第145回:64bit版Windows「Windows XP Professional x64 Edition」登場
ブロードバンド環境でのメリット・デメリットを探る



 マイクロソフトから、64bit版のWindows「Windows XP Professional x64 Edition」が発売された。現状は、指定販売代理店向けのDSP(Delivery Service Partner)版のみとなるが、ショップなどでパーツとのセットで購入可能だ。ブロードバンド環境への対応状況や問題点などを検証してみよう。





一般的な構成であればインストール可能

 4月23日土曜日の深夜、秋葉原の一部ショップで、64bit版のWindowsである「Windows XP Professional x64 Edition」が発売された。AMDのAthlon64やIntelのPentium4 6xxシリーズなど、すでに64bit拡張命令に対応したCPUも登場しており、OSの登場で一般ユーザーでも手軽に64bit環境を試すことが可能になった。

 64bit環境では、32bit環境に比べて扱えるメモリが飛躍的に多くなる。具体的には物理メモリで128GB、仮想メモリで16TBが扱えるようになるため、映像関連の処理といった用途で期待を集めている。見た目は32bit版Windowsと変わらず、これといった新機能もないが、今後、対応アプリケーションが登場してくれば、64bitならではのメリットを享受できるようになる可能性もある。言わば、近い将来に訪れるであろう本格的な64bit時代の先取りといったイメージだ。

 筆者も早速64bit版Windowsを入手し、所有しているAthlon64搭載PCにインストールしてみたが、大きな問題もなく無事にインストールできた。64bit版Windowsでは標準で64bitドライバを搭載しているので、多くの機器は標準環境で認識できる。筆者の場合、標準で認識できなかったのはVIAのRAIDコントローラとバッファローのTVキャプチャボードのみで、あとのデバイスはOS標準のドライバですべて認識した。

 また、大手の機器メーカーも64bit版Windowsの対応ドライバを公開しており、具体的にはnVidiaとATIのビデオカードやVIA、Intelのチップセット向けの64bitドライバが用意されている(ベータ版のものもある)。筆者の場合も、VIAのRAIDコントローラも同社のホームページからダウンロードした64bit版ドライバで動作できた(INFの書き換えが必要。SATA HDD利用時はインストール時に同ドライバが必要)。


Windows XP Professional x64 Edition。AMD Athlon64もしくはEM64T対応Pentium4で利用可能だ
CPUAMD Athlon64 3000+
M/BMSI K8T Neo2-FIR(VIA K8T800 Pro)
RAM1GB
HDD250GB(ATA133)
VIDEOAlbatron FX5200(AGP)
SOUNDRealTek ALC850
LANOnBoard(RealTek 8110S)
TVバッファロー PC-MV5DX/PCI
インストールしたPCのスペック

 ネットワーク系に関しては、筆者が利用しているRealTekチップ採用製品は問題なく動作した。無線LANカードの利用もテストしてみたが、Broadcom製チップを採用した無線LAN製品もOS標準のドライバで利用可能だった。Atheros製チップ採用無線LANのほか、有線でも一部の製品は利用できない場合もあるようだが、一般的な製品であればOS標準、もしくはベンダー提供の64bitドライバでの利用が可能だろう。


無線LAN関連では、Broadcom製チップであれば標準ドライバで動作可能。Atheros系はドライバ待ち

 なお、TVキャプチャ系やプリンタに関しては、現状ではドライバの入手が不可能なケースがほとんどだ。TV環境がなければ困る、印刷できなければ困るといったユーザーの場合は、64bit環境への移行は当分見送った方がいいだろう。





セキュリティ関連ソフトの動作は厳しい

 このようにハードウェアに関しては、特殊な場合を除いてほぼ問題なく動作させることができる64bit版Windowsだが、ソフトウェアに関しては難しいケースも多い。もちろん、一般的なアプリケーションに関しては、32bitアプリケーションを64bitで動作させられる「WOW(Windows On Windows)64」のおかげで、問題なく利用できる。テストした限りでは、ブラウザ、メーラー、Officeなど、ほとんどのソフトウェアが問題なく利用できた。

 ただし、ハードウェアやシステムに密接に関係するアプリケーションに関しては、残念ながらあきらめざるを得ないケースも多かった。たとえば、CD-R/DVD-Rライティングソフトでは、「B's Recorder GOLD8」など一部動作するものも存在するが、ソフトウェアによっては動作しない場合があった。また、CDイメージソフトや「SoftEther」など独自ドライバを利用するものも、64bitドライバが供給されないために動作不能だ。

 これらのソフトについては対応するまで我慢という選択肢もあるだろうが、深刻なのはセキュリティ対策ソフトがほとんど対応していない点だ。実際に試してみたところ、シマンテックの「Norton Internet Security 2005」はインストーラのOSチェックでインストールに失敗。トレンドマイクロの「ウイルスバスター2005」もインストールに失敗してしまう。

 また、ソースネクストのウィルスセキュリティ2005は、エラーが発生しながらもインストールは完了させられたが、起動時にやはりエラーが発生して利用できなかった。コンピュータアソシエイツの「eTrust Ez Antivirus」ではインストールは完了して一応利用可能にはなるものの、どうやってもリアルタイム検索を有効にできなかった。

編集部注:本記事公開と同日の4月26日、シマンテックがWindows x64 OSへの対応を表明しました。詳しくはこちらをご参照ください。
メーカー名ソフトウェア名インストール動作
トレンドマイクロウイルスバスター2005××
インストール途中で中断されインストール失敗
シマンテックNorton Internet Security 2005××
インストールチェックで拒否
ソースネクストウイルスセキュリティ2005EX×
インストール時にエラーもインストールは完了。起動時にエラー。
コンピュータアソシエイツeTrust Ez Antivirus
リアルタイム検索無効。システム情報でエラー発生
コンピュータアソシエイツeTrust Antivirus r7.1
セキュリティセンターで認識されないが利用は可能。30日限定のトライアル版が利用できる
ALWILavast! 4
利用可能。非商用の個人ユーザーは無償
ウイルス対策ソフト対応状況

 このように、現在の一般的なセキュリティ対策ソフトに関しては、筆者の環境で試したところほぼ全滅という状況だ。とは言え、ウィルスなどの被害が多い最近の事情を考えると、少なくともウイルス対策なしでOSを利用するというわけにはいかない。そこで、いろいろと検索してみたところ、いくつか64bit版Windowsでも利用可能なセキュリティ対策ソフトが存在することがわかった。具体的には、ALWIL社製の「avast! 4」、そして前述したコンピュータアソシエイツのeTrustの企業向け製品である「eTrust Antivirus r7.1」だ。

 eTrust Antivirus r7.1(マイクロソフトのページでも紹介されている)に関しては、30日限定の評価版だが、avast! 4に関しては非商用目的の個人ユーザーであれば無償で利用できる。いずれの製品も筆者宅の環境では問題なく動作できたので、もしも64bit版Windowsを日常的に利用する場合、もしくは市販製品が正式対応するまでの暫定処置として、インストールしておくことをおすすめしたい。


64bit版Windowsでも利用可能なウイルス対策ソフトも存在する。「avast! 4」に関しては非商用の個人ユーザーであれば無償で利用できるが、eTrustは30日限定の評価版




制限の多い64bit版IE

 このほか、インターネットを利用するアプリケーションを一通りテストしてみたが、FireFoxやThunderbird、MSN Messenger 7.0、オンラインゲーム(リネージュIIの動作を確認)など、ことブロードバンド環境という点においては特に不都合な点はなかった。前述したように、ハードウェアやシステムに密接に関係するようなソフトウェアでなければ、それがネットワークにつながろうと、そうでなかろうと問題なく利用できるというわけだ。


「*32」と表示されているのが32bitアプリケーション。64bit環境でもほとんどのソフトウェアが利用できる

 ただし、IEに関しては若干注意が必要だ。64bit版Windowsには、32bit版のIEと64bit版のIEの両方がインストールされているが、64bit版IEには制約が多く、実用に耐えない。特にFlash、Shockwaveなどに対応していないのは致命的だ。最近のホームページはFlashが使われていることが多いため、そういったページを表示できない、もしくはメニューを表示できないといったケースが多々ある。PDFに関しては、ブラウザ内での表示ができないだけなのでさほど不便に感じないが、Flashに関しては、なるべく早い対応が望まれるところだ。


FlashやShockwave、各種ツールバーなどは32bit版IEでしか利用できない
64bit Windows32bit Windows
MBps換算値169.52616Mbps168.609248Mbps
平均21190.77KB/s21076.156KB/s
1st21317.33KB/s20123.56KB/s
2nd21000.93KB/s21297.28KB/s
3rd21317.33KB/s20693.79KB/s
4th21000.93KB/s21622.74KB/s
5th21317.33KB/s21643.41KB/s
FTP転送速度比較

 もちろん、スタートメニューに登録されているアイコンなどは標準で32bit版IEとなっているため、自分から64bit版IEを起動しない限りは、このような不便を感じることはない。せっかく搭載されている数少ない64bit版アプリケーションだが、現状は32bit版を利用したほうがいいだろう。

 なお、動作速度に関しても、64bit版Windowsだからといって快適という印象もなく、逆にWOW64で動作していることによるボトルネックなども感じなかった。32bit版Windowsとまったく変わらない印象で利用できると考えて良いだろう。念のため、同一PCにデュアルブート環境で32bit版と64bit版Windowsをインストールし、FTPの転送速度を計測してみたが、結果的にはまったく変わらなかった。





大きなメリットは現状では特になし

 このように、主にネットワーク関連の機能について64bit版Windowsをテストしてみたが、最終的な印象としては、さほどメリットもないが、デメリットも少ないといった印象だ。現状は未対応のハードウェアやソフトウェアが多いが、登場して間もないOSだということを考えれば、さほど対応状況は悪くない。しかし、だからといって、64bit版アプリケーションがほとんど存在しない以上、積極的に64bit版Windowsを使おうという気にもなれない。

 おそらく映像関連のアプリケーションが登場してくれば状況も変わるのだろうし、そのころにはドライバの対応も進むと思われるが、セキュリティソフトの対応や、32bitと比較した際の新機能があまり搭載されていないなど、現状では必要性はあまり感じない。大容量メモリを搭載するニーズがあるというユーザー以外は、64bit版アプリケーションがある程度揃ってから導入を考えても遅くはないだろう。


関連情報

2005/4/26 11:07


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。