清水理史の「イニシャルB」
11ac実効700Mbps超! しかもデュアルWAN対応!! 超マニアックな無線LANルーターASUS「RT-AC68U」
(2013/12/17 06:00)
ASUSから、とんでもなく“トンがった”無線LANルーターが登場した。Draft11ac対応の「RT-AC68U」は、1300Mbps+600Mbpsという無線スペックはもちろんのこと、現状最速と言える実効速度を誇るパフォーマンスを実現し、USB 3.0の搭載、NAS機能やVPNサーバー機能のサポート、さらにデュアルWAN、3G/LTEアダプタ対応まで実現した機能てんこ盛りの製品だ。
2013年の個人的なベストバイ
筆者の個人的な興味の対象が偏っていることを前提に聞いて欲しいが、今年登場した数々のデバイスの中で、もっとも欲しかったモノ、そして買ってもっとも満足感があったモノが、このASUS「RT-AC68U」だ。
「もしかすると、無線LANの速度を測ることにやたらと熱心で、光ファイバーを3本も敷設しているボクのために開発してくれたんじゃないか?」と思えるほどハイパフォーマンスかつ多機能な製品で、一般ウケを考えると、ちょっとやり過ぎではないかと心配になるほど。設定画面を見るだけでニヤリとさせられてしまうくらい、作り込まれている。
ここまでやりたいことを製品に落とし込めた開発担当者はさそかし満足だろうし、こんなにトンがった製品を市場に投入する判断をしたASUSの勇気にも素直に感心するところだ。
さて、少々感情が先走りしてしまったので、話を整理し直そう。ASUSから登場した「RT-AC68U」は、Draft11acに対応した無線LANルーターだ。
最近の無線LANルーターは5GHz帯と2.4GHz帯の速度を足し算した合計を型番やキャッチコピーに使うことが多いが、本製品の最大速度は5GHz帯のIEEE802.11ac(draft)/a/nが最大1300Mbpsで、2.4GHz帯のIEEE802.11b/g/nが最大600Mbpsの合計「1900」という数値が使われている。
2.4GHz帯が600Mbps? と疑問に思う人も少なくないだろう。現状、2.4GHz帯のIEEE802.11n/b/gに準拠した製品の多くは、最大速度が450Mbpsとなっている。40MHz幅の150Mbps×3ストリームMIMOで450Mbpsだ。
本製品では、ここに11ac(Draft)でも採用されている、256QAMの変調方式を採用することで、40MHz幅の帯域や3ストリームMIMOといった部分は変更せずに最大速度を600Mbpsにまで引き上げている。
現状のDraft11ac対応製品が登場する前に、一部のメーカーから“11ac(Draft)技術”を採用した製品として600Mbps対応の無線LANルーターが発売された時期があったが、それと同じ技術、256QAMの変調方式を2.4GHz帯に実装したのがRT-AC68Uというわけだ。
正直なところ、日本の混雑している2.4GHz帯では、このパフォーマンスを十分に発揮できる環境はごく限られる上、600Mbpsに対応したクライアントもほとんどみかけない。
よって、他の多くの無線LAN機器ベンダーがそうであるように、“わざわざ2.4GHz帯を600Mbpsに対応させる必要はない”と考えるのが普通で、実用上それで問題はない。しかし、そこをあえて600Mbps対応にしてきたあたりに、ASUSのパフォーマンスにかける心意気を感じる。おそらく、市場的には評価されにくいと思われるので、少なくとも筆者くらいは、こういったスペックの追求にかける同社の姿勢を高く評価しておきたいところだ。
レビューワー泣かせの多機能さ
もちろん、RT-68Uのスゴイところは、1300+600Mbpsの無線LANだけではない。機能的にもかなり豊富で、レビューのために1つずつテストするのが、良い意味で“しんどい”くらいに機能が詰め込まれている。特徴的な機能をリストアップしたのが以下の表だ。
カテゴリ | 機能名 | 概要 |
無線LAN関連 | AiRader | ビームフォーミング |
ゲストネットワーク | 2.4/5GHzそれぞれに3つずつゲスト用SSIDを設定可能。接続時間の指定やLANアクセスの可否も個別設定可能 | |
WDS | ワイヤレスブリッジとして動作させるモード | |
RADIUS認証 | RADIUSサーバー(別途必要)を利用した認証 | |
スケジュール機能 | 指定した曜日と時間のみ無線LANを有効にする | |
TxPower調整 | 送信出力を最大200mWまで設定可能(標準は80mW) | |
動作モード変更 | 無線ルータ/リピーター/アクセスポイント/メディアブリッジの4モードに変更可能 | |
ネットワーク関連 | ネットワークマップ | WANの状態、無線の設定と接続クライアント、USB接続デバイスの状態などをグラフィカルに表示 |
QoS | プロトコルを指定して通信の優先度を設定可能。標準オフ。 | |
トラフィックモニター | WAN/LAN/無線の各トラフィックをグラフで表示できる | |
H/Wアクセラレータ | ルーティングのアクセラレーション(標準オン) | |
デュアルWAN | WANポート+USB、WANポート+LANポートで2系統のWANを利用可能(LoadBalance/Failover) | |
NATパススルー | PPTP/L2TP/IPSec/RTSP/H.323/SIPパススルーが標準で有効 | |
IPv6 | IPv6対応(標準無効) | |
セキュリティ関連 | ペアレンタルコントロール | MACアドレス指定で、クライアントの接続可能日時を指定できる |
リモートアクセスの保護 | CloudDiskアクセス時のパスワードを一定回数間違えるとアカウントをロック。アクセスログも記録可能 | |
ファイアウォール | 一般的な攻撃の排除とping非応答。URLフィルター/キーワードフィルター/特定クライアントのWANアクセスを日時指定でフィルターできる | |
USB関連 | メディアサーバー | DLNA/iTunesサーバーとして機能させる |
Network Neighborhood共有 | SMBによるファイル共有(アカウントによるアクセス制限可) | |
FTP共有 | FTPサーバーとして動作させる | |
ネットワークプリンタサーバ | USB接続したプリンタを共有する | |
3G/4G | USB接続した通信アダプタを使ってインターネット接続する | |
TimeMachine | MacOS XのTime Machineバックアップ用ストレージとして動作させる | |
リモートアクセス関連 | ダイナミックDNS | ASUS独自に加え、Dyndnsなども利用可能 |
CloudDisk | USB接続したHDDのデータにインターネット経由でアクセス可能にする。Android/iOSアプリあり | |
SmartAccess | WAN経由でLAN上のPCの共有フォルダにアクセス。WoLも可能。 | |
SmartSync | USBストレージのデータをASUS Webstorageと同期させる | |
SyncServer | RT-AC68UのUSBディスクの特定フォルダをWAN経由で別のRT-AC68Uと同期させる | |
VPNサーバー | PPTP/OpenVPNサーバーとして動作。VPNクライアント機能も搭載 | |
その他 | システムログ | 全般/ワイヤレス/DHCPリース/IPv6/経路表/ポートフォワーディング/接続の各ログを表示可能 |
診断ツール | Ping/TraceRoute/nslookup/netstatなどのツールを実効可能 | |
WoL | Macアドレスを指定してLAN上PCをWoLで起動可能 |
中でも特徴的なポイントについて、以下で補足しておこう。
無線LAN関連
無線LAN関連では、動作モードが4種類から選択できる。一般的な無線ルーターモードとアクセスポイントモードに加え、無線LANで無線LANの通信を中継するリピータモード、有線LAN同士を無線LANでつなぐメディアブリッジモードでの利用も可能だ。電波の届きにくい場所をリピーターで中継したり、1階と2階のLANをメディアブリッジモードで繋ぐといったイメージになる。
また、市販の無線LANルーターでは珍しく、TxPowerの値もmW単位で調整できる(国内メーカー製の製品では、「%」で指定するケースが多い)。国内の無線LANでは、最大空中線電力が20MHz幅の場合で10mW/MHz、40MHz幅の場合で5mW/MHz、80MHzの場合で2.5mW/MHzといわゆる密度で出力が規定されており、最大値が200mWとなっている。
標準値は80mWで200mWまで変更可能だが、動的に調整されるとのことで、高い値を指定したからといって単純にパワーが上がるわけではない。干渉の問題を考えると、必ずしも出力が高ければ良いというものでもないので、通常は変更する必要はないだろう。
このほか、ビームフォーミングにも対応しており、対応クライアントを利用することで、クライアントの位置に応じて適切に電波の指向性を変更することも可能だ。
ネットワーク関連
ネットワーク関連で特徴的なのは、何と言ってもデュアルWANだ。詳細は後述するが、光ファイバーを2本利用して、負荷分散でLANからのトラフィックを動的に振り分けるといった使い方ができるのは、本製品の非常に大きな特徴と言える。
IPv6に関してもサポートされているが、標準では無効になっている。現状、IPv6で接続するメリットはユーザー側にあまりないのが実情だが、対応が進んできたIPv6でも問題なく接続できるのは安心して使える1つの要因となるだろう。
セキュリティ関連
ペアレンタルコントロールについては、時間指定によるアクセス制限となっており、サードパーティのフィルタリングサービスは利用しない。URLベースのフィルタリングも別途実装されているリストの管理はユーザーによる手動となる。
注目は、リモートアクセスの保護機能として、アカウントのロックアウト機能が搭載されている点だ。外出先からリモートアクセスできる機能を提供する無線LANルーターやNASは数多く存在するが、こういった機能でアカウントを保護できるのは珍しい。アクセスログも記録できるので、企業での利用にも対応できそうな製品だ。
USB関連機能
本製品にはUSB3.0ポート×1、USB2.0ポート×1がぞれぞれ背面に搭載されており、ここにUSBストレージやUSB通信アダプタ(デュアルWANで利用)、USBプリンタを接続して利用することができる。
同様の機能はハイエンドの無線LANルーターでも搭載されているが、TimeMachineバックアップまでサポートしているのは本製品ならではの大きな特徴となる。実際に試してみたが、10.8.5(Mountain Lion)、および10.9(Mavericks)搭載のMacBook Air 11 2013にて問題なくバックアップを実行することができた。
なお、USB3.0で接続したSSD(Intel 335 160GB)に有線LAN経由でアクセスしたときの速度は以下の通りだ。無線LANルーターとしてはかなり高速で、ローエンドのNASと良い勝負という印象となっている。
リモートアクセス関連
リモートアクセス関連の機能のサポートも、最近のハイエンド無線LANルーターのトレンドと言えるが、本製品の場合、さらに一歩進んだ内容となっており、SmartAccessでLAN上のPCにアクセスできたり、ASUS WebstorageとUSBストレージのデータを同期したり、RT-AC68U同士でフォルダをシンクするなど、NAS顔負けの機能が搭載されている。
VPNに関しても、一般的なPPTPだけでなく、OpenVPNをサポートしている。前述したようにファイル共有の速度も低価格のNASと遜色ないので、付加機能を考えると、こちらを購入した方が明らかにお得だ。
このようにRT-AC68Uは非常に多機能な製品となっている。海外では、市販のルーターのファームウェアをDD-WRTに書き換えて使っているユーザーも少なくないが、DD-WRT並の機能をやさしいUIと、ASUSのサービスを組み合わせて、より使いやすくしたという印象だ。
初めて目にしたiPerf“800Mbps”越え
ここまででも「普通」じゃないことが十分に伝わると思うが、さらに驚くのはパフォーマンスだ。
以下のグラフは、木造三階建ての筆者宅の1階にRT-AC68Uを設置し、メディアブリッジモードにしたもう一台のRT-AC68U、および最大867Mbps対応のDraft11ac無線LANを搭載したMac Book Air 11(2013)を利用して、iPerfの速度を計測した結果である。
1F | 2F | 3F | |||||
親機 | 子機 | Down | UP | Down | Up | Down | Up |
RT-AC68U | RT-AC68U(1300Mbps) | 767 | 541 | 505 | 342 | 387 | 278 |
MacBook Air 11(867Mbps) | 622 | 575 | 427 | 364 | 268 | 152 |
- サーバー:Intel NUC DC3217IYE
- サーバー側:iperf -s、クライアント側:iperf -c [IP] -t10 -i1 -P3
同一フロアで下り最大767Mbpsという速度は、現状の無線LANルーターの中では、間違いなくトップクラスだ。以下に、計測時のスクリーンキャプチャーを掲載するが、ところどころ800Mbpsを越える値が計測できていることがわかる。
これまで、いろいろな無線LANルーターの速度を計測したが、800Mbpsを越える速度を目にしたのは本製品が初めてだ。有線LANの場合でも、スペックの低いPCやNICを使うと800Mbps実現が怪しい場合もあるので、無線でここまで速度が出たことは素直に驚きだ。
他の製品の場合、ハードウェアの処理性能の限界のためだろうか、1300Mbps接続時と867Mbps接続時の差があまり見られないケースもあるのだが、本製品では、この差がしっかりと現れている。
本製品では、Cortex-A9デュアルコアプロセッサーと256MBのDDR3メモリが採用されているが、このようなハードウェアのリッチさと、チューニングのうまさが表れていると言えそうだ。
もちろん、遠距離の場合のパフォーマンスも良好だ。3Fで下り387Mbpsというのは、同一フロアでIEEE802.11nで通信した際に匹敵するパフォーマンスで、3階までの距離と遮蔽物をまったく感じさせない快適さと言える。
前述したように、本製品にはAiRidarと名付けられたビームフォーミング機能が搭載されており、対応クライアントを利用した場合は、クライアントの位置を検出してその方向に電波の指向性を強めることが可能になっている。この効果が現れているのではないかと考えられる。
続いて、2.4GHz帯の速度も計測してみた。最大600Mbpsで通信できるように、クライアントにRT-AC68Uを利用したが、残念ながらこちらは値が伸びなかった。理由は明らかに2.4GHz帯の混雑だ。筆者宅では、どのフロアからでも常に周辺に5~6個のアクセスポイントが見える状況となっているため、おそらく、それが影響していると考えられる。
1F | 2F | 3F | |||||
親機 | 子機 | Down | UP | Down | Up | Down | Up |
RT-AC68U | RT-AC68U(600Mbps) | 148 | 170 | 132 | 119 | 126 | 116 |
- サーバー:Intel NUC DC3217IYE
- サーバー側:iperf -s、クライアント側:iperf -c [IP] -t10 -i1 -P3
また、スマートフォンでの接続速度も計測してみた。Draft11ac対応のGALAXY S4を利用し、同様にiPerfの速度を計測してみたのが以下のグラフだ。同一フロアで229Mbpsとかなり速い値が計測できており、3Fでも87Mbpsで通信できている。
スマートフォンもLTEの高速化などで通信速度は向上しつつあるが、さすがに200Mbpsオーバーの値を見せられると、自宅では積極的に無線LANにつなごうという気になる。アプリのダウンロードなどはWAN側の速度や混雑具合にも左右されるが、タブレットなどではLAN上のビデオ映像をDLNAクライアントで再生するといった使い方も想定できるため、RT-AC68Uの速度が生きてくる印象だ。
親機 | 子機 | 1F | 2F | 3F |
RT-AC68U | GALAXY S4 Draft11ac(433Mbps) | 229 | 191 | 87 |
GALAXY S4 2.4GHz 11n(72Mbps) | 54.5 | 50.3 | 33.6 |
最後に、同社が販売しているPCI-E 1x接続のクライアント「PCE-AC68」も試してみた。さすがにデスクトップ向けとなるため、同一フロアでの計測のみとしたが、Draft11acで683Mbpsと、RT-AC68U同士のときほどの速度は実現できなかった。PCI-E接続のため、RT-AC68U同士のときとは異なるクライアント(Core i5搭載のWindows 8.1機)を利用した上、今回、ベータ版のドライバーを使った影響だと考えられる。
ただし、PCE-AC68は、外付けのアンテナはマグネット式となっており、PC本体に貼り付けることもできるなど、これはこれで便利だ。PCI-Eスロットに余裕があるPCを使っている場合は、これを利用して無線化することも検討するといいだろう。
200Mbps+2GbpsのデュアルWANを使ってみる
さて、かなり長文になってしまって申し訳ないが、もう1つの注目点となるデュアルWANについても見ていこう。
デュアルWANは、文字通り、2系統のWAN回線を利用する機能だ。法人向けの製品では同様の機能がサポートされることも珍しくないが、ここ数年で国内で発売されたコンシューマー向けの無線LANルーターとしては、おそらく唯一の存在ではないかと考えられる。
使い方は簡単で、設定画面からデュアルWANを有効にし、そのポートを指定する。USB(USB通信アダプタ)、もしくはLANポートのPort1~4のうちのいずれかを選択すると、既存のWANポートに加え、指定したポートが2系統目のWANとして機能するようになる。
WANを2系統と言っても、いわゆるバルク通信のように束ねて速度を積み増しするわけではなく、片方の回線に障害が発生したときにもう片方の回線に自動的に切り替える「フェイルオーバー」と、LANからの通信をあらかじめ指定した割合で2系統のWAN回線に振り分ける「負荷分散」の2種類で利用することが可能となっている。
試しに、使ってみたが、なかなか興味深い機能だ。テストした環境は以下の通りだ。最大200Mbpsのフレッツ光ネクスト、そして最大2GbpsのNURO光の2回線を利用。フレッツ光ネクスト側は、PPPoE接続となるため、RT-AC68UにPPPoEアカウントを設定し、標準のルーター側でPPPoEパススルーさせて接続。対して、NURO光はPPPoEではなく自動でIPアドレスが割り当てられるため、標準のルーターのDMZとしてRT-AC68Uを設定して2重NATの構成とした。
最後に負荷分散で利用する際の割合を設定する。標準ではプライマリWAN:セカンダリWANが2:1に設定されているが、今回はプライマリ200Mbps、セカンダリ2Gbpsなので、この比率を1:9に設定した。
この状態で、LAN上のクライアントから接続すると、まったく違和感なく、普通にインターネットに接続できる。本当に負荷分散で振り分けられているのか不安になったが、試しに、インターネット上のホスト名を確認できるサイト(確認くん)にアクセスしてみると、リロードのタイミングで、たまにホスト名が変更されることが確認できた。
端末によって回線を振り分けるのではなく、端末が1台の場合でもセッションによって回線を振り分けていると考えられる。実際、負荷分散の比率を1:2と1:9で変化させ、Speedtest.netで速度を計測してみたが、この場合もそれぞれで速度が変化することを確認できた。
とは言え、この機能が真価を発揮するのは、やはりたくさんのクライアントがLAN側に存在する場合だ。複数のPCが同時にインターネットに接続したり、特定のクライアントが日常的に大量の転送したりするケースで、WAN側の帯域を食いつぶしてしまうような場合でも、もう1本の回線を用意することで、その負荷を分散させることができる。
デザイン事務所やビデオ編集などの業務の中小企業で、WANの増強を手軽にしたい場合に適していると言えそうだ。
なお、2013年12月10日時点で最新のファームウェア(3.0.0.4.374.371)では、デュアルWAN構成時に、仮想サーバー(ポートフォワード)の機能を有効にすると、インターネット接続できない(ルーター設定画面にループバックする)現象が確認できている。
すでに同社に報告済みで、2013年12月末に問題が修正されたファームウェアが公開される予定となっているので、デュアルWANを利用する場合は、このファームウェアを適用することをおすすめする。
LANをまるごとクラウド化できるリモートアクセス機能
続いてリモートアクセス機能も試してみたが、これも結構イケている。
前述したように、本製品には、USB接続したストレージをインターネット経由でPCやスマートフォンから利用できる「Cloud Disk」、インターネット経由でLAN上のPCにアクセスできる「SmartAccess」と呼ばれる機能が搭載されており、これら複数のサービスを統合して「AiCloud」と呼びシームレスに活用できるような工夫がなされている。
背面のUSBポートにHDDやSSDを装着後、まずはインターネット経由でアクセスするためのDynamicDNS名を取得する。本製品では「任意の名前.asuscomm.com」という名前が取得できるので、これを設定しておく(この状態でFTPアクセスが可能になる)。
続いて、「AiCloud」設定画面から「Cloud Disk」と「Smart Access」を有効にすれば設定は完了。意外に簡単に設定ができてしまう。
これで、モバイル回線などから「https://任意の名前.asuscomm.com」にアクセスし、ルーターの管理者アカウント(adminだが変更可能)でログインすると、画面左側にRT-AC68Uに接続したUSBストレージ、その下にLAN上の端末がずらりと表示される。
USBストレージをクリックすることで、保存されているファイルにアクセスできるのは当たり前だが、前述したSmart Accessのおかげで、その下に表示されている端末をクリックし、端末のローカルアカウントでログインすることで、各端末の共有フォルダーのデータも同様に参照できるのだ。
筆者宅では、メインのPCに加え、NAS(Synology DS1512+)、さらにテレビ録画用にnasneが2台ほどLANに接続されているが、AiCloudの画面から、このすべての共有フォルダーにも問題なくアクセスできた。
もちろん、nasneでアクセス可能なのはファイル共有用のフォルダーのみで、録画データにはアクセスできないが、nasneのように本体側でリモートアクセス機能を搭載しないデバイスでもリモートアクセス可能にしてしまうというわけだ。
企業などでは、導入時期や費用などの問題で、異なるベンダーのNASを複数台運用しているケースも珍しくない。たとえば、古いWindows Server+NASなどという組み合わせは、よくあるケースだろう。
こういったケースで、両方のリソースにリモートアクセスしたいとなると、それぞれのリモートアクセスソリューションを個別に設定して使い分けるか、VPNなど別の方法でのアクセスを検討しなければならない。
しかし、RT-AC68Uであれば、SMBさえサポートしてれば、どんなデバイスにも統一されたUIでリモートアクセスできてしまうことになる。もちろん、AndroidやiOS用のアプリも用意されており、同様にスマートフォンやタブレットからも、RT-AC68UのUSBストレージ、LAN上のPCやNASにアクセスすることが可能だ。
これまでのルーターやNASのソリューションは、単体のデバイスやストレージをクラウド化するというアプローチだったが、本製品ではLANをまるごとクラウド化できる点が画期的と言えるだろう。
大きさやアンテナなんて気にならない
さて、普段のレビューとは全く逆の順番になってしまったが、最後に外観について触れておこう。外観については、はっきり言って、大きくてゴツイ。
サイズは220.0 ×83.3 ×160.0 mm (WxDxH)と、一般的なルーターに比べてかなり大きく、小さな無線LANルーターであれば横に2つ並べることができてしまう。重さも640gと重く、手に持つと、あまりにもズッシリした重さに無線LANルーターであることを疑いたくなってしまうほどに重い。
トレンドがアンテナ内蔵が中心となりつつある状況で、3方向にそびえ立つアンテナは、電波の指向性を調整できるという特徴はあるとは言え、決してスマートとは言えない。
ピアノブラックのボディの質感、金属でしっかりとフチがカバーされたWAN/LANポート、カッチリとしたスイッチ類、すべて消灯することも可能で背面からでも確認できるランプ類と、高級感という点では文句ナシの出来だが、おそらく女性を中心に、このテイストに抵抗を感じる人も少なからず存在するだろう。
しかしながら、ここまで多機能で、高性能で、マニア心をくすぐられると、もはやデザインなどはどうでも良いと、完全に割り切ってしまうことができる。
では、万人向けではないのか? というと、必ずしもそういうわけではない。ここまで紹介したように、使い切れないほどの機能を搭載しているが、設定画面は見やすく、AiCloudなどの一見複雑な機能も簡単に設定できるように工夫されている。基本的な機能だけでよければ、初期設定もPCだけでなくスマートフォンからも実行可能で、設定自体もウィザード形式を採用しており、わずか数ステップで済む。
このあたりは、同社のWebサイト(http://www.asus.com/jp/Networking/Wireless_Routers_Products/)に掲載されている設定方法を紹介した動画でも確認できる。また、デモ用の設定ページ(http://demoui.asus.com:8096/index.asp)で実際に体験することもできるので、一度アクセスしてみるといいだろう。
欲を言えば、各機能がどんな役に立つのかという実際のソリューションと結びつけるようなガイドやステップバイステップの入門書などあるといいのではないかと思えるが、ハイエンド無線LANルーターの入門機として、いろいろな機能を手軽に活用できるかなりおすすめの1台と言える。
個人的にも、購入後、普段の仕事環境の通信環境として常用しているが、2週間ほど連続で使っている今でも特に安定性などにも問題はない。ファームウェアもこまめに更新され、機能の追加なども順次行われていく予定となっているようなので、安心して使うことができるだろう。