第372回:アップロード作業はすべておまかせ
無線LAN搭載デジタルカメラ「CEREVO CAM」
撮ったら放っておくだけ。これだけでインターネット上に写真を保管したり、Twitterなどの外部サービスに投稿できるのが、無線LAN搭載のデジタルカメラ「CEREVO CAM」だ。
「CEREVO CAM」は、インターネット接続に対応した家電の企画や開発、販売を目的に2007年に設立された株式会社Cerevo(セレボ)が、12月15日から正式販売を開始した同社第1弾製品だ。価格は1万9999円で、直販サイトなどを通じて購入できる。今回は、その使い心地をレポートしよう。
●これは「ナニ」ととらえるべきか
恐らく、「CEREVO CAM」はユーザーがこの機器を何としてとらえ、何と比較するかによって、その評価が分かれる製品だろう。
製品としては、デジタルカメラだ。両手でホールドしやすい、ちょうどいいサイズ、液晶ディスプレイを挟んで、十字キーと2つのボタンで構成されたデザインと、見た目はまるで携帯型ゲーム機のようだが、その実態は900万画素のCMOSイメージセンサーを搭載し、焦点距離が約42mm(35mmフィルム換算)の固定焦点レンズ(パンフォーカス)などのスペックで構成されたデジタルカメラとなっている。
「それであれば、デジタルカメラとして評価すればいいじゃないか」という声も聞こえてきそうだが、面白いのは本体にIEEE 802.11b/g/nの無線LAN機能を搭載している点だ。この無線LAN機能を利用して、自宅に設置した無線LANアクセスポイントなどからインターネットに接続可能となっており、本体で撮影した写真をインターネット上の写真共有サービスやオンラインアルバムサービスなどに直接転送が可能となっている。
Cerevoの「CERVO CAM」。IEEE 802.11b/g/n準拠の無線LAN機能を持つデジタルカメラだ | 本体正面 |
無線LANを搭載したデジタルカメラは、これまでにも複数のメーカーから発売されており、「CERVO CAM」と同様にインターネット上のサービスに撮影写真の転送が可能だった。また、「Eye-Fi」のように無線LAN機能を持ったSDメモリカードを利用することでも同様のことが可能だ。
それでは、既存の製品と何が違うのかというと、これらの操作をすべて自動的に実行でき、豊富な外部サービスとの連携が考慮されている点にある。詳しい動作については後述するが、要するに付加価値的、実験的であった既存デジタルカメラの無線LAN機能とは異なり、「CEREVO CAM」はネットワークの利用がメインに考えられており、無線LANが製品を構成する不可欠な要素として存在しているわけだ。
このため、このネットワーク機能をどうとらえるかによって製品の見方が変わってくる。例えば、本製品を「デジタルカメラ」として単純にとらえ、既存の無線LAN搭載デジタルカメラや普通のコンパクトデジタルカメラと比較すると、ユーザーには物足りなさしか見えてこない。筐体の質感やボタンなどの各部品の収まり、手触りやボタンなどの押した感覚、液晶のサイズや品質など、ハードウェアとしての完成度を既存のデジタルカメラと比較すると「こんな“カメラ”使えない」と判断するかもしれない。
しかし、ハードウェアとしてでなくサービスとして考えると、「CEREVO CAM」の価値が見えてくる。つまり、日常を写真として切り取って、インターネット上のコミュニティで活用する、このようなサービス、ライフスタイルを実現するためのデバイスであるとユーザーが考えれば、カメラとしての性能に関係無く、この製品の価値が見いだせるというわけだ。
もちろん、製品をどう考えるのかはユーザーの自由だ。ただ、単純にプアな“カメラ”と断じてしまうのはもったいない。「CEREVO CAM」は、この前提で評価すべきだろう。
●割り切ったハードウェア
それでは、実際に製品を見ていこう。まずは外観だが、これは冒頭でも少し触れたように、決して完成度は高くない。十字ボタンなど、デザインとしての“トイっぽさ”が演出されている点は悪くないのだが、今回使用した機体ではボタンを押すとミシミシ、振ればカタカタと音を立て、トイっぽさを一段超えたチープさを感じてしまう。
本体サイズは120×16×60mm(幅×奥行×高)となかなかコンパクトで、ポケットなどに入れて持ち運ぶのに苦労しないだろう。手に持って構える場合もホールドしやすいのだが、個人的には質感やボタンを押したときの感触があまり好きになれない印象だ。
カメラとしてのスペックは前述したとおりだ。画素数はじゅうぶんだが、光学ズームはなく、フォーカスもパンフォーカスとなる。今やズームやオートフォーカス搭載で、安価なコンパクトデジタルカメラより、携帯電話のカメラ機能がはるかに高性能な時代になってしまったが、感覚としては数年前の携帯電話のカメラ機能のようだ。
側面 | 背面 |
ただ、実際に撮影してみると、高画質の「LARGE(9M)」や「MIDDLE(4M)」などで撮影すればかなりキレイな写真が撮影できる。プレビューに関しては、搭載する液晶ディスプレイの解像度が480×240ドットと低いせいもあり、あまりキレイに見えないのだが、転送された写真を確認すると悪くない印象だ。
CerevoのWebサイトにもサンプルが何点か掲載されているので、画質が気になる人は確認してみると良いだろう。暗い場所はあまり得意ではないようだが、内蔵フラッシュを使った撮影も可能なので、夜間やパーティーなどでの撮影にも使えそうだ。
操作面では、初回の電源オン時に若干時間を要していた。また、メニューなどの操作系統が既存のデジタルカメラと比べて、独特になっている。基本的な操作は背面の十字キーを利用するようになっており、電源オン後の撮影モードから右側を押すとヘルプが表示され、左側を押すとメニューが表示される。
メニュー画面は上下に、「アップロード」「撮影」「再生」「セットアップ」というメニューが並んでおり、これを十字ボタンの上下で選ぶまでは良いのだが、項目の決定は十字キーの右方向を押し込む形になる。
ゲーム機ライクなボタン配置に期待して、液晶の右側にある「・」や「・・」ボタンを押しても何も反応しないのは、少々裏切られた印象を受ける。マニュアルによると「・」や「・・」で決定できる機能もあるようだが、この2つのボタンは撮影モードでホワイトバランスやフラッシュの動作を変更するといった機能で使用する。個人的な差はあるとは思うが、少々直感的な操作とは言いにくい部分だと感じた。
液晶を挟んで左側に十字ボタン、右側に2つのボタンを配置するゲーム機ライクな構成 | 左側が電源ボタン、右側がシャッターボタン。電源ボタンかシャッターボタンを長押しすると電源がオンになる |
●オンラインへのアップロードを試す
はじめて電源を入れると「CEREVO LIFE」にアクセスするように誘導される |
続いて、肝心のネットワーク機能をチェックしていこう。まずセットアップだが、これはなかなか面白い方法が採用されている。
購入後、はじめて電源を投入すると液晶画面上にCerevoが運営するオンライン写真管理サービス「CEREVO LIFE」への登録メッセージが表示される。メッセージに従って、PCから同サイトにアクセスして、ユーザー登録を済ませる。
その後、Webブラウザーの画面にカメラの登録と無線LANの設定画面が表示するので、本製品を接続させたい無線LANアクセスポイントのSSIDや暗号化方式、暗号キーを入力する。すると、画面上にQRコードが表示されるので、これを「CEREVO CAM」で撮影すると無線LANの設定が書き込まれるというわけだ。
PCからユーザー登録後、カメラと無線LANの登録を実行。接続先のアクセスポイントのSSIDと暗号キーを入力 | 画面上に表示されたQRコードを撮影するとカメラに無線LANの設定が書き込まれる |
SSIDや暗号キーを手動で入力する必要はあるが、PCから設定できるため、例えば無線LANアクセスポイントの設定画面から情報をコピー&ペーストすることで手軽に設定できる。もちろん、ボタン方式の設定を採用した方がスマートではあるが、これはこれでカメラの機能をうまく使った面白い設定方法と言えそうだ。
なお、評価時点のファームウェアではWEPによる接続がうまくできないという問題があり、WPAで接続するか、WEPの場合はオープンシステムに設定を変更する必要があった。本コラム掲載時には解消されている可能性があるので、サポート情報などを確認してみると良いだろう。
無線LANの設定が完了すれば、あとは写真を撮るだけだ。「CEREVO LIFE」を被写体に向けてカシャ、カシャと撮影。撮り終わったら、電源を切って放っておけば良い。
「CEREVO CAM」では無線LANアクセスポイントに接続できた時間を学習し、アップロードできそうな時間帯に自動的に自動アップロードの設定をする。具体的に何時にアップロードするかは設定画面で確認できるが、筆者が試したときは撮影の1時間後に設定されていた。
自動アップロード中。液晶のバックライトは消えているが、うっすらと画面が見える。またサイドのLEDも点灯する | 手動でのアップロードも可能 |
この時間になると、「CEREVO CAM」の電源が自動的にオンになり、無線LANアクセスポイント経由でアップロードしていない写真が自動的に転送される。また、本体側では再生用のサムネイル画像を残して、microSDカードからも写真が削除される。アップロード中に本体をよく見ると、本体横のLEDが光り、液晶もバックライトは消えているものの、うっすらと転送中の画面が見える。これはなかなか面白い機能だ。
もちろん、カメラのメニューから「アップロード」を選べば撮影後に手動で写真をアップロードすることもできる。この操作も十字キーを2~3回押すだけとかなり手軽な上、写真1枚あたりの転送も数秒で済むが(回線環境などによっても変わる)、自動アップロードならその手間、待つ時間さえいらないわけだ。
筆者も気がつくと、数カ月前の旅行やイベントの写真がデジタルカメラに残ったままになっていることがたまにあるが、「CEREVO CAM」であれば、まさに放っておいても、そういった心配もないだろう。
●Twitterカメラとしての可能性
アップロードされた写真は、初回設定時に登録した「CEREVO LIFE」にアップロードされるので、PCからWebブラウザーを利用して手軽に写真を見たり、ダウンロードすることができる。アップロード日時で自動的に写真が整理される上、簡単な編集機能も利用できるので、なかなか便利なサービスだ。
「CEREVO LIFE」では他のサービスとの連携も充実している。FlickrやPicasaウェブアルバム、フォト蔵、はてなフォトライフ、mixiなどに加え、Twitpicやtumblrなど、最近流行のサービスにも対応している。これらの連携機能を利用すると、「CEREVO LIFE」にアップロードされた写真を手動、または自動的に他のサービスへと転送することができる。
撮影した写真は「CEREVO LIFE」に自動でアップロードされる。アップロード日時で自動的に整理できるほか、簡単な編集も可能。さらに、メールで招待した友人に写真を見せることも可能だ | 「WIFI自動アップロード」で転送先サービスを指定すると、撮影した写真が無線LANでアップロードされると同時にTwitpicなどに転送される。定型文も指定できるので、ここにハッシュタグなどを設定することもできる |
Twitpicでの利用例を見てみよう。手動で転送する場合、アップロードされた写真を選び、「送る」ボタンからTwitpicを選択する。初回のみログイン用のIDとパスワードを入力し、タイトルを入力して送信する。これでTwitpicに写真が送られ、そのURLがTwitterに投稿される。
個人的に面白いと感じたのは「WIFI自動アップロード」機能だ。「CERVO LIFE」の設定ページで「WIFI自動アップロード」のアップロード先にTwitpicを選択し、アカウントを登録しておけば、「CEREVO CAM」で撮影した写真が、無線LAN経由でアップロードされるタイミングで、Twitpicにも自動的に投稿される。
Twitterにはこのような感じで表示される | リンクをクリックすればTwitpicの写真が表示される |
また、投稿時に必ず入力する「ユーザ指定定型文」も設定できるので、例えばイベントなどで固有のハッシュタグをあらかじめ設定し、自動アップロードする設定にしておけば、イベント会場で写真を撮りまくるだけで、その様子をTwitterで投稿できる。
モバイルルーターなどと組み合わせたり、自動アップロードできる写真がVGAに限られるが、USBポートにイー・モバイルのデータ通信アダプタ(記事執筆時点の対応機種:D01HW/D02HW/D12HW/D22HW)を接続すれば、外出先などで写真実況をすることも可能だろう。
「携帯電話などでも良いのではないか」という疑問もわいてくるが、「CEREVO CAM」の方がスピード感がある。前述したように、ハッシュタグなどを事前に設定できるのに加え、カメラ側では撮影するだけでその後の投稿操作の必要がない。イー・モバイルの通信アダプタを利用してライブ撮影(ライブアップロード)すれば、パシャパシャ撮った写真が数秒後には設定したハッシュタグとともに、Twitterに投稿されている。これはかなり実況向けの使い方ができるだろう。
イー・モバイルの通信アダプタを接続すると(USB miniA-miniBケーブルか変換コネクタ必要)、リアルタイムに撮影した写真を投稿できる。Twitterでの実況に最適だ |
将来的にはファームウェアの更新で動画撮影もできるようになる予定とのことだが、数秒の動画を自動的に投稿して、Twitterで実況できるようになれば、かなり面白いかもしれない。もちろん、事前にハッシュタグを設定して選べるとか、コメントもプリセットしておいて撮影後にボタンを押すだけで付加できるとか、こういった使い方をするために、今後追加して欲しい機能も思い浮かぶが、個人的にはもうTwitterカメラで良いんじゃないかとさえ思えてくる。
●もっとニッチに
以上、Cerevoの「CEREVO CAM」を実際に使ってみたが、この製品はカメラとして見るのではなく、ネットワークサービスを利用するためのデバイス、もしくはフロントエンド機器として考えると、かなり面白い存在と言える。現状、ネットワークサービスは入口も出口もPCや携帯電話、PDA程度となかば固定されている。今回の「CEREVO CAMは」、この入口を提供する新しい存在と言っても良いだろう。
とはいえ、残念ながら、この製品は決して万人向けではない。例えば旅行やイベント写真を「CEREVO CAM」で撮影するかと聞かれると、これは人によって反応が異なるだろう。旅行であればまだ可能性はあるが、例えば子供の運動会や記念行事などは、光学ズームがないと撮影にならない。そして運動会であれば、恐らくハイビジョン対応のビデオカメラで撮影する人が多いだろう。
ただ、それで良いのだろう。万人向けする家電なら大手メーカーが作れば良い。それよりも、ニッチだがとびきり面白い製品の方が市場のインパクトも大きいはずだ。
しかしながら、一点要望を挙げるとすれば、ハードウェアとしての質感だけは、もっと改善すべきだ。デバイス、それも新しい機器やサービスを好むユーザーにとって、そのデバイスを所有する満足感は非常に重要で、人に自慢できるかどうかが製品の価値を決める大きな基準になるからだ。
関連情報
2009/12/22 06:00
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