清水理史の「イニシャルB」

LTEより遅い無線LANにさよなら iPhone 6登場を機にIEEE 802.11acを導入しよう

 AppleからiPhone 6が発売された。サイズが大きくなり、OSも最新版となったのが特徴だが、本コラム的に注目したいのは、やはりIEEE 802.11acへの対応だ。その実力を検証するとともに、iPhone 6を機にIEEE 802.11acを導入したいと考えている人へのガイドを掲載する。

正直433Mbpsは残念

 「3倍速い」と言えば、(特に日本では)聞こえは良いが、正直なところ、本来なら「6倍」としてほしかった……。

 iPhone 6搭載の無線LANの話だ。

 好みや信条の話はさておき、個人的には、Appleに関しては、無線LANに対するスタンスだけは嫌いではない。

 いまだに端末側でWPSをサポートしないかたくなさは、もはや、すがすがしいと思えるほどだが、これまでの11nも11acも、いち早くMacBookに搭載してきた同社のスタンスは、この分野のウォッチャーとしては高く評価してきたし、実際、ベンチを実施するためだけに、これらのMacBookも発売と同時に購入してきた。

 しかし、これがiPhoneとなると、少々、話が変わってくる。

 2.4GHzのIEEE 802.11n対応だったiPhone 4から、iPhone 4sで5GHz対応となり、iPhone 5で40MHz化の150Mbps対応へ。ここまでは順当な進化だったが、iPhone 5sでは変更がなく、ようやく今回のiPhone 6でIEEE 802.11ac化された。

【表1:iPhoneの無線LAN】
機種iPhone 4iPhone 4siPhone 5iPhone 5siPhone 6Galaxy S4Galaxy S5
対応規格IEEE 802.11n/g/bIEEE 802.11n/a/g/bIEEE 802.11n/a/g/bIEEE 802.11n/a/g/bIEEE 802.11ac/n/a/g/bIEEE 802.11ac/n/a/g/bIEEE 802.11ac/n/a/g/b
周波数帯2.4GHz2.4/5GHz2.4/5GHz2.4/5GHz2.4/5GHz2.4/5GHz2.4/5GHz
MIMO1Stream1Stream1Stream1Stream1Stream1Stream2Streams
帯域幅20MHz20MHz40MHz40MHz80MHz80MHz80MHz
最大速度72Mbps72Mbps150Mbps150Mbps433Mbps433Mbps867Mbps
チップBCM4329BCM4330BCM4334BCM43342?BCM4335BCM4354
iPhone 4(左)、iPhone 5s(中)、iPhone 6(右)のリンク速度(AirMacユーティリティにて表示)

 前回のiPhone 5sでIEEE 802.11ac搭載が見送られたのは、実に残念だったが、今回のiPhone 6で2ストリームMIMOの867Mbpsだろうと思われていた無線LANは、ふたを開けてみればシングルストリームの433Mbps対応止まり。

 もちろん、iPhone 5sの150Mbpsに比べれば、3倍速いのは事実であるが、867Mbps対応のGALAXY S5を代表に、ほかのスマートフォンは2ストリームの世代に入りつつあることを考えると、世代としては1つ、いや、MU-MIMOのWave 2が主流になる時代が遠くないことを考えると、さほど時を待たずして2つほど遅れることにもなりかねない。

 もはや、スマートフォンはスペックを競う時代じゃない、といわれればその通りだし、それを証明し続けてきたのもAppleではあるが、「最新の無線LAN規格の市場投入に積極的」という同社に対する(筆者の勝手な)イメージが崩れてしまったのは、個人的には残念でならないところだ。

iPhone 6(左)とiPhone 5s(右)。150Mbps対応のIEEE 802.11nから、ようやくIEEE 802.11ac対応に進化したが、その速度は433Mbps止まり

IEEE 802.11ac対応の準備を

 個人的な感情はさておき、せっかくiPhone 6がIEEE 802.11ac対応となったので、この性能を生かすための方法について見ていこう。

 前述の通り、今回のiPhone 6は433Mbps対応のIEEE 802.11acとなっている。IEEE 802.11acは、今年の1月にIEEEで正式に承認された無線LANの規格だ。従来のIEEE 802.11nでは最大450Mbpsだった通信速度を、最大で1300Mbps(今後のWave 2では3.5Gbps)まで向上させている。

 基本的なしくみとしては、デジタルデータをアナログの電波に変換する際(変調)の方式を効率化(256QAM)したり、電波を送信する時の帯域を従来の40MHz幅から80MHz幅に拡張したり、複数アンテナを使って同時に通信する(MIMO)などの技術を使って高速化を図っている。

 今回、iPhone 6に採用されたIEEE 802.11acは、アンテナ1つのみ、つまりシングルストリームの方式で、最大速度が433Mbpsというものということになる。

 では、実際にiPhone 6で433Mbpsの通信をするにはどうすればいいのだろうか?

 無線LANは、親機(無線LANルーター)と子機(iPhone)の規格が同じでないと、その性能をフルに発揮させることができない。このため、iPhone 6を433Mbpsで通信させるためには、IEEE 802.11ac対応の無線LANルーターを用意する必要がある。

 すでにIEEE 802.11ac対応の無線LANルーターを利用している場合であれば、iPhone 6から普通に接続するだけで433Mbpsでリンクするが、そうではない場合は、無線LANルーターの買い替えが必要となる。

 iPhoneなどのスマートフォンの利用が中心の場合、各通信事業者から提供されている無線LANルーターを利用しているケースが多いだろう。以下は、2014年9月調べの各通信事業者が提供している無線LANルーターの一覧だ。

【表2:通信事業者提供のWi-Fiアクセスポイント】
事業者NTTドコモauSoftbank
機種名Home Wi-FiエントリーモデルHome Wi-FiスタンダードモデルHOME SPOT CUBEFON2601EFON2405E
対応規格IEEE 802.11n/g/bIEEE 802.11ac/n/a/g/bIEEE 802.11n/a/g/bIEEE 802.11ac/n/a/g/bIEEE 802.11n/g/b
周波数帯2.4GHz2.4/5GHz2.4/5GHz2.4/5GHz2.4GHz
MIMO2Streams2Streams1Stream1Stream1Stream
帯域幅40MHz80MHz40MHz80MHz40MHz
最大速度300Mbps867Mbps150Mbps433Mbps150Mbps
WAN/LAN速度100Mbps100Mbps100Mbps100Mbps100Mbps
価格300円/月※1500円/月※2500円/月 ※1206円/月×24回※3
備考AtermWF1200HPIEEE 802.11nは300Mbps2014年3月31日で無料提供終了
  • ※1特定のプランに加入することで無料
  • ※2特定のプランに加入することで200円
  • ※3支払総額、現金販売価格4944円。特定のプランへの加入が条件

 この表を見ると、現状、IEEE 802.11acに対応しているのは、NTTドコモのHome Wi-Fiスタンダードモデルと、ソフトバンクのFON2601Eのみとなっている。これらを利用している場合は、433Mbpsでの通信が可能だが、どちらも有線が100Mbps止まりで、後者に関してはFONのサービスの趣旨に賛同する必要もあり、無条件には推奨しにくい。

 このため、基本的には、市販の無線LANルーターの購入を検討した方がいいだろう。

auから提供されているau HOME SPOT CUBEなど、古い無線LANルーターでは、iPhone 6の無線LAN性能をフルに発揮できない

市販の無線LANルーターを選ぶ

 では、具体的にどのような製品を選べばいいのだろうか?

 現状、IEEE 802.11ac対応無線LANルーターも、モデルによって対応する通信速度に差があり、低価格なローエンドモデルはシングルストリーム対応の433Mbps、ミドルレンジが2ストリームMIMO対応の867Mbps、ハイエンドが3ストリームMIMO対応の1300Mbps(もしくはWave2対応4ストリームで1734Mbps)というラインアップに分けられている。

 iPhone 6の無線LANは、433Mbps対応なので、これらのローエンドモデルで対応できる方式ということになるが、ローエンドモデルは個人的には推奨しない。

 先の通信事業者提供の製品でも触れたが、433Mbps対応のローエンドモデルは、有線LANが100Mbps対応となっているケースが多く、ここが速度のボトルネックになってしまう。iPhone 6の433Mbpsはもちろんのこと、インターネット接続が1Gbpsの光ファイバーなどでも、無線LANルーターが100Mbps止まりでは、これ以上の速度は出ない。

 よって基本的には、867Mbps対応のミドルレンジ以上の製品から選ぶことを推奨したい。867Mbps以上であれば、IEEE 802.11ac対応のPCや前述したGALAXY S5などのスマートフォンなども、スペック上の最大速度で接続することが可能となる。

Apple純正

 まず、候補として考えられるのは、本家Appleの製品だ。AirMac Extremeという製品名で発売されており、若干、価格は高いが、純正という安心感があるうえ、シンプルなデザインで好感が持てる。

 PCもMacを利用しているというのであれば、設定も難しくはないのでおすすめできるが、市販の無線LANルーターのようにボタン設定機能などを搭載していない。WPSによる接続そのものは、AirMacユーティリティを利用することで可能だが、わざわざMacなどから操作する必要があるため、WindowsやAndroidスマートフォンを接続するのに若干手間がかかる。

 HDDを内蔵し、MacのTimeMachineでバックアップ先などとしても利用できるTimeCapsuleもあるが、基本的にはApple製品で統一したいユーザー向けと言えるだろう。

Apple製品で固めるなら純正品がおすすめ(写真はTimeCapsule)
【表3:Appleの無線LANルーター】
AirMac ExtremeAirMac TimeCapsule※2
対応規格IEEE 802.11ac/n/a/g/bIEEE 802.11ac/n/a/g/b
周波数帯2.4/5GHz2.4/5GHz
MIMO3Streams3Streams
帯域幅80MHz80MHz
最大速度(11ac)1300Mbps1300Mbps
最大速度(11n)450Mbps450Mbps
ビームフォーミング
WAN/LAN速度1000Mbps1000Mbps
実売価格*120300円31100円
  • ※1 2014年9月17日 ヨドバシ.comの価格
  • ※2 HDD内蔵(価格は2TBモデル)

国内主要メーカー製品

 本命と言えるのは、やはり性能や品質に定評がある国内メーカーの製品だろう。中でもNECプラットフォームズのAtermシリーズとバッファローのWZRシリーズは、価格的にもリーズナブルでありながら、高性能な製品となっており、ユーザーからも高い評価を受けている。

 iPhone 6用という意味では、867Mbps対応のAtermWG1400HP、WZR-1166DHP2あたりが妥当だ。AtermはQRコードによる接続設定、WZRはAOSS2によるボタン設定がiPhoneでも利用できるため、使いやすさという点でも高く評価できる。

 ただし、いずれの場合も、+2000円前後で、ハイエンドモデルを購入できる。特にバッファローのWZRシリーズは、WZR-1750DHP2にすることで、IEEE 802.11nも450Mbps対応となり、特定の端末に対して電波を集中させ通信速度を向上させるビームフォーミングが、iPhone 5sなどにも対応するビームフォーミングEXへとグレードアップする。

 コストパフォーマンスを考えれば867Mbps対応の製品が優秀だが、個人的には、AtermWG1800HP、WZR-1750DHP2のいずれかをオススメしたいところだ。

本命は国内メーカーのハイエンドモデル。AtermWG1800HP、またはWZR-1750DHP2がおすすめ
【表4:国内主要メーカーの無線LANルーター】
NECプラットフォームズバッファロー
 AtermWG1800HPAtermWG1400HPWZR-1750DHP2WZR-1166DHP2
対応規格IEEE 802.11ac/n/a/g/bIEEE 802.11ac/n/a/g/bIEEE 802.11ac/n/a/g/bIEEE 802.11ac/n/a/g/b
周波数帯2.4/5GHz2.4/5GHz2.4/5GHz2.4/5GHz
MIMO3Streams2Streams3Streams2Streams
帯域幅80MHz80MHz80MHz80MHz
最大速度(11ac)1300Mbps867Mbps1300Mbps867Mbps
最大速度(11n)450Mbps450Mbps*2450Mbps300Mbps
ビームフォーミング--
WAN/LAN速度1000Mbps1000Mbps1000Mbps1000Mbps
実売価格*112630円10570円14880円12700円
  • ※1 2014年9月17日 ヨドバシ.comの価格
  • ※2.4GHz帯のIEEE 802.11nは300Mbps

海外メーカーの多機能製品

 もしも、より高速な通信環境やさまざまな付加機能に興味があるなら、海外メーカーの多機能機を選ぶのも1つの選択だ。本コラムでも以前に取り上げたASUSのRT-AC68UやネットギアのR7000などは、2.4GHz帯のIEEE 802.11nが最大600Mbpsに対応するなど、国内メーカーの製品には見られない高速で、多機能な製品となっている。

 R7000は価格的に3万円を超えてしまうので、個人で手を出しにくいが、RT-AC68Uは、上位モデルのRT-AC87U(Wave 2対応の1734Mbps対応機)の登場(編集注:日本では9月27日の発売予定)などで、実売価格が下がってきたこともあり、手を出しやすくなっている。

 RT-AC68Uに関しては、USB接続したストレージをクラウドストレージのように利用できたり、WAN回線を2回線使えるなど、少々、マニアック過ぎる感はあるが、使いこなせればかなり便利な製品だ。

 設定や使い方などをある程度自分で解決する必要があるものの、それを楽しみと考えることができるなら、これらの製品を選ぶといいだろう。

海外メーカー製品は、価格が高いが、性能と豊富な機能が魅力
【表5:海外メーカーの多機能製品】
ASUSネットギア
 RT-AC68UR7000
対応規格IEEE 802.11ac/n/a/g/bIEEE 802.11ac/n/a/g/b
周波数帯2.4/5GHz2.4/5GHz
MIMO3Streams3Streams
帯域幅80MHz80MHz
最大速度(11ac)1300Mbps1300Mbps
最大速度(11n)600Mbps600Mbps
ビームフォーミング
WAN/LAN速度1000Mbps1000Mbps
実売価格*118410円32400円
  • ※1 2014年9月17日 ヨドバシ.comの価格

低価格モデル

 予算に限りがある場合は、1万円以下の低価格モデルも視野に入れる必要がある。ただし、以下の製品については、一応リストアップしたものの、個人的には実機に触れたことがないため、コメントは避ける。

 なお、アイ・オー・データ機器のWN-AC1167DGRに関しては、9月中旬に新機種であるWN-AC1167DGR3の発売が予定されている。この製品には、既存の無線LANの設定情報(SSDIやパスワード)を引き継ぐ「Wi-Fi設定コピー」機能が搭載されている。個人的にも注目している機能なので、機会をあらためて、レビューしたいと思う。

【表6:低価格モデル】
アイ・オー・データ機器プラネックスコレガ
 WN-AC1167DGR※2MZK-1200DHPCG-WGR1200
対応規格IEEE 802.11ac/n/a/g/bIEEE 802.11ac/n/a/g/bIEEE 802.11ac/n/a/g/b
周波数帯2.4/5GHz2.4/5GHz2.4/5GHz
MIMO2Streams2Streams2Streams
帯域幅80MHz80MHz80MHz
最大速度(11ac)867Mbps867Mbps867Mbps
最大速度(11n)300Mbps300Mbps300Mbps
ビームフォーミング---
WAN/LAN速度1000Mbps1000Mbps1000Mbps
実売価格*17630円6130円7970円
  • ※1 2014年9月17日 ヨドバシ.comの価格
  • ※2 2014年9月中旬に新型のWN-AC1167DGR3発売予定

433Mbpsの効果は?

 最後に、iPhone 6の無線LAN性能を実際に検証してみよう。以下のグラフは、auがレンタルで提供しているau HOME SPOT CUBE(IEEE 802.11n)とASUSのRT-AC68U(IEEE 802.11ac)を利用し、iPhone 6の通信速度を比較したものだ。参考として、LTE接続時の値、および同じテストをIEEE 802.11n対応のiPhone 5sの値も掲載している。

 なお、今回利用したiPhone 6は予約受け取りの関係でNTTドコモ版となった。au HOME SPOT CUBEを利用する以上、au版を利用すべきではあるが、無線LAN性能については、通信事業者の違いは関係ないので、その点はご容赦いただきたい。

【表7:ベンチマーク】
  iPhone6 iPhone5s
  DOWNUPDOWNUP
au HOME SPOT CUBE1F51.6255.4252.0549.09
3F8.047.456.94.91
RT-AC68U1F270.24211.51101.4478.05
3F139.78124.6541.1452.98
LTE1F12.595.36124.1
3F25.878.323.295.13
iPhone 6とRT-AC68Uの組み合わせでの速度結果。同一フロアでは200Mbps以上が期待できる

 結果を見ると、明らかにIEEE 802.11ac対応ルーター(RT-AC68U)利用時の速度が高いことがわかる。

 433Mbps対応といっても、同一フロア(1F同士)で270Mbps前後とスペック上の半分程度となっているが、1Fに設置したアクセスポイントに対して3Fからアクセスした場合でも139Mbps前後と、かなり高い値が実現できている。

 au HOME SPOT CUBEでは、3Fで8Mbps前後と一けた台の値となっており、参考として取得したLTEの25Mbps前後よりも遅い数値となっている。

 au HOME SPOT CUBEは、手軽さやデザインを優先した製品となるため、性能面で不利なのは確かだが、やはりLTEより遅い無線LANというのは、意味がない。iPhone 5sの結果を見ても分かる通り、同じIEEE 802.11nの場合でも、無線LANルーターの交換によって、電波の届く範囲や通信の安定性なども向上するので、この機会に交換することを強く推奨したいところだ。

 以上、iPhone 6の無線LAN機能ついて検証しつつ、無線LANルーターを交換するための簡単なガイドを掲載した。スマートフォンについては、今後、通信容量が増大することが予想される一方で、料金プランが大きく変わるなど、パケットを効率的に消費していくことが求められるようになってきている。

 そういった意味では、自宅の無線LAN環境を高速かつ快適なものへと交換する意義は大きい。iPhone 6の導入をきっかけに、無線LAN環境を見直してみるべきだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。