第107回:エニーミュージック徹底解剖 その3
インターネット機能はどこまで使えるか?
これまで2回に渡って紹介してきたエニーミュージックと対応オーディオ機器。最後は、ブラウザやメールなどのインターネット機能について検証してみる。果たして、オーディオ機器にブラウザやメール機能などを搭載したメリットはどういうものだろうか?
●オマケ的な存在のブラウザやメール機能
これまで、シャープ製のエニーミュージック対応端末「SD-AN1-S」のオーディオ機能を主に見てきたが、このほかにもエニーミュージック対応機器には、オーディオ機器としては少々特殊な機能が搭載されている。ブラウザやメールといったインターネット関連の機能だ。
ただ、結論から言えば、おそらくこれらの機能を使う機会はあまりないだろう。ブラウザはインターネット上のサイトをひと通り表示することができるが、解像度が低く(640×480のVGAだがページの表示エリアはさらに狭い)、リモコンでのURL入力や操作も煩雑だ。
インターネット上のWebページを表示できるが解像度は低い |
今やテレビなどの家電にブラウザが搭載されることも珍しくなくなったが、やはりPCでの閲覧を前提としたページをそのまま表示するのは難しい。インターネット対応テレビなどは独自のポータルサイトを構築し、そこから専用のコンテンツを提供するというスタイルが採用されているが、これと同様のアプローチが必要だと感じた。もちろん、独自コンテンツの場合、内容を充実させることが難しいという欠点があるが、個人的にはPC向けのサイトを解像度の低いブラウザで見るよりは良いのではないかと思う。
一方、メールに関しては、携帯電話のメール機能と同等と考えればいいだろう。PCのメールソフトに比べれば機能は簡易だが、フォルダによるメールの分類、アドレス帳、添付ファイルの表示(GIFやJPEGなどの画像)などが可能となっており、必要最低限の機能は備えている。リモコンでの文字入力も携帯電話と同じイメージなので、それが苦にならなければ、普通に使うことができる。
エニーミュージック端末に搭載されているメール機能。イメージとしては携帯電話のメール機能と同等と考えればいい | 届いたメールを確認する程度の利用であれば十分な機能。フォルダでの分類、アドレス帳、添付ファイルの表示(GIFやJPEG)なども可能 |
ただし、メールの受信はファンクションをメールに切り替えたタイミングでしか行なわれない。このため、最新のメールをチェックするにはいちいちファンクションを他の機能に切り替えて、再びメールに戻すという操作が必要になってしまう。
また、ブラウザやメール機能などを音楽を再生しながら利用することもできない。音楽を楽しみながらWebページを見たり、メールをチェックするという使い方なら大いに賛成したいところだが、そうでないならPCを起動した方がはるかに効率的だ。あくまでもオマケ的な機能だと考えておくべきだろう。
●自動設定ルータの利用も可能
なお、ここで紹介したブラウザやメール、そしてエニーミュージックのサービスを利用するためにはブロードバンド環境を構築しておく必要があるが、このために便利なサービスも一部で提供されている。
シャープが運営しているブロードバンド向けプロバイダー「BBスペースタウン」が提供する、エニーミュージック端末を簡単にインターネットに接続することができるモニターサービスがそれだ。
モニターサービスの内容は大きく分けて2つある。ひとつはBBスペースタウンのフレッツ・ADSL向けブロードバンド接続サービスの接続料金が最大6カ月間無料になるというもの。そして、もうひとつが自動設定ルータ「SEIL」がモニター価格(事務手数料の3,675円のみ)で最大6カ月貸し出されるというものだ。単にルータが貸し出されるだけであれば、特に珍しくはないが、「自動設定」に対応している点が特徴だ(同社のエニーミュージック端末「SD-AN1-S」に同梱されている申込書で申し込む)。
自動設定ルータとして貸与されるSEILシリーズ。つなぐだけで自動的にインターネット接続の設定が行なわれる | 背面には4つのポートを装備。左2つが管理用のシリアルポート、右2つがLAN0、LAN1ポートとなる。LAN0がPCやエニーミュージック対応機器を接続するLANポート、LAN1がADSLモデムなどを接続するWANポート |
実際、このルータを利用してみたが、本当に回線を接続するだけでインターネットを利用することができた。通常のルータでは、ユーザーIDやパスワードなどの設定が必要だが、この機種では一切不要だ。
もちろん、はじめからBBスペースタウンのユーザーIDやパスワードが登録されているわけではない。インターネット経由で自動的に設定されるのだ。これにはIIJの技術であるSMF(SEIL Management Framework)という仕組みが利用されている。これを簡単に説明すると以下の図のようになる。
シリアル番号を識別子として、ネットワーク上のiSUP、uSUPサーバーと情報をやり取りし、ISPのPPPoE設定を自動的に取得する |
要するに、設定用のPPPoE設定がはじめから登録されており、機器固有のシリアル番号を識別子としてインターネット上の設定サーバー(iSUPサーバー:Initial-Config SEIL Update Protocol)に接続。このサーバーで、実際に接続するISPに設置されたuSUPサーバー(User-Config SEIL Upgrade Protocol)への接続情報を取得する。uSUPサーバーへの接続情報を得たルータは、実際にISPのuSUPサーバーに接続し、そこに保存されているユーザーIDやパスワードなどのConfigurationデータを取得し、接続設定が完了するというものだ。
これにより、PPPoEの設定などがすべて自動的に行なわれ(アップデートなども自動的に行なわれる)、ユーザーはルータを回線につなぐだけで利用できる。ほかにもルータの自動設定を行なうサービスはあるが、これは出荷時にユーザーの設定を登録するというものだ。これと比較すると、設定の手間やコストをうまく省いた非常によく出来た仕組みと言って良いだろう。エニーミュージックを利用したいが、ルータを新たに購入して設定するのは面倒というような場合に最適なサービスだと言える。
ただし、自動設定を前提としているだけに自由度は低い。設定はTELNETのみがサポートされているが、貸し出された製品ではこれもできないように制限されている。もちろん、最低限のセキュリティ設定などは行なわれているが、特定のポートを開けるなどといった使い方はできない。
また、スループットも高くはない。試しにBフレッツ・ニューファミリー環境で測定してみたところ、下りのスループットは3.5Mbps前後だった(編集部注:BBスペースタウンでエニーミュージック向けに提供しているルータ「SEIL」は、音楽ダウンロードに際して必要十分な帯域に制限されており、そのためスループットも抑えられています)。もともとADSLでの利用を前提にしているためそれほど高いスループットは必要ないのかもしれないが、最近のルータと比較すると大幅に低い値だ。ルータの設定を自分で行なったり、なるべく高速なネットワーク環境を構築したいというユーザーにはあまり向いていないと言えるだろう。あくまでも、ルータの設定に自信のない初心者向けの製品だ。
●第2世代の製品に期待
以上、エニーミュージックのサービスと対応機器について3回に渡って紹介してきたが、印象としては、いかにも第1世代のサービス、製品といった印象だ。音楽配信サービスが利用でき、オーディオとして最低限の機能も備えているが、細かな部分で未完成と思える点があり、ユーザーのやりたいことに応えきれていないという印象がある。
また、おそらく仕様が細かく指定されているのだろうが、メーカーごとの特色が薄い点も残念なところだ。ソニー製の製品では同社のVAIOと連携できる(VAIOに保存されている音楽ファイルをストリーミング再生可能)機能が搭載されているが、他社メーカーの製品にはこれといった特色が見えない。最低限の仕様のみを規定し、インターフェイスや付加機能などを各メーカーが自由に作り込めるようにした方がいいのではないかと感じた。今後本コラムで触れた点が解消され、メーカーごとの特色を出した低価格な商品が発売されることを期待したいところだ。
とは言え、エニーミュージックの登場によって、音楽配信がより身近な存在になったことは確かだ。今後、第2世代、第3世代へとサービス、機器ともに進化していけば、誰もが当たり前のようにインターネットから音楽をダウンロードする時代も、そう遠くない将来に訪れることだろう。
関連情報
2004/6/29 11:07
-ページの先頭へ-