第93回:パイオニアの電話機「TF-FS22M-R」で
音声チャットをコードレスで楽しむ
パイオニアコミュニケーションズから、USB接続が可能なコードレス電話機「TF-FS22M-R」が発売された。PCに接続することで、Windows Messengerなどの音声チャットやビデオチャットを楽しめるという個性的な電話機だ。早速、実機をテストしてみた。
●Messengerユーザー御用達となれるか
TF-FS22M-R |
Windows MessengerやMSN Messengerのビデオチャットや音声チャットをより便利に使いたい。そんなユーザーにお勧めしたいのが、今回、取り上げるパイオニアの「TF-FS22M-R」だ。
一見、ごく普通のコードレス電話機にしか見えないが、USB接続に対応しており、PCに接続することでハンドセットとして利用できる点が大きな特徴だ。現状、Windows MessengerやMSN Messengerなどで、音声チャット(ビデオチャット)を楽しむには、PCにスピーカーやマイク、ヘッドセットなどを接続しなければならないが、これを電話機でやってしまおうという発想だ。
もちろん、メッセンジャーソフトの音声チャットやビデオチャットは、正直なところ、それほど普及している機能とは言い難い。しかし、これはマイクやヘッドセットなどを使わなければならないという面倒さにも原因があるだろう。これが電話機を使って手軽にできるようになれば、爆発的にとまではいかないまでも普及することは考えられる。TF-FS22M-Rの狙いもまさにここなのだろう。うまくいけば、Messengerユーザーの御用達となれる可能性を秘めている製品だ。
●使い方は簡単だが、オーディオ出力に要注意
使い方は非常にカンタンだ。単純にTF-FS22M-RをUSBでPCに接続すればいい。たったこれだけで、汎用的なドライバが自動的にインストールされ、すぐに使える状態になる。もちろん、基本的には電話機なので、電話回線を接続することで、一般加入電話、IP電話での通話も可能だ。
背面にUSB端子と電話回線用のコネクタを装備。電話機としての利用に加えて、PCのハンドセットとして利用できる |
肝心の音声チャットで利用するには、電話機側の「PC」ボタンを1回押す。これで、本体のモードが「PCツウワモード」に切り替えられ、PCのスピーカーとマイクとして利用可能になる。実際にTF-FS22M-Rを耳に当ててみると、確かにPCの音が電話機から聞こえてくる。この感覚はある意味で斬新だ。
「PC」ボタンを押すことで、「PCツウワモード」に切り替わり、PCのサウンドが出力されるようになる |
ただし、このままでは通常のPCの利用に不都合がある。接続直後は、PC側の再生・録音デバイスがすべてTF-FS22M-Rに統一されてしまうため、PCの効果音、Windows Media Playerの音楽など、あらゆる音がTF-FS22M-Rから出力されてしまうからだ。もちろん、スピーカーの代わりとして使うことも考えられるが、音楽などの音質は決して褒められたものではない。
やはり理想は、通常のオーディオ出力はPCのスピーカーで、Messengerの音声チャットはTF-FS22M-Rでと使い分けることだ。このため、ちょっとした設定変更が必要になる。
まずは、Windowsのコントロールパネルで、標準のオーディオデバイスをPCのサウンドカードなどに戻す。その後、Windows Messenger、またはMSN Messengerを起動し、「オーディオとビデオのチューニングウィザード」を使って、Messengerの再生・録音デバイスをTF-FS22M-Rに変更すればいい。これで、PCの効果音や音楽などは、もと通り、PCのスピーカーで再生され、音声チャットの再生、録音のみにTF-FS22M-Rが利用されるようになる。
効果音や音楽などを、PC側のスピーカーで再生するには、コントロールパネルでの設定変更が必要 |
コントロールパネルでの設定変更後、Messengerの「オーディオとビデオのチューニングウィザード」を実行すれば、音声チャットやビデオチャットのみをTF-FS22M-Rで再生可能 |
実際にMSN Messenger 6.1の音声チャットで利用してみたが、使い心地は通常の電話そのものといった感覚だ。Messengerでチャットの承諾さえしてしまえば、後はPCの存在すら忘れてしまうほど。音質は普通の電話とほぼ同レベルで、通常の使用にまったく支障はなかった。
もちろん、コードレスのメリットを活かして、家の中を移動しながら会話を楽しむこともできる。会話の最中に、ちょっとお茶を取りに行くなんてことができるのも、TF-FS22M-Rならではの芸当だろう。PCの前にへばりついて会話をしなければならないヘッドセットなどとは雲泥の違いだ。試しにWebカメラを利用してビデオチャットもしてみたが、その感覚は、まさにテレビ電話だった。唯一の難点は、機器側の音量設定が2段階しかないことだが、PC側でうまく音量を調整すれば、適切な音量や音質を得られる。
MSN Messengerのビデオチャットで利用。利用感覚は普通の電話そのもので、音質も良好だった |
正直、Messengerの音声チャットやビデオチャットをまじめに使ったことがなかったが、これなら使ってもいいと感じさせるほどの快適さであった。電話の世界は急速にIP電話への移行が始まっているが、音声チャットも悪くはないと見直させられた。
なお、音声チャットの利用中でも、TF-FS22M-Rで一般加入電話やIP電話の着信を受けることも可能だ。チャット中に、電話がかかってくると、受話器のスピーカーから呼び出し音が聞こえるので、一旦、PCツウワモードを抜け、普通に電話を受ければいい。
●利用可能なメッセンジャーソフトは限られる
とは言え、問題点もある。最も大きいのは、利用可能なメッセンジャーソフトが限られるという点だ。もちろん、TF-FS22M-Rの仕様上は、どのようなメッセンジャーソフトも利用できるが、前述したように、標準ではPCの再生・録音環境がすべてTF-FS22M-Rに統一されてしまう。Windows MessengerやMSN Messengerの場合は、アプリケーション側で利用するオーディオデバイスを選択できるので、用途によって使い分けることができるが、これができないメッセンジャーソフトも多い。
たとえば、Yahoo!メッセンジャーでは、音声チャットやビデオチャットにWindowsのコントロールパネルで指定されているデバイスしか利用できない。つまり、このようなメッセンジャーソフトでは、すべてのオーディオ再生にTF-FS22M-Rを利用するか、音声チャットなどを利用するときに、いちいちコントロールパネルで利用するデバイスを変更しなければならないわけだ。これは極めて都合が悪い。事実上、TF-FS22M-Rで利用可能なのは、Windows MessengerとMSN Messenger程度と考えた方がいいだろう。
また、これはTF-FS22M-Rの欠点ではないのだが、音声チャットなどの通話相手がなかなかいないというのも問題だ。確かに、TF-FS22M-Rを利用することで、音声チャットの環境は快適になり、とにかく誰かと音声チャットやビデオチャットを楽しみたくなる。普段から、音声チャットを楽しんでいる友人などがいればいいのだが、通常はPCにヘッドセットなどの環境を整え、いつでも会話可能な状態にしている人は極めて希だ。
音声チャットやビデオチャットは、相手がいて初めて意味があるものなので、そもそも通話できる相手がいないと話にならない。友人と示し合わせて、お互いにTF-FS22M-Rを買う、もしくは2台購入して、1台は離れた場所に住む家族などにあげるというように、相手先の環境も整えてあげないことには、実際に活用するまでには至らないだろう。それこそ、宝の持ち腐れになってしまう。
●価格が下がれば普及の見込みはある
このように、TF-FS22M-Rは、Windows MessengerやMSN Messengerの音声チャット(ビデオチャット)を頻繁に利用するユーザーにとっては非常に魅力的な製品だと言える。このほか、登録した上3桁を自動的に判別して、携帯電話やIP電話など、回線種別ごとに自動的にグループ分けする電話帳機能や、PCのサウンドを検出して呼び出し音を鳴らす機能(ダウンロードの終了などを知らせることができるが、すべての音に反応するため実用的とは思えないが……)なども備えられており、一般的な電話機と比べるとPCの世界との親和性は遙かに高い。
しかし、実際に買うかとなると、かなり悩んでしまう。前述したように、音声チャットは、相手がいてこその機能なので、チャット相手がいなければ買うメリットはそれほど高くないだろう。もちろん、Messengerのインターネット電話機能を使った一般加入電話への通話などでも利用できるが、IP電話が普及した今となっては、その魅力も薄れてくる。
しかも、TF-FS22M-Rの標準価格は19,000円と、安いとは言い難い。音声チャットを日常的に利用している場合でないと、この出費は決断できないだろう。音声チャットやビデオチャットを便利に利用できるのは確かなので、さらに価格が安くなり、誰もが気軽に購入できるようになれば、普及の見込みはあるかもしれない。
関連情報
2004/3/16 10:56
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