第137回:携帯型IP電話端末や無線LAN対応FOMA「N900iL」と連動できる
IP電話機能を搭載したアイコムの無線LANルータ「SR-5200VoIP2」
アイコムから、IP電話機能を搭載した「SR-5200VoIP2」とIEEE 802.11b準拠の無線IP電話機「VP-43」が登場した。SR-5200VoIP2に搭載された「簡易サーバー(SIP)」を利用することで、無線IP電話機を子機として利用できる。早速、その実力を検証してみよう。
●低価格で本格的なIP電話システムを構築可能
これまで、無線によるIP電話システムを構築する場合、端末や呼制御に利用する機器が高額といった理由から、多額の初期投資を避けられなかった。もちろん、大規模な企業であれば、初期投資を通話料で回収することもできるが、数十~数百人規模の中小企業では、回収は難しいだろう。
このような状況の中、アイコムから発売されたのが、IP電話機能を搭載した無線LANルータ「SR-5200VoIP2(IEEE 802.11a/b/g切替え式)」と無線IP電話機の「VP-43」だ。フュージョン・コミュニケーションズのIP電話サービスに対応しており、利用する端末の台数にもよるが、十数万~数十万円程度の低コストで無線IP電話環境を構築できる(SR-5200VoIP2が6万円前後、VP-43が3万円前後)。
IP電話機能搭載の無線LANルータ「SR-5200VoIP2」と無線IP電話機の「VP-43」。組み合わせて利用することで、無線IP電話環境を構築できる |
無線IP電話と言っても、端末となるVP-43に直接050番号を割り当てるわけではない。では、どのように無線IP電話環境を実現するのかというと、電話機を内線電話として利用する仕様になっている。具体的には、親機側となるSR-5200VoIP2に搭載されたSIPの簡易サーバー機能を利用し、VP-43からSR-5200VoIP2のSIPサーバーに接続する。これで、VP-43には内線用の番号が割り当てられることになる。
簡易サーバ機能により、子機を収容することが可能。プロバイダーのIP電話サービスを中継できる |
もちろん、これだけでは端末から外線の発信や着信ができないので、プロバイダー(フュージョン・コミュニケーションズ)のIP電話サービスを併用する。要するに、SR-5200VoIP2の簡易サーバー機能がIP電話の中継を行なうことで、VP-43からIP電話が利用できるというわけだ。理想を言えば、端末ごとに050番号を割り当てたいところだが、無線LANを介した050番号の割り当てが困難な現状の解決策としては理想的だろう。
なお、SR-5200VoIP2には、複数の050番号を割り当てることも可能となっているため(フュージョン・コミュニケーションズのサービスでは050番号を複数取得可能)、複数の回線を利用したり、グループ分けした内線電話に各外線を割り当てることなども可能だ。また、SR-5200VoIP2は1台につき、最大18系統の子機からの同時通話が可能となっているが(推奨は6台までの接続)、複数台のSR-5200VoIPを併用することにより、より多くの子機を利用することもできる。基本的には小規模オフィスやSOHOをターゲットにした製品だが、場合によっては大規模なシステムでの運用も可能だ。
●初期設定には多少の苦労が必要
実際に利用してみた印象としては、初期設定が多少難しいと感じた。インターネットへの接続、無線LANの設定までは、一般的な無線LANルータと変わりないのだが、SIP関連の設定には慣れが必要だ。
特に最近の個人向けIP電話サービスは、SIPの設定が自動的に行なわれる場合が多い。このため、SIPサーバーやSIPドメインなどといった用語が突然登場すると、設定に迷ってしまった。子機の登録も、当然、家庭用の電話のようなイメージで即使用可能というわけにはいかず、端末ごとに内線番号やグループ番号(一斉呼び出しで利用)、認証用のIDやパスワードなどを登録しなければならない。
IP電話を利用するための設定には慣れが必要。また、子機を収容するための設定も必要になる。初めての場合は多少設定が難しいと感じるだろう |
中小規模のオフィスなどでは、パソコンに詳しいユーザーが構築を担当することになると思われるが、それでもSIP関連、もっと言えば電話関連の設定の経験者は少ないことだろう。付属の取扱説明書には、これらの手順が詳細に解説されているのだが、やはりある程度の予備知識がないと設定は難しい。できればもう少し簡単、かつ簡潔に説明してほしいところだ。
さらに、子機側の設定も手間がかかる。SR-5200VoIP2の設定後は、その設定内容に従って、子機側(VP-43)にも設定を登録しなければならない。VP-43は日本語表示に対応するなど、機能的には充実した子機だが、入力操作にクセがあり(文字種選択が上下で、文字クリアが切断ボタンなど)、設定にはそれなりに時間がかかる。数十人規模の小規模オフィスであれば、機器を買ってきて自分で設定することも不可能ではないが、数十台の子機を設定するとなると大仕事になるだろう。
日本語表示にも対応した無線IP電話機器「VP-43」。入力に多少クセがあるため、初期設定には多少の時間がかかる |
ちなみに、子機としては、VP-43以外にNTTドコモのFOMA N900iLも利用可能となっている。N900iLの場合、プロファイルを利用して複数の設定を切替えられるようになっていたり、プレゼンス機能やIM(インスタントメッセージ)機能も備えている(SR-5200VoIPをサーバとして利用可能)。入力なども携帯電話で親しんだ方法で行なえるので、場合によっては、こちらの端末も候補として検討すべきだろう。
NTT DoCoMoのFOMA N900iL。SR-5200VoIP2の子機として利用できる。プレゼンス機能やインスタントメッセージの送信など、非常に多機能 |
●無線でIP電話の新しいスタイルを確立できるか?
音質に関しては、まったく問題ないレベルだ。もちろん、今回のテストでは、接続した端末数が少なく(3台接続でテスト)、無線LANの電波状態も良好な場合となるが、印象としては有線のIP電話とほとんど同じだった。
使い方も簡単で、SR-5200VoIP2に設定した内線番号をダイヤルすれば、相手を内線で呼び出せるうえ、普通に電話番号をダイヤルすれば外線を使って電話をかけられる。VP-43に関しては、日本語の電話帳も利用できるため、一般的な使い方に関しては何の問題もない。携帯電話などに比べると、メニュー周りが洗練されていない印象があるが、企業内の電話として考えれば十分だろう。
現段階では、利用できるIP電話サービスが「FUSION IP-Phone」に限られているが、近日中に「OCNドットフォンオフィス」への対応も予定されている。欲を言えば、もう少し、個人向けのサービスに対応して欲しいところだが、OCNドットフォンオフィスで利用できるようになれば、利用可能なユーザーの範囲も広がるだろう。
直収サービスなどが登場してきた今、050番号を利用したIP電話サービスは、1つの岐路に立たされたとも言える。単に通話料が安いというだけでは、ユーザーへの訴求は今後難しくなっていくだろう。そう考えると、本製品で実現できる無線IP電話は大きな魅力の1つだ。さすがに個人で使うには機器の価格が高いが、SOHO、個人事業主といった環境では、十分に購入を検討する価値はある。これから、電話システムのリプレースを考えているユーザーに適した製品と言えそうだ。
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2005/3/1 11:03
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