清水理史の「イニシャルB」

実売2千円台のWi-Fiルーターで幸せになれるのか? 大型アンテナ搭載で11n/g/b対応、TP-Link「TL-WR940N」を試す

TP-Link TL-WR940N

 TP-Linkから発売されている「TL-WR940N」は、9月30日時点での実売価格が2679円(税込)という低価格の無線LANルーターだ。対応規格はIEEE802.11n/g/bで、2.4GHz帯のみの対応だが、搭載するアンテナは超大型で、とにかく安く無線LANルーターを手に入れたいという場合の選択肢となり得る。果たして、これで幸せになれるのか? その実力を検証してみた。

3千円台なら11acも視野に入るが……

 個人的には、無線LANルーターにはそれなりにコストをかけた方が幸せになれると考えているが、そうは言っても、諸処の事情で予算を掛けられないケースも少なくない。

 特に、今は微妙なタイミングだ。海外の展示会でIEEE802.11ax対応製品である「RT-AC88U」がASUSeKから発表されるなど、この先、より高性能な製品が登場する可能性が高い上、IoT機器のセキュリティに対応できるIPS/IDS搭載ルーターも、今後低価格化が進む可能性もある。

 どうせ無線LANルーターを購入するなら、このような製品がラインアップされるまで、もう少し市場の様子を見たいというのが本音だが、なかなかそうもいかない場合もあるだろう。

 例えば、今使っている無線LANルーターが壊れてしまった場合などには、いくら今後の市場が面白くなりそうでも、今を乗り切るために新しい機器の購入を検討しなければならない。

 もちろん、現時点で購入可能な製品の中から、ベストな製品を選ぶというのも手だが、「来年、再来年に向けて、今は安く済ませておく」というのも1つの選択肢だ。

 そこで今回注目したいのが、TP-Linkから発売されている「TL-WR940N」だ。2017年9月に、Amazon.co.jp、楽天市場、Yahooショッピングの各オンラインショップ限定で発売された製品だが、実売価格が2679円(税込)と非常に安い。

実売2679円(税込)の低価格無線LANルーター「TL-WR940N」

 もちろん、同価格帯にはアイ・オー・データ機器の「WN-G300R3(実売2380円)」があり、さらに実売価格が安いものなら、2000円以下のエレコム「WRC-F300NF」や「WRC-300FEBK-S」なども挙げられる。

 しかしながら、TP-Linkの「TL-WR940N」は、低価格な製品ながら3ストリームMIMOのIEEE 802.11nに対応し、最大450Mbpsの通信ができるのが特徴となっている(後述するように実質的にはあまりメリットとはならないが……)。

 また、3000円まで予算を上げれば、同じくTP-LinkのIEEE 802.11ac対応無線LANルーター「Archer C20」も視野に入る。製品としてはこれが最大のライバルになりそうなのだが、今回はあくまでも2000円台にこだわってみた。

 果たして、今時のIEEE 802.11nは、無線LANルーターとして十分な実力を持っているのだろうか? その点に注目してみたいところだ。

TP-Link TL-WR940NTP-Link Archer C20
実売価格2679円※13090円
無線LAN規格IEEE 802.11n/g/bIEEE 802.11ac/n/a/g/b
5GHz速度433Mbps
2.4GHz速度450Mbps300Mbps
LAN100Mbps×4100Mbps×4
WAN100Mbps×1100Mbps×1
アンテナ外付け×3外付け×3※2
モードルーター/中継機/ブリッジルーター※3

※1 2017年9月26日時点では10%オフクーポンあり
※2 9月30日発売。旧モデルは外付け×2
※3 アクセスポイントモードは手動設定で対応可能(DHCPサーバーオフなど)

本体のサイズはソコソコながら、アンテナは長大

 まずは、外観からチェックしていこう。

 本体サイズ(幅×奥行×高さ)は、230×144×35mmと、さほど大きくはないのだが、これはアンテナを除いた数字で、実際の印象はもっと大きい。

 筆者がこれまでに見た無線LANルーターの中では、NETGEAR「Nighthawk X10 R9000」のアンテナが約17cmほどで最も長く、しかも基盤も内蔵しているため太かったのだが、本製品はそれを凌ぐ20cmと、より一層長いアンテナを搭載している。

 本体は、曲線をうまく利用したデザインで、なかなかスリムな印象なのだが、このアンテナのおかげで、どこかアンバランスな印象になっていることは否めない。とは言え、無線LANルーターの価値は、デザインよりも電波の届く範囲や速度にある。このアンテナが、その点でどこまで貢献してくれるだろうか。

 インターフェースは背面に集中しており、電源ボタン、リセットボタン、WPS設定用ボタンがそれぞれ独立して搭載されるほか、WAN用に100Mbps×1、LAN用に100Mbps×4のポートが搭載される。

 10GbEの普及も見込まれる今の時代に、100Mbpsというのはいかにもさみしいが、これも2000円台という価格を考えると妥協せざるを得ない。とは言え、家庭内で100Mbps以上の速度が必要な場合というのは、NASなどを利用したバックアップや、大容量のファイル転送などに限られる。そういったケースがなければ、100Mbpsでもさほど問題はないはずだ。

側面
背面
WAN、LANポートはすべて100Mbps対応

スマホアプリ対応で使いやすさは悪くはないが……

 セットアップでは、結論を言えば大きな不満はない。端末からの接続は、WPSを利用できるPCやAndroidスマートフォンであれば、ボタンを押すだけで完了する。

 ただし、iPhoneでは手動で背面の暗号キーを入力する必要があり、若干手間が掛かる。

WPS対応の機種ならボタン設定が可能
iPhoneは背面に記載の暗号化キーを入力して手動接続

 国内製の無線LANルーターであれば、比較的低価格の製品でも、QRコードによる接続に対応していたり、古い無線LANルーターからSSIDや暗号化キーを移行できる引っ越し機能を搭載している場合があり、設定のしやすさという点では一日の長がある。そうした至れり尽くせりの配慮は、海外製である本製品には欠けている印象だ。

 同梱のセットアップガイドには、PCでのセットアップ方法がメインで紹介されているが、同社が提供しているスマートフォン向けのアプリ「Tether」を利用することで、本製品も無線LAN設定やインターネット接続設定などをスマートフォンから手軽に変更できる。

 このTetherを利用すれば、接続中端末の“見える化”や、保護者による制限機能(時間設定が可能)なども手軽に利用できる。

 このクラスの製品となると、家庭での利用が主となるため、セットアップガイドでは、スマートフォンをメインに紹介した方が良さそうに思える。

スマートフォンのブラウザーで設定を行うのは無理がある
Tetherを使って設定した方が簡単

 このほかに非常に気になったのが、今時、アクセスポイントの管理者アカウントが標準で「admin/admin」となっており、その変更がユーザー任せになっている点だ。

 「admin」は任意のユーザー名に変えられるようになっているし、アカウントの設定そのものは悪くない。初回接続時には、Tetherなりウェブの設定画面なりで、管理者アカウント名を変更するように誘導するか、ほかの同社製品と同じように、クラウド上のTP-Link IDでの認証ができるようにすべきだろう。

 コストを考えると妥協しなければならない点は確かにあるが、こうした使いやすさやセキュリティに関わる部分を、限られたコストの中でいかに実現するかが、本製品のような低価格モデルの腕の見せどころとなるだけに、こういった点は少々残念だ。

価格を考えれば機能面は十分

 無線LANルーターとしての機能面は、なかなか充実している。

 動作モードとしては、通常のルーターモードに加えて、ブリッジモード(有線LAN機器を無線化)や中継機モードに対応している。仮に将来的により高性能な無線LANルーターに買い換えた場合でも、本製品をほかの用途に活用できる。

 Wi-Fiは2.4GHz帯にしか対応しないので、中継機としての利用は実質的に無理があるが、PCやSTBなど有線LANにしか対応しない機器を無線化するには役立ちそうだ。

 また、VPNサーバーなど高度な機能は対応しないものの、スケジュール設定やTetherでのSSID共有などにも対応できるゲストネットワーク機能、先にも少し触れた保護者による制限機能(スケジュール)、Dynamic DNS、IPv6接続など、一般的に必要と思われる機能はしっかりと搭載されている。

 唯一残念なのは、アクセスポイントモードで利用するためにほぼ手動で設定しなければならない点だ。これは同社製ルーターの他モデルでも見られる共通の欠点なので、ワンタッチでDHCPサーバーオフなどの関連設定をできるようにするなど、もう少し工夫が欲しいところだ。

ブリッジや中継機のモードでも使える。機能的には十分な印象だが、アクセスポイントとして使う場合は手動での設定が必要

無線LANルーターとしての実力、遠い場所での速度落ちは?

 最後に、無線LANルーターとしての実力を検証しよう。以下は、木造3階建ての筆者宅の1階に無線LANルーターを設置し、有線LANで接続したサーバーに対して、iPerfによる速度計測を実施した結果だ。

 比較対象として、NTT東日本のフレッツ光ネクストでレンタル提供されるホームゲートウェイ「PR-500KI」に、IEEE 802.11ac対応の無線LANカード「SC-40NE2」を装着した際の結果も掲載する。

1F2F3F3F端
PR-500KI+SC-40NE2(5GHz)58912214.9-
PR-500KI+SC-40NE2(2.4GHz)90.9---
TL-WR940N90.471.737.810.2

※検証環境 クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz、IEEE 802.11ac<最大866Mbps>)

 まず、1階(同一フロア)だが、これはIEEE 802.11acのPR-500KIが圧倒的に速い。有線LANを1Gbpsで接続可能なPR-500KIに比べ、TL-WR940Nは100Mbps止まりということもあり、速度は90Mbpsで頭打ちとなる。ただし、PR-500KIで2.4GHz帯を使った場合と、その実力はほぼ同等となった。

 2階でもPR-500KIが優位だが、それは5GHz帯を利用した場合の話で、2.4GHz帯に関してはTL-WR940Nの圧勝だ。カードタイプのSC-40NE2では、アンテナの設置スペースが限られていることもあり、遠距離の性能ががた落ちで、2.4GHz帯は2階以上で、5GHz帯も最も遠い3階の端で、無線LANによる接続ができなかった。ちなみに、Macbook AirだけでなくGalaxy S8でも試してみたが、いずれもつながらなかった。

 これに対してTL-WR940Nは、大きなアンテナの恩恵か、速度的にはさほど高くないものの、筆者宅の1階から3階までどこでも通信が可能で、安定した性能を発揮することができた。

 さすがに新しい製品だけあって、今回比較したカードタイプの無線LANや、古い無線LANルーターからの買い換えであれば、従来よりも無線LAN環境を快適にできる可能性は高いと言えるだろう。

 なお、冒頭でTL-WR940Nのメリットとして450Mbpsに対応していることを挙げたが、現状、PCやスマートフォンの多くは2ストリームMIMO(アンテナ2本)までの対応となっているケースが多く、実質的には300Mbpsまでの接続となるケースが多い。今回のテストでも、無線の最大リンク速度は300Mbpsとなっていた点に注意してほしい(いずれにせよ有線がボトルネックになっていることに変わりはないが……)。

2000円台なら悪くない

 以上、TP-LinkのTL-WR940Nを実際に使ってみたが、税込2679円という実売価格を考えると、満足度は高い製品と言える。スペック的な限界もあって、パフォーマンスの絶対値は高くないが、無線LANの安定度などは、アンテナの恩恵もあって良好だ。

 セットアップ方法など、ブラッシュアップを望みたい点も多いが、それは本製品に限らずTP-Link製品全般に言えることなので、今後の改善を期待したいところだ。

 とは言え、冒頭でも触れた通り、無線LANの規格も、ルーターとしての機能(主にセキュリティ面)も、この1~2年で様変わりする可能性がある。そうした過渡期のつなぎと考えれば、こうした低価格の製品を割り切って使うのも悪くないだろう。

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清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。