第143回:固定電話の番号のままでIP電話が利用できる
NTT東日本の「ひかり電話」で電話もネットも光ファイバに



 Bフレッツを利用したNTT東日本のIP電話サービス「ひかり電話」が開始された。プロバイダーで提供されている一般的なIP電話と異なり、0AB~J番号の利用が可能で、固定電話の番号をそのまま利用できるのが特徴だ。実際に筆者宅で導入してみたので、その使用感をレポートしよう。





なかなか馴染めない050番号

 いまだに電話をかけると、表示された番号を見た相手から「誰かと思った」と言われることがよくある。もはや説明するのも面倒なので、「気にしないで」と言うことにしているが、050という番号の認知度の低さを実感させられる瞬間だ。

 最近、個人的な友人からこんな話も聞かされた。IP電話を使うようになって通話料がかなり安くなったので、思い切って、固定電話を解約しようと奥さんに相談したそうだ。思い切った判断ではあるが、携帯電話を併用すれば、固定電話からかけられない番号があっても事実上差し支えはないだろう。悪くはない決断だ。

 しかし、この提案はあっさり却下されたという。IP電話だけにしてしまうと、電話番号が050番号のみになってしまう。この番号をほかの人に見られるような名簿に記載することに抵抗がある、というのが最大の理由らしい。前述のように050番号の認知度が低いことを考えると、050番号をメインで利用するのに抵抗を感じるのも仕方のないことかもしれない。

 実際のところ、IP電話の通話料は魅力だが、現状は発信が主な目的だろう。固定発IP電話着の料金が微妙な位置づけ(10.92~11.34円/3分と、長距離では安いが市内は逆に高くなる)に設定されていることもあるだろうが、それ以上に050番号自体が認知されていないのが現状だ。せっかく050番号が割り当てられていても、それがあまり使われていないというのは少々さみしくも感じる。

 しかし、このような状況も徐々に改善されつつある。すでにKDDIなどではサービスを開始していたが、NTTもついに0AB~J番号(固定電話と同じ03や06ではじまる番号)を利用したIP電話サービス「ひかり電話」を開始した。現状はBフレッツでの利用のみに限られているが、これで既存の電話番号を活かしつつ、IP電話を利用できる環境が整ったことになる。





書面での申し込みや工事、機器の設置が必要

 といわけで、筆者宅も早速、ひかり電話を申し込んでみた。簡単に申し込みから開通までのフローを紹介しておくと以下のようになる。


申し込みから開通までのフロー。一部書面による手続きが必要で、回線工事や電話の切り替え工事なども必要になる

 申し込み自体はWebから手軽に行なえるが、一部は書面でのやり取りが必要だった。ひかり電話の申し込み自体も書面から手続きを行なうが、このほか既存の固定電話で利用していた番号をひかり電話に移行するためのポータビリティの申し込み、さらに明細をWebで確認できるようにする場合は「@ビリング」への申し込みが必要になる。

 記入例が送られてこなかった上に、電話回線の回線名義人の名前が必要になるなど、手続きに際して注意すべき点もいくつかあり、少々手間取ってしまった。電話で問い合わせして、質問しながら記入した方が確実だろう。

 書類を返送すると、しばらくたってから工事日の調整が行なわれる。筆者宅の場合、Bフレッツはすでに導入済みだったが、これがニューファミリータイプであったため、回線をハイパーファミリータイプに切り替える工事、さらにアナログ回線の番号をひかり電話に切り替える工事の2つが必要となった。回線の切り替え(もしくは新設)は立ち会いが必要だが、電話の切り替えは局側のみの工事となるため、立ち会いは基本的に不要だ(開通確認のための電話連絡は入る)。

 なお、ひかり電話を利用するためには、専用のルータが必要になるが、これはレンタルで提供される。回線工事日を目安に宅配便で送られてくるので、電話の切り替えまでに設置しておく必要がある。接続イメージは以下の通りだ。


ADSL+IP電話から、Bフレッツ+ひかり電話に切り替える場合の例。ひかり電話対応ルータ「WBC V110M」でルータ、IP電話、オプションで無線LANを利用できる

 機種はWeb Caster V110M(WBC V110M)で、ひかり電話専用のIP電話機能、ルータ機能に加え、本体上部のカバー内部にPCカードスロットが装備されており、専用の無線LANカード(FT-STC-Va/g)を装着することでIEEE 802.11b/g準拠の無線LANも利用可能となっている。すでに無線LANルータを利用している場合は、そちらをアクセスポイントモードに変更して利用した方が効率的だが、これから無線LANを導入しようと考えているユーザーにはメリットがあるだろう。

 料金に関しては、アナログ回線を休止した分が節約できる。戸建て住宅向けのハイパーファミリータイプの場合、Bフレッツの基本料が高いため、結果的にADSLとIP電話の組み合わせより高くなるが、マンションタイプの場合はADSLより割安になる。

 通話料に関してはほぼIP電話と同等だが、ユーザー同士の無料通話はひかり電話では提供されない。0AB~J番号と無料通話、どちらを選ぶかが加入の決め手となるだろう。

料金項目フレッツ・ADSL+IP電話ハイパーファミリー+ひかり電話マンションタイプ+ひかり電話
基本料回線+機器レンタル3,507円5,460円3,937.5円
電話1,785円525円525円
プロバイダー料金(ぷらら)682円1,050円630円
月額料金計5,974円7,035円5,092.5円
通話料加入者/提携サービス同士無料8.4円/3分8.4円/3分
全国一律8.4円/3分8.4円/3分8.4円/3分
携帯電話18.375円/1分17.85~19.95円/1分17.85~19.95円/1分
他社IP電話8.4円/3分10.92~11.34円/3分10.92~11.34円/3分
海外2.5円/1分9円/1分9円/1分




設定不要で自動的に使えるひかり電話

 アナログからひかり電話への切り替えが完了すれば、ひかり電話はすぐに利用できる。通常のIP電話の場合、ルータにIP電話の設定を行なう(ダウンロードする)といった手順が必要だが、ひかり電話の場合は一切不要だ。ONUにWBC V110Mを接続し、電源を入れると、あらかじめ設定された特定のアカウントを使って一時的にネットワークに接続、自動的に設定をダウンロードしてひかり電話での通話が可能となる。インターネット接続の設定すら不要で、設定後は自動切断されるのでPPPoEセッションも消費しない。


ひかり電話の設定はすべて自動。WBC V110Mの設定画面にも電話の設定項目は存在するが、割り込み音の設定と帯域の確保以外の項目は用意されていない

 これは実に手軽だ。IP電話の場合、設定できなかったとしても最悪の場合はアナログ回線を利用して電話を利用できる。これに対して、ひかり電話の場合、完全にアナログからの置き換えとなるため、設定ができないと電話すら利用できないことになるが、この問題がうまく回避されている。ライフラインとして欠かせない電話を設定不要で利用できるようにしている点は高く評価できるポイントだ。

 ただし、このほかの設定はお世辞にも簡単とは言えない。インターネット接続の設定程度であれば、付属のユーティリティや設定画面から手軽に行なうことができるが、マルチセッションの設定などは初心者には難しい印象がある。Bフレッツで利用する機器をNTTが提供するのだから、フレッツ・スクウェアへの接続などは設定済みで出荷してもよさそうなものだが、そうなっていないのは残念なところだ。


マルチセッションの設定などには慣れが必要。設定済みで出荷するか、他メーカーのルータ製品のように自動設定できるウィザードを用意してほしいところだ

 ちなみに、今回のひかり電話の導入で、筆者宅の回線はニューファミリータイプから、1Gpbs共有のハイパーファミリータイプに変更されたが、速度的には以前とほぼ同じ印象だ。WBC V110Mでのフレッツ・スクウェアによる実測で50Mbps前後、他メーカーのルーター(バッファロー WZR-RS-G54HP)で67Mbps前後となった。もともとONUのLAN側が100Mbpsなので、さほど速度差はないと予想していたが、実際もその通りの結果だ。

 また、筆者宅では以前からぷららのIP電話サービスを利用していたが、このような050番号のIP電話サービスの併用も可能だ。IP電話アダプタの場合はファームウェアのアップデートが必要になるが、以下のような構成で問題なく利用できることを確認した。よって、0AB~J番号に加えて、050番号をサブ番号のように利用することもできる。このほか、以下の図のWBC V110Mと電話1の間にVoIPアダプタを接続して利用することも可能だ(ただしひかり電話を使う意味はないと思われるが……)。


VoIPアダプタなど050番号対応機器の併用も可能。筆者宅では、ひかり電話の導入を機にFAX番号を050番号に切り替え、FAX専用として使っていたアナログ回線も解約することにした




固定電話との違いに注意

 開通し、機器の設定ができてしまえば、あとの使い方は普通の電話と何ら変わりはない。電話がかかってくれば、電話機の呼び出し音が普通に鳴るし、電話をかける操作も普通の電話と一切変わりがない。音質に関しても何ら問題ない印象だ。

 ただし、いくら0AB~J番号だと言っても、IP電話であることを忘れてはならない。確かに、050番号のIP電話に比べれば制約は少なく、110番や119番などの3桁番号、0120などの番号にもかけられるが、それでも以下のようにかけらない番号がいくつか存在する。

0120113145×171×
0170×114×146×177
0180×115147178×
0190×116148184
0570×117×149×186
0800118151×189×
0910×119152×010
0990×121×159×020×
100×122×161×050
102×125×162×060×
104134×163×070
106×135×164×080
108×136×165×090
110141×166×
111×142167×
112×144169×
ひかり電話の対応状況(WBC V110Mに同梱の2004年8月現在の表より)

 特に注意が必要なのは0570番号だ。この番号はBS/CSチューナーなどで使われていたり、チケットの予約などの電話番号として利用されている。実際、筆者宅では、ひかり電話の開通後、妻がNHKの子ども番組のコンサートチケットを予約しようとしたらしく、「電話が通じない!」と非常に憤慨していた。0570番号専用で代替え番号も用意されていないというサービス自体の問題もあるかもしれないが、やはりかけられない番号が存在するのは不便に感じる。

 0AB~J番号を利用したIP電話サービスの場合、050番号のように一般電話回線を迂回する手段も残されていない。このため、かけられない番号には、将来的な対応を待つしかないのが現状だ。サービスに加入する際は、この点に十分な注意が必要と言えるだろう。

 なお、ひかり電話への加入時、筆者は担当者から平成電電の直収サービスに電話がかけられないという注意点を聞かされていたが、実際に試してみたところ、何の問題もなく通話することができた(発着信双方)。あくまでも筆者宅でのテストなので、全国レベルで対応しているのかまでは不明だが、直収サービスへの通話も問題なさそうだ。

 このように、ひかり電話には、かけられない番号があるなどのデメリットはあるものの、0AB~J番号を利用できる上、固定電話よりも料金を安くできるという特徴がある。しかし、逆に言えば、これ以外のメリットがないのも事実だ。同様に0AB~Jを利用し、料金を安くしたいのであれば、直収電話サービスやIP電話並に通話料が安くなってきたマイライン(NTTコミュニケーションズのプラチナラインなど)を利用するという手もある。このため、今後は、これらのサービスに対して、どのようなアドバンテージを確立できるかが普及のポイントと言える。

 ダイヤルインのような複数番号サービスに早急に対応するのもひとつの方法だろうし、通話料や基本料をさらに安くするといった方法もあるだろう。また、実際にはありえないかもしれないが、ひかり電話に移行したら加入権を買い取るなどといった思い切った戦略も個人的には期待したい。もうひと工夫、さらなる進歩を期待したいところだ。


関連情報

2005/4/12 11:10


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。