清水理史の「イニシャルB」

Wi-Fi設定コピーで既存機器の設定を引き継げる アイ・オー・データ機器「WN-AC1600DGR3」

 アイ・オー・データ機器から登場した「WN-AC1600DGR3」は、1300MbpsのIEEE 802.11acに対応した無線LANルーターだ。注目は、既設の無線LANルーターの設定情報をボタン一発で引き継ぐことができる「Wi-Fi設定コピー機能」だ。古い無線LANルーターから買い替えても、PCやスマートフォンなどの端末側の再設定が不要となる。

目の付け所がとてもいい

 「11acに買い替えたいけど設定が面倒なんですよね」。

 そう言われて、普通は、無線LANルーターを買い替えると、クライアント側の再設定も必要になることに、あらためて気づかされた。

 年がら年中、無線LANルーターをとっかえひっかえしている我が家では、新しい無線LANルーターを設定する際は、今まで使っていたSSIDとパスワードを新しい無線LANルーターに再設定するのが当たり前になっており、クライアント側の設定は、もう何年も変更したことがない。

 しかしながら、これまでWPSなどのボタン設定で接続設定を済ませてきた人の場合、当然、SSIDやパスワードは機器に標準で設定されている値のまま使い続けているケースが多い。そんなつなぎ方をした機器が、PC、スマートフォン、ゲーム機、タブレット、家電と増えてくれば、機器の入れ替えでSSIDやパスワードが変更されるというのは、もは恐怖そのもの。機器が十数台にも及べば、数時間にわたって端末の無線LAN接続設定をやり直さなければならなくなってしまうわけだ。

 おそらく、アイ・オー・データ機器の製品開発担当者は、こういったユーザーの声をていねいに分析したのだろう。

 他社が手を付けずに放置してきたリプレイス時の再設定の手間に注目し、その手間を大幅に削減できる「Wi-Fi設定コピー機能」を同社の無線LANルーターに搭載してきた。

アイ・オー・データ機器の「WN-AC1600DGR3」。既存の無線LANルーターの設定情報を引き継げるWi-Fi設定コピー機能を搭載している

 実際に使ってみると、いくつか注意点はあるものの、結論としては、この機能はすばらしい。今まで使っていた無線LANルーターのSSIDとパスワードをボタン一発でコピーし、旧無線LANルーターの電源を切っても、依然として機器がネットワーク上に存在するかのような振る舞いを見せる。

 よって、ルーターを11ac対応の最新機種に交換しても、今までつないでいた機器は、まったく設定をいじる必要なく、そのまま何事もなく、ネットワークを使い続けることができる。

 「目の付け所がいい」とは、まさにこのこと。同社では、この機能の特許を出願中とのことだが、ライセンスの供与を受けるにせよ、まったく新しい方式を考え出すにせよ、似たような機能は、ぜひ他社も搭載するべきだ。

 でないと、「IoT」なんて世界が到来したら、とてもじゃないが、無線LANルーターを交換することができない状況にもなりかねない。

コストパフォーマンスが高い

 それでは、実際に製品を見ていこう。今回取り上げた「WN-AC1600DGR3」は、最大1300MbpsのIEEE 802.11acと最大300MbpsのIEEE 802.11nに対応した無線LANルーターだ。

 同社のラインナップの中では、ハイエンドに位置付けされる製品だが、実売価格は10000円前後(2014年9月yodobashi.com調べ)と、3ストリームMIMO対応の無線LANルーターとしては、なかなかリーズナブルな値付けがされている。

前面
側面
背面

 機能的にも、なかなか豊富だ。QRコードやNFCを利用した初期設定環境を提供するほか、子供向けのフィルタリングサービス「ファミリースマイル悪質サイトブロック」を1年間無料で提供していたり、USB 2.0ポートを搭載し、「簡易NAS機能」もしくは「net.USB」(どちらか排他)として機能させることができる。

 外出先からの利用用にPPTP VPNサーバー機能、無料のダイナミックDNSサービス、USB共有したストレージに外出先からアクセスできる「リモートリンク2」などの機能も提供する。機能の豊富さでは、国内メーカーの無線LANルーターの中でも上位に位置する製品と言っていいだろう。価格を考えればコストパフォーマンスはかなり高い製品だ。

 なお、前回、iPhone 6の登場を期にIEEE 802.11acの導入を進める記事を掲載したが、1万円以下の低価格帯の製品として紹介した「WN-AC1167DGR3」の3ストリームMIMO対応版となる。Wi-Fi設定コピー機能など、速度以外の機能面はほぼ共通なので、予算を抑えたい場合は、WN-AC1167DGR3も選択肢となるだろう。

 外観に関しては、派手なアンテナを備える海外製品が存在感を示す中、3本すべて内蔵しており、すっきりとした外観となっている。サイズ的にも、NECプラットフォームズのAtermシリーズには及ばないものの、比較的コンパクトで、バッファローのWZR-1750DHP2とAtermWG1800HPの中間的なサイズとなっている。これくらいのサイズなら設置も容易だろう。

au HOME SPOT CUBEの設定をコピーしてみる

 それでは、最大の注目である「Wi-Fi設定コピー機能」を試してみよう。基本的には、WPS設定のしくみを利用したものとなっており、使い方もクライアントをWPSでつなぐときとほぼ一緒だ。

 1.既存の無線LANルーターを準備
   まずは、既存の無線LANルーターを稼働させておく。なお、この無線LANルーターは、WPSによるボタン設定をサポートしている必要がある。

 2.WN-AC1600DGR3を設置
   WN-AC1600DGR3を箱から取り出して、既存の無線LANルーターの近くに設置。電源をオンにしておく。

 3.既存の無線LANルーターでWPS設定開始
   既存の無線LANルーターのWPSボタンを押して、設定の待ち受けを開始。

 4.WN-AC1600DGR3で設定
   WN-AC1600DGR3の前面に搭載されている「コピー」ボタンを長押し。自動的に既存の無線LANルーターの設定情報が取得される。

 5.既存の無線LANルーターを撤去
   既存の無線LANルーターの電源をオフにするか、撤去しておく。

 6.WN-AC1600DGR3の電源を入れ直し
   いったん、電源ケーブルを抜いてから、入れ直す。

 以上の手順で、既存の無線LANルーターに設定されていたSSIDとパスワードが、自動的にWN-AC1600DGR3に引き継がれ、そのまま稼働させることが可能になる。

 この場合、既存の無線LANルーターに接続していたPCやスマートフォン、ゲーム機、タブレットなどは、もちろん設定変更の必要はない。WN-AC1600DGR3の通信範囲内に機器があれば、今まで通り、何もしなくてもインターネットに接続できる。

 試しに、auが利用者向けにレンタルで提供しているau HOME SPOT CUBEを利用して設定をコピーしてみたが、問題なく設定をコピーすることができ、「auhome_xxxxxx」というSSIDを引き続き、稼働させることができた。

 ただし、いくつか注意点がある。

・コピーできるのは2.4GHz帯のみ
 設定をコピーできるのは、2.4GHz帯のみ、それも最初のプロファイルのみとなっている。前述したau HOME SPOT CUBEは、2.4GHz/5GHzの両対応で、2.4GHz側に「auhome_xxxxxx」と「auhome_xxxxxx-W(WEP用)」、5GHz側に「auhome_xxxxxx-A」と3つのSSIDが設定されている。

 Wi-Fi設定コピー機能で引き継げるのは、このうちの「auhome_xxxxxx」のみ。5GHz帯の設定、および複数プロファイルが設定されている場合の2つ目以降(WEPやパスワード設定なしもNG)はコピーすることができない。

 このため、既存の無線LANルーターで、5GHz帯で接続していた端末や2つ目以降のプロファイルを利用して接続していた端末は、WPSなどで新たにWN-AC1600DGR3につなぎ直す必要がある。

・コピーした設定は管理不可
 WN-AC1600DGR3にコピーされた従来のSSIDは、WN-AC1600DGR3の設定画面からは管理できない。

 ログを見ることで、2.4GHz側のSSID3としてコピーされたSSIDが有効になっていることを確認できるが、設定画面の「無線設定」の項目には、このSSIDは表示されず、SSIDやパスワードを変更することはできない。

 同設定画面で「CopySSID(2.4GHz)」を「無効」にすれば、引き継いだSSIDを無効化することはできるが、コピー後にWN-AC1600DGR3から設定を変えることはできないうえ、設定済みのパスワードを確認することなどもできないので注意が必要だ。

ログを確認すると2.4GHz側でSSID3にコピーしたSSIDが設定されていることが確認できる
コピーしたSSIDは設定画面からは管理できない

 このように、無線LANルーターをリプレイスする際の救済処置としては、なかなか優れたWi-Fi設定コピー機能だが、従来の無線LAN設定を完全に引き継ぐような機能ではなく、あくまでも一部の設定を暫定的に残しておく機能と言える。

 とは言え、2.4GHzをコピーしてくれるだけでも助かるユーザーは、かなりいるはずなので、無線LANルーターの入れ替えが面倒そうだと考えている多くの人を救うことになるはずだ。

iPhone 6でテレビも見られる

 パフォーマンスについては、許容範囲といったところだ。以下は、木造三階建ての筆者宅にて、1Fにアクセスポイントを設置し、2F、3Fから、867Mbps対応のMacbook Air 11(2013)を利用してiPerfによる速度を測定した結果だ。比較として、以前、本コラムでRT-AC68Uを利用した際に計測した値も掲載している。

【表:iperfテスト】
MacBook Air 11(867Mbps)
WN-AC1600DGR31F451
2F209
3F101
RT-AC68U1F622
3F427
3F268
  • ※RT-AC68Uの値は2013年12月計測時の値

 今回は、867Mbps対応のクライアントを利用したため、1300Mbpsのフルスピードを発揮できる環境ではなかったが、同じ環境で比較してもRT-AC68Uに、若干、劣る結果となってしまった。

 3Fでも実効で100Mbpsを超えているので、実用上は問題ないレベルではあるのだが、ビームフォーミングなどを備えた他社製品などと比べると、若干、見劣りする結果と言えそうだ。

 このほか、特徴的な機能としては、USBポートにテレビチューナーユニットを装着することで、iPhoneなどでテレビが視聴できる機能も搭載している。前述したnet.USB機能を利用したもので、実際に使うには、対応するテレビチューナーユニット(テレキング GV-MVP/FZ2)を用意する必要があるが、iOS8搭載のiPhone 6で試したところ、問題なくテレビを視聴することができた。

USBポートに同社製のテレビチューナーユニットを装着
無料のアプリを利用して、無線LAN経由でテレビを視聴できる

 同様の機能は、同社製の無線LANルーターで以前から搭載されていた機能で、筆者も以前、使ったことがあるが、その際は、若干、安定性に欠けることがあった。今回のテストでは、特に問題は見られなかったが、起動に時間がかかるなど、普通のテレビとは使い勝手が違うことを考慮する必要があるだろう。

 なお、無線LANやルーターの安定性に関しては、今回は、長期間の運用が間に合わなかったために検証しきれていないが、数日ほどの利用では、特に問題は見られなかったことを報告しておく。

コピー機能を全無線LANルーターに必須に

 以上、アイ・オー・データ機器の無線LANルーター「WN-AC1600DGR3」を実際にテストしてみたが、他社製品にはないユニークな機能を搭載している点は高く評価できるポイントと言えそうだ。

 パフォーマンスなど、気になる点はあるものの、1万円前後という実売価格を考えるとコストパフォーマンスも高く、お買い得感がありそうだ。

 中でも、Wi-Fi設定コピー機能は、今後、無線LANでつなぐ機器が増えてくることを考えると、かなり便利な機能と言える。まだまだ改善の余地はありそうだが、この機能に関しては、ぜひ他社にも見習ってほしいところだ。場合によっては、共通のしくみとして業界団体に標準化も検討してほしい機能だ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。