第194回:映像配信サービスもハイビジョンの時代へ
オンデマンドTVの「ハイビジョン先取り体験キャンペーン」
フレッツ網を利用した映像配信サービスの「オンデマンドTV」が、4月から一部のテスター向けにハイビジョン映像の配信を試験的に開始した。従来の標準映像とどれほどの違いがあるのかを実際に検証してみた。
●通信の世界にもハイビジョンの流れ
地上デジタルやBSデジタルなど、放送の世界ではすでに映像のハイビジョン化が進んでいるが、この流れが通信の世界にも本格的に訪れそうだ。すでにインテルがViiv向けにハイビジョンのメディアセンターコンテンツ(WMV-HDのZZZ.TVなど)の提供を開始しているが、NTTのフレッツシリーズ向けに映像配信サービスを提供している「オンデマンドTV」も、4月から試験的にハイビジョン映像の配信を開始した。
現状のサービスは、6月からの本サービス開始に先駆けて行なわれる試験サービス(ハイビジョン先取り体験キャンペーン)であり、ハイビジョンで配信されるのはビデオサービスの一部のコンテンツだが(テレビサービスは標準画質)、より美しい映像で映画などを楽しめるのは大きな魅力だろう。
同様にSTBを利用した映像配信サービスは、4th MEDIAなどさまざまな事業者で提供されているが、今後はハイビジョン放送の提供が映像配信サービスの生き残りをかけるポイントの1つになるかもしれない。
●サービス形態は従来とほぼ変わらず
それでは、実際の使用感をレポートしていこう。まずはサービス形態だが、これは従来のサービスとほぼ同じだ。NTT東日本、西日本のIPv6サービスを利用していれば、ISPに関係なく入会できる。
唯一の違いは利用するSTBだ。従来のSTBはルータほどのサイズで非常に小型だったが、ハイビジョン対応の新型STBは一回り、いや二回りほどサイズが大きくなった。それでもDVDレコーダーなどと比べれば小さいのだが、以前のようにテレビラックの隙間に収まるような小ささではなくなった。個人的には以前のSTBのサイズが気に入っていたのだが、機能向上を考えれば致し方ないところだろう。
従来のSTB(上)とハイビジョン対応の新型STB(下)。いずれもバッファロー製だが、新型はかなり大型化された | 背面にはハイビジョン映像向けにD端子と光デジタル出力を装備。USBポートに無線LANアダプタを接続することで無線LANでの利用も可能 |
リモコンは従来モデルとまったく同じ。操作性は良好だが、質感が低いのが残念 |
一方で、今回の新型STBからは新たに無線LANに対応している。本体前面と背面に1つずつUSBポートが用意されており、ここにUSBタイプの無線LANアダプタを接続して無線LANで利用することが可能だ。
ただし、対応する無線LANアダプタは、現状、バッファロー製(STB自体もバッファロー製)の「WLI-U2-KAMG54」のみとなっている。また、LANアダプタを装着して起動すると強制的にAOSSの設定画面が開き、AOSS以外での設定(手動でのSSIDや暗号化の設定)はできない。このあたりをサポートに問い合わせてみたところ、現状はAOSSでの利用のみが対象とのことだ。
AOSSで手軽に設定できるようにしたこと自体は評価できるが、AOSS対応アクセスポイント以外を利用している場合はUSB接続の無線LANアダプタでの接続ができないのは残念だ。筆者宅のように無線LANアクセスポイントが自宅、および近所に多数存在する環境では、AOSSでの設定がうまくできない場合もある(AOSSアクセスポイントを検出できずに失敗する)。今回の新型STBも同様の理由で筆者宅ではAOSSでの接続に失敗したため、結局、WLI-U2-KAMG54での接続はあきらめざるを得なかった。無線LANに対応したことは非常に嬉しいが、汎用的な環境も考えて手動での設定にも対応して欲しいと感じた。
WLI-U2-KAMG54を接続して起動すると、AOSSの設定画面が強制的に表示される。AOSS以外での設定はできないため、バッファロー製アクセスポイント以外では無線LANは利用できない |
リモコンは従来のSTBと同じものが同梱されていた。リモコン自体の操作性は悪くないのだが、今となってはボタンなどの質感などが低い印象がある。せっかくハイビジョンに対応したのだから、もう少し、高級感を演出しても良いのではないかと感じた。
同様にSTBのインターフェイスも従来STBとまったく同じだ。このインターフェイスは操作性に優れているのだが、唯一、残念だったのは画面デザインが6:4のままであった点だ。こちらもハイビジョン対応なのだから、16:9のデザインを採用して欲しいところだ。
インターフェイス画面は従来とまったく同じ。せっかくなので16:9の操作画面が欲しかったが、操作性は良好。提供されるハイビジョンコンテンツは、現状はまだ一部のみと少ない |
●H.264エンコード、8Mbpsビットレートの実力
今回の新サービスでは、H.264形式(8Mbps)で1080iのハイビジョン映像と5.1chのAAC音声(音声出力設定ではPCMも選択可)が配信されるが、確かにハイビジョンというだけあって映像は美しい。
もちろん、従来の標準画質の映像(MPEG2 4Mbps)も決して画質が悪かったというわけではないが、やはり緻密さが異なる。標準画質とハイビジョンの両方の映像が提供されているNHK提供の映像を視聴してみたが、ほぼ同じシーンの映像を見比べてみると、やはりハイビジョン映像の方が緻密で、標準画質は全体的に画質が粗い印象だ。
標準画質(左)とハイビジョン(右)の映像を比較。デジタルカメラで画面を撮影したため若干わかりにくいが、岩肌の部分などを見ると、やはりハイビジョン映像の方が緻密で美しい |
すでに地上デジタル放送などでハイビジョンを体験してしまっていると驚くほど感動というわけではないが、従来の映像と比べれば明らかに高画質だ。こうなると、現状、ハイビジョンで提供される映像は少ないのが非常に残念に感じる。できればすべての映像をハイビジョンで見たいところだ。
●帯域はさほど要求しない
さて、このようにハイビジョンによる美しい映像が楽しめることは確かにメリットではあるが、気になるのは高画質化によってネットワークの帯域が不足することはないのかという点だろう。
今回のハイビジョン先取り体験キャンペーンでは、加入時に回線速度の速度テストを行なってから申し込むようになっており、実効で安定して10Mbps以上の速度が実現できる環境が利用の条件とされている。WAN側の回線の場合、光ファイバを利用すれば、この条件はほぼ間違いなくクリアできるが、問題はLAN側の環境だろう。有線LANで接続すれば、まったく問題ないが、無線LANでも快適に再生できるのだろうか?
前述したように筆者宅では、残念ながらWLI-U2-KAMG54での利用ができなかったため、NECアクセステクニカのイーサネット接続の無線LAN子機(WL54SE)を利用してテストしてみたが、どうやら無線LAN環境でも問題はなさそうだ。同一の部屋はもちろんのこと、1階に設置したアクセスポイントに対して2階から接続するという環境でもテストしてみたが、コマ落ちや映像の乱れなどが見られることもなく、快適にハイビジョン映像を再生できた。おそらく、WAN側の条件と同様に安定して10Mbps前後の実行速度が確保できれば、ハイビジョン映像の再生には十分なようだ。このあたりは、8Mbps程度のビットレートでハイビジョン映像を実現できるH.264の恩恵だろう。
もちろん、映像再生の場合は連続した転送が要求されるため、混雑したチャネルを利用していたり、映像伝送中にPCからインターネットにアクセスすれば映像が途中で乱れる可能性はある。もはやIEEE 802.11gの2.4GHz帯で安定した通信を求めるのは不可能に近いので、できればIEEE 802.11a/b/g同時通信対応のアクセスポイントを利用し、IEEE 802.11aをSTB用に占有するという使い方をおすすめしたいところだ。
●さらなるサービス向上を
このように、オンデマンドTVが新たに開始したハイビジョンサービスは、映画などのコンテンツを非常に美しい映像で楽しめる画期的なサービスと言える。同社のサービスは、もともとISPフリーで利用できたり、操作性の良いインターフェイスを採用するなど、他のサービスに先進的な試みを行なってきたが、今回のハイビジョンサービスでさらに一歩先に進めた印象だ。
ただし、個人的には何点か改善を望みたい点もある。まずは、前述した無線LANの設定方法だ。ぜひとも汎用的な環境で利用できるように改善を望みたい。また、リモコンや画面デザインも、従来のわかりやすいインターフェイスを踏襲しているのは好印象だが、せっかくのハイビジョン対応なのだから16:9の操作画面と高級感のあるリモコンを採用して欲しいところだ。
このほか、若干気になるのがSTB本体の発熱だ。起動しておくだけでもかなり本体が熱くなるため、これから夏を迎えたとき、熱がこもりやすいテレビラックの中でも安定して動作するのかが多少不安に感じた。筆者宅では従来のSTBが熱が原因と思われるトラブルで何度か再起動を余儀なくされた経験もあるので、このあたりの対策がしっかりできているかが気になる点だ。
もちろん当然のことながら、コンテンツの充実も望みたい。ただし、本サービスが開始される6月までにハイビジョンコンテンツはさらに増える予定となっているため、このあたりは心配ないだろう。現状はあくまでも試験サービスであるため、最終的な判断は本サービスの開始を待ちたいところではあるが、現時点では他のサービスに比べてアドバンテージの高いサービスと言えそうだ。
関連情報
2006/5/9 10:57
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