清水理史の「イニシャルB」
パフォーマンス重視のDraft11ac対応機 エレコム「WRC-1750GHBK」
(2013/9/17 06:00)
エレコムのWRC-1750GHBKは、パフォーマンスを重視したチューニングが施されたDraft11ac対応の無線LANルーターだ。機能的にはシンプルな製品だが、実効速度の向上を目指して開発が進められた製品となっている。その実力を検証してみた。
イメージを一新
これまでの少し“堅い”イメージの製品が多かったエレコム製品群と比べると、ずいぶんと派手なパッケージになったのではないだろうか。表情までわかる人物が写っているというだけでも通信機器のとしては珍しいが、白をベースに赤と青を大胆に使ったパッケージは、トリコロールカラーのようで、とても新鮮な印象を受ける。
「利用目安」として、4LDKマンションや戸建て3階建て、ご利用人数6人などといった表記も、これまでの無線LANルーターにはない斬新な試みであるうえ、「かいてき」、「かんたん」、「あんしん」という大きな平仮名の記載も目を惹く。
若干、情報を盛り込み過ぎな印象もなくはないが、本格的な11ac時代の到来に向けて、コンシューマー市場でのシェアを積極的に取っていこうという考えの表れだろう。
機能的にも、これまでの無難な路線から、少し個性を持たせる方向性へと変化しつつある。製品としては、Draft11ac対応で、3ストリームMIMOの1300Mbps(2.4GHz側は450Mbps)に対応しているが、同社によると、実効速度を向上させるためのチューニングを自社で施したとのことで、現状のDraft11ac対応製品の中でも高いパフォーマンスを発揮できるとしている。言わば、新世代のエレコム製品といったところだろう。
製品自体はシンプル
それでは、製品をチェックしていこう。パッケージの派手さからすると、本体はだいぶシンプルだ。
先端を絞り込んだような形状こそ少し独特だが、ブラックの落ち着いたカラーに、暗めのロゴなど、とても控えめな印象のデザインとなっている。サイズは、少し横長な印象だが、幅80×奥行き240×高さ188mmと、先端が絞り込まれていることもあり、とてもスリムな印象だ。壁際に沿って設置するのに適した形状と言えるだろう。
インターフェイスもシンプルで、背面に1000BASE-T対応のLANポート×4、WANポート×1、アクセスポイントモードとルーターモードの切替スイッチ、リセットスイッチ、電源ポート、上部にWPS設定用のボタンが用意されるのみで、特別なものは特に搭載されない。いわゆる、レビュワー泣かせの製品だ。
設定方法については、今回は発売前の試作品であっため、間に合っていなかったのだが、同梱の設定シートによる手動設定に加え、WPSによる設定、さらに「QR Link」と呼ばれるQRコードを利用した設定に対応している。インターネット接続の設定もスマートフォンから完結するようになっているため、さほど苦労することはないだろう。
パフォーマンスは良好
というわけで、外観や初期設定では、さほど大きな特徴はないため、肝心のパフォーマンスに話題を移そう。以下は、木造3階建ての筆者宅で、1階にアクセスポイントを設置し、2階、3階で、iPerfによるパフォーマンスを計測した結果だ。
WRC-1750GHBKは、現状、コンバーターモードでは動作しないうえ、同社からも1300Mbpsで通信可能な子機は発売されていないため、2ストリームMIMOで最大867Mbpsの対応のMacBook Air 11、およびNECアクセステクニカのAtermWG1800HP(コンバーターモード設定)を利用して、パフォーマンスを計測した。
親機 | 子機 | 1F | 2F | 3F |
AtermWG1800HP | AtermWG1800HP(1300Mbps) | 640 | 574 | 344 |
MacBook Air 11(867Mbps) | 576 | 394 | 171 | |
WRC-1750GHBK | AtermWG1800HP(1300Mbps) | 622 | 554 | 349 |
MacBook Air 11(867Mbps) | 606 | 360 | 218 |
値を見ると、AtermWG1800HPとほぼ同等の結果が得られた。ただし、場所や組み合わせによって、若干、違いがあり、たとえばクライアントにMacBook Air 11を利用した場合は、1階、3階ともに、AtermWG1800HPよりも、WRC-1750GHBKの方が30~40Mbpsほど高い結果が得られた。
WRC-1750GHBKでは、AtermWG1800HPと同様にQualcomm製の無線LANチップが採用されており、Broadcom製チップを搭載したMacBook Airなどとの組み合わせで、速度が若干落ちる傾向があるが、WRC-1750GHBKでは、この組み合わせもうまくカバーできている印象だ。もちろん、測定方法や環境によって値が変わるため、一概には言えないが、パフォーマンスについて十分配慮されている機器と言って良さそうだ。
ただし、やはり接続の手間などを考えると、どうせ使うなら同じメーカー同士の組み合わせで利用した方が利便性は高い。価格的にも、現状、AtermWG1800HPは13100円前後(9月12日時点のyodobashi.comの実売価格)となっており、2台が同梱されたコンバーターセットでも2万4100円前後で購入できる。
これに対して、WRC-1750GHBKの実売価格は1万6800円前後と決して安くない。バッファローのWZR-1750DHP(実売1万7800円前後)に比べれば安いが、この価格ならAtermWG1800HPを2台組み合わせた方がお得となってしまう。
パフォーマンス的にはほぼ同等とライバルとしては悪くない存在だが、機能的にシンプルで付加機能がほとんどないうえ、価格的にも若干高いとなると、現状の勝負は分が悪い。今後、価格が下がってきてからが勝負と言えそうだ。
こどもネットタイマー
本製品の特徴と言える機能としては、「こどもネットタイマー」も挙げることができる。この機能は、簡単に説明すると、特定のSSID(e-timer-xxxxxx)に接続したクライアントの接続時間を測定し、あらかじめ設定した閾値を超えたら切断する機能だ。
子供が利用するスマートフォンやゲーム機などで利用すれば、一定時間がインターネット接続ができなくなるため、使いすぎを抑制することができる。
しくみとしてはシンプルなうえ、子供がWPSなどで端末から別のSSIDに接続してしまえば意味がなくなってしまうが、保護者がこの機能を簡単に使えるようにするためのスマートフォンアプリが提供されるなど、とにかく簡単に扱えるように工夫がなされている。
具体的には、保護者が自分のスマートフォン(Android/iOS)で「こどもネットスタート」アプリをダウンロード。接続を規制した端末の種類を「Nintendo 3DS」や「Playstation Vita」、「Wii U」、「その他のWi-Fi機器」から選択すると、ゲーム機側の設定方法が画面上に表示され、その後にWPSボタンが表示される。画面上のボタンを押すと、端末との接続が実行されるので、接続後、アプリから規制する時間を設定すればいい。
ポイントは、スマートフォン側のアプリでWPS設定ができる点だ。わざわざ本体のボタンを押さなくて済むため、ゲーム機とスマートフォンを横に並べて、その場で設定できる。
前述したように、強制力としては甘いため、子供の知識が上なら、簡単に抜けられてしまうが、保護者側に簡単に使わせる工夫をしたことは大いに評価したい。今後、さらにブラッシュアップしていけば、さらに効果的なしくみになっていく可能性もありそうだ。
エレコムの今後に期待
以上、エレコムのDraft11ac対応無線LANルーター「WRC-1750GHBK」を実際に試してみたが、現時点での完成度はまだまだだが、今後のエレコム製品を期待させる製品と言えそうだ。
製品としての特徴は、パフォーマンスとこどもネットタイマーの2点となるが、どちらも意欲は感じるものの、どちらもほかにはない圧倒的な優位性と言うまでには、まだ至っていない。価格的なメリットが出てくれば、お買い得だが、発売したばかりの今は期待できないだろう。
というわけで、今回の製品は、変わりつつあるエレコムの一端を覗けたという印象で、実際に製品を購入したいと思わせるには、今後にさらに期待したいところだ。今回のようなパフォーマンスを維持しつつ、他の製品にはない機能をどこまで実装していけるかがポイントとなりそうだ。