第73回:デュアルバンド対応&機能強化で巻き返しを図る
アイ・オー・データ機器「WN-AG/BBR」



 アイ・オー・データ機器から、無線LANルータの新製品「WN-AG/BBR」が発売された。基本的には、従来の802.11gに準拠した無線LANルータ「WN-G54/BBR」とほぼ同等の機能を持つが、新たに802.11aにも対応した点が特徴だ。早速、その実力を試してみた。





リベンジなるか?

「WN-AG/BBR」と無線LANカード「WN-AG/CB」がセットになった「WN-AG/BBR-S」

 いきなりだが、結論から言おう。今回の新製品はなかなか良さそうだ。「WN-AG/BBR」をひと通りテストしてみたが、まだ気になる点はいくつかあるものの、製品としての完成度が上がっていると感じられる。

 以前、本コラムでアイ・オー・データ機器の「WN-G54/BBR」を取り上げた時点では、不具合を原因とする安定性の低さや、MACアドレスフィルタリングの機能的な矛盾には、正直閉口した。しかし、今回の製品では、これらの欠点が解消されている。

 まずは安定性だが、WN-G54/BBRで発生していた、特定の環境で利用したときに突然切断されるという現象はなくなった。インターネット接続やFTPによる転送テストなど、長時間利用してみたが安定して接続されており、不具合は発生しなかった。この点はもはや心配なさそうだ。

 続いて、MACアドレスフィルタリングだが、こちらも設定方法が改善された。以前は、接続を「拒否」したいアドレスを登録するという謎な仕様だったが、今回は「拒否」したいアドレスを登録するのか、「許可」したいアドレスを登録するのかを選択できるようになった(拒否と許可はともに排他的仕様のため、「拒否」以外を許可、または「許可」以外を拒否することになる)。

 「許可」があれば、「拒否」は必要ないだろうと感じる部分も依然としてあるのだが、これで、ようやく「普通」に接続制限をかけることができるようになったのはありがたいところだ。


改善されたMACアドレスフィルタリング。「拒否」に加え、「許可」の設定も可能になった。ただし、後述するが無線と有線の両方に適用されるので、利用時には注意が必要

 なお、同様の機能は、従来のWN-G54/BBR、および無線LANカードのWN-AG/CB側でも、ファームウェアやドライバのアップデートによって改善されている。以前の教訓を活かして、製品の品質を向上させてきた点は素直に評価したいところだ。

 ただし、これらの改善は、「+(プラス)」になる評価というよりは、「-(マイナス)」から「0(ゼロ)」へと巻き返した印象だ。本当の意味で本製品がリベンジできるかは、これ以外の機能がどれほど強化されているかにかかっているだろう。





限界に近づきつつある2.4GHz帯

 そういった面で最も注目されるのは、新たに802.11aにも準拠した点だ。従来の「WN-G54/BBR」はクライアント用の無線LANカードのみがIEEE 802.11a/b/g準拠で、アクセスポイント側は802.11g準拠だった。しかし、今回の製品ではアクセスポイント側も802.11a/b/gのデュアルバンド・トライスタンダードに準拠している。

 個人的には、この進化は非常に評価したい。というのは、2.4GHzと5GHz帯の電波を使い分ける必要性を、切実に感じるようになったからだ。

 確かに、環境によっては802.11gだけが使えればいい場合も多い。しかし、すでに802.11b/gの2.4GHz帯の電波が複数使われているケースが存在する。筆者宅の近所もその一例だ。そもそも筆者宅では数台の無線LANアクセスポイントが常時稼働しており、2.4GHzで2つのチャネル、5GHz帯で1つのチャネルを占有している。

 しかも、電波を検索すれば、常時1つ、家から出て検索すれば、さらにいくつかのアクセスポイントが存在することを確認できる。干渉を避けるようなかたちでチャネルが設定されていればいいが、ほとんどの場合、標準のチャネルのままで使われるケースが多い。「そのチャネル使われると、ウチと干渉するんだけどなぁ」と思いつつ、何度、我が家のチャネルを変更したことか! 現状は、うまい具合に干渉を避けられれているが、もう1つアクセスポイントが増えたら、もはや逃げ場はないだろう。

 つまり、2.4GHz帯の電波は、少なくとも筆者宅の周辺においてはすでに干渉が問題になるくらいにまで混雑している状況になっており、使えるチャネルは限られつつあるのだ。ADSL事業者がレンタルで提供するADSLモデムに無線LAN機能が搭載されることも多くなってきているので、このような干渉の問題は、これからも増えていくことだろう。

 しかし、WN-AG/BBRのように、802.11a/b/gのデュアルバンド・トライスタンダードに準拠した製品を利用すれば、運悪く2.4GHz帯が混雑していた場合でも、それに見切りをつけ、さっさと802.11aの5GHz帯に移行してしまうことが簡単にできる。こういった運用が可能な点は大きな魅力だ。

 なお、802.11a/gは切替え式となっており、チャネルを選択することで規格が切り替わる設定方法になっている。切替え式であること自体はそれほど問題ないと思われるが、チャネルで無線LANの規格を選ぶという設定方法は多少わかりにくい。無線LANの規格とチャネルを熟知したユーザーであれば問題ないだろうが、普通のユーザーにはどのチャネルがどの規格かが理解しにくいだろう。

 もちろん、マニュアルを見ればわかるのだが、初期設定時のウィザードや設定画面自体に、一言、注意書きがあればと残念に感じた。


チャネルの変更によって、802.11aと802.11gを切替える方式。1~13が802.11gで、34~36が802.11aに相当する。この対応を理解していないと、設定しにくい可能性が高い




パフォーマンスも802.11a寄り

 パフォーマンス的にも悪くはない印象だ。パケットバースティング技術を採用した802.11g製品の中には、近距離で20Mbpsを超えるような速度を実現する機種もあるが、そこまで高速ではないものの、十分に実用範囲の速度が実現されている。有線に関してもFTTHでは多少物足りないものの、ADSLでは必要十分だ。

有線のルータスループット1
測定サイトWN-G54/BBRWN-AG/BBR
下り上り下り上り
RBB TODAY27.46Mbps6.98Mbps36.75Mbps11.74Mbps
FLET'S SQUARE35.5Mbps-39.27Mbps-
有線のルータスループット2
サイト名地域IP網までぷらら網までインターネットまで
ぷららフレッツ速度診断サービス34.107Mbps32.632Mbps31.990Mbps
有線の実効スループットは35Mbps前後。ADSL環境では必要十分だが、FTTHでは少し物足りない。しかしながら、35Mbps以上の速度が要求されるアプリケーションもないので、割り切って使う分には何の問題もない

無線テスト(フレッツ・スクウェア)
機器組み合わせ無線モード1F2F3F
WN-AG/BBR+WN-AG/CB802.11g12.36Mbps11.01Mbps9.72Mbps
802.11a11.37Mbps9.27Mbps9.41Mbps
※フレッツ・スクウェアにて速度を計測。回線にはBフレッツニューファミリーを使用
※すべてのテストで64bitのWEP暗号化を設定
※クライアントにはCeleron 1.6GHz 512MBメモリ搭載のノートPCを使用
FTPテスト
機器組み合わせ無線モード1F2F3F
WN-AG/BBR+WN-AG/CB802.11g16.82Mbps14.87Mbps13.34Mbps
802.11a19.41Mbps16.11Mbps16.17Mbps
※100MBのファイルを転送。コマンドプロンプトのFTPにて表示された速度をMbps換算
※サーバーにはPentiumIII 733MHz 512MBメモリ搭載機を使用し、IISのFTPサーバーを利用した
※クライアントにはCeleron 1.6GHz 512MBメモリ搭載のノートPCを使用
無線の性能は802.11a寄り。長距離通信でも速度の落ち込みがないのは評価できるポイント。最高速度よりも、通信可能範囲を重視するユーザー向け

 注目したいのは、802.11aの性能が高いことと、長距離通信でも速度の落ち込みが少ないという2つのポイントだろう。802.11aの性能が高いのは、アセロス社の無線LANチップ(アクセスポイント側はアセロス製「AR5212A」を採用したminiPCIモジュールを搭載)を採用した製品に共通する特徴だが、近距離、長距離の両方で802.11gを凌ぐ性能を実現している。この点から考えても、この製品を802.11aで使う意義は大きい。

 一方、長距離での速度の落ち込みが少ないのは、本体背面に装着されているアンテナの影響が大きいと予想できる。筆者宅の場合、3階建ての住宅であるため、アンテナを水平方向にすると上の階での電波状況が良くなる。これによって、2階以上でも802.11aで16Mbpsを超える速度が実現できたと考えられる。

 なお、802.11gに関しては、テスト中に多少、電波が安定しない状況が見られたことを報告しておく。近距離での通信には問題ないものの、2階、3階では、まれに急激にフォールバックし、無通信の状態が一瞬発生した。ただし、この状況は再現性に乏しく、しばらく時間が経過してから同じテストを実施すると発生しなかったり、802.11aではこの状況が見られないため、原因がどこにあるのかまでは特定できなかった。もしかすると、外部からの干渉が発生していたのかもしれない。


11gテスト時に、急激なフォールバックが発生。再現性が低いため、原因がどこにあるのかまでは特定できなかった




それでも気になる点はある

 このように、WN-AG/BBRは、従来製品から比べると完成度が高く、デュアルバンドを利用できるというメリットもあり、かなりお買得な製品になったという印象だ。

 ただし、いくつか気になる点もある。1つは、PPPoEマルチセッションに対応していない点。フレッツ・スクウェアに代表されるPPPoEマルチセッション対応サービスが提供されているNTT東西のフレッツ・ユーザーからすると、この機能がサポートされていないのはマイナスポイントとなる可能性もある。

 改善されたMACアドレスフィルタリングの機能も気になるところだ。「許可」が設定できるようになったのはいいが、この機能は無線と有線の両方に共通した設定となっている。「拒否」で利用する場合は問題ないものの、「許可」で利用する場合は有線接続のPCのMACアドレスもきちんと登録しておかないと、WN-AG/BBRに一切アクセスできない。

 有線のMACアドレスフィルタリングというのは、あまり利用頻度が高い機能とも思えないので、できれば無線のみに変更するか、有線と無線を個別に設定できるようにしてほしかったところだ。

 最後は、以前にも指摘したWindows XPのWireless Zero Configの件だ。最新版のユーティリティを利用した場合でも、インストール時にWireless Zero Configを無効化してしまう。これによる不都合は以前に解説した通りだが、このままの仕様でいくつもりなら、せめてユーティリティのアンインストール時にWireless Zero Configを自動起動に設定し直して欲しいと感じた。

 以上、3点が改善されれば、個人的には文句のない製品だと言える。とは言え、ユーザーの意見を取り入れながら、確実に製品の完成度が上がっているので、今後に大きな期待ができる製品と言えるだろう。


関連情報

2003/10/7 11:29


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。