第368回:小型で長時間駆動が可能なモバイルルータ
イー・モバイル「Pocket WiFi」
イー・モバイルからバッテリー駆動可能な通信モジュール内蔵の無線LANルータ「Pocket WiFi(D25HW)」が発売された。小型で長時間駆動が可能な点が特徴で、今後のモバイルルータのお手本となるような非常に完成度の高い製品だ。
●まさに日進月歩のモバイルルータ
イー・モバイルの「Pocket WiFi(D25HW)」。非常に質感の高いデザインだ |
まさに日進月歩。ここ最近、モバイルルータの新製品を取り上げているが、その進歩には目を見張るものがある。イー・モバイルから新しく発売されたHuawei社製の「Pocket WiFi(D25HW)」はそんなことを実感させられた製品だ。
下り最大7.2Mbps、上り最大5.8Mbpsのデータ通信が可能な3G通信モジュールを内蔵したモバイルルータで、本体サイズは約48.6×95.5×14.1mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約80gと非常にコンパクト。これまでのモバイルルータは手のひらサイズといった印象だったが、さらにもう一段小さく、携帯電話よりも小さく、軽い印象だ。
また、バッテリー駆動時間はカタログスペックで4時間となっており、USB経由でのバスパワー駆動と充電(電波オフ時)にも対応している。加えて、USB接続したPCからの通信と、無線LAN経由で接続したPCやゲーム機などとの通信も併用可能となっており、機能的に見ても他製品にはないアドバンテージが存在する。「Pocket WiFi」の特徴をまとめると、以下のようになる。
- 重量80gで小型軽量なコンパクトサイズ
- バッテリー駆動時間は最大4時間
- USBバスパワー動作やUSB充電に対応
- PCとUSB接続時も無線LANを併用可能
- 有機ELディスプレイを搭載
個人的には、外付けアダプタを利用したモバイルルータが第1世代で、そろそろ通信モジュールを内蔵した第2世代の時代になってきたと考えていたが、本製品はさらにその半歩先をいく2.5世代のモバイルルータと言っても良さそうだ。
今後、モバイルルータを購入する際のサイズやバッテリー駆動時間などを考慮する場合、我々ユーザーは本製品を1つの基準として考えることになるかもしれない。このため、メーカーとしてはこのスペックを凌ぐことが要求されることになりそうだ。
●実にキレイな作り込み
それでは、実際の製品を見ていこう。まずは外観だが、なかなか高い質感を持った作りとなっている。角をラウンド状にきれいに削り取り、表面は微妙にふくらみを帯びたような非常に洗練されたデザインとなっている。いわゆる、通信機器的な無骨さというか、機械っぽさがあまり感じられない。
また、常に手で触れるような製品ではないのだが、手に持ったときの収まりや触れたときの感触もなかなか良く、携帯電話的な発想で作り込まれている印象だ。
インターフェイスは本体左側面にmicro SDカードスロット、右側面に電源、WiFi/WPS、Connectの3つのボタンがあり、底面にUSB接続用のミニポートが用意されている。
正面 | 側面 |
左側にはmicroSDカードスロットを搭載。下に見えるのはUSBポート | 右側には電源、Wi-Fi/WPS、Connectの3つのボタンを装備 |
背面は、利用時にテーブルに置くことなどを考慮しているためか、フラットな形状になっており、上部のボタンを押しながらカバーを取り外すことで電池パックが姿をあらわす。電池パックは、本体容積のほとんどを占めているのでは? と思うほど左右の余裕なく、キッチリと配置されている。電池パックは1500mAhの容量を持つリチウムイオンポリマーで、取り外してみると意外な薄さに驚かされる。
電池パックを本体から取り外すと、イー・モバイルのSIMカード「emチップ」のスロットがあり、さらにその奥に基板が見える。熱問題などをクリアしながら、ここまできっちりと各モジュールをよく収められたものだと関心するところだ。
本体サイズぎりぎりに収まるバッテリー | バッテリーは意外に薄い。バッテリーの下にはemチップが見える |
●ディスプレイがもたらす高級感
電源は本体側面の電源ボタンを長押しすると、本体前面の上半分に配置された有機ELディスプレイにイー・モバイルのロゴが表示されて本体が起動する。
充電中などのアニメーション表示が可能なディスプレイは、本製品の1つの特徴とも言える。3Gの電波状況や無線LANの状態、インターネット接続、電池残量、各種モードなどを一目で確認できるため、非常に使い勝手が良い。
起動時にロゴを表示。充電中のアニメーションなども表示される | 電波状況や電池残量、無線LANモードなどが表示され状況を確認しやすい |
モバイルルータの場合、バッテリー駆動時間を延ばすために、表示は最低限シンプルなものにする傾向があるが、単純なLED表示などに比べると本製品は動作状況の確認がしやすく、高級感さえ感じさせられる。他社がモバイルルータを通信機器と割り切っているのに対して、本製品は所有感や満足感まで考慮しているのではないかと考えられる。
ただし、この割り切りが面白いのだが、電源オン後にしばらくするとディスプレイの表示が消え、完全に真っ暗な画面となる。もちろん、この状態でも電源は入っており、通信もできるのだが、LEDの1つも点灯しないため、外から見ただけでは電源が入っているのか、切れているのかが判断できない。
確かに通信中は必ずしも画面を表示したり、LEDを点灯させる必要はない。その一方で、バッテリー容量が少なくなると、真っ暗だった画面にくっきりと「Low Battery」と表示されるなど、これまでの製品の感覚とは逆の表示方法が採用されている。考えて見れば、必要であればリッチな情報をディスプレイ上に表示するが、普段は見る必要がないから切るという、この考え方はバッテリーで動作する機器には非常に理にかなっている。
こういったユニークな発想は、付属の取扱説明書にも見てとれる。取扱説明書の無線LAN接続方法では、「ニンテンドーDS」、「プレイステーション・ポータブル」「Wii」「プレイステーション 3」という順で設定方法が紹介されており、PCの接続方法は最後だ。これを見れば、誰に売りたい製品なのかがすぐにわかる。
ゲーム機の接続方法が画面で丁寧に紹介されている。PCは最後に紹介されている |
[お詫びと訂正]
初出時、本体ディスプレイについて液晶ディスプレイとしていましたが、正しくは有機ELディスプレイとなります。お詫びして訂正いたします。
●無線LAN接続はWEPで手動
続いて、実際の使い方について見ていこう。本製品は2通りの方法で接続することができる。1つは無線LAN経由での接続、もう1つはUSBでの接続だ。
まずは無線LANの接続だが、これは基本的に手動となる。側面にWPS用のボタンが用意されている点からもわかるとおり、WPSによる無線LAN設定がサポートされているのだが、標準設定ではセキュリティ設定がWEPになっており、アクセスポイントを検索してWEPキーを入力するという方式になる。
今回は評価用の製品だったため、実際の製品でどうなっているかはわからないが、製品版ではWEPの暗号キーが記載された無線LAN初期設定シールというものが同梱されており、接続したい機器から本製品を検索して、シールに記載されたWEPキーを入力すれば接続可能だ。
無線LANの暗号化方式は標準でWEP。それ以外にWPA/WPA2(TKIP/AES)も利用できる |
ゲーム機での利用を想定している以上、WEPでの接続は致し方ないものの、前回紹介したNECアクセステクニカのWiMAX内蔵のモバイルルータ「AtermWM3300R」などのように、異なるセキュリティレベルのSSIDを複数設定できる「マルチSSID」に対応した製品もあるので、この点は改善の余地ありと言えそうだ。
「マルチSSID」はセキュリティを確保するためにも重要だが、外出先などで友人などにアクセスポイントを開放する場合などにも必要な機能と言える。本製品のように、1つのSSIDだけしか設定できない場合、普段利用している暗号キーを友人に教える、もしくはそのたびに一時的な暗号キーを設定し直さなければならない。
無線機器間の通信を遮断する機能は搭載されてはいるものの、やはり捨てSSIDというか、WEPで開放してもかまわないSSIDをもう1つ用意できるようにして欲しいところだ。
一方、USBでの接続は非常に簡単だ。付属のUSBケーブルを利用してPCに接続すれば、自動的にドライバがインストールされて利用可能になる。対応OSは、Windows 7/Vistaの64/32bit版とWindows XP SP2以降、そしてMacOS X 10.4~10.6となっている。
USB接続での利用も可能。USB給電で動作可能 | USB接続時はUSB-LANとして認識される |
PCに本製品をUSB接続した場合は、モデムではなく、「USB LAN」として認識されるようになっている点がポイントだ。モデムとして認識された場合、PCからの利用に限定されてしまうが、この方式ではUSB接続したPCはルータにぶら下がっている機器の1台に過ぎない。
このため、製品自体は無線LANルータとして動作し続け、USB接続したPCはもちろんのこと、無線LANで接続した他のPCやゲーム機からも同時接続が可能になっている。なお、同時接続可能な台数は、USB接続したPC1台と、最大5台までの無線LAN機器を合わせた合計6台になる
また、本製品はPC接続時はUSB給電で動作するため、本体のバッテリーを消費せずに利用できる。こうした利用方法ができる点は、本製品ならではの特徴と言えそうだ。
●4時間以上の動作も可能
通信速度に関しては、他のモバイルルータ同様に無線LANはあまり関係なく、WAN側の回線状況次第だ。筆者宅で計測してみたところ、下り800kbps、上り394kbpsのスループットを確認できた。
イー・モバイルの回線は、ここ最近利用者が増えてきたこともあって、場所によってはなかなか速度が出にくいことが多いが、この程度の速度が出れば1人で使う分には十分だろう。複数の機器やユーザーで共有する場合は少々厳しいかもしれないが、通信速度に関しては電波状況や混雑状況次第と言えるだろう。
「speed.rbbtoday.com」による筆者宅でのテスト結果 |
バッテリー駆動時間についてだが、他のモバイルルータをレビューした際と同様に、PCからHTTPのGETとPINGを定期的に打ち続けるベンチを使って計測してみたところ、約4時間22分という非常に優秀な結果が得られた。筆者がこれまで評価してきたモバイルルータの中では最長の駆動時間だ。
また、前述したように本製品はUSB接続時にバスパワーでも動作するため、サポート外の使い方ではあるが、USBポートに三洋電機のUSB出力付きeneloop充電器「eneloop mobile booster(KBC-E1A)」を接続して同様のテストを実施してみた。この場合、最初はUSB給電で動作し、その後に「eneloop」の電力が停止してから、バッテリー動作に自動的に移行し、最終的に約6時間の動作を確認できた。
こうした点から、必要に応じてPCなどでUSB給電しながら利用すれば、ほぼ1日、バッテリーを気にせずに利用することが可能になる。これだけでも、本製品を選ぶ価値はあると言えるだろう。
●課題は価格と通信品質
PCでの通信だけでなく、iPod touchなど家庭内で使っていたデバイスも持ち出せる |
以上、イー・モバイルの通信モジュールを内蔵した無線LANルータ「Pocket WiFi(D25HW)」を実際に使ってきたが、ハードウェアとしての完成度は文句のつけようがないほど優秀だ。外出先でiPod touchをつないで使ってみたが、発熱に関しても、充電中はそれなりに暖かくなるが、動作に支障が出るほど熱くなったり、熱くて持てなくなるようなことはなかった。
ただし、ソフトウェア面でマルチSSIDへの対応が望まれる点、さらに通信品質についてさらなる改善が望まれる点を要望として挙げておきたい。エリアに関しては、WiMAXに比べてはるかに充実しているが、それでも地方などに出張した際に、圏外で困ることなどがまれにある。また、都心部でも、人が多く集まるような場所では極端に通信速度が遅くなるケースがあり、この点の改善が望まれる。
ハードウェアの性能を考慮すれば妥当とも言えるのだが、価格的にも手を出しにくい。ベーシックの場合は3万9580円となり、通信機器に対する出費としてはかなり大きい。2年間の継続利用が条件の「にねんM」の場合は5980円になるが、このジャンルの製品で2年間の利用は冒険であるとも言え、ここ数カ月の状況をみても、1年後にはさらに製品の進化が進む可能性もある。
とは言え、現状、なるべく広い範囲で、長時間使えるモバイルルータとなると、事実上、本製品しか選択肢はないことになる。個人的には良い選択だと思うが、この製品の登場によって、他のメーカーが刺激を受け、さらに高性能で使いやすいモバイルルータが登場してくることも望みたいところだ。
関連情報
2009/11/24 06:00
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