第202回:ロケーションフリーに強力なライバル出現
外出先からテレビが視聴できるアイ・オーの「Slingbox」



 アイ・オー・データ機器から、自宅のテレビやレコーダなどの映像を外出先から視聴できる「Slingbox(SB100-120)」が発表された(発売は7月8日)。以前、本コラムでソニーのロケーションフリーを紹介したが、これとほぼ同じことができる製品だ。ロケーションフリーと比較しつつ、その実力を検証してみよう。





ロケーションフリー対抗の製品

Slingbox

 チョコレートバーをイメージしたというデザインが強烈な印象を与えるアイ・オー・データ機器の「Slingbox(SB100-120)」。正直なところ、リビングに設置する製品として、このデザインが受け入れられるかどうかは疑問だが(少なくとも筆者宅の家族には不評だった……)、見た目に反してその実力はなかなかのものだ。

 Slingboxは、ひと言で説明すれば、「ロケーションフリー」対抗の製品だ。本コラムでも、以前にソニーのロケーションフリーを取り上げたことがあったが、この製品とほぼ同等の機能を備えている。

 具体的には、本体内蔵のチューナーで受信したテレビ映像をネットワーク経由で配信したり、ビデオ入力端子に接続したHDDレコーダの映像をネットワーク経由で配信することが可能となっており、これらの映像を専用のプレーヤーソフトを利用してPCで視聴できる。LANでの利用はもちろんのこと、インターネット経由での配信も可能となっており、海外も含む外出先から自宅のテレビなどの映像を視聴できるのが特徴だ。

 では、ロケーションフリーとまったく同じ製品なのかというと、そうではない。Slingboxならではと言える特徴も備えているし、逆に残念ながらロケーションフリーには及ばないという点もある。このあたりを比較しながら、検証してみよう。


個性的な製品パッケージ製品前面

製品背面重さは片手で簡単に持てる程度




配線は面倒だがセットアップ自体はカンタン

 まずは、セットアップに関してだが、この製品でもっとも面倒なのは何と言っても配線だ。この点はロケーションフリーも同様だが、電源やLANケーブル、アンテナ、ビデオ入力、さらにビデオ入力に接続したレコーダなどの機器をコントロールするためのIRと、実にたくさんのケーブルを接続しなければならない。特にレコーダとの接続は、どこが入力で、どこが出力かを確認しながらの作業となるため、なかなか時間のかかる作業だろう。

 ただし、逆に言えば面倒なのはこの配線だけだ。配線さえ終わってしまえば、機器のセットアップは非常に手軽。視聴に利用したいPCで付属のCD-ROMからセットアップを起動し、プレーヤーソフトのインストールと、最低限の初期設定を行なうだけでいい。本体のパスワード設定、アンテナのチャンネル設定、インターネット経由で利用するためのUPnPなどが行なわれるが、基本的に「次へ」をクリックしてウィザードを進めていけば設定が完了する。


セットアップは非常にカンタン。基本的にはウィザードを進めていくだけでチャンネルの設定や外出先からのアクセスなどすべての設定が自動的に行なわれる

 特にインターネット経由での利用設定が自動的に行なわれる点は高く評価したい。外出先から利用するには、ルータのポート(Slingboxでは5001を使用)を開放する必要があるが、これはUPnPによって自動的に設定される(UPnP対応ルータが必要)。

 また、外出先から自宅のSligboxを特定する方法として、「Slingbox Finderサービス」という無料のサービスが提供されており、自動生成される本体のIDを登録しておくことで、ダイナミックDNSなどを利用しなくても、外出先のPCから自宅のSlingboxへと接続できる。本来、面倒な設定が必要な外出先からのアクセス環境を自動的に行なえるようになっているのは、ソニーのロケーションフリー同様、初心者にやさしい設計だ。


外出先からのアクセスに必要なポートフォワードの設定はUPnPによって自動的に行なわれる。さらにSlingbox Finderサービスによって外部から自宅のアドレスを特定するための設定も自動的に行なわれる

外出先からの利用時には、Finder IDと呼ばれる文字列がアクセス時に利用される。ただし、ユーザーはあまり意識する必要はない。LANと同じく起動時に表示されたSlingboxを指定しすれば利用できる




画質は帯域次第だがLAN上での画質は良好

 実際にテレビを見る方法もカンタンだ。PCでSling Playerを起動すると、ネットワーク上のSlingboxが自動的に検索されて表示される。これを選んで接続すれば、テレビの映像が表示される。画面上のリモコンでチャンネルを切り替えれば、若干のバッファの後に、チャンネルが切り替わる。このあたりは実に手軽だ。

 気になる画質だが、LANでの利用で十分な帯域が確保されていれば、悪くない印象だ。Slingboxの映像は、WMV9で50kbps~3Mbpsの映像だが、帯域によって自動的にビットレートが調整されるようになっている。このため、有線LAN、もしくは無線LANの場合でも電波状況が良い場合は、コンスタントに2Mbps程度のビットレートで映像が表示される。解像度が640×480(LAN上での利用の場合のみ。WAN経由では320×240となる)のため、ウィンドウサイズを640×480以上にすると、画面がぼやける印象はあるが、VGAで画面の片隅で表示している限りは画質的な不満はまったくなかった。


左から320×240/500kbps、320×240/1500kbps、640×480/2000kbpsのテレビ画像。細部の品質が順に高くなっていることがわかる。イメージとしては、一番左が帯域の低い外出先での映像、真ん中が外出先でも帯域がある程度確保できる場合の映像、右端がLANでの映像というイメージ

 一方、外出先からの利用の場合は環境に大きく左右される。前述したように解像度が320×240に制限されるため、ウィンドウサイズを大きくするとぼやけた印象はあるが、320×240の標準サイズの場合、1Mbps程度のビットレートが確保できれば実用上困らない品質で映像を視聴できる。言葉で表現するのは難しいが、サッカーのダイジェストなど動きの速い映像でも視聴に耐えうる品質だ。ただし、公衆無線LANなどで十分な帯域が確保できない場合などは、500kbps程度のビットレートにまで落ち込むこともある。ここまでビットレートが落ちると、動きの速い映像に関しては、かなり見づらい印象を受けた

 ただし、Slingboxのビットレート調整はかなり柔軟で、接続直後は500kbps程度から始まって、徐々にビットレートを上げていく方式となっている(外出先などでも通信環境さえ良ければ、数分後に1.5Mbps程度にまで上がることもある)。このため、画質レベルを数段階でしか調整できないロケーションフリーなどと比べて、環境に合わせた最適な画質調整が可能となっており、全体的に画質が高い印象を受ける。特に、個人的にはWAN環境で利用した際の画質はロケーションフリーよりきれいな印象を受けた。





ビデオ入力機器のコントロールも可能

 さて、Slingboxではテレビの視聴だけではない、ビデオ入力端子に接続したレコーダなどの映像も視聴することも可能だ。方法はロケーションフリーとまったく同じで、Slingboxに接続されたIRコントロールによって、レコーダーのリモコンをエミュレートし、画面上に表示されたソフトウェアリモコンによって、電源のON/OFF、メニュー操作などをコントロールすることが可能となっている。

 筆者が利用したSlingbox Playerは発売前のベータ版であったこともあり、対応するレコーダーの機種なども少なかったが、国内の主要なレコーダに対応し、ソフトウェアリモコンのデザインも実際のリモコンに近いデザインで用意することが予定されている。ソニーのロケーションフリーの場合、機種名ではなく、たとえば「東芝レコーダ(1)」などといったように、わかりにくい選択肢から接続した機器を選ぶ必要があった。また、リモコンのデザインも単一で、ボタンの配置が実際ボタンと異なるなど不便な面もあった。これらの点を改善できれば、Slingboxのアドバンテージの1つとなり得るだろう。


ビデオ入力に接続した機器はソフトウェアリモコンとIRによってリモートコントロールが可能。今回試用したのはベータ版のために対応機種が少ないが、今後どれだけ増えるかがポイントとなりそう。同社のAVeL LinkPlayerも利用可能となっている

 なお、Slingboxにはビデオ入力が1系統しか搭載されていないが(ロケーションフリーでは2系統接続可能)、代わりにビデオ出力端子が搭載されている。これは接続する機器によっては意外に便利だ。たとえば、ソニーのPSXなどは映像の出力が1系統しか搭載されていない。このため、テレビに接続して使う場合、出力端子が足りずにロケーションフリーに接続できなかった。

 これに対してSlingboxの場合、映像をパススルーする出力端子があるため、「PSX→Slingbox→テレビ」という接続が可能となり、出力端子が1系統しかない機器も接続可能となっている。このような機器を接続したい場合は、Slingboxの方が便利だろう。

 また、細かな点だが、ソフトウェアリモコンで操作する際のレスポンスもSlingboxの方が格段に良い。Slingboxにしろ、ロケーションフリーにしろ、映像をストリーミングで配信する関係上、ソフトウェアリモコンでの操作から一定時間経過しないと、画面上の映像に操作結果が反映されない。


リモコンを操作すると、リモートコントロールモードに移行し、画面の反応が改善される。若干のタイムラグはあるが、比較的きびきびとした操作が可能だ

 しかし、Slingboxでは、リモコンの操作を行なうと自動的に映像が「コントロールモード」と呼ばれる意図的に画質を低くしたモードに変更される。これにより、画面上の動画はカクカクしたイメージになるが、リモコンでの操作が画面上に反映されるまでの待ち時間が格段に短くなる。さすがにボタンを押してから即座に、というわけにはいかないが、操作からワンテンポ遅れて反応している印象だ。このため、レコーダなどをビデオ入力端子に接続した場合、メニュー画面を表示して録画した番組を選ぶといった操作がかなり快適にできるようになっている。この点もSlingboxならではの特徴と言えるだろう。

 なお、Slingboxは、同社のネットワークメディアプレーヤー「AVeL LinkPlayer(AVLP2/DVDシリーズ、AV-LS300シリーズ)」との連携も可能となっている。このため、たとえば、外出先からAVeLシリーズに接続し、そこからさらにLAN上のDLNA対応機器のコンテンツを参照して再生するといった使い方も可能となっている。

 実際、筆者宅でテストしてみたところ、外出先からAV-LS300シリーズに接続、そこから東芝のRD-X6を参照して録画した番組を再生するという使い方ができた。AV-LS300ではDLNAに対応しているので、このほかPC上のコンテンツやNAS上のコンテンツの再生などにも利用できるだろう。





PCからの利用がメインなら選ぶ価値あり

 このように、Slingboxはロケーションフリーに比べて、帯域に合わせて賢く最適化する画質、ビデオ入力機器の操作性の良さというアドバンテージを持った製品と言える。この2点を重視するのであれば、個人的にはSlingboxを選ぶ価値は十分にあると感じた。

 価格的にも、ロケーションフリーの実売が25,000円前後なのに対して、有線LANにしか対応していないSlingboxが店頭販売価格29,800円程度と、同等もしくは若干高いが、クライアント用ソフトウェアが別売のロケーションフリー(約2,000円程度)に対して、無償でソフトウェアが提供されるSlingboxの方が、複数のクライアントを利用する場合は結果的に安くなる(実際の利用時は同時接続が1クライアントに制限される)。

 ただし、PCでの利用に加えて、ロケーションフリーはPSP、PDA、Mac OS、そして携帯電話と利用シーンを拡大しつつある。Slingboxは、現状ではPC(Windows)での利用のみと環境が限られるのが欠点と言えそうだ。海外ではすでにWindows Mobile向けのソフトが提供されており、Mac OSへの対応も予定されているので、こうした対応機器の拡充を期待したい。あとは冒頭で触れた奇抜なデザインも、この製品の将来を決める可能性が高そうだ。


関連情報

2006/7/4 11:02


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。