清水理史の「イニシャルB」

OneDriveとOneDrive

 マイクロソフトが提供するオンラインストレージサービス「OneDrive」の仕様が2014年7月に変更された。個人ユーザー向けのOneDriveの容量が15GBに倍増したのも魅力だが、ビジネス向けのOneDrive for Businessの容量が1TBになり、価格が下がったのも大きな注目だ。両サービスの違いと個人でOneDrive for Businessを使うメリットがあるのかを検証してみた。

1TBで月額210円

 そろそろ自宅のNASを撤去してもいいんじゃないか?

 最近、真剣に、そう考えるようになってきた。

 すでに仕事のデータは、ほぼOneDriveに同期するようになり、画像なども含めた原稿の納品もOneDrive経由で送ること機会が増え、自宅のNASに残されたのは、過去の原稿と撮りためた写真やビデオ、もはや手元にないハードウェアのドライバや何だかよく分からないソフトウェアのインストーラーなどとなってきた。

 昔からのクセで、原稿を書き終える度に、バッチファイルを起動して、robocopyでNASにファイルをバックアップしないと落ちつかないものの、前述したように、ほとんどのデータをOneDriveに同期させるようになったため、これも今や「おまじない」になりつつある。

 過去に何度も痛い思いをしてきた身としては、2重3重のバックアップは当たり前、NASのHDDは2年に1回はフル交換、などと言いたいところだが、さすがに現状のオンラインストレージの低価格化と手軽さを考えると、それも無駄に思えてきた。

 そんな中、マイクロソフトがOneDriveの仕様を一部変更した。冒頭でも触れたように、個人向けのサービスで提供される無料の容量が従来の7GBから15GBに倍増されたが、注目はビジネス向けの「OneDrive for Business」のサービス強化だ。

OneDrive for BusinessのWebページ。1TBのオンラインストレージを利用できる

 もともとOffice 365ユーザー向けに提供されていたオンラインストレージサービスだったが、OneDrive for Businessとして単体での契約が可能となったうえ、容量も1TBにまで拡張された。

 料金は、通常料金は1ユーザー月額420円となっているが、2014年9月30日まで年間契約の場合であれば月額210円で利用できる。個人向けのOneDriveの場合、100GBの容量追加が月額190円、200GBの追加が月額390円なので、1TBでこの値段はリーズナブルな設定だ。

 これなら、法人だけでなく、個人ユーザーでも利用する価値がありそうだ。

名前は同じでも中身は別物

 とは言え、実際に利用する際に注意しなければならないのは両サービスの違いだ。同じ「OneDrive」という名前が付けられているのでまぎらわしいのだが、実際には、OneDrive for BusinessはSharePointのしくみを利用したサービスとなっており、その中身は別モノとなっている。

 まずは、サービス内容を比較してみよう。以下は、両者の主なサービス内容をリストアップした表だ。

仕様比較
OneDrive OneDrive for Business
料金 無料 210円/月*1
容量 15GB*2 1TB
容量追加 100GB/190円/月 1GB/17円/月
デスクトップ同期 Windows 8.1標準搭載 Office 2013標準搭載
同期対象フォルダ 固定で1つ 複数設定可能
同期方法 オフライン/オンライン選択 必ずオフライン
最大ファイルサイズ 2GB 2GB
同期可能アイテム数 1000万 2万(参照可能は5000)
モバイルアクセス OneDriveアプリ OneDrive for Business/Office Mobile*3
Office文書編集 新規作成、編集可能 新規作成、編集可能
ごみ箱 あり あり
バージョン管理 Office文書のみ すべてのファイルで可能
共同編集
チェックイン/チェックアウト ×
ワークフロー連携 ×
SLA 99.9%(返金制度あり)
  • *1:2014年9月30日までの年額支払の場合。通常価格420円/月
  • *2:スマートフォンのカメラロールのバックアップで+3GB、友だち紹介で最大+5GB
  • *3:Android版OneDrive for Businessは2014年8月時点では未提供

両サービスを比較する

 前述したように、容量や料金の違いに加え、バージョン管理や同期対象フォルダ、同期方向などにも違いがあるうえ、OneDrive for Businessには、あまり聞き慣れないチェックイン/チェックアウト、ワークフロー連携などの機能やSLAも提供されている。以下、具体的に違いを見ていくことにしよう。

同期プログラムの違い

 OneDriveも、OneDrive for Businessも、オンラインのストレージとPCローカルのフォルダを同期する機能が搭載されている。これにより、どちらの場合でも、対象となるフォルダにデータを保存するだけで、自動的にクラウド上に同じデータがコピーされ、別のPCや外出先のスマートフォンなどからデータを参照することができる。

 ただし、両者ともにできることは同じでも、その方法が異なる。個人向けのOneDriveでは、同期を実行するプログラムがWindows 8.1に標準搭載されており、OSのサインインにMicrosoftアカウントを利用すれば、特に意識しなくてもデータを同期させることができるが、このプログラムはOneDrive for Businessでは利用できない。

 OneDrive for Businessの同期には、Office 2013に同梱されている「OneDrive for Business」というプログラムを利用する必要があるうえ(単体ダウンロード可能)、サインインも、Microsoftアカウントではなく、OneDrive for BusinessやOffice 365のアカウントを利用するため、別途、プログラムからサインインが必要になる。

OneDrive for Businessでは、「onmicrosoft.com」のアカウントを使用する(独自ドメイン設定も可能)
同期フォルダはローカルのユーザー名フォルダ配下に作成される

 なお、OneDriveの同期プログラムとOneDrive for Businessの同期プログラムは、同時に実行することが可能で、両サービスを併用することも問題なくできる。併用した場合、OneDrive for Businessのフォルダは、エクスプローラーのお気に入りに表示され、通知領域にはOneDriveの白い雲と共に、OneDrive for Businessの青い雲のアイコンが表示されるようになる。

OneDrive for Businessのフォルダへのリンクはお気に入りに追加される

同期対象の違い

 同期の対象も異なる。個人向けのOneDriveでは、オンラインの自分専用の領域が「c:\Users\ユーザー名\OneDrive」フォルダと自動的に同期される。フォルダを変更することはできるが、基本的にクラウドとローカルが1対1の関係で同期される。

 これに対して、OneDrive for Businessでは、クラウド上のライブラリ単位に複数のローカルのフォルダと同期させることができる。ライブラリというのは、OneDrive for BusinessのベースとなるSharePointの管理単位だ。

 OneDrive for Businessでは、SharePointの管理画面から、サイトコレクションを追加することで、例えば、特定のプロジェクト専用のサイトを作ることが可能となっている。このプロジェクト用のチームサイトのライブラリ(文書を保管する領域)は、前述した個人用OneDriveの領域とは別に同期させることが可能となっている。

 これにより、例えば、用途の異なる3つのライブラリを作成し、そのうちの2つをローカルのフォルダと同期させるといったことが可能となる。

サイトコレクションを追加することが可能
作成したサイトコレクションのドキュメントライブラリを通常のOneDrive for Businessの領域とは別のフォルダに同期させることができる

オフライン時の扱い

 同期に関しての違いという点では、オフライン時の動作も異なる。個人用のOneDriveの場合、同期対象のフォルダ内のデータを「オフラインで使用する」か「オンラインでのみ使用する」かを選択できる。

 「オフラインで使用する」場合、実ファイルがローカルに保存され、「オンラインでのみ使用する」の場合、実ファイルではなく、サムネイルデータのみがローカルに保存され、検索性などを損なうことなく、容量を節約することができる。

 これに対してOneDrive for Businessでは、この選択ができず、必ず実ファイルの転送が伴う。つまり、「オフラインで使用する」固定の設定となるわけだ。

 事前に同期しておけば、モバイルPCなどでインターネットに接続できない場合でも、必ずファイルを開けるのがメリットだが、必ず実ファイルが転送されるため、8インチタブレットなどストレージ容量が少ないマシンでも、同期でデータ容量を消費してしまうのがデメリットとなる。

個人用のOneDriveでは可能な「オフラインで使用する」、「オンラインでのみ使用する」の設定はOneDrive for Businessでは利用できない

同期アイテム数

 同期できるファイルの容量については、1ファイルあたり2GBという制限は、OneDriveもOneDrive for Businessも同じだが、アイテム数が異なる。

 個人向けのOneDriveでは、同期アプリで同期可能なファイルとフォルダの合計数(アイテム数)が1000万となっているが、OneDrive for Businessの同期アプリは2万(SharePointライブラリでは5000)となっている。

 2万というと、かなり多いように思えるかもしれないが、数年分の写真などであれば軽く超えてしまうアイテム数だ。試しに、筆者が2001年から今年までに撮影した子供の写真だけを集めてみただけでも、合計21.3GBで30724ファイルほどあった。

 1TBという容量から考えると大量のデータを保存できるように見えるが、サイズの小さなファイルが多数存在する場合、1TBよりもはるかに少ない容量で同期が停止してしまう。ファイル数が多い場合は、OneDrive for Businessよりも、個人向けのOneDriveの利用が適しているだろう。

OneDrive for Businessで約24000のファイルを同期させてみたところ、アイテムの制限に関するエラーが表示され、一定数以上のファイルの同期ができなかった

モバイルアクセス

 モバイル環境については、個人向けのOneDriveは、「OneDrive」アプリ(無料)がiOS、Android向けに提供されているので、これを利用することになる。

 一方、OneDrive for Businessは、前述した「OneDrive」アプリではアクセスできないため、別途、「OneDrive for Business」アプリ(無料)を利用する必要がある。

 ただし、2014年8月現在、「OneDrive for Business」アプリはAndroid向けには提供されていない。このため、Android端末の場合は、「Office Mobile」アプリを利用する。Office MobileにOneDrive for Businessのアカウントを設定すれば、クラウド上のデータを参照することができる。

 新しくフォルダを作成したり、ドキュメントを共有することはできないが、ファイルを開いて内容を確認したり、編集することはできるので、これを利用するといいだろう。

iOS向けにはOneDrive for Businessアプリが提供される
Androidはアプリが提供されていないため、現状はOffice Mobileから利用する

バージョン管理

 バージョン管理については、さすがにビジネス向けだけあってOneDrive for Businessの完成度が高い。

 個人向けのOneDriveでは、WordやExcel、PowerPointなどのオフィス文書であれば、過去の履歴が自動的に保存されるため、ファイルを元に戻すことができるが、これ以外のファイルではファイル履歴が保存されない。

 一方、OneDrive for Businessでは、テキストやJPEGなど、あらゆるファイルのバージョンが保存される。このため、プレーンテキストを編集前の状態に戻したり、レタッチした写真を元に戻したりすることが可能になる。

 通常の利用であれば、オフィス文書だけバージョン管理できれば十分だが、普段扱うデータのほとんどがプレーンテキストの筆者などにとっては非常にありがたい機能だ。

OneDrive for BusinessではテキストやJPEGなどオフィス文書以外のバージョン管理も可能

共同編集

 共同編集は、オフィス文書をインターネット経由で、複数のユーザーで同時に編集する機能だ。編集するという点においては、基本的に、OneDriveもOneDrive for Businessも同じと考えて差し支えないが、OneDrive for Businessでは文書のチェックイン/チェックアウトが可能となっている。

 あまり聞き慣れない機能かもしれないが、要するに他のユーザーと共有した文書をロックする機能だと考えればいい。

 ブラウザでOneDrive for Businessにアクセスし、特定の文書をチェックアウトすると、その文書を他のユーザーが編集できないようになる。チェックアウトしたユーザーが文書を編集後(チェックアウト中の文書の変更は他のユーザーには反映されない)、文書をチェックインすると、新しいバージョンのファイルとして保管され、再び他のユーザーも編集できるようになるというわけだ。

 これにより、文書を複数のユーザーが自由に編集することで、内容がバラバラになってしまうことなどを防ぐことができる。

文書のチェックアウト/チェックイン機能により、他のユーザーの編集を制限しながら、文書を共有できる

ビジネス向け機能

 このほか、ビジネス向け機能としては、文書を決裁権限のある上司などに回覧するワークフロー連携が使えたり、SLA(Service Level Agreement)によって一定の稼働が保証されたりする点が、OneDrive for Businessの特徴となる。これらは個人向けのOneDriveには提供されないメリットとなる。

現状のベストは併用か?

 以上、個人向けのOneDriveとビジネス向けのOneDrive for Businessを比較しながら、OneDrive for Businessを個人でも使えるかを検証してみたが、両サービスを使い比べてみると、それぞれにメリット・デメリットがあり、どちらを選ぶかを決めるのが難しい印象だ。

 個人的には、テキスト文書のバージョン管理ができるだけでも、OneDrive for Businessをメインに使いたいのだが、やはりアイテム数の上限がひっかかる。仕事のデータであれば、20000アイテム以内でデータを収めることもできそうだが、現在、NASに保存されている写真や雑多なファイル類をまとめてアップロードしようとすると、この制限にひっかかる可能性が出てくる。このため、NASの代替えとして使うことは現状は難しそうだ。

 また、個人用OneDriveのように、ファイルをオンラインでのみ使用することができないのも好ましくない。これでは、持ち運び用のSurface Pro 3や8インチタブレットなど、あまりストレージ容量が大きくないデバイスでも、本体ストレージが消費されてしまうため、常に空き容量を気にしなければならなくなってしまう。

 というわけで、現状のベストは併用ということになりそうだ。仕事のデータをOneDrive for Businessで管理しつつ、写真やビデオ、雑多なデータなど、ファイル数が多いデータはOneDriveでオンラインにのみ保存すると、うまく使い分けることができそうだ。

 ただし、同じOneDriveとは言え、複数のサービスを併用するのは、混乱の元となり、後々、ファイルの管理が破たんすることにもなりかねない。

 理想は、まぎらわしい名前の統一もかねて、両者のいいとこ取りをしたサービスに統合してもらうことだ。しくみが違い過ぎるので、サービスそのものを統一することはできないかもしれないが、ユーザーが意識しなくて済むように、クライアント側の同期アプリやスマートフォン用のアプリを統合することくらいはできそうなものだ。マイクロソフトには、ぜひ、両サービスを併用するストーリーを真剣に考えてほしいところだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ