第21回:FREESPOT始めました!
メルコの導入キット「FS-01」を試す



 各社から有料・無料のサービスが次々と登場するものの、いまひとつ現実味に欠けるホットスポット。現状は、まだまだ使える場所が限られているため、便利さを実感できないのがその原因だ。そんな中、メルコから「FREESPOT導入キット(FS-01)」が発売された。これを利用すれば、誰でも手軽に無料のホットスポットを開設可能となるという。果たしていわゆるホットスポット普及の起爆剤となるのか? その実力を試してみた。





ホットスポット普及のカギをにぎるか? FREESPOT

FS-01に同梱されるアクセスポイント。WLAR-L11G-Lとハードウェアは全く同一

  いつでもどこからでもインターネットが利用可能になる。ホットスポットのメリットは、まさにこの点にある。しかし、現状はまだまだこの状況にはほど遠い。それもそのはず。ホットスポットが利用できる場所は、まだ限られており、実際にどこでも使えるとは言えないからだ。

 しかも、ホットスポットのサービスは、現状さまざまな会社から提供されており、それぞれのサービス内容が異なったり、専用の機器やソフトが必要というオマケ付きだ。有料のホットスポットサービスの多くは、ユーザー登録が必要で、実際に利用する場合も認証のためのIDやキーが必要になるが、各社サービスの相互接続性はほとんど確保されていない。このため、外出先でホットスポットの電波を掴んでも自分が登録しているサービスが提供されているという保証はない。本当の意味でシームレスにホットスポットを利用するためには、提供されているすべてのホットスポットサービスに加入し、そのIDやキーを管理しなければならないという非現実的なことをしなければならないわけだ。

 もちろん、高いセキュリティや安定したサービスを望むのであれば、各企業がサービスに独自性を持たせることに意味はある。しかし、このままではユーザーの利便性は確実に低下してしまうだろう。それでは、シームレスに使えるホットスポットは不可能なのだろうか? そうとも言えない。これには2つの答えがある。ひとつは、現状のサービスを提供している企業が相互接続性を確保するために協力すること、そしてもうひとつは完全に無料で、自由に使えるFREESPOTのようなものが普及することだ。しかしながら、前者は各社の思惑が異なるため非常に難しい。そう考えると、FREESPOTが救世主となる可能性もあると言えるだろう。





導入の難しさを解消し、セキュリティを確保

 このようにFREESPOTは、ホットスポット普及のカギをにぎるひとつの方式だと言える。しかし、実際にFREESPOTが普及するには、導入の難しさを取り除くことと高いセキュリティを確保することが要求される。最終的には近所の喫茶店や商店、あらゆる場所がFREESPOTとなるのが理想だが、そのためにはこのような問題をクリアしておかなければならないわけだ。

 そこで登場したのが、メルコの「FREESPOT導入キット(FS-01)」だ。これは、中小企業や町中の商店などで簡単にFREESPOTを展開するためのキットだ。基本的には同社がすでに販売しているAirStationシリーズの「WLAR-L11G-L」がベースの無線LANアクセスポイントに設定サービスなどがセットになったものだが、FREESPOTで使うことを前提に製品が最適化されている。

 具体的には、アクセスポイントのファームウェアがFREESPOT用にカスタマイズされて「WLAR-L11G-L-FS」となり、以下の独自機能を搭載している。

  • ポップアップテクノロジー

     無線で接続したユーザーが最初にブラウザを起動したときに、任意のURLをポップアップして表示する機能。店舗の宣伝などに利用できる。

  • プライバシーセパレータ

     アクセスポイントに接続した無線クライアント同士の通信を不可能にする機能。共有フォルダなどへのアクセスを防止することで、安全にFREESPOTを利用できる。

  • アクセスタイムコントロール

     店舗の営業時間に合わせて「FREESPOT」の稼働時間を内蔵のタイマーで制御できる。たとえば、営業時間内しか接続できないようにしたり、飲食店などで昼時のピークタイムに利用不可能にすることができる。



ポップアップテクノロジーを利用すると、利用者が最初にブラウザを起動したときに任意のURLをポップアップ表示可能。店舗の宣伝などに活用できる

プライバシーセパレータにより、無線クライアント同士の通信を禁止。より安全な環境をユーザーに提供できる。また、有線LANで接続した特定の機器への通信を可能にすることなども可能

アクセスタイムコントロールを利用すれば、店舗の営業時間にあわせてFREESPOTの稼働を制御できる。昼時のピークタイムなどにFREESPOTを無効化することも可能だ

 特にプライバシーセパレータはFREESPOT構築のための強力な機能だ。極端な話、FREESPOTは、ADSLなどの常時接続回線を導入し、そこに一般的な無線LANアクセスポイントを設置すれば構築できる。しかし、これでは単なるLANなので、場合によっては他のユーザーの共有フォルダに不正にアクセスすることなどが簡単にできてしまう。しかし、プライバシーセパレータを利用すれば、このような問題も解決できるわけだ。一般的な無線LAN製品と「FS-01」の最大の違いはここにあると言えるだろう。


FS-01に同梱される宣伝用のPOP類。FREESPOTを展開していることを顧客にアピールすることができる

 また、このキットには設定サービスがセットになっている。メルコのBSA(BUFFALO Service Alliance)のスタッフが出張して機器設置、各種設定作業、回線の開通までを行なってくれるサービスが無料で受けられる。

 さらに、FREESPOTを展開していることを顧客に宣伝するためのステッカー、ポスター、テーブルに設置する設定ガイドなどもセットになっている。これにより、FREESPOTを展開した商店などは、そのことを顧客に訴求できるわけだ。これはなかなか良くできていて、POPとしての完成度は高いと言える。筆者はかつて某ファーストフード店で店舗勤務をしていたことがあったが、この手のPOPを見ると、ついそのときのことを思い出してしまう。





ルータがすでに存在する場合は注意が必要

 実際に自宅に設置してみたが、設定は非常に簡単で、フレッツ・ADSLならばインターネットに接続するためのIDとパスワードを登録するだけで利用できた。アクセスポイントには、標準で“FREESPOT”というESS-IDが割り当てられており、プライバシーセパレータの機能などもONになっているので、面倒な設定は不要となっている。もちろん、ポップアップテクノロジーやアクセスタイムコントロールを利用する場合は、さらに設定が必要だが、最低限の機能だけでかまわないのであれば、これだけの設定で問題ない。確かに専門的な知識がなくても手軽にFREESPOTを構築できるだろう。

 ただし、すでにネットワーク上にルータが存在する場合は注意が必要だ。通常、ADSLモデムにルータ機能が内蔵されているような場合はルータ機能を使わずに無線ブリッジとして動作させることで利用可能だが(ADSLモデムをブリッジにすることでも可能だが、PPPoAの場合は無線LANをブリッジにするしかない)、WLAR-L11G-L-FSの場合は前述したプライバシーセパレータの機能のおかげで、これだけでは利用できないのだ。

 プライバシーセパレータは、標準の設定のままだと無線クライアント同士の通信はもちろんのこと、有線クライアントと無線クライアントとの通信も遮断してしまう。このため、有線で接続されたルータとの通信までも遮断されてしまうわけだ。

 このような場合は、プライバシーセパレータの設定を変更する必要がある。プライバシーセパレータでは、特定のネットワーク機器(ルータやパソコン)のMACアドレスを登録することで、その機器との通信を可能にすることができる(有線で接続された機器のみ)。このため、既設のルータのLAN側のMACアドレスを調べ、これを登録してやれば、無線ブリッジとして利用した場合でも既存のルータ経由でインターネットに接続できるわけだ。

 もちろん、この場合はDHCPの設定も変更する必要がある。標準のままではデフォルトゲートウェイやDNSのアドレスとしてアクセスポイントのIPアドレスが配布されてしまう。このため、ルータのIPアドレスをデフォルトゲートウェイとして配布するように設定変更しておく必要がある。これで、すでにルータが存在する場合でもFREESPOTを構築可能だ。ただし、別途ルータを利用する場合、前述したポップアップテクノロジーなどの機能が利用不可能になる点には注意したい。


別途、ルータを利用する場合は、プライバシーセパレータの機能での設定が必要。無線クライアントから通信可能な有線パソコンにルータのMACアドレスを登録しておく

 なお、同様にプライバシーセパレータの設定を変更することで、有線で接続したLAN内のサーバーなどをFREESPOTに接続した無線クライアントに公開することもできる。ファイル共有などまでもできてしまうため、設定には注意が必要だが、店舗の情報などを提供するためのサーバーをLAN内に設置することも可能というわけだ。





あくまでもFREESPOT構築用の製品

 このように、FS-01を利用すれば、比較的容易に、しかもある程度のセキュリティを確保した状態でFREESPOTを構築できる。ただし、この製品はあくまでもFREESPOT構築用の製品である点に注意したい。

 たとえば、家庭内LANなどとFREESPOTを1台の機器で構築するのには無理がある。WLAR-L11G-L-FSには、「オーナーパソコンの登録」という機能が備えられており、ここに無線クライアントのMACアドレスを登録することで、登録したPCから有線で接続したすべてのPCと通信可能にすることができる。しかし、無線クライアント同士の通信はどうやっても不可能だ。つまり、FREESPOTに接続する不特定多数のユーザー同士の通信は禁止するが、自分が所有している無線クライアント同士の通信を許可するというような設定はできないわけだ。


オーナーパソコンとして、特定の無線クライアントのMACアドレスを登録しておけば、そのPCから有線パソコンとの通信を可能にできる。ただし、無線クライアント同士の通信はどうやっても不可能となる

 このため、家庭内LANなどとFREESPOTを共存させたい場合は、無線アクセスポイントを別に用意し、片方を家庭内LAN用に、そしてWLAR-L11G-L-FSをFREESPOT用に設置しなければならないことになる。個人でFREESPOTを運営したい場合は不便だが、製品の用途があくまでもFREESPOT構築ということを考えれば、致し方ないところだろう。

 とは言え、町中の喫茶店や商店などで手軽にFREESPOTを構築できるという点を考えると、非常に興味深い製品だと言える。もちろん、FREESPOTを導入することで、どこまで顧客数を増やせるかはわからない。また、逆に喫茶店などでは客の回転率が低下する恐れもある。しかし、このような無料のホットスポットは今後、普及していくものと考えられる。その呼び水として、「FREESPOT導入キット(FS-01)」が登場した意義は大きいと言えるだろう。理想としては、中華料理店の「冷やし中華始めました」の横に、「FREESPOT始めました」という貼り紙が当たり前のように並ぶことを期待したいところだ。


関連情報

2002/8/6 11:14


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。