清水理史の「イニシャルB」

PCからAndroid端末の画面を操作
デモに便利なミラーリングケーブル「DN-84254」

 スマートフォンの画面をPC上に表示して、マウスやキーボードで直接操作できる。そんな使い方が手軽にできるのがエバーグリーンの「DN-84254」だ(上海問屋限定販売、3999円)。PCからAndroid端末のホーム画面や普段使っているアプリをそのまま操作できるUSBケーブルで、デモや画面キャプチャなどでの利用に便利な製品となっている。実際の使用感をレポートしよう。

手軽なAndroidデモ環境が欲しい

 会議やプレゼンの席などで、スマートフォンの実際の動作をデモしたいとき、どのような方法を使っているだろうか?

 HDMIでスマートフォンの画面を直接出力? 確かにスマートだが、端末が出力に対応していなかったり、プロジェクターがHDMI入力に対応していないと使えないため汎用性に欠けるうえ、プレゼン画面との切り替えがスムーズにできるとは限らないのが難点だ。

 AndroidのSDKを利用して、DDMSやASM(Android Screen Monitor)を使うのはどうだろうか? 静止画のみのDDMSはデモ向きではないが、ASMは画面が自動的にリフレッシュされるなど実用性は悪くない。ただし、画面のアニメーションを見せることができないうえ、使えるようにするまでの手間も若干かかる。

 ちょっと古典的だが、PCにウェブカメラを接続して撮影する方法もある。動きも見せられるため悪くはないのだが、やってみると意外にカメラの明るさや輝度の調整が難しく、見やすく表示するのになかなかの苦労が必要となる。

 このほか、LGのスマートフォンに搭載されている「On-Screen Phone」などの機種固有のソリューションを利用したり、家庭用テレビなどにワイヤレスで表示できるWi-DiやMiracastを使うという手もあるのだが、いかんせん対応製品が少なく、環境が用意しにくいのが現状だ。

 とまあ、なかなか「コレ」という方法がなかったのだが、ようやく使いやすい方法が現れた。エバーグリーンが同社の直販店である上海問屋限定で販売を開始したAndroid用ミラーリングケーブル「DN-84254」がそれだ。

上海問屋の「DN-84254」。Android端末の画面をPCに表示し、PCから操作することができるミラーリングケーブルとなる。上海問屋限定販売で3999円

 見た目は単なるUSBケーブルだが、専用ソフトの「KMC6105 Android Mirror(JAVAで動作)」を利用することで、Android端末の画面をPC上にウィンドウ表示し、PCのマウスやキーボードを使って画面を操作することができる。

 プロジェクターや大画面テレビなど、PCが繋げられる環境さえあれば、どこでもAndroid端末の画面を表示できるうえ、画面遷移の様子など、アニメーションも再現できる便利な製品だ。

 決して万人向けの製品ではないが、Android端末の画面をキャプチャしながら手順書を作ったり、アプリの動作やWebサービスの実行状況を実機でテストしながらPC上でデバッグしたいなどという使い方もできるので、こういった製品を待ち望んでいたという人も少なくないだろう。

意外なことに、初心者にもやさしい

 それでは、実際の製品を見ていこう。製品としては、コネクタ部分がちょっと大きめだが、いわゆる一般的なUSBケーブルそのものだ。片側がPCに接続するためのUSB Aコネクタオスで、反対側がAndroid端末に接続するためのUSBマイクロBコネクタオスという構成になっている。

見た目は普通のUSBケーブル。USB Aコネクタオス-USBマイクロBコネクタオスという組み合わせとなる

 PC接続側には、接続時の状態などを表示するLEDが搭載されているほか、画面を表示するためのPC用のアプリケーションである「KMC6105 Android Mirror」が収められたストレージ領域(CDFS)となっており、ここからソフトをインストールすることで利用可能となっている。

 使い方は意外にも簡単だ。決して悪い意味ではないが、市場にあまり類を見ない珍しい製品を扱う上海問屋の製品ということで、使い方が難しいのではないかと、少々身構えていたのだが、ソフトウェアの完成度が高く、よくわからないユーザーが手にしても、迷わず使えるようになっている。

 本製品を利用するには、「端末をデバッグモードにする」、「JAVA環境をPCにインストールする」、「端末を認識させるためのドライバをインストールする」という大きく3つのステップが必要になるのだが、これらの操作がウィザード形式の画面で丁寧にガイドされている。

ウィザード形式で設定を手軽に実行することができる

 JAVAがインストールされていなければインストールサイトが自動的に表示されるのはもちろんだが、感心したのは、接続した端末を自動的に判断して、機種ごとのドライバのインストール方法がきちんとガイドされる点だ。

 今回、HTC batterfly(HTL21)、Samsung GALAXY Note、MEDIAS N-07Dの3機種を接続してみたが、HTCの場合は汎用のドライバで対応できるため自動的にドライバがインストールされ、GALAXY Noteの場合はSamsung Kiesのインストール先が自動的に表示され、N-07Dの場合はNECカシオのドライバサイトが自動的に表示された。

JAVAがインストールされていなければメッセージが表示され、ダウンロードサイトが自動的に表示される
Android端末のドライバもインストール先を自動的に表示する。HTCの場合は汎用ドライバを自動的にインストールする

 これらのうち、MEDIAS N-07Dは、「Turboモードで表示できません」というエラーが表示され、結果的にDN-84254で画面を表示させることはできなかったのだが(AndroidSDKをインストールし標準モードに切り替えればいいようだが、パスを通しても切り替えがうまく動作しなかった)、接続する端末ごとに異なる対応を自動的にガイドしてくれるため、認識させるために何をすればいいのかをまったく迷わずに済む。

 このガイドは、接続する端末を変更する度に自動的に実行されるようにもなっている。このため、プレゼン会場などで、急に接続する端末を変更しなければならない状況になったり、ずいぶん前に別の機種で使えるように設定後、久しぶりに別の機種で使わなければならないという状況になったとしても、とりあえず接続すれば、あとはウィザードの指示で何とかなる。事前に何を準備して、どういう順番で、どこから何をダウンロードすればいいのかといった手順が頭に入っていなくても、使えるのは実にありがたいところだ。

 この手の製品は、得てして、使い方はユーザーまかせ、わかる人だけ使えれば良いというスタンスの場合が多いのだが、意外にもきちんと作られていることに感心した。

何ができて、何ができないのか?

 接続が完了すると、自動的にAndroid端末の画面がデスクトップ上に表示される。Android SDKのDDMSなどであれば、端末の解像度に合わせてウィンドウが表示されるため、デスクトップからウィンドウがはみ出してしまうが、DN-84254での接続の場合、PCの画面解像度に合わせて端末の画面が自動的に縮小された状態で表示される。

 では、実際にどのような操作ができて、どのような操作ができないのだろうか? 個別に見ていこう。

端末操作をPC画面に反映

 これは何の問題もなくできる。パターン操作でのロックスクリーン解除の様子、画面が暗転してホーム画面に切り替わる様子、ホーム画面をフリックして画面が移動しながら切り替わる様子など、アニメーション表示も含めて、操作の様子がPCの画面上に再現される。

 ただし、端末の画面での操作と、その結果がPCの画面に反映されるまで、若干のラグがあるうえ、表示されるフレームレートが低く、画面の切り替えやアニメーション表示などもあまりスムーズとは言えない。さらに表示できる色数が少ないためか、画像などのグラデーションなどで粗さも目立つので、アプリの動作テストなどで、画面遷移やデザインなどを厳密にチェックするといった使い方には向いていない可能性がある。

 とは言え、プレゼンの席などで、画面の動作を見せたり、使い方をレクチャーするといった使い方であれば十分だろう。

端末を操作すると、PCの画面も連動して表示が切り替わる

PCから端末を操作する

 冒頭で紹介したHDMI接続やAndroid SDKなどを使ったどの方法とも決定的に異なるのが、このPCから端末を操作できる点になる。

 PC上に表示された端末の画面をマウスでクリックすればアプリを起動することができるうえ、ホーム画面を左右にドラッグすればフリック操作と同様にホーム画面を左右に移動させることができ、ステータスバーを上から下へとマウスでドラッグすればスタータスパネルが表示することができる。

 入力のラグと結果の表示のラグの二重のラグが発生するためか、端末を操作する場合と異なり、フリックでスクロールしすぎたり、ゲームでうまく操作できなかったりと、思い通りに操作するのに若干の慣れが必要だが、プレゼンをしながらマウスでそのまま操作したり、画面を遷移させながら必要な画面をキャプチャしてPCのソフトウェアに貼り付けるといった作業をするには便利だ。

 ちなみに、Windows 8搭載ノートなどタッチ対応のPCで利用すると、タッチ操作でPC画面上のAndroid端末を操作できる。フリックやタップなどの操作をそのまま再現可能だ。

PCからポインティングデバイスやマウスで操作することが可能。当然、端末側も連動して画面が切り替わる

文字の入力

 キーボードからの入力に関しては、英数字であれば、直接入力が可能だ。ホーム画面のGoogle Serachガジェットをクリックして、「internet watch」などと入力すれば、本サイトを検索することができる。

 日本語に関しては、直接入力することができないため、ツールバーの「入力モードに切り替える」をクリックし、表示されたテキストボックスにPCのIMEを利用して入力後、Enterキーを押してAndroid端末に送信するという方式になる。

 ツールバーには、「外部入力テキストウィンドウを表示させる」というボタンもあり、これを利用すると、メールの本文など、複数行にわたる文書を入力して、一気に端末に送信することも可能だ。

 英数字の直接入力はラグが結構あるため、パソコン通信の時代の文字入力のラグ感をもう少しマシにしたような印象だが、PC側で入力して送信すれば、さほどストレスは感じないだろう。

 ちなみに、PCから文字入力を実行すると、端末側の入力方式が「MctSoftKey」に変更され、端末側からの文字入力はできない状態となる。もしも、端末側から文字を入力したい場合は、設定画面などから文字入力の方法を変更する必要がある。

日本語はPCのIMEを利用して入力可能。複数行入力もできる

通信機能の利用

 通信は、端末の機能をそのまま変更なしに利用することが可能だ。3G、Wi-Fiなど、端末側で有効になっている通信方法で、そのままインターネットにアクセスすることができる。このため、PCからの操作でブラウザを使ってWebを閲覧したり、Google Playなどからアプリをダウンロードすることも普通にできる。

通信機能はそのまま利用できる

アプリの実行

 アプリに関しては、実用可能なもの、動くが実用的でないもの、動作しないものの3種類に分類できる。

 ブラウザやメールなどのアプリは実用可能だ。前述したように、画面表示や操作のラグがあまり問題にならないアプリであれば、慣れは必要だが、PCからでも問題なく操作することができる。たとえば、カメラを起動して、PC上でピントを合わせ、シャッターを切るといった操作も可能だ。

 実用が難しいのは、ゲームなどの入力レスポンスが要求されるアプリだ。これらは、動くものの、楽しめるというレベルにはない。同様に、動画の表示なども厳しい。再生は可能だが、コマ送りになってしまう。

 動作しないのは、デバッグモード下での実行が許可されていないアプリだ。たとえば、電子書籍アプリの「GALAPAGOS」などは、著作権保護の観点からデバッグモードが有効の状態では電子書籍を表示できないように制限されている。こういったアプリは利用できない。

 ただし、こういった制限がなされていないアプリは、電子書籍アプリ、ワンセグ、DTCP-IPを利用した映像再生なども表示することができた。Amazon Kindle、Kinoppyの電子書籍、ワンセグ放送の映像とデータ放送、auビデオパスのストリーミング映像、Twonky Beamを利用したnasneの録画番組などもPC上に表示でき、キャプチャまでも可能だった。

 ワンセグなどは、ハードウェアキーでの画面キャプチャは制限されているものの、この方法では画面キャプチャができてしまうことになる。今後、GALAPAGOSアプリのように、デバッグモードが有効な状態での動作ができないように制限されている可能性もあるだろう。

デバッグモードで動作しないアプリは利用不可
ワンセグなどの画面も表示できる

ハードウェアキーの利用

 端末のハードウェアキーに関しては、ツールバーのボタンで操作できるようになっている。電源(画面ロック)、ホーム、メニュー、戻る、画面の回転、ボリュームUP/DOWNの操作が可能だ。

 なお、ロングタッチはマウスを一定時間クリックし続けれることで可能だが、マウスの右クリックに関しては特に何の操作も割り当てられていないため、利用不可となる。

ツールバーのボタンでハードウェアキーの操作が可能

サウンド

 サウンドに関しては、基本的に端末からの再生となる。DN-84254経由でPCにリダイレクトされるのは画面出力だけで、サウンドはPC上で再生することはできない。

 このため、PCにヘッドホンを繋いだ状態で、うっかり端末でビデオを再生したり、ゲームを実行すると、その音声が端末から鳴り響くことになる。しばらく使っていると、PC上に表示された端末の画面がPCのアプリのように思えてくるので、注意した方がいいだろう。

サウンドはPCではなく、端末側で再生される

画面キャプチャ

 画面のキャプチャは、前述したようにツールバーのボタンから実行できる。PNG形式の静止画のみで、指定したフォルダに画像を保存可能だが、保存先は記憶してくれないので、毎回指定する必要がある。

 また、PC上に表示されたイメージのままキャプチャされる点に注意が必要だ。ウィンドウの画面サイズを小さくしている場合は、端末の解像度と関係無く、ウィンドウのサイズでキャプチャされる。色合いなどもオリジナルの端末のものではなく、あくまでもPCの画面上に表示されたものとなるので注意しよう。

画面キャプチャも可能。ただし、保存先を覚えてくれない

PCとの連携

 PCとの連携機能は、電話の着信やSMSの着信を通知領域に表示できるのみとなっている。PCに端末を繋ぎっぱなしにして使うといった場合などは、利用価値があるだろう。

 ファイルの転送などの機能は用意されていない。ドラッグで手軽にファイルでもコピーできれば、それなりに便利そうなので、今後に期待したいところだ。

 ちなみに、PCとの接続中は、端末はスリープしない。設定によっては、一定時間操作しなければ、画面の明るさが暗くなることはあるが、通常の利用時のように画面が真っ暗になってスリープすることはない。

 よって、繋ぎっぱなしで使うと、スマートフォン本体が次第に熱くなってきたり、徐々にバッテリーを消費していく。

 ミラーリングする製品なので、動作としては極めて正しいが、PCで操作している間は端末側の画面をオフにするような工夫がなされると、より便利に使えそうだ。

接続中はスリープせず、本体の画面も表示されたままになる

万人向けの製品ではない

 以上、Android端末の画面をPCに表示できる「DN-84254」を実際に使ってみたが、イベントなどで端末の画面を見せる機会がそれなりにあったり、Android端末の画面をキャプチャしながら記事を執筆することが多い筆者などにとっては、非常に便利な製品と言える。

 操作レスポンスや画面の再現性などに難点はあるが、やはりPCから端末を操作できるのはデモや記事執筆の際に便利だ。PCのキーボードとマウスから手を離すことなく、作業を進めることができる。

 よって、万人向けの製品というよりは、特定の用途向けの製品と言える。普段、端末で利用しているアプリをPC上でも日常的に使いたいというニーズに応える製品ではないので、その点に注意して購入するといいだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。