第22回:Yahoo! BB 12M開通!
他のADSLへの影響はいかに
「ルール違反」「営業妨害」と激しい論争にまで発展した8Mbps超のADSL新サービス。その渦中の真っ只中にあるYahoo! BB 12Mサービスを実際に筆者宅に導入してみた。すでに導入済みとなっている他社のADSL回線にその影響は出るのだろうか?
●ADSL新サービスの現状
これまでの8Mbpsから、下り最大速度を12Mbpsにまで引き上げる。ADSL事業者各社ともに新サービスの発表が行なわれ、そのサービスインも間近に迫ってきた。中でもいち早くサービスインにこぎ着けたのがYahoo! BBだ。12Mbpsサービス自体の発表は他社に遅れをとったものの、すばやい攻勢で2002年7月1日から試験サービスを開始。当初予定されていた8月1日の商用サービス開始は延期されたが、3000人、1万人、5万人と募集を増やし、テレビCMも展開するなど、事実上、サービスを稼働させている。いつもながら、同社の意志決定の速さ、サービス展開の速さには驚かされるものがある。
しかしながら、ここまで素早くサービスインできたのには裏がある。これがイー・アクセスが指摘したTTC(社団法人情報通信技術委員会)の問題だ。ADSL事業を展開する他社も12Mbpsサービスの展開を予定していたが、そのサービスが他の回線に与える影響などを調査するためにTTCでの検討を進めている最中だった。しかし、Yahoo! BBは、TTCでの検討を飛ばす格好で、サービスインを強行した。これにより、他社に先駆けて12Mbpsサービスを展開することができたわけだ。
もちろん、これまでの“ルール”通りに考えれば、新サービスを展開する場合、やはりTTCの検討は必要だ。そもそもADSLは本来の目的となる音声通話では想定されていない高い周波数帯を使って高速通信を実現する技術だ。このような通信が他のサービスに干渉を与えないとは限らない。この詳細を検討し、標準化を行なうためにTTCが存在するわけだ。しかも、今回のYahoo! BBの12Mbpsサービスである「AnnexA.ex」、アッカネットワークスの「C.x」、イー・アクセスの「リンクプラス」など、各社から発表された新サービスは、本来上りに利用する帯域に下りのデータを重ねるオーバーラップ技術を採用し、これまでとは異なる方式を採用する。このような新技術が他の通信サービスに影響を与えないかは、やはり詳細に調査しなければならないだろう。
しかし、これはあくまでも慣例だ。TTCはあくまでも民間団体なので、この検討に強制力はない。このため、Yahoo! BBは「TTCには、事前に届け出なければならないという権限があるとは認識していない(孫氏)」というスタンスのもとにサービスを開始したことになる。ADSLを含み、通信事業全体のことを考えれば、TTCによる検討は必要だ。しかし、ビジネスとして考えた場合、他社に先行してサービスを開始するメリットは大きい。このどちらに重きを置くかで各社の立場が分かれた格好となる。
この問題は、現在、小康状態を保っているが、TTCでの検討は進められている模様なので、近々、何らかの動きがあると予想できる。ただ、TTCでの検討で影響があると判断されたとしても、試験サービスとは言え、事実上5万ものユーザーを集めようとしているYahoo! BB 12Mの試験サービスが素直に退けるとは思えない。また、すでに新サービスを利用しているユーザーの反響も大きいだろう。このあたりは、今後の動きが大いに注目される。
●Yahoo! BB 12M開通! その速度は?
Yahoo! BB 12M用のコンボモデム。BBフォンの利用も可能。AnnexA/AnnexA.ex/AnnexCに対応しており、最適なモードに自動的に切り替えることができる。ただし、モデムのステータスを表示できないため、どのモードで、どれくらいの速度で接続されているのかはユーザーにはわからない |
さて、筆者宅では、先日までADSLを3回線導入していた。NTT東日本のフレッツ・ADSL 8Mタイプ、アッカ・ネットワークスの8Mbps(10Mbps対応)、イー・アクセスの8Mbpsサービスだ。今回、このうちのイー・アクセスの回線を解約し、加入電話ライトを申し込んだ上で、Yahoo! BB 12Mサービスを導入した。
Yahoo! BB 12Mサービス自体は快調で、何の問題もなく接続できている。残念ながらADSLモデムのステータス情報を表示できないため、リンクアップ速度や減衰率などは確認できないが、Yahoo! BBが提供する速度測定サイト(http://speedchecker.bbtec.net/)では、2150kbpsと実測で2Mbpsを越える値が表示された。リンクアップ速度が2.3Mbps程度のアッカの回線などで計測すると2Mbpsを切る値となるため、ほぼ2.5~3Mbpsあたりでリンクアップしていると予想できる。
収容されているカッドによる違いもあるので、はっきりと断言できないが、AnnexA.exの恩恵で多少速度が上積みされているようだ。他社の回線と比べてると、頭ひとつ速い格好となる。それにしても、モデムのステータスをユーザーにも見られるようにしてもらいたいところだ。これでは、本当にAnnexA.exで接続されているのかどうかもわからない。もしかしたら、AnnexAやCで接続されている可能性もある。
Yahoo! BB提供の速度測定サイトにてYahoo! BB 12M(左)とアッカ(右)の速度を比較 | この値から推測すると、筆者宅のYahoo! BB 12Mは2.5~3Mbpsの間でリンクアップしているものと思われる |
●他の回線への影響はあるのか?
前置きが長くなったが、はたしてYahoo! BB 12Mサービスによる影響は実際にどこまであるのだろうか?
まず、影響の出る範囲だが、これは先日開催されたイー・アクセスの勉強会によると、上りの帯域となっている。Yahoo! BB 12MサービスのAnnexA.exでは、スペクトルオーバーラップを利用して、本来上りに利用する伝送波に下りのデータを割り当てる。これにより、最大速度を向上させ、伝送距離を伸ばすことができるわけだ。また、オーバーラップで利用する帯域は上りの低い周波数帯であるため、距離による減衰などを受けにくく、全体的な速度の底上げも可能となる。
このため、他の回線が近くに収容されている場合に、その上り帯域に干渉を起こすと予想される。予想と言ったのは、現段階ではイー・アクセスとYahoo! BBの言い分が異なるため、実際に干渉があるか、どれくらいなのかを判断するためにTTCでの検討結果を待つ必要があるからだ。
結果から言うと、筆者宅のケースでは、Yahoo! BB 12Mサービスによる影響はなかった。アッカの回線のノイズマージンが導入後の方が若干高くなっているが、これは誤差の範囲だ。そのほかの値に関しては、導入前と全く変わらない状態であった。もちろん、実際に通信をしていないと影響が出ない可能性もあるので、Yahoo! BB 12Mの回線でファイルをダウンロードしながら、ADSLモデムの再トレーニングなども実施してみたが、結果は同じだった。
アッカ (導入前) | アッカ (導入後) | フレッツ (導入前) | フレッツ (導入後) | |
下りリンクアップ速度 | 2304kbps | 2304kbps | 2048kbps | 2048kbps |
上りリンクアップ速度 | 992kbps | 992kbps | 864kbs | 864kbs |
ノイズマージン | 6.5dB | 7.0dB | 6dB | 6dB |
インターリーブディレイ (下り/上り) | 4ms/4ms | 4ms/4ms | 4ms/4ms | 4ms/4ms |
伝送損失(下り/上り) | 52dB/25dB | 52dB/25dB | 47dB/- | 47dB/- |
Yahoo! BB導入前と導入後で他社の回線のステータスを比較。結果は、ほとんど変わらないものとなった |
Yahoo! BB 12M導入前(上)と導入後(下)のアッカのビットマップ | FEXT(左)、NEXT(右)ともにビットマップにも変化は現れなかったことがよくわかる |
この結果から、2つの結論が推測できる。ひとつはYahoo! BBの言い分通り、他の回線への影響がないという結論。そしてもう一つが回線が収容されているカッドの位置のために干渉が起こらなかったという結論だ。前者は我々の調査には限界があるので、必ずしもそうだとは言い切れない。どちらかというと後者の結論に近いだろう。実際、干渉の影響が出るには、他の回線とYahoo! BB 12Mが同一とは言わないまでも近くのカッドに収容されている必要がある。筆者宅のケースでは、収容カッドが近くなかったのではないかと予想できる。
しかしながら、同一の住居にそれぞれの回線を導入しても、影響が出ないこともある一例としては注目すべき結果だろう。これなら、Yahoo! BB 12Mサービスが他の回線に干渉するという前提の元で考えた場合でも、マンションなどの集合住宅で他の住居でYahoo! BBが導入され、自分の回線の速度が低下するという極端な例もなさそうだ。もちろん、運悪く同一カッドに収容されれば、何らかの影響があるかもしれないが、これはさらに詳細な調査をしなければわからない。
●今後の動向に注目
このように、筆者宅では収容されているカッドの関係からか、干渉はほとんどみられなかった(もしかしたらAnnexA.ex以外で接続されている可能性も否定はできないが)。しかし、前述したように、Yahoo! BBの12Mサービスは、試験サービスながら5万人を越えるユーザーを獲得しようとしている。そう考えると、今後、他人がYahoo! BB 12Mを導入したことにより、他社の回線になんらかの影響が出る可能性もある。
問題はこれがユーザーに見えないという点だ。ある日突然、自分が使っているADSLの速度が低下したとしよう。しかし、それが他人の導入した回線によるものだとしてもユーザーは判断できない。もちろん、まずは本当に干渉があるのか、それがどれくらいなのかを明らかにすることが前提だが、もしも干渉があるのだとすれば、それによる速度低下が発生した場合に他社を含むADSLユーザーをどのようにフォローしていくのかが極めて重要となってくる。このあたりに各事業者(特にYahoo! BBが)がどのように対応していくのか、今後、注目されるところだ。
関連情報
2002/8/13 11:13
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