第97回:Super A/G対応に対応したAterm WL54TEで
家電ネットワークを高速化する



 NECアクセステクニカから、IEEE 802.11a/b/g準拠の無線LANアダプタ「AtermWL54TE」向けのSuper A/G対応ファームウェアがリリースされた。Ethernet接続タイプでIEEE 802.11a/b/gに準拠しているだけでも珍しい製品だが、これで速度面での強化も図られたことになる。早速、その実力を検証してみよう。





家電ネットワークの構築に最適

AtermWL54TE

 先日、ソニーのPSXでファームウェアがアップデートされた際、親類から「どうやってインターネットにつなげばいいの?」という相談を受けた。幸いADSLによるLAN環境(といってもPCが1台つながっているだけだが……)が存在したため、一時的に有線でつないでもらったが、いくら機器側がネットワーク機能をサポートしていても、必ずしもそれがつながれているとは限らないのだと痛感した一瞬だ。

 確かに、ネットワークにつながる家電は増えてきている。PSXもそうだが、HDD搭載DVDレコーダも一部の機種でネットワークに接続できるようになってきている。また、インターネットに接続して専用のコンテンツを閲覧できるテレビなどもあれば、PCに保存されている映像や画像をネットワーク経由で再生できるネットワークメディアプレーヤーなども存在する。

 しかし、これらをネットワークで接続しようとすると、配線の問題が立ちはだかりがちだ。物理的にケーブルの配線が難しいというケースもあるが、何よりケーブルを配線すること自体に抵抗があることが多いリビング中にケーブルがはい回るのを好ましいと思わない人も少なくないだろう。

 というわけで、筆者宅では、昔から家電系のネットワークはすべて無線化することにしている。以前は、バッファローのアクセスポイントを使ってWDS(アクセスポイント間通信)で接続していたが、昨年、NECアクセステクニカの「AtermWL54TE」に切り替えた。

 WL54TEの良いところは、まず小型であるという点だ。本体はタバコの箱を一回り大きくした程度で、VHSのビデオテープなどより小さい。このため、筆者宅では、多少電波状況が悪くなるのを覚悟しつつも、テレビ台の中に押し込んで使っている。ガラス張りのテレビ台で使うと、思いのほか明るく点滅するLEDランプがやや目立つが、ケーブルや機器などをすべてテレビ台の中に隠せるメリットは大きい。

 しかも、この製品はEthernet接続タイプとしては珍しく、IEEE 802.11a/b/gのすべての無線LAN規格に準拠している。5GHzの802.11aと2.4GHzの802.11b/gは切替え式だが、電波状況に合わせてどちらでも使えるのは大きな魅力だ。また、本体にはLANポートが2つ装備されており、同時に2台までの機器を接続できるメリットも大きい(ハブを接続すればそれ以上も可能)。個人的にはEthernet接続タイプの子機として現在、もっとも完成度が高く、個人的には家電ネットワークの無線化に最適な製品ではないかと考えている。





唯一の欠点を克服

 ただ、WL54TEの唯一の欠点を挙げるとすれば、転送速度があまり速くないということだ。もちろん、10Mbps後半から20Mbps前半の速度を実現できるので、PSXのファームウェアをアップデートするなど、普通に使うのに困ることはない。ただし、最近注目が集まっているネットワークメディアプレーヤーなどを利用する場合、8Mbps前後の映像を転送することも決して珍しくない。通常、映像の再生を快適に行なうには、ビットレートの1.5倍~2倍程度の通信速度が得られないと、映像品質が低下する傾向にある。電波状況が良ければ、WL54TEでも十分に対応できるが、そうでない場合はギリギリの線と言ったところだろう。

 しかしながら、この欠点もどうやら改善されそうだ。WL54TEも、3月上旬から配布が開始された新ファームウェアで、新たにSuper A/Gに対応することになった。以前、本コラムでAterm WR7600HのSuper A/Gをテストしたときは最大33Mbps前後の実効速度を得られたので、WL54TEでも大幅な速度向上が期待できそうだ。

 早速、テストしてみたのが以下の結果だ。さすがに処理能力の関係から、30Mbpsオーバーを実現することはできなかったが、SuperA/Gの適用で全体的に2~3Mbpsの速度向上が確認できた。もっとも高速なのは、やはり圧縮の効果が出やすいテキストファイルで最大26Mbpsだが、MPEG-2ファイルなどでも24Mbps前後の速度で通信ができている。Super A/G非対応のファームウェア、もしくはSuper A/Gオフのときよりも高速化されているのは確かだ。

通信方式SuperA/Gモード転送モードTEXT1
(20MB)
TEXT2
(24MB)
JPEG
(3.31MB)
MPEG-2
(110MB)
PDF
(3MB)
ZIP
(20MB)
IEEE 802.11aOFFGET22.91Mbps22.77Mbps22.61Mbps22.83Mbps22.74Mbps22.91Mbps
PUT23.83Mbps23.33Mbps24.39Mbps23.69Mbps24.43Mbps24.03Mbps
圧縮なしGET24.45Mbps24.52Mbps24.63Mbps24.42Mbps24.41Mbps24.49Mbps
PUT24.38Mbps24.92Mbps25.51Mbps24.06Mbps25.12Mbps24.46Mbps
圧縮ありGET26.42Mbps23.63Mbps20.91Mbps21.92Mbps23.78Mbps21.17Mbps
PUT24.07Mbps24.26Mbps24.83Mbps24.26Mbps25.36Mbps24.26Mbps
IEEE 802.11gOFFGET22.04Mbps22.67Mbps22.43Mbps22.58Mbps22.38Mbps22.46Mbps
PUT21.55Mbps22.44Mbps23.97Mbps22.26Mbps23.78Mbps22.51Mbps
圧縮なしGET24.07Mbps24.29Mbps24.18Mbps24.07Mbps24.19Mbps24.07Mbps
PUT25.04Mbps25.04Mbps25.51Mbps24.47Mbps25.58Mbps24.07Mbps
圧縮ありGET25.97Mbps23.31Mbps20.76Mbps21.68Mbps23.55Mbps20.03Mbps
PUT25.31Mbps24.29Mbps24.39Mbps24.16Mbps25.60Mbps22.43Mbps
※サーバー:Pentium4 1.8GHz RAM512MB、(Linux+ProFTPd)、クライアント:Celeron600MHz RAM512MB(Windows XP)
※TEXT1はすべての文字を「0」で埋めたテキストファイル
※TEXT2は本コラムの原稿をコピーして24MBにまでサイズを拡大したテキストファイル
※APにはWR7600Hを利用し、すべて128bitのWEPを設定して計測

テキスト、JPG、MPEG-2、PDF、ZIPという5種類のファイル(テキストは2種類用意したので実際は6種類)の転送速度を比較。SuperA/Gの効果を計測した

 Super A/Gの動作モードによる特性も以前、WR7600Hをテストしたときと同様だ。圧縮ありでは、テキストファイルなど圧縮効果が出やすいファイルは高速化されるが、すでに圧縮されているファイルの転送は逆に速度が低下してしまう。普通に使うのであれば、圧縮なしに設定して、フレームバースティングと無線通信の最適化を行なうだけで十分だろう。

 ちなみに、WL54TE側では、Super A/Gの設定は一切必要ない。アクセスポイント(WR7600H)側でSuperA/Gの動作モードを設定すれば、それに自動的に追従したモードで通信できる。ユーザーが行なわなければならないのは、Super A/G対応ファームウェアへの書換えだけだ。


WL54TEの設定画面。SuperA/Gの設定はアクセスポイント側に自動追従するため、特に設定を行なう必要はない




遮蔽物ありの環境での特性も優秀

 さらに、今回は単純な速度計測だけでなく、遮蔽物がある環境でのテストも実施してみた。筆者宅は1Fの仕事場に回線の引き込み口があり、リビングは2Fという構造になっている(木造住宅で、床1枚とドア2枚で隔てられている)。このような環境で速度がどのように変化するのかを計測してみた。

 結論から言えば、かなり優秀だ。もちろん、このようなテストは建物の構造に大きく左右されるので、あくまで参考程度に考えて欲しいが、以下の表とグラフのように、1Fの遮蔽物なしの環境と遮蔽物が存在する2Fで、ほとんど速度の差が見られなかった。

通信方式圧縮GET/PUT値TEXT(20MB)ZIP(20MB)
1F2F1F2F
IEEE 802.11aOFFGET23.01Mbps22.18Mbps22.97Mbps21.38Mbps
PUT23.83Mbps24.24Mbps24.03Mbps22.77Mbps
ONGET26.30Mbps26.47Mbps21.10Mbps20.93Mbps
PUT25.19Mbps25.27Mbps24.26Mbps24.43Mbps
IEEE 802.11gOFFGET22.25Mbps22.46Mbps22.32Mbps22.24Mbps
PUT22.76Mbps20.58Mbps22.51Mbps20.23Mbps
ONGET26.18Mbps26.34Mbps20.88Mbps20.12Mbps
PUT25.31Mbps25.23Mbps22.43Mbps23.03Mbps

1Fにアクセスポイントを設置し、1Fと2Fの両方で速度を計測。遮蔽物がある環境での速度を計測してみた。グラフは見やすくするためにGETの値のみを抽出している

 ただし、これはSuperA/Gの恩恵というより、外付けアンテナを備えるWL54TEの電波特性の良さかもしれない。しかし、1Fと2Fでここまで速度差がないとは正直驚いた。ちなみに、グラフ上では、IEEE 802.11aでSuper A/Gを使わないときにあった1Fと2Fの速度差が、SuperA/Gをオンにすることで差が無くなっているという面白い特性が見てとれるが、これは誤差と考えたほうが良いかもしれない。遮蔽物がある環境でも20Mbpsオーバーの実力なら、実用上、まず困ることはないだろう。





現段階では良い選択

 以上、Super A/Gに対応したWL54TEをテストしてみたが、全体的に見れば2~3Mbpsほどの速度向上なので、実用上大きく影響することはないかもしれない。

 しかし、この製品の魅力はその完成度の高さだ。前述したように遮蔽物がある環境でのテスト結果は優秀で、他社製品にはないIEEE 802.11a/b/g準拠、2つのLANポート装備という機能的な優位性も備えている。しかも、Aterm WR7600Hとのセット製品の場合、WEPによる暗号化が設定済みで出荷されるという手軽さもある。

 今回はSuper A/G対応ファームの登場ということで、速度を中心に製品をレビューしたが、実質的には速度以外の魅力の方が大きい製品だろう。現段階で、家電ネットワークの無線化やデスクトップPCの無線化を考えているのであれば、かなり良い選択の製品と言えそうだ。


関連情報

2004/4/13 11:24


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。