第160回:目指すのはブロードバンドを利用した「新しいメディア」
USENが提供する「GyaO」の今後について聞く
広告モデルを利用した無料サービスで注目されているブロードバンド映像配信サービスの「GyaO」。サービスの現状と今後のサービス展開について、USEN GyaO事業本部の菊池編成局局長に話をうかがった。
●広告モデルでより大きな市場を目指すGyaO
GyaO |
USENが提供する「GyaO」は、現状のブロードバンド映像配信サービスの中では異彩を放つ存在だ。STBを利用したブロードバンド映像配信サービスが数多く登場する中、依然としてPCを利用して映像を見るというスタイルのサービスではあるが、最大の特徴はすべてのコンテンツが無料で提供されている点だ。単に無料なだけではなく、韓国ドラマやテレビアニメ、映画など、他では有料で配信されているようなコンテンツも取り揃えている。
無料でコンテンツが提供される理由は、広告モデルにある。GyaOで配信されている映像では、その開始前や途中などに広告映像が再生される。従来の映像配信サービスでは、ユーザーへの課金という形で収入を得ていたが、GyaOの場合、広告によって収入をまかなわっているというわけだ。
広告収入というビジネスモデルを採用した理由について、USEN GyaO事業本部の菊池編成局局長は、市場規模の大きさを主な理由に挙げた。USENでは、楽天と共同で有料の映像配信サービス「ShowTime」を運営しているが、「ShowTimeもそれなりの成功を収めているが、市場規模は数十億~数百億円規模といったところ。これに対して、地上波などのテレビの市場規模は桁違いに大きい。より大きな規模のサービスを目指すために、無料で映像を配信する広告モデルを採用した」。
もちろん、地上波などのテレビ放送と現状のブロードバンド放送では、視聴者の数が大きく異なる。広告モデルとして成立させるにはより多くの視聴者を獲得しなければならないだろう。この点について菊池氏は、「先日の発表で登録者数が150万を突破したが、目標としては1,000万の会員を獲得する予定」と話す。「ブロードバンドのユーザー数が現状2,000万弱で、すでにBSデジタルやCS放送の加入者数を超えていることを考えると、(1,000万会員は)十分に可能性はある」。
●家庭用テレビでの提供も視野に
より多くのユーザーを集めるためには、より多くのプラットフォームに対応することが重要な課題となるが、GyaOの対応プラットフォームは、現状ではWindowsに限られる。他のOS、もしくSTBなどでサービスが提供される予定はあるのだろうか? 特にSTBによる提供は、他事業者の動向を見ても、今後、大いに注目される点だ。
菊池氏によれば、GyaOでは広告映像の挿入や著作権保護などでWindows Mediaの技術を数多く採用しているという。このため、GyaOの動作環境はWindows Media Playerの最新バージョンが動作する環境が必要であり、Mac OSでは動作保証外になっている。「Mac OS向けにWindows Media Playerの最新バージョンがリリースされれば、Mac OS向けのサービスも可能だろう」。
一方、STBでのサービス提供については、「将来的に家庭用のテレビでGyaOを見られるようにすることは視野に入れている」とのことだが、そのためにはSTBを開発しなければならない。無料の広告モデルである以上、STB開発へ多額の資金を投入することは難しいだろう。また、STBの場合、将来的にさらに高品質な映像フォーマットなどが登場したときに、ハードウェアの交換が必要になる可能性もあり、最近ではPCがテレビ機能を内蔵するなど、PC自体がリビングに進出するという方向性も考えられるため、現状は様子を見ている段階とした。
現状、GyaOはブラウザにプレーヤーを組み込んだ形で再生されるが、これをWindows Media Player自体で再生できないのか、さらにはコンテンツのダウンロード配信などを考えているのかも気になるところだ。最近ではプレイステーション・ポータブル(PSP)向けの映像配信サービス「Portable TV」なども話題を集めており、こうしたポータブルデバイス向けのサービスはユーザーも気になるところだろう。
菊池氏は、現状ではこうしたサービス展開は難しいと話す。というのも、インターネットに常時接続されたブラウザでの表示というシステムそのものが、無料で視聴できるビジネスモデルに深く結びついているからだ。GyaOでは広告映像と連動したバナー広告をブラウザで表示しており、Windows Media Player単体で再生した場合、現状ではバナー広告を表示する手段がないという。
また、ポータブルデバイスのようにオフラインで視聴するスタイルでは、視聴者の動向が把握できない点が課題だ。「GyaOでは、視聴者がどのコンテンツを見たのかを正確にトラッキングし、それを広告主に対してフィードバックできるという特徴があるが、オフラインでは広告サービスとしてのメリットが失われてしまう」。ユーザーにとっての無料配信サービスという側面以外に、映像配信事業者にとっても効果的なマーケティングやデータマイニングが可能になるという二面性を持つGyaOとしては、ダウンロード型の映像配信サービスは難しそうだ。
ただし、視聴者データを利用したマーケティングは、ユーザーにとってもメリットを生み出す可能性もある。現在、GyaOではユーザー登録の際に郵便番号の入力が必要だが、将来的にはこのデータを利用し、ユーザーごとにパーソナライズ化された広告表示も可能になるという。「ユーザーの近所に新築されたマンションの広告など、ユーザーの地域や年齢層などに応じた広告を表示するようにする予定もある」。
●新しい「メディア」を目指すGyaO
このように、既存のサービスとは異なる独自の方向性を示すGyaOだが、今後の展開も大いに期待できそうだ。
利用者の側から見ると、無料の広告モデルを採用していると言っても、基本的な方向性は既存のブロードバンド映像配信サービスの延長線上にあるように思える。しかし、実際にGyaOが目指しているのは、そうではないようだ。菊池氏によると、GyaOが将来的に目指しているのは、「新しい『メディア』」だと言う。
「新しいメディア」と言われても容易には理解しがたいところだが、イメージとしては既存の地上波のテレビ放送に近いと考えればいいだろう。既存のブロードバンド映像配信サービスは、どちらかというとレンタルビデオに近いサービスだが、GyaOが目指すのはレンタルビデオではなく、放送サービスに近い。
今後、Gyaoで提供するコンテンツは「自社制作の比率を向上させていく予定(菊池氏)」だと言う。現状でも、GyaOのトップメニューにある「0ch トップ(総合)」で、オリジナルのニュース番組などが配信されているが、このような報道系の番組はもちろんのこと、ドラマやバラエティなどの制作も進められており、自社制作のコンテンツが増える予定だという。
単にコンテンツを自社制作する以外にもさまざまな取り組みを進めていく予定。現状もトップ画面にテキスト情報がティッカーで表示されるようになっているが、このような文字による情報と組み合わせて映像を配信するなど、映像とインターネットの文字情報を組み合わせたインタラクティブな番組を将来的に提供したいと考えているようだ。
地上波のテレビと肩を並べるサービスの実現は、すぐには難しいと思われるが、「テレビとの差別化も可能(菊池氏)」だと言う。有限の時間内でしかコンテンツを提供できないテレビと違い、GyaOでは時間枠にとらわれることなくさまざまなコンテンツを常時ラインナップできる。受動的に映像を見るのではなく、ユーザーが能動的にコンテンツを選べるのがメリットというわけだ。
DVD発売に先駆けてオンライン試写会を行なう「マスク2」 |
最終的に、この目標が達成されるかどうかは、やはり自社制作のコンテンツのクオリティをどこまで向上させることができるかにかかっているが、USENという会社であれば不可能ではないだろう。USENはインフラ事業を手がけるだけでなく、グループ内のギャガ・コミュニケーションズやエイベックスなど、非常に優良なコンテンツを数多く抱えており、コンテンツ制作のノウハウも持っているからだ。将来的に「新しいメディア」になる可能性は、確かにありそうだ。
さらに、GyaOには既存のブロードバンド映像配信サービスの補完的な役割も担っているようだ。前述したように、USENグループでは有料の映像配信サービスであるShowTimeを提供しているが、GyaOのサービス開始以降、ShowTimeのの売り上げも向上しているという。GyaOは完全なオンデマンドのサービスではなく、一定期間しかコンテンツが提供されないため、連続もののドラマやアニメなどでは、過去の配信分を再生できないが、これを見逃したユーザーがShowTimeで映像を購入する率が高くなっているのだろう。
また、セルDVDの発売前にGyaOでオンライン試写会を開催するといった面白い試みも行なっている。アーカイブ型の映像配信サービス、もしくはDVDなどのセル市場の広告としての役割も担っている点は実に興味深い。
このように、USENが提供するGyaOは、単なる無料の映像配信サービスではなく、非常に多くの可能性を秘めたサービスだと言える。今後、どこまで発展するかは未知数の部分も多いが、個人的には、これまでになかったようなサービスが提供されることを大いに期待したいところだ。
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2005/8/23 11:04
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