第42回:久しぶりに登場したリンクシスの意欲作
~802.11g対応無線LANルータ Wireless-Gを試す~



 国内ではしばらくの間沈黙を続けていたリンクシスから、久しぶりに新製品が登場することが明らかになった。IEEE 802.11gに対応した無線LAN製品「Wireless-G」シリーズだ。すでに米国では発売されているが、今回、評価版をいち早くお借りすることができたので、早速、レビューをお届けしよう。





製品出荷体制が整いつつある802.11g

 製品の低価格化などによって、ここ数年で急成長を遂げた無線LAN市場。現状、市場の中心を担うのは、やはりIEEE 802.11b製品となっているが、IEEE 802.11a製品の低価格化、ようやく姿を見せ始めたIEEE 802.11gの存在など、今後のさらなる発展が期待されている。有線LANが完全に無線LANに置き換わることはあり得ないが、コンシューマー市場を中心に、無線LANの需要は確実に高まっている。

 このような背景をにらんでか、各社から無線LAN機器の新製品が登場しつつある。特に注目されているのがIEEE 802.11g準拠の製品だ。2.4GHz帯の電波を利用しながら、CCK-OFDMのような新たな変調方式を採用することで、最大54Mbpsの通信が可能なIEEE 802.11gはIEEE 802.11bの後継として最も注目されている規格となっており、IEEE 802.11bからのリプレースが大きく期待されている。同じく54Mbpsを実現する無線規格としては5.2GHz帯のIEEE 802.11aが存在し、すでに数多くの製品が登場しているが、IEEE 802.11bと同じ2.4GHz帯を利用するIEEE 802.11gを本命視しているメーカーも多い。

 もちろん、IEEE 802.11gの規格自体は、まだIEEEによって標準化が進められている最中で、今年の5月以降に正式に規格が策定される予定となっている。しかし、昨年末にメルコがIEEE 802.11g対応製品を2月に出荷開始するとアナウンスしたり、AirMacが採用製品を発表した経緯もあり、この規格の製品への注目が非常に高まっているのが現状だ。


「Wireless-G Broadband Router(WRT54G)」と「Wireless-G Notebook Adapter(WPC54G)」

 今回、リンクシスから発表された「Wireless-G」シリーズもまさにこのIEEE 802.11gに対応した無線LAN製品となる。リンクシスと言うと、あまりなじみがないユーザーもいるかもしれないが、国内よりもどちらかと言えば海外で名前が知られている老舗中の老舗のネットワーク機器メーカーだ。数年前にコンシューマー向けのルータが市場に出回り始めたころは、店頭で製品を見かけることも多く、国内でも高いシェアも持っていた。ここに来てようやく新製品が発表し、再度、市場に本格参入することになった。

 なお、同社によると、今回のWireless-Gシリーズは、正式リリースまではもう少し時間がかかるとのことだ。今回のレポートは、あくまでも試用版の製品であることをあらかじめお断りしておく。





機能的には充実も使いやすさは…

 今回、試用できたものはWireless-Gシリーズの3製品だ。ルータ機能を内蔵した802.11g準拠の無線LAN製品の「Wireless-G Broadband Router(WRT54G)」、純粋なIEEE 802.11g対応アクセスポイントとなる「Wireless-G AccessPoint(WAP54G)」、そしてクライアント用の無線LANカード「Wireless-G Notebook Adapter(WPC54G)」となる。

 無線LAN製品自体は、ADSLモデムにルータ機能が内蔵されはじめた背景もあり、ルータ機能内蔵タイプよりも純粋なアクセスポイントに主流が移りつつあるが、今回はルータとしての性能も評価したいこともあり、「Wireless-G Broadband Router(WRT54G)」を中心に評価していくことにした。

 なお、本製品はIEEE 802.11g用の無線LANチップセットとしてBroadcom社製のものを採用している。現段階で発表済の製品は、Broadcom社製を採用しているものがほとんどで、他社製のIEEE 802.11gでも性能的な違いはほとんどないと予想できる。

 さて、まずは機能的な面だが、これは申し分のないものと言えそうだ。無線LANではセキュリティ関連の機能がいかに充実しているかがカギとなるが、WEPによる暗号化(64bitと128bitに対応)、MACアドレスフィルタリングの基本的な機能に加え、SSIDのブロードキャストを禁止する機能も備えている。これは、他社製の無線LAN製品で言うところのSSIDを隠す機能だ。ブロードキャストを禁止することで、Windows XPのワイヤレスネットワークや無線LANユーティリティなどからアクセスポイントを検索してもSSIDが表示されなくなる。これにより、いわゆるウォードライブなどへの対策が可能となる。


SSIDのブロードキャストを禁止することなども可能になっており、無線LAN関連の機能は比較的充実している

 また、ルータ関連の機能としても一般的な機能の他、Universal Plug and Play(UPnP)やVPNパススルー(PPTPとIPSecの両方)への対応。DMZホスト、およびポートフォワードの設定。Dynamic DNSへの登録、LAN側のクライアントのインターネット接続の制御(PCごとのアクセス可否や時間指定によるアクセス制御が可能)が可能となっている。試用したのは海外向けの製品となるため、残念ながらPPPoEのマルチセッションなどには対応していないが、このままでも一般的な利用では機能的な不足を感じることはないはずだ。

 このように機能的には申し分ないものの、使いやすいかというと意見は分かれそうだ。最近の無線LANおよびルータ製品は、初心者でも手軽に設定できるように、ウィザードやユーティリティ形式での初期設定、画面デザインの工夫、ヘルプの充実など、さまざまな工夫がなされている。しかし、今回のWireless-Gシリーズではこのような工夫はなされていない。

 もちろん、「ウィザードでの設定があること=使いやすい」と単純に結びつけることはできず、ユーザーによってはオーソドックスな設定画面を好む傾向もある。そういった意味で、Wireless-Gシリーズでは、基本的な設定と高度な設定(アドバンスド)が切替えられるようになっていたり、機能ごとにカテゴライズされたタブによって、設定がしやすくなっているなどの工夫はなされている。初心者には難しいと感じてしまう部分もあるかもしれないが、ルータや無線LANの設定に慣れているユーザーであれば、逆にスピーディに設定できる点に好感が持てることだろう。


設定画面はオーソドックスだが、基本的な設定と高度な設定を切替えることが可能。正式リリース時に、どこまで用語をわかりやすく日本語化できるかなどがカギとなりそうだ

 ちなみに、今回は試用した製品は評価版であるため、WEBでの設定画面はすべて英語となっていた。しかし、同社によると、国内での正式リリースに合わせてすべて日本語化する予定だ。製品版で難しい用語がどこまでうまく日本語化できるか、マニュアルやヘルプなどをどこまで用意できるのかが期待されるところだ。





ADSLで利用する分には十分な速度性能

 それでは、実際の性能はどうなのだろうか? 特にIEEE 802.11gの無線LANが、従来のIEEE 802.11bに対してどれくらいのアドバンテージを持つのかが非常に気になるところだ。

 実際にテストしてみたところ、性能的にはそれほど悪くない印象を受けた。とりあえず、以下のイラストと表を見て欲しい。これは、実際に筆者宅(木造3階建て)でWRT54Gを利用した際に、各部屋でどれくらいの伝送速度が実現されているかを実測したものだ。WRT54Gは1階の仕事部屋に設置し、各部屋での伝送速度をBフレッツ(ニューファミリー)でフレッツ・スクウェアに接続して計測した。なお、比較対象として、有線LANでの接続速度、およびメルコ製のIEEE 802.11b準拠の無線LANルータ(WBR-B11GP)、NECアクセステクニカ製のIEEE 802.11a準拠無線LANアクセスポイントでの計測結果も掲載している。


製品方式場所WEP速度
(Mbps)
表示速度
(Mbps)
LINKSYS Wireless-G有線--18.05100
IEEE 802.11g計測ポイント(1)
(同じ部屋)
なし10.9354
128bit10.4454
計測ポイント(2)
(隣の部屋)
なし9.2048~54
128bit9.2648~54
計測ポイント(3)
(2F)
なし8.7236~48
128bit8.4236~48
計測ポイント(4)
(3F)
なし7.9411~36
128bit7.0911~36
メルコ WBR-B11GP有線--18.90100
IEEE 802.11b計測ポイント(1)
(同じ部屋)
なし4.6011
128bit3.6611
計測ポイント(2)
(隣の部屋)
なし4.5911
128bit3.5211
計測ポイント(3)
(2F)
なし4.5911
128bit3.6311
計測ポイント(4)
(3F)
なし4.0011
128bit3.4111
BA8000PRO(NTT-ME)
+WL54AP(NEC)
有線--70.51100
IEEE 802.11a計測ポイント(1)
(同じ部屋)
なし18.1554
128bit17.6254
計測ポイント(2)
(隣の部屋)
なし17.4118~24
128bit17.7418~24
計測ポイント(3)
(2F)
なし11.676~12
128bit12.036~12
計測ポイント(4)
(3F)
なし9.906~12
128bit8.666~12
回線にBフレッツ(ニューファミリー)を利用して、インターネット接続の実効速度を計測。計測サイトにはフレッツ・スクウェアを利用した

 まずは、ルータとしてのスループット(有線LANでの速度)だが、結果は約18Mbpsとなった。NTT-MEのBA8000PRO利用時、もしくはPCにメディアコンバーターを直結した場合、約70Mbps程度のスループットとなるため、これと比べるとかなり低いが、ADSLなどで利用する分には必要十分なレベルだと言える。米国ではCATVの1.5Mbpsという回線が一般的であることを考えると、国内では他社製品と比べて見劣りするものの、米国市場向けの製品としてはかなり余裕を持たせた性能だと言えるだろう。

 続いて、本題のIEEE 802.11gの性能だが、電波の状態が良い場合で約10Mbps、3Fの電波が届きにくい場所でも7Mbpsの速度を計測できた。IEEE 802.11bの約2倍の速度だ。これは、当初予想していたよりも低い値だが、それほど遅くはない値だと言える。もちろん、IEEE 802.11gの理論上の通信速度は54Mbpsだが、さすがに実環境で5倍の速度が出ることはありえない。むしろ、7~10Mbpsと12Mbps ADSLの実効速度に近い速度が実現できていることを素直に評価すべきだろう。現状のIEEE 802.11bでは、環境によっては確実に無線LANの速度がボトルネックになり、ADSLの速度を活かしきることができなかったが、この問題がIEEE 802.11gではきちんと改善できている。もちろん、WEP設定時の速度低下もほとんど見られない。

 なお、今回の速度テストはインターネット接続の速度を計測することが目的であるため、PPPoEや転送テストにHTTPを利用しているオーバーヘッドがあることをお断りしておく。このため、純粋にLAN内のPCでFTPなどによって速度を計測した場合、さらに速度は向上すると考えて差し支えないだろう。

 また、同じ54Mbpsを実現するIEEE 802.11aと比べた場合に速度が低い結果となったが、電波の状態と速度を合わせて考えたとき、IEEE 802.11gの方が速度の落ち込み具合がゆるやかな点に注目したい。筆者の環境では3階といえども木造の建物なので、各部屋に比較的電波が届きやすい環境だと言える。しかし、マンションなど、鉄筋を用いた建物の場合、電波が届きにくくなり、さらに速度が低下するケースも多い。

 これは、IEEE 802.11gが2.4GHzという低い周波数帯を利用することもあるが、WRT54Gにかなり大型のアンテナが装着されている効果が大きいようだ。同社によると、法的に許可されているギリギリのサイズまで大きなアンテナを装備しているとのことだ。現状、国内の無線LAN製品は、基盤上にアンテナのパターンを印刷しただけのものなども多く、この点を考えると電波が届きやすいことも納得できる。


本体背面に大型のダイバシティアンテナを装備。方向を変えることなどで電波の特性なども調節できる。今回のテストで比較的感度が良かったのは、このアンテナが寄与する部分も大きい。TNCコネクターにより、取り外しも可能

 ちなみに、今回は未確認のため、これはあくまでも予想だが、速度の落ち込み方がゆるやかだと言うことは、そういった電波の届きにくいケースでも速度の落ち込みを最小限に抑えられる可能性が高い。製品を利用する建物や場所などの条件によっては、今回のテスト結果で速度が逆転する可能性も考えられるだろう。この点は、国内版の製品が正式に登場した時点で、もう一度、さらに詳しく検証してみたいところだ。

 とは言え、現段階では、やはり電波状況が良い場所ではIEEE 802.11aに速度的なアドバンテージがある。そう考えると、IEEE 802.11aとIEEE 802.11gは、用途的な使い分け(たとえばビデオ映像の伝送などはIEEE 802.11aが有利)に加えて、利用環境での使い分けというのも、今後、製品を選ぶうえでの重要なポイントとなりそうだ。





弱点は同じ2.4GHz帯の干渉か

 このように、おおむね良好なテスト結果が得られたリンクシスのWireless-Gシリーズだが、ひとつ気になる点があった。同じ2.4GHz帯を利用するIEEE 802.11bとの干渉だ。

 こちらも以下のテスト結果を見てもらえば一目瞭然だ。このテストでは、Wireless-Gと同じ2.4GHz帯を利用するIEEE 802.11bの機器(NECアクセステクニカ WB7000H)を同時に動作させた場合に、どれくらいの干渉があるのかを速度をベースに比較したものだ。WB7000Hのチャネルを7に固定し、Wireless-Gのチャネルをいくつか変更した際に、実効速度にどれくらい違いが出るのかを示している。

伝送速度(Mbps)チャネルLINKSYS Wireless-G(IEEE 802.11g)
76111
NEC Aterm WB7000H
(IEEE 802.11b)
データ伝送なし710.4410.119.7510.62
データ伝送あり2.531.164.253.03
IEEE 802.11bとIEEE 802.11gを同時利用した際の干渉状況をテスト。試用機では、チャネルが同一、もしくは近いと極端に速度が低下する傾向にある。製品版で予定されている改善で、どこまで干渉がなくなるかを期待したいところだ

 試用機のテスト結果から言うと、近くでIEEE 802.11bの機器が動作している場合、その干渉は避けられないと言える(IEEE 802.11b側の電源が入っているだけでは干渉は発生しない。あくまでも両方が通信を実行している場合に干渉する)。IEEE 802.11bの機器で通信を開始すると、それまで10Mbps程度で通信できていたものが、劇的に低下し、場合によっては1Mbps程度にまで落ち込むことが確認できた。

 なお、IEEE 802.11b、およびIEEE 802.11gでは、通信に利用する周波数を1~11(もしくは14)までのチャネルで表す。このチャネルが同じということは、利用する周波数が同じということであり、当然、干渉が発生するわけだ。ただし、チャネルが表すのはあくまでの利用する周波数の中心周波数であり、実際にはその前後を合わせた22MHz分の周波数を使って通信する。IEEE 802.11bやIEEE 802.11gのチャネルは5MHz置きに設定されているため、実際には4チャネル以上離れていないと干渉は避けられないことになる。しかしながら、今回のケースでは4チャネル離して、IEEE 802.11bとIEEE 802.11gの両方で通信をした場合でも程度の差こそあれ、干渉自体を避けることはできなかった。

 これを考えると、現状、IEEE 802.11bが普及している環境で、同じ2.4GHz帯のIEEE 802.11gが十分な性能を発揮できるかは非常に難しいところだと言える。場合によっては、干渉によって、IEEE 802.11b以下の速度しか実現できないことがある可能性も否定できない。また、2.4GHz帯はISMバンドと呼ばれる産業用の周波数帯であり、無線LAN以外にもこの周波数帯を利用して通信を行なう機器も多い。これらの干渉も十分に考えられるところだろう。

 ただし、この点に関しては、どうやら製品自体の特性というよりは、採用しているチップの特性のようだ。このため、同様の干渉は他社製のIEEE 802.11g製品でも発生する可能性が高い。同社によると、国内での正式リリースまでにIEEE 802.11bとの干渉を最低限に抑えられるように製品を改善している最中だと言ので、実際にどこまで干渉が押さえられるのか、大きく期待したいところだ。





国内の状況にどこまで対応できるか

 このように、結論としては、IEEE 802.11gに準拠したWRT54Gは、既存のIEEE 802.11bの置き換え用としては、かなり期待できる製品だと言える。もちろん、前述したIEEE 802.11bとの干渉、設定画面をどのようにブラッシュアップさせていくかなどの課題は残っている。また、現状の国内市場を考えた場合、実用に関係なく、スループットを強調した製品が売れる傾向にあり、PPPoEマルチセッションのような国内ならではの機能が要求される部分も多い。このあたりに、どこまで同社が対応できるかが、今後のシェア獲得のカギを握りそうだ。

 とはいえ、同社の製品は品質にうるさい米国でもまれているだけあって、安定性などには高い評価がなされている。国内では、バグを抱えたままリリースされる製品が存在する現状を考えると、ここにぜひ一石を投じてもらいたいものである。単にスループットを強調した製品が良いのかを、もう一度、この製品の登場を機会に考えなおしたいところである。


関連情報

2003/1/21 11:12


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。