応や読み込みが遅く感じられる。ユーザーの登録や共有フォルダーの作成など、初期設定で何度も画面遷移を強いられると、かなりのストレスだ。
一方、TS-231Pは、そういったストレスとは無縁だ。サクサクと画面が描画されるため、快適に設定や管理作業ができる。小さな事務所などで管理作業が日常的に発生する場合でも、快適に作業できるだろう。
なお、古いNASでは、昔ながらの左メニューのユーザーインターフェース(UI)が採用されているが、QNAPのTS-231Pでは、「QTS」と呼ばれるデスクトップを模した洗練されたUIが採用されている。設定用の「コントロールパネル」やアプリを追加するための「App Center」といったアイコンが画面上に並んでおり、スマートフォンライクですぐに馴染むことができるだろう。
メリット(2):“NASに入れるアプリ”で機能追加、写真整理やメールのバックアップ、DTCP-IPにも対応 スマホやテレビからも使え、外出先アクセスの設定も容易
使える機能も非常に豊富だ。詳細は、こちらを参照してほしいが、バックアップやビジネスエンターテインメントなど、非常に多くのジャンルのアプリが提供されており、例えば以下のような使い方ができる。
- パソコンのデータをバックアップする
- NASのデータをクラウドにバックアップする
- PCやスマートフォンのデータをNASと同期する
- Gmailをバックアップする
- データベースサーバーとして利用する
- CRMやERPなどの業務アプリを利用する
- コンテンツ管理可能なウェブサーバーとして利用する
- 開発環境として利用する
- 動画、写真、音楽を配信する
- ホームオートメーションとして活用する
- カメラを利用した監視ソリューションとして利用する
- 仮想マシンを稼働させる
このようなアプリを利用すれば、例えば、古いNASと同じようにメディアサーバーとして利用することも簡単にできる。TS-231Pで「DLNAメディアサーバー」を有効化すれば、テレビなどからNAS上のメディアを参照できるようになり、動画や音楽、写真などをネットワーク経由でテレビに再生することができる。
さらに、DTCP-IPに対応した「sMedio DTCP Move」をインストールすれば(ライセンスの購入が必要)、nasneなどDTCP-IP対応機器で録画したデジタル放送のデータをNASにダビングやムーブすることもできる。録画機器の容量不足を解消するために、TS-231Pを使える点も大きな魅力だ。
古いNASで可能だったリモートアクセスにも、もちろん対応している。TS-231Pでは、「myQNAPcloud」と呼ばれるアプリを使って、簡単に外出先からアクセスするための設定を実行できる。さらに、スマートフォン向けのアプリ「Qfile」などを使えば、スマートフォンからも簡単にNASにアクセスできる。「Qphoto」でNASに保存した写真をスマートフォンで観たり、「Qvideo」では、NASの動画を外出先で再生したりとメディアのモバイル再生も簡単だ。
かつてのNASでは、外出先からアクセスできるようにするために、ルーターの設定を変更するなど複雑な設定が必要だったが、最新のNASでは、面倒な設定までNAS任せで簡単にできる。
今までPCからしか使っていなかったNASが、テレビやスマートフォンからも自由に使えるようになるのは、大きな進歩だろう。
メリット(3):メンテナンスも自在、HDDも手軽に交換、NAS本体も「入れ替えで引っ越し」
このほか、将来的な安心感が手に入るのもTS-231Pのメリットだ。
前述したLS-XH1.5TLなどは、HDDが内部に組み込まれており、ユーザーが取り外したり、交換することは基本的にはできない。これに対して、TS-231Pでは、フロントベイから簡単にHDDを取り外せる上、将来的に容量が足りなくなったときに、より大容量のHDDに交換することで簡単に容量を増やすことができるようになっている。
また、QNAPのNASは、基本的にOSが共通となるため、TS-231Pで構成したHDDを別のモデルに装着しても、そのまま利用することができる。
このため、滅多にないことではあるが、HDDより先にNAS本体が壊れてしまった場合でも、同じTS-231Pや別モデルにHDDを移し替えることで、今までのデータや設定をそのまま利用できる。若干、工夫は必要だが、2ベイから4ベイへの移行なども可能だ。
搭載するHDDには、例えばWestern Digitalの「WD Red」シリーズなど、「NAS向け」に設計されたHDDを選ぶのがいいだろう。ちなみに、今回使ったWD Redの場合、ファームウェアがNASでの長時間動作に最適化されており、耐久性も高いとされる。複数HDDを同時動作させる際に問題となる「HDD同士の共振」についても、最小になるよう、調整されて出荷されているという。
冒頭で触れたように、古いNASの場合、いったん運用を始めると交換や移行はやっかいなものだが、QNAPのNASであれば、HDDの交換や増設、より高性能なモデルへの交換が手軽にできるため、将来的にも安心というわけだ。
NAS移行のコツ「NAS上」でコピーすれば余計なオーバーヘッドなし
実際の移行手順は、古いNASのメーカーや機種によっても異なる場合があるが、基本的には手動での地道な移行となる。
古いNASの場合、移行があまり想定されていないため、登録済みのユーザーをファイルに書き出すことができない。このため、例えば以下の情報を調べながら、新しいNASに1つずつ移行し、その後、データをコピーするという手順になる。
・ユーザー
・グループ
・共有フォルダー
・アクセス権
・メディアサーバー機能の有無
・リモートアクセス設定
NASを新しいものへと移行する場合には、うっかり移行を忘れることなども考慮して、古いNASをすぐに撤去せずに、完全に移行が完了するまで(もしくは完了後もしばらくの間)は、併存させることが望ましい。
古いNASと新しいNASの両方を併存させた状態で移行作業をすれば、移行作業中も古いNASのデータを今まで通り使える上、古いNASの設定を見ながら、新しいNASの設定ができる。
データのコピーに関しては、NAS上で実行するのがお勧めだ。TS-231Pには、ネットワーク内の汎用的なNASやファイルサーバーの共有フォルダーをマウントできるため、設定画面にあるファイルマネージャー(File Station)を使って、NAS上でデータの移行作業をすることができる。
PC上でNAS→NASのファイルコピーを実行すると、PCを経由するボトルネックが発生する上、ファイルコピーに数時間かかった場合にPCを起動させたままにしておかなければならないが、NAS上で実行すればそうしたデメリットがないわけだ。
このため、ユーザーや共有フォルダーなどさえ作成してしまえば、後はNAS上でファイルをコピーするだけで、簡単にデータを移行できる。
さすがにテラバイトクラスのデータをコピーするとなると、数時間から十数時間のコピー時間がかかってしまうが、夜間などに実行すれば、寝ている間にコピーさせておくこともできる。
前述したように、いったんQNAPのプラットフォームに移行してしまえば、HDDの交換や本体の交換は簡単にできるようになるため、異機種間での1回だけの苦労と割り切るしかないだろう。
ファイルの保存先以上の価値があるQNAP
以上、古いNASから新しいNASへの移行について、そのメリットや移行方法をQNAP TS-231Pを例に紹介した。移行作業に若干手間がかかるものの、移行してしまえば、快適さも、できることも、将来の安心も、ケタ違いによくなるので、この機会にぜひ移行を検討してみるといいだろう。
今回は、リーズナブルなTS-231Pを取り上げたが、QNAPのNASはハードウェア的な性能や拡張性に優れており、HDMIポートを搭載した機種を利用することでテレビに直接接続してリモコンで操作できたり、仮想化技術に対応した機種を利用することでNAS上でWindows ServerやWindows 10などを動作させることもできるようになっている。
高価ではあるが、高い拡張性を備えたモデルを利用すれば、10GbpsのLANに対応させたり、M.2 SSDをキャッシュとして利用することなどもできる。さまざまなウェブサービスとの連携が可能な「IFTTT」にも対応するなど、クラウドやIoT連携にも積極的に取り組んでいるため、単純なファイル共有以外の価値も提供している。
ファイルを共有できればいい、バックアップ先として使えればいい、という古いNASから、ステップアップするにはいい移行先と言えるだろう。
(協力:QNAP)