第58回:モデル追加されたメルコ LinkStation
静音化対策&機能追加でリベンジなるか?



 メルコの低価格ネットワークストレージ「LinkStation」に、ハイエンドモデルとなる「HD-HLAN」シリーズが追加された。以前に本コラムで、動作音のうるささを指摘した製品の新モデルだ。果たして、今回のモデルでは弱点が克服されているのだろうか?





ハイエンドの名に恥じぬ完成度

「HD-HLAN」シリーズ

 以前、本コラムでLinkStationを取り上げたとき、そのコンセプトは評価できるが、ただひとつ問題があると指摘した。動作音のうるささだ。

 LinkStationは、ネットワークに接続できる、いわゆるNASに分類されるストレージ製品だが、このうちの80GBと120GBモデルは、背面に装着されているファンの動作音が非常にうるさく、とても家庭で常時稼働させて使えるようなものではなかった。セットアップの容易さ、ユーティリティを利用することでネットワークドライブとしてマウントしてくれる親切さなどは、高く評価できたが、この点だけが残念であった。

 あれから、わずか3カ月。メルコからLinkStationのハイエンドモデルとして位置づけた製品が市場に投入された。それが今回、取り上げる「HD-HLAN」シリーズだ。見た目こそ前モデルと大差はないが、大幅な改良が加えられており、ハイエンドの名に恥じぬ完成度の製品となった。

 まずは、最も気になる動作音だが、これは以前とは比べものにならないレベルにまで静音化されている。以前のモデルは電源を入れた時点から甲高いファンの音が室内に鳴り響いたが、今回のモデルは電源を入れてもほとんど動作音がしない。もちろん、耳を近づければハードディスクが回転している音が聞こえるが、この音もごくわずかで、極端な話、前面のLEDを確認しなければ起動していることさえ気がつかないほどだ。新たに採用された静音ファンの実力をまざまざと見せられた感じだ。

 また、新たにドライブスタンバイ機能、およびタイマー電源OFF機能が採用されており、しばらく使わないときはハードディスクを停止させることができる。それこそ、まったく音が聞こえない状態にまで静かになる。はじめからこのファンが採用されていれば……と惜しまれるほどの完成度だ。

 なお、メルコによれば既存のHD-LANシリーズもファームウェアのアップデートでハードディスク停止機能をサポート、後期に製造されたモデルではファンを静音タイプに変更する改良を行なったという。ただし、ファン回転数を制御する機能はないため、静音性能でも「HD-HLAN」シリーズにアドバンテージがある。





USBポートで機能を強化

 新モデルで強化されたポイントは、音の部分だけにとどまらない。特筆すべきは本体の前面と背面に1つずつUSBポートが新たに装備された点だ。


新たに装備されたUSBポート。背面と前面に各1ポートずつ装備される。プリンタやハードディスクを接続することができる

 ネットワークストレージにUSBと言ってもピンとこないかもしれないが、このポートには大きく分けて2つの役割がある。ひとつは、プリントサーバー機能だ。USB接続のプリンタを装着すると、LinkStationをプリントサーバーとして動作させることが可能となり、ネットワーク経由でのプリンタ共有が手軽に可能となる。実際に、この機能をテストしてみたところ、手持ちのレーザープリンター(EPSON LP-1200)とインクジェットプリンタ(CANON MP700)の両方とも問題なく共有することができた。


USBポートに接続した機器は設定画面から確認可能。今回はキヤノン製の複合機を接続したが、プリンタと同時にスキャナやメモリカードスロット(ストレージ)も認識された。ただし、実際に利用できたのはプリンタのみ

 なお、プリントサーバー機能と言っても、市販のプリントサーバーのように「Standard TCP/IP Port」や独自のポートを追加して印刷するタイプではなく、パソコンのローカルポートに接続したプリンタをWindowsで共有する場合と同様のタイプとなる。LinkStation側ですでに「LP」という名称でプリンタポートが共有されており、クライアントからネットワークプリンタを指定してプリンタを追加、もしくはマイネットワークからLinkStationの共有資源を表示し、そこから「LP」という共有資源にアクセスすることでネットワークプリンタを追加することができる。一部に限られるがPostScript対応プリンタをMacintoshで共有することも可能だ。


共有プリンタは、クライアントからは「LP」という共有名で参照できる。パソコンに接続したプリンタを共有したときと同様の使い方だ

Macintoshでプリンタを共有する場合はプリンタの設定が必要。標準ではEPSON製のいくつかのプリンタが利用可能だった

 残念ながら、両方のUSBポートに別々のプリンタを接続しても利用はできず、共有できるプリンタは1台に限られるが、ファイルとプリンタの共有がLinkStation1台で実現できるのは大きなメリットと言えるだろう。

 また、前述したように、このUSBポートにはもうひとつの役割がある。ハードディスクの増設だ。LinkStationにUSB接続の外付けハードディスクを接続すると、外付けハードディスクの領域が「usbdisk1」という共有名で共有される。つまり、手軽にハードディスク容量を増やすことができるわけだ。ただし、こちらもプリントサーバー機能同様、接続できるハードディスクは1台のみという制限がある。


USB接続(USB2.0対応)のハードディスクを接続することで、ハードディスク容量を増やすことが可能

 また、LinkStationにはバックアップ機能も新たに追加されており、LinkStationに内蔵のハードディスクのデータを外付けハードディスクにコピー/バックアップすることが手軽にできるようになっている。この手の簡易NASの場合、運用上の問題としてバックアップをどうするかというのが切実な問題となるが、今回、増設ハードディスクにデータをバックアップできるようになったおかげで、この問題をクリアできるようになった。時間を指定して自動的にバックアップを行なう設定もできるので、信頼性が飛躍的に向上したと言えるだろう。

 ただし、これらの機能にはいくつか制限がある。まず、外付けハードディスクへの書込みを行なう場合は、あらかじめLinkStation側でハードディスクを初期化しておく必要がある。FAT/FAT32であれば初期化しなくてもデータの読み込みは可能だが、書込みができないでは意味がないので、この手間を惜しむべきではないだろう。

 また、外付けハードディスクは、全容量がまるごと「usbdisk1」という共有名で共有され、増設したハードディスクに対して新たに共有フォルダを作成したり、この共有フォルダに対してアクセス権などの設定をすることはできない。アクセス権を設定したい場合は、LinkStationに内蔵されたハードディスクを利用するしかないので、このあたりは運用をよく考える必要がありそうだ。

 さらには、バックアップ機能が追加されたのは良いが、スケジュールで指定できるのは特定の共有フォルダのみで、複数の共有フォルダをスケジュール指定してバックアップすることができない。これは、非常に残念だ。せっかくスケジュール機能があっても、バックアップできるのが特定のフォルダだけでは、結局のところ手動ですべてのフォルダをバックアップをしなければならない。HDD to HDDのバックアップで、時間的にさほどかからないのだから、複数のフォルダを指定できるようにするか、全領域をまるごとバックアップできるようにしてほしいところだ。この点さえ改善されれば、完璧とも言えるだろう。


バックアップではスケジュールの設定も可能。ただし、指定できるのは特定のフォルダだけであるため、全体のバックアップをスケジューリングすることはできない。もう少し機能が強化されてほしいと望む部分だ




セキュリティ機能を大幅に強化

 このほか、目立った変更点としては、セキュリティ機能の改善もあげられる。以前のLinkStationでは、セキュリティはグループに対してのみにしか設定できず、しかもユーザーはひとつのグループにしか参加させることができなかった。家庭や個人ユーザーをターゲットとしている製品であった以上、これでも実用上は差し支えなかったのだが、SOHOや小規模オフィスでは、実運用に耐えられるようなセキュリティ機能ではなかったのも事実だ。

 しかし、今回の製品では、この点が大幅に改善されており、グループに加え、ユーザーに対してセキュリティを設定することが可能となっており、ユーザーを複数のグループに参加させることも可能となっている。これにより、たとえば、各ユーザー専用のホームディレクトリはもちろんのこと、営業部や総務部といった部署ごとに専用の共有フォルダを作成したり、複数の部署を統括する立場にあるユーザーに対して複数の部署の共有フォルダに透過的にアクセスできるような権限を与えることなどが可能になった。


ユーザーにアクセス権を設定することや、複数のグループにユーザーを参加させることが可能となり、柔軟なセキュリティ設定が可能となった。SOHOや小規模オフィスなら十分に対応することができる

 これまでのLinkStationに比べて、はるかに柔軟性に富んだセキュリティ設定が可能になったおかげで、SOHOや小規模オフィス、企業の部署単位などでの利用にも耐えられるようになったわけだ。いわばPCサーバーでのファイル共有とほぼ同等の機能を備えた、本格的なNASと言っても良い完成度だ。さすがに数百、数千といったユーザーが存在するような企業には向かないが、このレベルであればビジネスシーンでの利用にも差し支えないだろう。





1万円の差額を出す価値はある

 このように、新しいLinkStationは、以前の問題点が改善され、さらに使いやすい機能が追加された完成度の高い製品だと言うことができる。価格的には、従来のLinkStationと比べて、同容量のモデルで約1万円高の価格設定となるが、それだけの差額を払う価値は十分にあると言えるだろう。

 ただし、個人的には、バックアップ機能をもう少し強化してほしいのと、できればユーザーの登録などをテキストファイルからバッチ処理で登録できるようにするなどの工夫が欲しいところだ。これらができるようになれば、企業での導入を本気で考えるユーザーも登場すると考えられる。現時点では、あくまでもSOHO、および小規模オフィス向けとなるが、前モデルから短期間でこれだけの改善を行なったのだから、これからの発展にも大きく期待したいところだ。


関連情報

2003/6/10 11:03


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。