第120回:ようやく現実的になってきた無線IP電話
日立電線に無線IP電話の現状を聞く



 日立電線から、無線LANに対応したIP電話端末「WIP-5000」が通信事業者向けに発売された。発売(2004年4月)から数カ月が経過したことになるが、その後の状況はどうなっているのだろうか? 日立電線に話をうかがった。


無線IP電話は端末の完成度がカギ

 TTCによって、無線LANによるIP電話の通話品質評価に関する留意事項が制定されたことにより、ようやく無線版のIP電話が本格化しそうだ。これまでにもNTTブロードバンドプラットフォーム(NTT-BP)がVoIPトライアルを実施するなど、無線LANによるIP電話が何度か話題になったことがあったが、いずれも正式サービスが見送られていたが、ようやく実際のサービスが動き出しそうだ。

 しかし、仮にサービスが本格化したとしても、それによってユーザーを獲得できるかどうかは、また別の問題だろう。以前、本コラムでも取り上げたが、たとえばNTT-BPのサービスなどでは、サービス品質には問題ないものの、端末の完成度は高いとは言いがたかった。

 もちろん、ユーザーは無線IP電話によって通信コストが下がることを一番に期待するだろうが、それにもまして重要なのは端末の完成度だ。方式が異なっていても、ユーザーはどうしてもカラー液晶やカメラ付きといった現状の携帯電話と比較してしまう。企業向けの内線システムであればそれほど多くは求められないかもしれないが、コンシューマー向けのサービスで成功を収めようと思うのであれば、端末の完成度は欠かせない重要な要素の1つとなるだろう。


改良を重ねたWIP-5000

日立電線製のIEEE 802.11bに準拠した無線IP電話端末「WIP-5000」

 このような状況を考えると、実働する無線IP電話端末の中で、もっとも大きな期待ができるのが、日立電線の「WIP-5000」だ。液晶がモノクロであるなど、携帯電話に比べればまだまだ足りない部分もあるが、これまでにNTT-BPやlivedoorなどによって扱われていた端末に比べればはるかに高機能と言えるだろう。

 WIP-5000は、発表からかなりの期間が経過しているが、その間にも着実に改良が加えられてきた。日立電線の人事総務本部 総務部広報グループの秋山氏に話をうかがったところ、「これまでオプションだった大容量バッテリーを標準採用したほか、ファームウェアの見直し(802.11のパワーセーブの採用)などにより、待ち受け時間を従来の35時間から55時間へと伸ばした」とのことだ。

 また、新機能もかなり追加されたという。たとえば、新たに「ダイナミックネットワークバインディング」と呼ばれる機能が追加された。この手の端末で面倒なのは、なんと言っても利用する場所に応じて接続設定を変更しなければならないことだ。たとえば、企業で利用する場合、本社なのか支店なのか、工場なのかで、設定をいちいち変更しなければならない。端末のキーを使って、ESS-IDやWEPキーなどを設定するのは、思った以上に面倒なものだ。

 これを避けるために、本体に複数のコンフィグ情報を保持できるようにし、利用場所に応じて自動的に設定を変更することを可能にした。秋山氏によると、「現状は3つのコンフィグを持てるが、将来的には5~6にまで拡張したい」ということだ。さらに、大量導入のために、設定情報をPCから書き込んだり、TFTPサーバーを利用して設定をダウンロードする機能、ネットワーク経由で強制的にファームウェアをアップデートする機能なども追加されている。

 これまでの無線IP電話端末は、単に音声通話ができるだけであったが、WIP-5000では実際の利用や導入シーンが想定され、それに必要な機能がきちんと搭載されているというわけだ。実際に利用しているユーザーもすでに存在しており、規模の大きなところでは1社で350~400台を利用しているケースもあるという。


クレードルに装着してPCとも連携背面は大容量バッテリーを標準採用したためやや厚みがある

プレゼンス機能で「IP電話にしかできないことを追求」

Windows Messengerと連動できるプレゼンス機能

 新機能というわけではないが、このほかに注目したいのがWIP-5000のプレゼンス機能やショートメッセージ機能だ。これは無線IP電話版のメッセンジャーだと考えればいいだろう。端末側でステータスを変更することが可能となっており、たとえば「会議中」などといった状況やユーザーが今いる場所を設定することで、それを他のユーザーに通知することができる。

 また、他のユーザー(内線番号を指定)にショートメッセージを送信することも可能だ。Windows Messengerとの連携も可能となっており、Messengerのリアルタイム通信サービスを利用して、PCからメッセージを送る機能も搭載されている。会議中に来客や電話があったことなどを手軽にメッセージで相手に送信したい場合などに非常に便利だろう。

 こういった機能は、デスクの上に固定されている内線電話では到底考えられない。IP電話というと、現状はどうしてもコスト削減にばかり注目が集まってしまいがちだが、同社秋山氏の「IP端末だからこそできることを追求したい」という言葉の通り、これまでの電話ではできなかった付加価値を与えることが非常に重要だ。もちろん、コストの削減は重要だが、電話端末をいかに便利に使えるかという点が、今後の重要なポイントとなってきそうだ。


050番号での利用も可能に

 WIP-5000は、もともと企業向けの製品ということもあり、現状は端末に内線番号を割り当てる利用方法が一般的だ。しかし、これ以外に端末に050番号を割り当てるという使い方ももちろん可能だ。同社に話をうかがったときは、前述したTTCの留意事項が制定されたばかりの段階であったため、「将来的には」という話に留まったが、すでに状況が変わりつつある。

 9月16日にフュージョン・コミュニケーションズが、050番号を利用した初のモバイルIPセントレックスソリューションの開始を発表したが、このサービスで採用されているのがWIP-5000だ。これまでは内線端末としてしか利用できなかったが、ようやく050番号を利用した本格的なサービスも見えてきたことになる。

 このほか、NTT-BPでもWIP-5000を採用したサービスを検討していることなどもあり、一般的なユーザーにも身近な存在になりつつある。コンシューマー向けのサービスはすぐ開始されるという状況ではないものの、実際に利用できる日もそう遠い先のことではないと思われる。

 ただ、仮にコンシューマー向けのサービスが開始され、ホットスポットなどでの利用が可能になると、競争相手は、これまでの固定電話から、携帯電話ということになる。そうなると、残念ながら端末としての魅力に欠ける部分も多いのも事実だ。もちろん、現状のWIP-5000は企業向けの端末ではあるが、コンシューマー用途を意識したさらに高機能な端末が登場してくることを望みたいところだ。


関連情報

2004/10/12 10:06


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。