第57回:ノートPCの無線LAN環境を考える
すでに802.11gに対応した機種も……
インテルのCentrinoテクノロジの登場によって、ノートPCのアーキテクチャが大きく変わろうとしている。しかし、新型のPentium Mや855PM/GMチップセットなどは良いとしても、こと無線LANに関しては物足りない部分も多い。今回は、このようなノートPCの無線LAN環境の現状と将来について考えてみる。
●無線LANの状況を考えると手を出しにくい新型ノートPC
富士通のFMV LOOX T60D。下位モデルとなるため、あまり注目を集めていないが、筆者が購入したものはIEEE 802.11gに対応していたことがわかった。写真のように液晶の映り込みが気になるポイント |
インテルの新しいノートPC向けアーキテクチャは、非常に良くできたものだと言える。実際、評価機や店頭などでPentium Mを搭載したノートPCを数機種使ってみたが、その良好なパフォーマンス、長時間駆動可能なバッテリーライフと完成度の高さに感心させられるものがあった。パフォーマンスやバッテリーライフを重視するのであれば、このテクノロジーが登場した今がノートPCの買い時だと思っても差し支えはないだろう。
しかし、今回のCentrinoでもテクノロジーの核とされている無線LANについて考えてみると、素直に今が買い時とは思えない部分も多い。このあたりは、すでにさまざまなメディアで取り上げられている通りだが、IEEE 802.11bしかサポートしない現状のCentorinoでは、やはり通信環境が十分とは言えないわけだ。
もちろん、現状はIEEE 802.11b以外の規格がそれほど普及しているわけではないため、実質的にIEEE 802.11bのみのサポートでも困るシーンは少ない。特に企業内や外出先での利用がメインということであれば、まだまだIEEE 802.11bでも十分だろう。しかし、ノートPCは決して安い買い物ではないことを考えると、少なくとも1年、通常はそれ以上の年数の利用でも古さを感じさせない製品でなければ手を出しにくい。
その点、無線LANの技術に関しては、IEEE 802.11gの正式策定が間近に控えているうえ、IEEE 802.11a/b/gに対応したデュアルバンド・トライスタンダードの製品も徐々に登場しつつある。しかも、チップレベルでの進化も目前に控えており、デュアルバンド・トライスタンダードの製品に関しては、無線LANチップが現状の4チップ、もしくは3チップ構成から、2チップ構成(RFとベースバンド各1ずつ)に進化することも予想されている。
インテルはこの分野では、無線LANを専門とするチップベンダーに遅れを取っているため、デュアルバンド・トライスタンダードの製品リリースまでに時間がかかるかもしれないが、Intersil、Atherosといった大手無線LANチップベンダーに関しては、すでにこの計画が着々と進んでいる。つまり、これから秋、もしくは年末にかけて無線LAN技術は大幅な進化を遂げ、次の世代へと移り変わることが確実なわけだ。このような状況を考えると、現状のIEEE 802.11bしかサポートしないノートPCは、やはり手を出しにくい。
●少なくともIEEE 802.11gが必要
とは言え、日々進化するテクノロジーを待ち続けていては、いつまでたってもパソコンを購入することなどはできない。どこかのタイミングで買い時を見極める必要があるわけだ。もちろん、CPUやチップセットに明らかなアドバンテージがある現在を買い時と考えるのも悪くはないが、個人的には無線LAN環境がもう一段階進化するタイミングを狙いたい。具体的には、IEEE 802.11gが実装されるタイミングだ。IEEE 802.11gの正式策定については6月の中旬から下旬の予定と言われるが、さすがにこのタイミングでIEEE 802.11g搭載機がすぐに登場するとは考えにくいので、実質的なノートPCの買い時は秋モデル以降ということになるのだろう。
もちろん、このタイミングであれば、デュアルバンド・トライスタンダードの無線LANが実装されることも期待できるが、必ずしもデュアルバンド・トライスタンダードに固執する必要はないだろう。この理由のひとつとして挙げられるのはコストの問題だ。シングルバンドとデュアルバンドの製品の価格差は、近い将来には無きに等しいところまで近づくと予想されるが、今年の後半まで待ってもまだ多少の価格差は存在すると予想される。また、PCベンダー側も無線LAN以外の部分(CPUやHDDなど)を組み合わせて、意図的に価格差を設定してくる可能性もある。
費用は気にしないというのであれば話は別だが、この価格差がなくなるまでにはまだ1~2年はかかる。であれば、近々、登場するであろうIEEE 802.11g搭載製品を選ぶのが現時点では得策と言える。
●非公式にIEEE 802.11gに対応している機種を発見!
このような状況の中、実は大きく注目したいノートPCが1台ある。富士通から新たに発売された2スピンドルのモバイル向けノートPC「FMV LOOX」だ。LOOXシリーズには、Pentium M 900MHzを搭載したハイエンドのT90D、Baniasコア採用のCeleron 600AMHzを搭載したT60D、基本的にはT60Dと同様のスペックだが無線LANの代わりにAirH"INを搭載したT60Wの3機種がラインナップするが、ここで取り上げたいのは、このうちのT60Dだ。
筆者が個人的に一般のパソコン店で購入し、使ってみて驚いたのだが、T60Dの内蔵無線LAN機能は公式にはIEEE 802.11b準拠となるものの、実際にはIEEE 802.11g(ドラフト)に準拠しており、何の設定変更なしにIEEE 802.11gのアクセスポイントに54Mbpsで接続することができた。FTPデータ転送による実測でも13Mbps程度のスループットを確認できたので、間違いなくIEEE 802.11gで接続できていることになる。
LOOX T60DでWindowx XPのワイヤレスネットワーク接続のプロパティを開いたところ。間違いなく54Mbpsで接続されていることがわかる |
よくよく調べてみると、本体に内蔵されているMiniPCIの無線LANモジュールに、Broadcom製の「BCM4306」というチップが搭載されていた。このチップはメーカーの公称通り、IEEE 802.11bに準拠したチップだが、ドラフト版のIEEE 802.11gにもしっかりと準拠している。発売時点ではパソコンのスペックとしてIEEE 802.11g準拠と発表しなかっただけで、実質的にはIEEE 802.11gに準拠しているわけだ。
同じ新型LOOXでも上位モデルとなるT90DはCentorinoブランドとなるため、Intelの無線LANチップが採用されており、IEEE 802.11bにしか対応していない。CPUや光学ドライブのスペックはT90Dにアドバンテージがあるが、IEEE 802.11gの通信が可能なことを考えるとT60Dを選ぶメリットもあるのではないだろうか。もちろん、公式に対応しているわけではないので、T60Dを購入してIEEE 802.11gによる通信ができない可能性もある。これはあくまでも個人的な予想に過ぎないが、おそらく規格の正式策定後に、富士通側からIEEE 802.11g準拠であることがアナウンスされるのではないかと思われる。
なお、LOOXの場合、背面のハードディスクにアクセスするフタをひとつ開けるだけで、本体に内蔵されているMiniPCIのモジュールの姿を拝むことができる。サポート外のことだが、将来的にモジュールだけを交換することもできるだろう。しかも、全く別の用途向け製品となるが、メルコからIEEE 802.11g準拠のMiniPCIモジュールも販売されている。実際に装着して動作するのか、対応ドライバをどこから入手するのか、無線部分の改造が許されるのかといった問題はあるものの、このような交換可能な構造になっている点は非常に興味深い。
背面のフタを開けると、MiniPCIの無線LANモジュールが姿を現す。搭載されているベースバンドチップはBroadcom製のBCM4306。実際には難しいと思われるが、交換は不可能ではなさそう |
●必ずしもCentorinoにこだわる必要はない
このように、あくまでも無線LAN環境を重視した場合、現段階で購入するのであればLOOX T60Dはかなりお買得なノートPCであると言えそうだ。この製品を見る限り、必ずしもCentrinoブランドにこだわる必要がないのだというのがよく分かる。ただし、この製品には液晶への映り込みが激しく、重量もかなり重いという欠点があるので、総合的には自分のニーズに合うかは別問題だ。
今後、ノートPCの重要な装備となる無線LAN。このようにT60DのようなIEEE 802.11gに対応した機種以外は、少なくとも今年の秋モデルが登場するくらいまで、ノートPCの購入には慎重になった方がいいだろう。前述したように、無線LANの状況は、これから年末にかけて大きく変わることが予想できる。くれぐれも衝動買いは避けた方がよい。
関連情報
2003/6/3 11:11
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