第173回:複数番号や無線IP電話が利用可能に
新サービス追加で進化した「ひかり電話」を再検証



 「0AB~J」番号を利用したNTT東日本のBフレッツ向けIP電話「ひかり電話」に、新たなオプションサービスが登場した。2回線分の同時通話や複数番号の利用が可能で、さらには別売ながら無線IP電話も利用可能だ。実際に筆者宅で契約してみたので、その使用感をレポートしよう。





新たなオプションサービスで進化したひかり電話

 今回の新サービスの登場により、ひかり電話は電話サービスとしての優位性をようやく打ち出すことができそうだ。

 NTT東日本は、11月10日から、「03」や「06」などの市外局番から始まる「0AB~J」番号を利用したIP電話「ひかり電話」向けの付加サービスとして、2回線同時通話が可能な「ダブルチャンネル(複数チャンネル)」、複数の電話番号を利用できる「マイナンバー(追加番号)」サービスの提供を開始。合わせて無線LANに対応したIP電話機「ひかりパーソナルフォン WI-100HC」の販売を開始した。

 これまでのひかり電話は、率直に言って価格の安さ以外、これといった訴求点がないサービスという印象だった。しかもその価格も、圧倒的な低価格とまでは言い難い。しかし、今回のサービスの登場によって、2回線の同時通話や電話機ごとに着信する番号を制御するなど、いわばISDN的な利用が可能になった。直収サービスを含むアナログ電話、050番号IP電話サービス、ISDNと、他のサービスに対して機能面でのアドバンテージを確保したと言えるだろう。

 筆者のようなSOHO環境のユーザーにとって、今回のサービスの登場は非常に歓迎すべきものだ。現在、筆者宅では、ひかり電話とISPの050番号IP電話、さらにアナログ電話(平成電電)を併用しており、これらを仕事用、FAX用、家庭用として、それぞれ使い分けているが、ダブルチャンネルとマイナンバーの併用によって、これらをすべてひかり電話に統合することが可能となった。

 一般的な家庭は別として、SOHOや小規模オフィスでは、同様に電話とデータ用のADSL回線に加えて、FAX用にもう1本アナログ回線を併用しているユーザーやデータ用の回線に加えて音声用にISDNを併用しているユーザーも少なくないだろう。こういったケースでは高い利用価値があるサービスと言える。





ルータの変更が必要。市内局番の割り当てにも注意

 実際の利用方法は非常に簡単だ。すでにひかり電話を利用しているユーザーであれば、116へダブルチャンネルとマイナンバーの追加を申し込むだけで良く、書類による申し込みなどは必要ない。環境にもよるが、申し込みから1週間もあればサービスが利用可能になるだろう。

 ただし、利用に際してはいくつかの注意点がある。まずは電話番号だが、筆者の場合、ひかり電話では「03-5xxx-xxxx」という番号を利用していたが、マイナンバーで割り当てられた番号は「03-6xxx-xxxx」と異なる体系の番号が割り当てられた(ひかり電話用局番と推測される)。できれば同じ局番で取得したかったのだが、その場合は一旦加入電話ライトなどで居住地の市内局番の電話番号を取得し、解約後に改めてマイナンバーに変更するという手続きが必要となるとのことだ。

 現在、複数の電話番号を利用しており、それをひかり電話+マイナンバーに移行するのであれば、同番移行で市内局番も同じに揃えることができるが、新たにマイナンバーを取得する場合は、市内局番が変更される可能性もある点を覚えておこう。

 続いての注意点は、ルータの交換が必要になること。NTT東日本のひかり電話では現在、「WBC V110M」というルータが提供されているが、この機種は新サービスに対応しておらず、電話機を接続するためのアナログポートも1つしか装備されていない。このため、サービスの申し込み後に送られてくる新機種に交換する必要がある。

 新機種と言っても、従来機種とあまり変わりはない。「RT-200KI」という沖電気製の機種がレンタルされるが、前面と上部のカバーがゴールドになり、背面のアナログポートが2つになっただけで、基本的にはWBC 110Mと同じデザインだ。


ダブルチャンネルとマイナンバーに対応したルータ「RT-200KI」。見た目は従来機種と大きな変わりはないが、背面のアナログポートが2つに増えている

RT-200KI用の無線LANカード「SC-32KI」(IEEE 802.11a/b/g切り替え、W52対応)。無線IP電話端末の接続に利用できるが必須ではない

 設定画面も基本的には同じだが、電話の設定にマイナンバー用の項目が新たに追加された。ただし、電話自体の設定はひかり電話と同様で必要ない。ルータの起動時に自動的に設定が取得される。RT-200KIには、最大2台の電話機と最大5台のIP端末を接続することが可能だが、これらの機器に対して、取得した複数の電話番号をどのように割り当てるかを設定できる。


ひかり電話、マイナンバーの設定画面。利用可能な電話番号は起動時に自動的に取得するが、それをどの端末に割り当てるかはユーザーが自由に設定できる

 この機能では、各端末ごとに発信番号を何番にするか、どの番号への着信があった場合になど、柔軟な設定が可能だ。筆者の場合、以下の図の構成で電話を利用することにした。FAXは専用番号で利用し、そのほかの番号は音声用の2台の端末の両方を呼び出すように設定。これで音声用の番号(仕事と家庭用)への着信は、FAX機を除くどの番号でも受けられるようになる。


マイナンバーによる鳴り分けの例。特定の番号への着信に対して、複数の端末を呼び出すことなども可能

 もちろん、端末ごとに割り当てた専用番号でしか呼び出さないという使い方も可能で、逆にすべての番号に対してすべての端末を呼び出すこともできる。また、代表番号をすべての端末で呼び出し、各個人宛の専用番号として割り当てたマイナンバーで専用端末を呼び出すといったオフィス向けの使い方もできる。当然ながら各端末間での内線通話や外線の保留転送なども可能だ。このあたりは電話の使い方によって設定を工夫すると良いだろう。





専用端末「WI-100HC」で無線IP電話を実現

 さて、このように電話としての使いやすさを大幅に向上させたひかり電話だが、今回の新サービスの中で、もうひとつ注目に値するのが「ひかりパーソナルフォン WI-100HC」だ。IEEE 802.11bに準拠した無線IP電話端末だが、この端末の利用で、さらに柔軟な電話の利用が可能になる。


ひかり電話用の無線IP端末「ひかりパーソナルフォン WI-100HC」。IEEE802.11bを利用し、ひかり電話の子機として利用できる

WI-100HCの初期設定ツール。RT-200KIのセットアップユーティリティで作成された接続情報ファイルを読み込んで、USB経由で本体に設定することができる。また、電話帳の編集なども可能

 ここで「無線LANでIP電話って使っても良いんだっけ?」と疑問に思う読者もいることだろう。確かに、現在にところ無線端末に対してIP電話の番号を直接割り当てることは、品質の問題から正式に認可されていない。このため、WI-100HCでは企業向けの無線IP電話と同様の仕組みが採用されている。

 具体的には、前述したルータ「RT-200KI」がSIPのプロキシサーバーとなり、ここにWI-100HCが登録される。このため、一見、WI-100HCに直接ひかり電話の番号が割り当てられているように思えるが、実際には、あくまでもWI-100HCは内線用の無線子機として動作し、RT-200KIが外線を中継することで通話を実現している。

 実際の使い方を見ていこう。まずは設定だが、これはPCからUSB経由で行なう。付属のドライバをインストール後、USBでPCに接続すると、仮想シリアルポートとしてWI-100HCを認識。その後ユーティリティを利用して初期設定を行なうと、RT-200KIの無線LAN設定情報(SSIDや暗号キーなど)がWI-100HCに転送される。再起動後、無線LANのセッション確立を確認し、内線番号設定(RT-200KI側で着信設定を行なった内線番号を設定)を行なえば、電話として利用することが可能になる。

 もちろん、WI-200KIを直接操作して手動設定することも可能だ。また、接続先のアクセスポイントもRT-200KIに限らない。WI-100HCで通話をするには、最終的にRT-200KIとSIPのセッションを確立できれば良いだけなので、ネットワーク上に別のアクセスポイントが存在する場合は、手動設定でそのアクセスポイントに接続してもかまわない。


無線LANの設定は手動で行なうことも可能。このため、RT-200KI以外のアクセスポイントに接続して利用することも可能

 実際に使ってみた印象としては、正直言って今一歩だ。音質自体は悪くないのだが、ボリュームの調整レベルが低いのか、受話音量を最大にして、ようやく普通の音量で会話ができる程度だった。

 通話中の本体の発熱も気になった。おそらくスピーカーの反対側に無線LANのモジュールが内蔵されていると思われるが、ものの5分も会話をするとこの部分が発熱し、耳がかなり暖められるような感じを受けた。せめてイヤホン端子を搭載するか、ハンズフリーで会話できるような機能があればいいのだが……。

 電話帳をUSB経由、もしくはブラウザ経由(WI-100HCのWEBサーバー機能を有効に設定しておく必要がある)で編集できるのは便利で、、操作性やデザインもこれまで世の中に登場した無線IP電話の中では良い方だろう。価格の面でも、無線IP電話端末としては安いと言える。それだけあに、この発熱も問題は今後改善を望みたいポイントだ。


WI-100HCのWEBサーバを有効に設定しておくと、PCからブラウザで電話帳の編集が可能となる。CSV形式での出力や入力も可能なので、大量の電話帳データの登録も手軽

 設定も多少クセがある。前述した設定方法の場合、WI-100HCの設定を行なうPCであらかじめRT-200KIの設定を付属のユーティリティで行ない、無線LANの設定情報を「RT200KI設定情報.TXT」としてデスクトップに保存しておく必要がある。この情報ファイルが存在しないと、ファイルオープンエラーとなり、WI-100HCの設定ができない(後述するが手動設定なら可能)。RT-200KIの設定を行なったPCとは別のPCで設定することが想定されていないのも問題だが、そもそもSSIDや暗号キー、さらにはRT-200KIの設定パスワードが生のテキストで記録されている「RT200KI設定情報.TXT」を、デスクトップに保存しておく必要があるというのは個人的には納得しかねるところだ。





PC用ソフトフォンでひかり電話の通話ができる

 前述したように、WI-100HCは、RT-200KI子機として動作するわけだが、この仕組みを応用すると面白いことができる。PC用のソフトフォンなど、ほかのSIPクライアントもひかり電話の子機として利用できるのだ。

 WI-100HCの設定画面を見ればわかるが、SIPクライアントからRT-200KIに接続するための設定情報は、たとえば以下のようなものとなっている(設定画面を表示するためのパスワードは付属CD-ROMの取扱説明書を参照)。

  • 電話番号:3(内線番号)
  • ユーザーID:0003(内線番号と連動)
  • パスワード:RT-200KI設定済みのもの
  • SIPドメイン:192.168.1.1(RT-200KIのIPアドレス)
  • プロキシサーバ:192.168.1.1(RT-200KIのIPアドレス)
  • レジスタサーバ:192.168.1.1(RT-200KIのIPアドレス)
 このうち、ユーザーIDとパスワードに関しては、RT-200KIの設定画面から変更することも可能だ。つまり、これらの情報をSIPソフトフォンなどに登録すれば、WI-100HC同様、ひかり電話の子機として動作させることも可能というわけだ。


RT-200KIにSIPで接続するための情報はWI-100HCの設定画面やRT-200KIの設定画面で参照可能。ユーザーIDとパスワードに関しては、任意に設定することも可能だ

 実際、COUNTERPATHが提供しているX-LiteというSIPソフトフォンを利用して試してみたところ、前述したSIPの接続設定に加え、「Advanced System Setting」の項目にある「Register Proxy」の値を「3600(標準は1800)」に変更することで、問題なくRT-200KIにレジストすることができ、外線発信、およびひかり電話の電話番号への着信ができることを確認した。


COUNTERPATHのX-Lite。RT-200KIへの接続設定を登録することでひかり電話の子機として利用することができた。画面は携帯電話からの着信を受けている様子

X-Liteで接続するための設定。SIP Proxyでユーザー情報やサーバー情報などを設定し、Register Proxyを3600に変更しておく

 SIPの仕様は、事業者によって細かな部分が違う場合があるので、ほかのすべてのクライアントがつながるとは限らないが、アイコムから発売されているワイヤレスIPフォン(VP-43)やワイヤレスVoIPアダプタ(SE-50VoIP)、さらにはNTTドコモから発売されているN900iLなども接続できる可能性がある。さらには、先日、ウィルコムからW-ZERO3が発表されたが、このような携帯端末とSIPソフトフォンの併用でも、ひかり電話の子機として利用できる可能性がある。実際には、接続テストをしてみなければわからないが、さまざまな機器を子機として利用できる可能性があるのは、なかなか興味深いところだ。





サービスとしての利用価値は高い

 このように、WI-100HCやSIPソフトフォンでの利用など、凝った使い方もできるひかり電話の新サービスだが、やはりこのサービスの価値は、かつてのISDNと同様の使い勝手をIP電話で実現できる点にこそある。料金もダブルチャンネルで420円(税込み)、マイナンバーは1番号ごとに105円(税込み)と比較的安価だ。(別途工事費が必要)。

 ひかり電話の料金については、「安心プラン」や「もっと安心プラン」で、他事業者や携帯電話への通話料が月額基本料に含まれる通話分の対象外になっているなど、納得しがたい部分はあるが、今回のサービスに関してはリーズナブルと考えて良いだろう。一般家庭で使う機会は少ないかもしれないが、SOHOや小規模オフィスでの通信費を見直したいときは、十分に導入を検討する価値があるサービスと言えそうだ。


関連情報

2005/11/22 10:46


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。