第371回:Windows 7対応でより便利に
「Windows Home Server Power Pack 3」
11月25日からWindows Home Server向けの最新アップデート「Power Pack 3」の配布が開始された。修正プログラムの適用に加え、Windows 7への対応で、より使いやすくなっているのが特徴だ。そのポイントを紹介しよう。
●「Power Pack 3」でより身近な存在に
「Power Pack 3」へと進化したWindows Home Server。修正プログラムの適用に加えて、いくつかの新機能が追加されている |
ネットワークに接続して利用するストレージ製品の動向を振り返ってみると、ここ1年ほどで多様化が進み、その存在もかなり身近になった。国内メーカーからは、高い転送速度をうたう高性能モデル、2.5インチHDDを採用した小型モデルに加え、USB接続型HDDと価格差があまりない低価格モデルも登場している。
さらに、拡張性とパフォーマンスを武器とするThecusやQNAPなどの海外勢の製品も数多く見かけるようになってきたかと思えば、前回取り上げたフリービットの「ServersMan@CAS」のような特徴的な製品も登場するなど、製品の多様化が進んできている。
昨今の景気の問題で、以前ほどはNAS市場の成長も速くはなくなったようだが、低価格化が進み、手に入れやすい環境が整った上、ユーザーニーズに応じてさまざまな製品が選べるようになった。今後は家庭はもちろんのこと、SOHOや中小企業などのビジネスシーンでの導入もさらに進んでいくことが期待できそうだ。
こうした中、Windows Server 2003をベースとした家庭用のサーバーOS「Windows Home Server」も、最新のアップデートである「Power Pack 3」の提供がWindows Update経由で開始され、さらなる進化を遂げた。
今回公開された「Power Pack 3」のポイントは、Windows 7との連携機能の強化だ。Windows 7からWindows Home Serverへのアクセスやバックアップに対応しただけではなく、Windows 7とWindows Home Serverの機能を組み合わせることで、ホームネットワークをより便利に使えるようになる新機能がいくつか搭載されている。「Power Pack 3」の主な改善点や強化点をあげると以下のようになる。
- フォントの変更によるUIの改善
- 日本語訳の改善
- Windows 7のライブラリへの統合
- Windows Search 4の実装
- アクションセンターでのバックアップ警告への対処
- バックアップ時のWindows 7のスリープと復帰への対応
- Windows Home ServerコンソールでのWindows 7表記
- Windows Media Center対応(TVアーカイブ、コンソールビュー)
前述したように、NASは多様化と低価格化でユーザーにとって身近な存在になることを目指しているが、Windows Home Serverは、言わばクライアントとの親和性の高さで、より身近な存在になることを目指していると言えそうだ。
●地味だが便利なライブラリ統合機能
Windows Home Serverは、ファイル共有やメディア共有、バックアップ、リモートアクセス、アドインによる機能拡張などの特徴を備えたサーバーOSだ。今回の「Power Pack 3」が持つ機能の中で、まず注目したいのはライブラリ対応が強化されたファイル共有機能だ。
Windows 7では、ファイルの管理にライブラリという新しい考え方が採用されており、個人のドキュメントやパブリックのドキュメントなど、複数のフォルダーをライブラリとしてまとめて管理することが可能になっている。
Windows Home Serverに「Power Pack 3」を適用すると、クライアント向けのコネクタソフトウェアもアップデートされる。これをインストールすると、Windows 7のライブラリにWindows Home Server上の共有フォルダーが自動的に追加されるようになる。
Windows 7との連携機能が強化され、サーバー上の共有フォルダーがライブラリに自動的に追加されるようになった |
例えば、ピクチャライブラリを見ると、標準では「マイピクチャ」と「パブリックのピクチャ」で構成されているが、ここに「写真(\\サーバー名)」といったようにサーバー上の共有フォルダーが追加される。もちろん、「Power Pack 3」以前でも自分で共有フォルダーを追加することができたが、自動的に登録されるようになったおかげで、この手間がなくなったわけだ。
ライブラリに統合されたメリットは2つある。1つはファイルの場所を意識する必要がなくなったことだ。例えば、デジタルカメラで写真を撮影したのち、サーバーに写真を保存するといった使い方をする場合、自分は共有フォルダーに簡単にアクセスできるものの、PCにあまり詳しくない家族などから、「この間の写真どこにあるの?」などと質問されることが多々あった。
しかし、これからはエクスプローラーから「ピクチャ」を開けば、そこからローカルもサーバー上の写真もシームレスにアクセスできるようになる。これで、お父さんは「わかりにくい」だの何だのと、家族からいちいち文句を言われずに済む。
ローカル、サーバーのどちらのフォルダーのデータもシームレスに表示可能。「場所」を意識することなくデータにアクセスできる |
もう1つのメリットは、どちらかと言えばSOHOなどのビジネス環境向けの機能かもしれないが、「Windows Search 4」の搭載によってローカルとサーバーのファイルをシームレスに検索できるようになった点だ。
筆者の場合、PCのローカル環境には数カ月分のデータだけを残し、過去に執筆した原稿やPDFのゲラ、Excelのデータなどのデータはサーバー上に待避させている。このデータをライブラリからシームレスに参照できるようになったのもメリットだが、Windows 7の検索ボックスを利用してライブラリを対象に検索をかければ、ローカルもサーバー上のデータも一緒に検索でき、必要なファイルをすぐに取り出すことができるのだ。
ライブラリを検索すれば、ローカルやサーバーを問わずファイルをシームレスに検索できる。過去の文書などをサーバー上に保存している場合でも検索が容易だ |
この機能は大変重宝している。過去に執筆した記事を参照したり、書籍の増刷で校正のために過去のPDFゲラを参照するなど、必要なデータに素早くアクセスできるからだ。一見すると地味な機能かもしれないが、個人的にはWindows Home ServerとWindows 7の組み合わせで最大のメリットだと考えている。
このようなデータへのアクセス性の良さという点は、今後、Windows Home Serverがビジネス寄りの市場に受け入れられていく際の大きな武器になるはずだ。
●混在環境でこそ光るWindows Home Serverの存在
続いて、バックアップ機能について見ていこう。これはWindows 7で便利になったというよりは、Windows 7でも不便ではなくなったという印象だ。
筆者は、Windows Home Serverについて人から質問されたとき、最大のメリットとしてバックアップ機能を紹介することにしているが、個人ユーザーの場合、いまだにPCのバックアップと無縁という人の方が多いかもしれない。しかし、Windows Home Serverを導入すれば、まったく意識することなく、家中にあるすべてのPCのバックアップが自動的に行なわれるようになる。
ネットワーク上のクライアントを自動的にバックアップできるバックアップ機能。データがここにあるという安心感はもとより、万一の場合でもシステムを復元できるのが有り難い |
「ファイルを消してしまった」や「PCの調子が悪い」、「HDDが壊れた」などなど、PCにトラブルはつきものだが、万一、このようなトラブルに見舞われてもWindows Home Serverがあれば、ファイルも復元できる上、PCをネットワークにつないでCDから起動するだけで、すぐに以前の状態に復元できる。
Windows 7の場合、新規のHDDにリストアする際に先頭の100MBの領域を自分で作成する必要があるなどの注意点はあるものの、基本的には従来のOSと同様にバックアップとリカバリが可能だ。
それでは、「Power Pack 3」で何が改善されたのかというと、アクションセンターとスリープの動作だ。Windows 7では、OS自体のバックアップ機能がかなり使いやすく改善されており、Professional以上のエディションであればネットワーク上の共有フォルダーへのバックアップも可能となっている。
このバックアップ機能は使わないとアクションセンターで警告が表示されてしまうのだが、Windows Home Serverのバックアップ機能が有効になると、この警告が表示されないようになる。さらにWindows Home Serverのバックアップ時に、OSをスリープから解除したり、バックアップ後にスリープさせることも可能となった。
セキュリティセンターでのバックアップの項目。Windows Home Serverのバックアップが有効になると、Windows 7のバックアップの警告が表示されなくなる |
スリープに関しては、周辺機器などの要因もあるので、完全にスケジュールどおりにはいかない場合もあるのだが、これでWindows 7も、従来のWindows XPやWindows Vistaと同様にWindows Home Serverでバックアップできるようになったわけだ。
実は、このようにWindows 7も従来のOSと同様に扱えること、すなわち家庭内に存在するさまざななOSをシームレスに扱えることこそWindows Home Serverの特徴でもある。
「Power Pack 3」では、どうしてもWindows 7関連の新機能に注目してしまいがちなのだが、逆に言うと家庭内のPCがすべてWindwos 7なら、Windows Home Serverを使わなくても、効率的なホームネットワークを構築できてしまう。
ファイル共有はホームグループで良いし、メディアストリーミングでメディアの共有もできる。バックアップもProfessional以上なら、家族のPC同士でバックアップを持ち合えば良い。リモートアクセスは難関だが、リモートデスクトップとリモートメディアストリーミングでの実現も不可能ではないだろう。
しかし、現実には家庭内にはWindows XPもWindows Vistaを搭載したPCもあるはずだ。こうなると、ホームグループだけではカバーできなくなるし、メディアの共有も限られる。しかし、Windows Home Serverがあれば、異なるOSの混在環境でも効率的にファイルやメディアを共有し、バックアップもOSを問わず利用できる。この柔軟性の高さこそがWindows Home Serverの魅力と言えるだろう。
●課題はデジタル放送
最後に、Windows Media Center関連の機能を紹介しよう。と言っても、これは今後の課題を考えさせられる機能だ。
もちろん、Windows Media Centerの連携機能は「Power Pack 3」の魅力の1つでもある。例えば、録画したテレビデータの移動機能を持っており、クライアントのWindows Media Centerでテレビ番組を録画すると、作成されたファイルを自動的にWindows Home Serverの共有フォルダーへと移動してくれる。
Media Center Connectorをインストールすると、Windows Media Centerに「TVアーカイブ」の項目が表示される。この機能を利用すると、録画した番組を自動的にWindows Home Server上へと移動してくれる | サーバー上のRecorded TVフォルダー。クライアントで録画されたテレビ番組はここに移動される |
筆者宅にはSSDを搭載したノートPCがあるのだが、通常はこのPCにUSBのテレビチューナーを接続しようとは思わない。SSDの容量が限られているため、録画できる番組の数が限られるからだ。
しかし、このPCをWindows Home Serverに接続し、連携機能用プログラム「Windows Media Center Connector」をインストールすれば、ローカルで録画された番組データは、一時的にはSSDに保存されるものの、録画完了後、即座にWindows Home Server上へと移動させることができる。
もちろん、移動したデータはWindows Media Center上から認識できるので、Windows Home Server上にファイルがあっても、問題なく再生できる。要するに、クライアントのストレージ容量を気にせずテレビを録画できるというわけだ。
しかしながら、当然と言えば当然なのだが、Windows Home Server上に移動されたファイルは録画したPCでしか再生できない。ファイルとしてはネットワーク上の他のPCからも見えるが、著作権保護機能の関係で再生できるPCは録画したPCのみに限られるからだ。
サーバー上の録画ファイルは他のPCからも参照できるが、再生することはできない |
例外として、「Media Center Extender」として動作するXbox 360を利用すれば、リモートデスクトップの感覚でPC上のWindows Media Centerの画面にアクセスし、ネットワーク経由で録画した番組やPC上のチューナーを利用したテレビのライブ再生ができるが、これは非常に特殊な機能だろう。
このため、Windows Home Server上の録画ファイルをネットワーク上の複数のPCで再生できるようにするには、Windows Home Server自身がテレビを録画し(正確には暗号化の鍵をWindows Home Server自身が管理し)、DTCP-IP対応のDLNAサーバーなどを利用してネットワーク上に配信するしかない。しかし、この実現にはリモートからの録画予約をどうするかといった問題もあり、一筋縄では解決できない。
また、せっかくのクライアント上のDTCP-IP環境が無駄になるというデメリットもある。例えば、Windows 7のMedia Centerに対応したアイ・オー・データ機器製のテレビチューナー「GV-MC7」にはDTCP-IP対応のDLNAサーバーソフト「DiXiM Media Server 3 for Media Center TV(以下DiXiM)」が付属する。
しかし、このDiXiMが配信できるのは、Media Centerで録画先として指定されているフォルダーのデータ、つまりローカルに保存されたテレビ番組だけとなる。つまり、TVアーカイブを利用してWindows Home Server上にファイルを移動してしまうと、これはDiXiMでは配信できないことになる。
恐らく、Windows Home Serverとの組み合わせで使うことが想定されていないからなのだろう。このため、現状ではDiXiMで公開したい場合は、TVアーカイブで移動せず、ローカルに保存したままにしておく必要がある。
また、「Power Pack 3」のTVアーカイブではWindows Mobile用やZune HD用にコンバートした映像を録画番組から自動的に生成する機能も搭載されているのだが、これらの機能はデジタル放送では利用できない。PCにアナログチューナーを搭載してアナログの番組を録画しなければならないことになる。
これらは、Windows Home Serverの「Power Pack 3」の課題というより、デジタル放送という大きな縛りの影響だ。多くのヘビーユーザーはもはやあきらめてしまったようだが、縛りの上で限られた楽しみ方しかできないという状況は、そろそろ何とかならないものだろうか。
●今後の盛り上がりが期待できるWindows Home Server
以上、「Power Pack 3」によって強化されたWindows Home Serverの現状を紹介したが、Windows 7との連携機能によって、より使いやすくなった上、従来のファイル共有やバックアップ、リモートアクセスといった機能が使えるメリットも大きな魅力だ。
そして、もう1つのポイントとして、今後、アドインの日本語化も進んでいくことも期待できる。いくつかの案件に微力ながら協力させていただいたが、有志によって海外製のアドインの日本語化も進められている。アドインによる機能拡張は、Windows Home Serverならではの魅力でもあるので、実用だけでなく、今後はカスタマイズ的な楽しみ方の幅が広がることだろう。
これらに関しては、秋葉原カフェソラーレで12月23日に開催される「Power Pack 3」のリリース記念イベントでプレゼンテーションされる予定なので、関心のある方はぜひ注目していただきたい(告知サイト)。
当日は筆者もセッションで、今回触れたWindows Home Serverでのデジタル放送録画環境や市販のWindows Home Server機のカスタマイズについて、実機を紹介しながら話をする予定なので、時間があれば足を運んでみてはいかがだろうか。
関連情報
2009/12/15 06:00
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