iOS/Androidから使えるワイヤレスストレージ PQI「Air Drive」をライバル製品と比較する


 PQIから発売された「Air Drive」は、無線LAN機能を内蔵したSD/SDHC対応のモバイルストレージだ。専用のアプリを利用することで、iOSやAndroidから無線LAN経由でSD/SDCHのデータにアクセスできる。ライバル製品と比較しながら、その実力を検証していこう。

クラウドストレージも登場したが……

 KingstonのWi-Drive、日立マクセルのAirStash、そして今回紹介するPQIのAir Driveと、無線LANをインターフェイスとしたスマートフォン用のモバイルストレージが出そろってきた。

左からPQIのAir Drive、日立マクセルのAirStash、KingstonのWi-Drive。すべて無線LAN経由でアクセスできるモバイルストレージ

 SkyDriveやGoogle Driveなどのクラウドストレージの登場を考えると、無線LAN接続のモバイルストレージにどこまでニーズがあるかは、じょじょに難しい状況となりつつある。しかし現在でも、使い勝手が接続回線の品質に左右されるクラウドストレージと違い、常時安定した高速アクセスと接続性が担保でき、インターネットから隔離された閉じた環境でデータを共有できる点は、このジャンルの製品ならではの特長となっている。

 発展途上のジャンルであるため、まだ製品の認知度が低いうえ、機能的にも物足りない点は多々あるのだが、今後うまく用途を開拓していけば、クラウドストレージと棲み分けることも不可能ではないだろう。

 そんな中、PQIから新たしく発売されたのが、今回紹介する「Air Drive」だ。IEEE802.11n/b/gに準拠した無線LANを搭載したカードサイズの製品で、本体側面に用意されたカードスロットにSD/SDHCメモリカードを装着することで、iOS/Androidからデータを読み書きできるようになっている。

 製品としては、16GBのSDHCメモリカードが付属するモデルと、32GBのSDHCメモリが付属するモデル、そして本体のみのモデルの3種類があるが、今回、筆者が購入したのは本体のみのモデルだ。実売価格で6000円前後とさほど高くないので、スマートフォンやタブレット、PCで利用するためのストレージとして気軽に利用できるだろう。


SD/SDHCメモリカードスロットが開けにくい

 では、製品について詳しく見ていこう。まずは外観だが、見た目は名刺ケースといったところで、大きさは幅85×奥行き8×高さ54mm、重量は55gとなっている。サイズとしては、かなりコンパクトなので、持ち運びに苦労することはないだろう。

 インターフェイス系は側面に配置されており、正面から見て左側にUSBケーブル、底面にSD/SDHCメモリカードスロットと無線LANやバッテリー状態を示すLED、上部にスライド式の電源スイッチが搭載されている。

正面背面側面

 USBケーブルは、長くケーブルが引き出せるわけではなく、堅めのゴム製のケーブルを横にずらすようにして使うタイプだが、別途ケーブルを持ち歩かなくて済むのはありがたいところだ。

 一方、SD/SDHCメモリカードスロットだが、こちらもゴム製のカバーで被われており、開くにはシャーペンの先のような細い金具を中心部分の穴にひっかけて開ける必要がある。鞄の中などに入れて持ち運ぶ際、スロットからホコリやゴミが入り込むのを防止するための対処だと思われるが、爪で開けるのは困難なため、SD/SDHCメモリカードを頻繁に入れ替えるような使い方には向いていない。基本的には、大容量のメモリカードを入れたままにして使うことになりそうだ。

側面からUSBケーブルをずらすようにして取り出すことができる。長さは短いがPC接続には十分底面側にSD/SDHCメモリカードスロットを搭載。細い金具などがないと開けるのが難しい

 個人的には、このジャンルの製品は、個人用のデータ保存先として使うだけでなく、目の前にいる誰かとデータをシェアするのに適した製品だと考える。そう考えると、実はストレージの領域は、自分用と公開用の2種類を使い分けられることが好ましい。内蔵+SD/SDHCでもかまわないし、SD/SDHC×2でもかまわない。最悪、SD/SDHCを差し替えて使うという方法でもいい。

 そう考えると、せっかくスロット式になっているにもかかわらず、SD/SDHCメモリカードの脱着がしにくいというのは、あまり好ましくない。せめて爪で開けられる程度にしてほしかったところだ。


今のところは横並び

 ちなみに、同様の製品としては、冒頭で触れた日立マクセルのAirStashがあるが、こちらはSD/SDHCメモリカードの脱着がしやすくなっている。せっかくなので、両製品を比較してみよう。

Air DriveAirStash
実売価格6000円前後1万円前後
メモリSD/SDHC(SDXCはUSB接続のみ可)SD/SDHC(FAT32のみ)
USBケーブル内蔵コネクタ直結
無線LANIEEE802.11b/g/nIEEE802.11b/g/n
バッテリー900mAh(内蔵固定)未公表
連続動作時間5時間(ストリーミング時)7時間
サイズ
幅×奥行×高(mm)
85×8×5433.2×13×92.5
重量55g41g
iOS
Android近日対応予定
USB接続
ファイル共有(SMB)○(遅い)
HTTP読み取りのみ読み取りのみ
WebDAV×

 基本的なスペックで比較すると、AirStashの方が、若干、小型で、SD/SDHCメモリカードが取り出しやすく、バッテリー駆動時間も長いが、価格が10,000円前後と高いといったところが違いとなる。

 ただし、実際に使ってみると、細かな点でいろいろな違いがあることに気づく。まず、AirStashは起動が速い。電源ボタンを押してから無線LANで接続可能になるまで、十数秒ほどしかかからず、使いたいときに素早く利用できる。Air Driveの起動も30秒弱なので決して遅くはないが、AirStashにはかなわない。

 ただし、ストレージへのアクセス速度は、この反対にAir Driveが有利となる。以下は、USB接続時のCrystalDiskMark3.0.1bの結果だ。いずれも32GB Class 6のSHDCメモリカード(FAT32)を装着して計測しているが、結果にかなり差が出た。

 AirStashは、PCから「\\192.168.0.1」とUNCで指定して無線LAN経由でアクセスすることもできるが、この際、共有フォルダが表示されるまでのレスポンスも悪く、若干、待たされることが多い。アプリなどからのアクセスはさほどパフォーマンスが気にならないが、PCからデータをコピーする場合は、若干、この点がマイナスとなりそうだ。

Air DriveAirStash

 続いて、スマートフォンやタブレットで使うアプリの違いを見ていこう。Air DriveはiOS/Android用のアプリがすでに公開されており、どちらの環境でも利用できる。一方、AirStashは現状iOS向けアプリのみの提供となっており、Android用アプリは近日公開予定となっている。

 この点はAir Driveが有利だが、実はAirStashはWebDAVに対応しているため、WebDAV(もしくはSMBでも可)に対応した汎用的なアプリを使えばAndroidからもアクセス可能だ。

Air Drive用のアプリ「S+ Flash」。iOS版とAndroid版の両方が利用可能

 アプリの機能的にも違いがいくつかある。たとえば、AirStash用のiOSアプリである「AirStash+」ではファイルのソート(名前や日付など指定可能)が可能だが、Air Drive用の「S+ Flash」ではソートができない。このため、画像ファイルなど大量のファイルがストレージ上にあると、ファイルを探すためのスクロール操作が余計に必要になる。

 また、ファイルのダウンロード先も異なる。「AirStash+」では写真をダウンロードした場合にiOSのカメラロールに保存されるが、AirDriveの「S+ Flash」では「マイフォルダ」と呼ばれる「S+ Flash」管理内のフォルダに写真がダウンロードされ、カメラロールからはダウンロードした写真を参照できない(Android版はダウンロード先を任意に設定できる)。この点も大きな違いだ。

AirStash+ではファイルのソートが可能。AirDriveの「S+ Flash」ではソートできないAirStashにはAndoroidアプリはないがWebDAVが利用できるため汎用的なアプリからアクセス可能

 一方、AirStashの「AirStash+」は、音楽のバックグラウンド再生に対応していないのだが、Air drive用の「S+ Flash」はバックグラウンド再生に対応している(Android版は再生アプリでバックグラウンド再生に対応したものを選ぶ必要がある)。

 ただし、どちらも楽曲ファイルやフォルダを指定して、音楽を連続再生する機能に対応していないため、常に1曲しか音楽を再生できない。このため、音楽の保存先にモバイルストレージを使うといったことは、実質的にできないことになる。

 また、いずれの製品も、現時点で無線LANのブリッジ接続に対応していない。AirStashは将来的に「SideLink」と呼ばれる機能のサポートによってインターネット接続が可能になるとされているが、現時点では、どちらの製品も、端末からAir Drive、もしくはAir StashのSSIDに対して接続した直後から、スマートフォンやタブレットでインターネットに接続できなくなってしまう。

 現状、ブリッジ接続をサポートするのは、冒頭で触れたKingstonのWi-Driveのみとなっている。Wi-Driveはメモリ内蔵タイプとなるのが欠点だが、WPAのアクセスポイントに無線ブリッジ接続したときにインターネット接続できなかった不具合が解消されており、以前の不満がなくなった。インターネット接続が必要なら、これを選ぶのが最適だ。

Wi-Driveはファームウェアのアップデートで日本語対応、およびブリッジ接続時の問題が解消された


クラウドストレージより早く具体的な提案を

 以上、PQIから発売された「Air Drive」をライバル製品と比べなら実際に検証してみた。正直なところ、どの製品も長所と短所があり、全部まとめてイイトコドリをしてほしいというのが本音だ。

 また、前半でも少し触れたが、製品としての方向性が個人用のデータ保存先としてだけになってしまうと、最終的にはクラウドストレージと真っ向から勝負しなければならなくなり、厳しい戦いを強いられることになる。

 個人的には、やはりデータを共有するためのモバイルサーバー的な使い方をメーカーからぜひ提案し、そのための機能を実装してほしいところだ。今この場所で、一時的に、クローズドな状態で、それぞれ使う環境や普段利用するサービスが異なる、複数の人が、手軽に、データを共有できる手段として、モバイルサーバーというのは意義がある存在だと考える。

 せっかくライバル製品が登場し、切磋琢磨する環境が整ったのだから、今後は単純なデータの保存先としてではなく、そういったビジネスよりの方向で、それぞれ競い合って進化してほしいところだ。



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2012/5/15 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。