第121回:IEEE 802.11g準拠の無線LANを内蔵したプリンタ
キヤノンのPIXUS iP4100Rで無線プリント環境を構築する



 キヤノンから、無線LAN機能を搭載したカラーインクジェットプリンタ「PIXUS iP4100R」が登場した。同様に無線LANに対応した製品はこれまでにも存在したが、iP4100Rでは対応する無線LAN規格がIEEE 802.11gへと進化しているのが特徴だ。この手のプリンタで問題になりがちなセットアップの難易度を中心に、その機能を検証してみた。





あらゆる意味で設置場所を選ばない

PIXUS iP4100R

 iP4100Rに限らず、今回、キヤノンから発表された新しいiPシリーズは、そのデザインが非常に特徴的だ。光沢のあるブラックを基調としたスクウェアな姿は存在感があり、かなりスタイリッシュに感じる。さすがに、前面と上部の給排紙トレイを引き出すと、プリンタらしさを感じることができるが、これらを格納した状態では、一見しただけではプリンタだとは思えない。

 もしも、この製品がリビングに置いてあったとしたら、遊びに来た友人は「これ何?」と興味を示すことだろう。

 実際、iP4100Rをリビングに設置するというのも、あながち非現実的なことではない。なぜなら、この製品にはIEEE 802.11gに準拠した無線プリントサーバー機能が内蔵されており、実質的に接続するケーブルは電源だけでいいからだ。これまでのプリンタは、デザインがいくらスタイリッシュであろうと、実際の利用を考えるとPCの側に設置し、ケーブルを接続しなければならなかった。しかし、iP4100Rであれば、これが必要ないわけだ。

 デザイン上の観点でも、実質的な利用という観点でも、あらゆる意味で本当に設置場所を選ばないプリンタと言っていいだろう。





初期設定時はUSB接続が必要

 とは言え、使い勝手が良くなければ購入も躊躇される。このあたりの完成度はどうなのだろうか?

 結論から言えば、完璧ではないが、悪くはない完成度だと思えた。付属のCD-ROMをPCにセットすると、インストーラーが起動し、ドライバや各種ユーティリティのインストールが開始される。その後、セットアップユーティリティが自動的に起動し、プリンタとPCの初期設定を行なうことができる。

 無線LAN環境で利用するには、PCにプリントサーバー用のドライバーをインストールしたり、アクセスポイントに接続するための情報(SSIDやWEPキー)を本体に登録しなければならないが、これら一通りの作業を付属のユーティリティで行なえるわけだ。


付属CD-ROMのユーティリティ。ドライバ、ソフトウェアのインストールや初期設定などを一括して行なうことができる

 ただし、標準ではプリンタとPCをUSBで物理的に接続して、初期設定を行なう仕様になっている。ネットワークの設定がはじめから登録されていることは考えられないので、当然と言えば当然なのだが、USBでの接続というのはあまり歓迎できない。せっかく、PCと離れた場所に設置できるプリンタなのに、USBではケーブルの長さに限界があるため、一旦、PCの近くに設定して(もしくはPCをプリンタの側に持ってきて)、セットアップしてから、再び別の場所に運ぶ必要がある。これは、意外に面倒なものだ。


標準では、ネットワークで利用する場合でも、一旦、USBで物理的に接続する必要がある

 よって、個人的には、有線LANでプリンタを接続してセットアップした方が楽だと感じた。と言っても、ユーティリティから有線LANで直接設定することはできない。このため、はじめに有線LANの設定を手動で行なってから、ユーティリティを使って設定するという方法が必要になる。iP4100RにはHTTPサーバー機能が搭載されているので、有線LANで接続したPCからブラウザでiP4100RのIPアドレスにアクセスする。これで設定ページを表示することができるので、無線LANのSSIDやWEPキーなどを一通り設定しておく。


ブラウザで設定を行なうことも可能。有線LANや無線LANの設定を直接変更することができる

 この状態で、前述したように付属のCD-ROMからユーティリティを起動し、セットアップ方法で「パソコンのみセットアップする」(通常はセットアップ済みのプリンタに2台目のPCを接続するときに選ぶ設定項目)を選べば、USBで接続しなくても、プリンタのセットアップを行なうことができる。iP4100Rに付属のUSBケーブルは3m前後と短いので、このケーブルが届かない環境では有線LANでセットアップした方がいいだろう。


有線LANで初期設定をすませておけば、ネットワーク経由でもユーティリティで設定可能。本来は2台目のPCを設定するときに利用する方法だが、初期設定にも利用できる

 ただし、iP4100Rに初期設定されている有線LAN側のIPアドレスが「192.111.111.4」となるため、PC側に同じサブネットのIPアドレスを設定(追加でもかまわない)しておく必要がある。せめて、DHCPでIPアドレスを取得し、セットアップユーティリティで自動的に検索できるようにしてほしいものだ。

 しかし、この手のプリンタのセットアップ方法は、もう少し簡単にならないものかと常々感じている。確かに初期設定でネットワークの情報が存在しないのだから、USBや有線LANで物理的にプリンタを接続するのが確実ではある。また、物理的な接続が必要なのは初期設定のみで、2台目以降はネットワーク経由で設定できるので、はじめだけガマンすればいいという考え方もできる。

 しかし、最近のプリンタは、ダイレクトプリント向けにメモリカードスロットやUSBポートなどを装備していることも多い(iP4100Rはカメラダイレクト用のUSBポートを装備)。これを活用して、PC上でネットワークの設定情報をメモリカードやUSBメモリなどに書き出すユーティリティなどを作成し、それをプリンタに接続することで設定を自動的に適用できるようにすることなどもできそうなものだ。

 どうも、ネットワークや無線LANで使うのは、ハイエンドユーザーとばかり考えられがちで、何とか簡単で、便利に設定できるような工夫がなかなかなされないのは残念なところだ。





印刷はスピーディでストレスなし

 実際の印刷は、IEEE 802.11gに準拠しているだけあって、速度的な不満などはない(印刷時間の方が長いので、転送速度はあまり問題にならないが……)。試しにデジタルカメラで撮影した画像を印刷してみたが、品質も確かにキレイだった。本体下部に給紙カセットを搭載していたり、標準で両面印刷などができるのも大きなメリットだ。

 欲を言えば、メモリカードスロットを搭載してほしかったところだが、価格を考えれば、あまり多くを望むのも酷だ。iP4100Rの実売価格は32,800円と比較的安い。プリンタ本体とプリントサーバーの両方を別々に購入することを考えると、かなりお買得と言って良いだろう。

 リビングなど、PCとは離れた場所にプリンタを設置したいというユーザーには、おすすめできる製品と言っていいだろう。


関連情報

2004/10/19 10:53


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。