第382回:USB接続型HDDとしても使える低価格NAS
アイ・オー・データ機器「HDL-Cシリーズ」


 アイ・オー・データ機器の「HDL-Cシリーズ」は、USB接続型HDDと同等の価格で入手できる低価格NASだ。どのような使い方が適しているのかを実際に検証してみた。

1TBモデルで約1万3000円

 PCのHDD容量不足の解消で手軽に利用できるUSB接続型のHDD。そんなUSB接続型HDDとほぼ同価格で手に入れることが可能な低価格NASが、アイ・オー・データ機器から発売されている「HDL-Cシリーズ」だ。

 NASの価格は、容量1TBのモデルで考えた場合、シングルドライブの製品で1万円台後半、HDDを2台搭載するRAID 0/1対応で2万円前後、4台搭載するRIAD 5対応で3~4万円前後といったところが現在の相場だ。

 これに対して、「HDL-Cシリーズ」の1TBモデル「HDL-C1.0」は、店舗によって違いはあるものの、実売価格は1万3000円前後。1TBモデルのNAS相場と考えると、4000~5000円ほども割安で購入できる。これであれば、容量不足解消のためにHDDの購入を検討している場合に、USB接続型HDDにするか、「HDL-C1.0」にするかで、少々迷ってしまうことだろう。

 そこで今回は、「HDL-Cシリーズ」がNASとして果たして購入しても良いものなのか、購入した場合にどのような点に注意する必要があるのかを見ていこう。


アイ・オー・データ機器の低価格NAS「HDL-Cシリーズ」。1TBモデル「HDL-C1.0」の実売は1万3000円前後だ

USB接続でセットアップが簡単

 まずは外観に関してだが、これは低価格であることをさほど感じさせない。確かに、飾りっ気のないデザインだが、これがかえって過度に主張しない雰囲気を感じさせ、どこにでも設置しやすい。筐体の素材はプラスチックになるが、安っぽさもあまり感じられない印象だ。

 前面には側面まで切り込まれたLEDがあり、稼働中は緑色に点灯するようになっている。背面には、冷却用のファンが上部に設置されているほか、その下に電源ボタンやUSB(mini USB)ポート、LANポート、ACアダプター用の電源ポートが搭載されている。

本体正面。LEDのみを備えるシンプルなデザイン本体側面

 ここでポイントとなるのがUSBポートだ。一般的なNASの場合、USBメモリーからのファイルコピーやUSB接続型HDDを増設する際にUSBポートが使われるが、本製品の場合はPCとの接続にUSBポートを利用する。つまり、NASとしてではなく、USB接続型HDDとしても使えるというわけだ。

 この用途は大きく2つある。1つは高速なファイル転送が必要な場合、そしてもう1つは本体セットアップのためだ。

 詳しくは後述するが、本製品はNASとしてのパフォーマンスはさほど高くない。そこで大量のファイルをコピーが必要な場合には、USBケーブルでPCに接続して本製品を利用できるというわけだ。


背面にはUSBポートやLANポートなどを備える

 一方、セットアップでの利用はなかなか便利だ。最近のNASはユーティリティなどを利用して手軽にセットアップできるが、本製品の場合はUSBでPCと接続することで自動的に設定情報を取得し、それに合わせてNASの設定ができる。

 具体的には、(1)USBケーブルで本製品をPCに接続して電源を入れる。(2)自動起動の画面から本製品のフォルダーを開き、セットアッププログラムを起動する。(3)ワークグループ名などの情報が自動的に取得。(4)設定に合わせてショートカットなどを作成。(5)電源をオフにしてLAN接続に切り替える。(6)起動後、NASとして利用可能、という流れになる。

(1)USBでPCに接続して電源オン(2)本製品のフォルダーからセットアッププログラムを起動
(3)ワークグループ名などの情報を自動取得して設定するとともに、(4)デスクトップ上にショートカットも作成される(5)電源をいったんオフにして、USB接続からLAN接続に変更

 実際にやってみると、実に簡単で物理的な接続や電源のオン/オフなども含めて、10分程度もあれば設定が完了できる印象だ。

 簡単になったとは言っても、ネットワークの設定に慣れていないというユーザーも少なくない。しかし、これであれば設定に迷うことはないし、最悪、設定がよくわからなかった場合でも、USB接続型HDDとして製品を利用できる。入門機としてはまさにうってつけの製品と言ったところだ。


(6)起動後、NASとしてPCからアクセス可能になる

機能と速度は割り切りが必要

 価格が安くて、簡単に設定できるのであれば、一般的なNASと比べても遜色ないのでは? と思うかもしれないが、そこはやはり低価格なりにあきらめざるを得ない部分も少なくない。

 まずは、パフォーマンスだ。今回はUSB接続と有線LAN、無線LANの3つのケースで「CrystalDiskMark2.2」によるテストを実施してみたが、USB接続の場合はほぼ標準的なパフォーマンスを実現できているのに対し、NASとしての速度は有線/無線LANともにかなり低い。なお、PCは富士通の「LOOX R/A70(Core2Duo SL7100/RAM4GB/OCZ Vertex 120GB/Windows 7 Ultimate 32bit)」を使用した。


USB接続時の結果有線LAN接続の結果無線LAN環境の結果。IEEE 802.11n(300Mbpsで接続)

 主な原因は内部の処理性能だ。最近のNAS製品では、高性能なCPUやより多くのメモリーを搭載することでファイル共有の処理性能を高めている。これに対して、本製品はコストの関係で、この性能があまり高くない。このため、実効速度で6MB/s(48Mbps)前後にとどまっているわけだ。

 続いては機能だ。「HDL-Cシリーズ」では、ファイル共有機能のみが搭載されており、DLNAによるメディア共有、外出先からのリモートアクセスなど、最近のNASに搭載されている付加機能は省かれている。

 つまり、接続方法としてはUSBとLANを選べるというだけで、ストレージとしての用途以外はないということになる。

 なお、USBとLANの同時接続はできない。電源オン時にいずれか接続されている方のモードで起動するようになっており、起動中にケーブルを差し替えてもモードが切り替わることもない。


設定はユーザーを作成できる程度で非常にシンプル

単なるストレージでじゅうぶん

 とは言え、「ストレージとして使えればじゅうぶん」と割り切ってしまえば、これほどわかりやすい製品もない。

 まず、余計な機能がないぶん、設定に迷うことがない。「HDL-Cシリーズ」は前述したように初期設定が手軽にできるが、その後に設定を変更するという作業もほとんど必要ない。

 PCに詳しいユーザーの中には、家族や親類などに頼まれてPCの設定や機器の設置をすることも少なくないだろう。こうした際、あとから家族や親類が追加で機能を設定してしまい、かえってサポートに苦労するというケースがよくある。多機能なNASを設置すると、「リモートアクセスの設定したんだけど……」と言われかねないが、本製品であればこうした心配もないわけだ。

 もちろん、性能が低く、機能が最低限しかなくても、実用にはまったく困らない。さすがに大量のファイルや容量の大きいファイルをコピーすれば時間はかかるが、数MB程度のファイルであれば、速度が気になるようなことはまったくない。NASとしても、ファイル共有が手軽にできる上、ユーザーを追加すればパスワードで保護された自分専用のフォルダにデータも保存できる。普段の使い方としては、これでじゅうぶんだろう。

 つまり、現状の高性能化、高機能化が進んだNASと比較すると確かに見劣りするのだが、USB接続型HDDの延長と考えると、さほど不満を感じることはないことになる。2~3台のPCでUSB接続型HDDをつなぎ替えて使うくらいなら、HDL-Cシリーズを使った方が、はるかに手軽で効率的だ。

 また、ファンの音も静かで、HDDの回転音も起動時に聞こえるくらいで普段はほとんど気にならない。静音性という点でも悪くないので、USB接続型HDDからのステップアップとして購入すると良いのではないだろうか。


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2010/3/9 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。