清水理史の「イニシャルB」

旅行や出張のお伴に便利な小型無線LANルーター
NECアクセステクニカ「AtermW300P」

 年末・年始の休暇を利用して、旅行に出かけたり、帰省を予定している人も少なくないことだろう。そんなとき頼りになるのが、持ち運びに便利な小型の無線LANルーター「AtermW300P」だ。ホテルや旅館の有線LANを利用して、手軽に複数の端末を接続できる同製品を実際に試してみた。

ホテルなどの有線LAN環境でPCやタブレットなどを使えるようになる

旅行のお伴に使えるAtermシリーズ新製品

 ホテルや旅館にチェックインして、インターネット環境をチェック。3GやLTEの電波も微妙な上、部屋の接続環境が有線LANのみで、タブレットやPCの接続に困った……。

 年末年始を控え、旅行や帰省の計画を立てているかもしれないが、過去にそんな経験をしたことがある人も少なくないことだろう。

 ホテルや旅館のインターネット接続環境はまだまだ有線LANが主流。最近では、無線LAN環境を提供するサービスも登場してきたが、オプションで別途料金がかかったり、グレードの高い部屋でしか使えないなどということも珍しくない。

 PCやタブレット、さらにはデジタルカメラなど、手元のデジタルデバイスが無線LANでの接続を前提となってきたのに対して、旅先・出張先のインフラが有線LANのままなのが悩みどころだ。

 そんな中、NECアクセステクニカから発売されたのが「AtermW300P」だ。IEEE 802.11ac対応のAtermWG1800HPなど、家庭用の据え置き型無線LANルーターで高い評価を得ている同社が新たにラインナップした製品で、持ち運びに便利なコンパクトなサイズながら300MbpsのIEEE802.11n/b/gに準拠した有線LAN-無線LANルーターとなっている。

 同様に持ち運び可能な製品として、これまで同社は、WAN側にWiMAXを利用するAtermWM3800Rや通信事業者向けのLTE対応のモバイルルーターをラインナップしていたが、今回のAtermW300Pは、WAN側に有線LAN、もしくは公衆無線LANを利用し、バッテリー内蔵ではなくUSB給電によって動作するのが大きな違い。国内出張のホテルや旅館などでの利用を想定した新ラインナップの製品となっている。

NECアクセステクニカの「AtermW300P」。ホテルや旅館などでの利用を想定した小型の無線LANルーター

ハーフカードサイズに機能を凝縮

 本製品の最大の魅力は、Atermシリーズならではの技術が小さなサイズにギュッと凝縮されている点にある。

 サイズは幅43.8×奥行き57.6×高さ13.3mm、重量20gで、同社調べでは同クラスの製品の中では最薄。名刺やキャッシュカードなどに重ねると、半分ほどで収まるようになっており、非常にコンパクトな設計になっている。

手のひらに収まるコンパクトなサイズ
名刺やカードの半分程度で持ち運びに便利

 このジャンルの製品の場合、使う場所はホテルや旅館などとなるため、必要以上にコンパクトである必要はなく、あくまでもバッグに入れて持ち運ぶのにかさばらないサイズであれば十分と言えるが、使い勝手を損なわないギリギリのサイズに仕上げてきたあたりは、NECアクセステクニカらしいと言えそうだ。

 また、写真では少しわかりにくいかもしれないが、表面がカーボン柄のデザインとなっており、裏方の通信機器としては比較的凝ったデザインとなっている。詳しくは後述するが、WAN側に公衆無線LANも利用できるため、カフェや空港など人目に付く場所での利用も気にならないだろう。

カーボン柄のスタイリッシュなデザイン
側面にLANポートと給電用のmicroUSBポートを搭載
WPSやらくらく無線スタート設定用のボタンも搭載

 WAN回線を接続する有線LANポートは側面に配置されている。ホテルや旅館などの環境に合わせて10/100Mbpsのみの対応となるが、13.3mmという薄さの筐体の上下幅目一杯にRJ45コネクタが配置されており、小さなボディにうまく収めたという印象だ。

 前述したように、電力は外部からの給電となっており、LANポートの隣に配置されているmicroUSBポート経由で動作する。USBケーブルは付属しているが、コンセントから給電するためのACアダプタは付属しないので、PCなどから給電するか、別売りのオプション(A3V9P1365:同社オンラインショップで1575円)か市販のアダプターを用意しておくといいだろう。

 このほかWPS/らくらく無線スタート用のボタンが側面に、動作確認用のLEDが上部に配置されており、コンパクトながら必要な機能は揃っている。

PCやタブレットと並べたイメージ。PCのUSBから給電して利用できる

汎用性を考えると現実的な300Mbps対応

 無線LANに関しては、最大300Mbpsに対応したIEEE802.11n/b/g準拠となる。

 ドラフト版ながら、スマートフォンなどでもIEEE802.11ac対応が進んでいることを考えると、若干、物足りないと考えるかもしれないが、汎用性を考えると、むしろ300MbpsのIEEE802.11n/b/g対応製品でも十分だ。

 現在、市販されている小型の無線LANルーターの場合、11ac対応と言っても、5GHzと2.4GHzが切替式となるケースがあるうえ、最大433Mbps対応のDraft11ac対応の場合、MIMOなしのシングルストリーム対応となるため、非Draft11ac端末の最大速度が150Mbps(2.4GHz帯)になってしまう。

 つまり、接続するPCやスマートフォン、タブレットなどがすべて5GHz帯のDraft11ac対応で統一できるのであれば実力をフルに発揮できるDraft11ac対応製品を選ぶメリットが大きいが、通常は2.4GHz対応の機器も混在することを考えると300Mbps対応の方が実用性は高いというわけだ。

 もちろん、無線LANのメインストリームはDraft11acへと移り変わりつつあるため、今後、AtermシリーズにDraft11ac対応機が登場することも期待したいところだが、その場合でも、上述した汎用性やリーズナブルな価格設定から、あえて本製品を選ぶメリットも大きいと言えそうだ。

接続したPCからインターネット接続の速度を計測。無線LANで最大300Mbpsで接続できるが、WAN側が100Mbpsとなるため実効速度は70Mbps前後となった

QRコードでもボタン設定でもつながる

 使いやすさに関しても高く評価できる。まず、初期設定だが、基本的に必要ない。標準でルーターモードとして設定されているため、ホテルや旅館などで提供されているインターネット接続用の有線LANケーブルを接続し、付属のUSBケーブルでPCなどから給電すれば準備は完了だ。

 ただし、出荷時状態では設定画面を保護するための管理者パスワードが設定されていない。設定画面にアクセス後、詳細設定モードに切り替えないと設定できないのだが、個人的には、忘れずに設定しておくことをおすすめしたい。

上位モデルと似たデザインの設定画面だが、標準ではかんたんモードで必要最低限の項目のみ表示される。管理者パスワードは設定しておくのがおすすめ

 クライアントから接続する場合はQRコードを使うのが簡単だ。NTTドコモの「ドコモWi-Fiかんたん接続」、auの「au Wi-Fi接続ツール」アプリ、もしくはGoogle Playからダウンロードした「らくらくQRスタート」アプリを利用することで、本体に同梱されている設定シートから、QRコードを読み込んで簡単に無線LANの設定をすることができる。

 本体が小型のため、QRコードのシールを本体に貼れないのが残念だが、PCやAndroid搭載タブレットであれば、本体側面の設定ボタンを使ってWPSで接続することができるうえ、本体背面に記載されているSSDIや暗号化キーを使って手動で接続することも可能だ。

 また、暗号キーを変更した場合でも、インターネット上のサイト経由で新しいQRコードを生成することができるようになっている。もしも標準設定から暗号キーなどを変更した場合は、これを印刷して保管しておいたり、スマートフォンなどで撮影しておくと、外出先での接続が楽になるのでオススメだ。

QRコードを利用して簡単に設定できる
PCやAndroid端末ではWPSによる設定も手軽なのでおすすめ
暗号キーやSSIDを変更した場合でもQRコードを生成可能

公衆無線LANも利用可能

 WAN側に関しては、前述したように有線LANの場合はつなぐだけでOKだが、このほかに公衆無線LANもWAN側の回線として利用できる。

 利用するには設定画面から接続先の登録が必要だが、BBモバイルポイント、Wi2 300に関しては、SSIDや暗号化キーの設定がプリセットされているため、Web認証用のIDとパスワードを設定画面に登録するだけで利用できる。

 そのほかのサービスや自宅や会社の無線LANなどを利用する場合でも、個別設定を選択することでカスタム設定が可能だ。合計で8つの接続先を登録可能で、それぞれに優先度を変更することができる。カフェや空港など、屋外で利用する可能性がある場合は、登録しておくといいだろう。

 なお、接続モードは自動判別となっており、有線LANを接続して起動すれば有線LAN経由でインターネットに接続され、ケーブルを接続せずに起動すれば登録した公衆無線LANを探して接続可能な場合は自動的に接続される。また、無線LAN接続時にLANケーブルを接続すると、自動的に再起動して、有線LAN接続に切り替わる。このあたりの設定をわざわざ切り替える必要がないのも便利だ。

公衆無線LANにも対応。BBモバイルポイントとWi2 300はプリセット値を利用可能
優先順位を設定可能。有線か無線かは起動時にケーブルが接続されているかどうかで自動判断される

セキュリティもしっかりと確保

 セキュリティ機能も一般的な無線LANルーターに近い機能を備えている。ブリッジモードとして動作させることもできるが、標準ではルーターモードとなるため、たとえばホテルや旅館などで同一ネットワークに接続されている別の利用者からの通信の流入を防ぐことができる。

 ホテルや旅館のネットワーク構成によっては、同一フロアの他の客とLANでつながっているような状態になってしまう場合も考えられるが、AtermW300P経由で通信すれば、ルーター機能によって、自分のPCやタブレットをそのネットワークから隔離することができる。

 LAND攻撃やSmurf攻撃、IP Spooting攻撃などを防ぐセキュリティ保護機能も標準で有効になっているため、ホテルや旅館側のネットワークの状態にかかわらず安心してインターネット接続を利用することができる。

 その一方で、PPTPのパススルーなどにも対応し、出張時などで企業のネットワークにVPN接続するといった場合でも問題なく利用できる(ホテルや旅館側のネットワークが対応していないとNG)。

セキュリティ保護機能が有効になっているためホテル内のネットワークを気にすることなく使える

 また、本製品では、無線LANのSSIDとしてプライマリとセカンダリの2系統を設定することができるが、このうちのセカンダリ側では、ネットワーク分離機能が有効になっている。この機能によって、セカンダリ側に接続した端末から、設定画面を表示したり、他の無線LAN端末にアクセスすることを防止できる。

 会社の出張などでは、同僚と同室になるケースがあるが、こういった場合でも、セカンダリSSIDをうまく活用することで、お互いのプライバシーを守りつつ、インターネット接続を共有することができる。

 ホテルや旅館での利用を想定した無線LANルーターには、さまざまな製品が発売されているが、サイズや手軽さのみを追求し、こういったセキュリティ機能がおろそかになっている製品も見受けられる。

 ホテルや旅館で、小型の無線LANルーターの利用を推奨するのには、単にたくさんの機器を接続できるだけではなく、こういったセキュリティ上の理由も大きい。そういった意味では、家庭用の無線LANルーターと同等のセキュリティを実現できるあたりは、さすがAtermシリーズといったところだ。

セカンダリSSIDはネットワーク分離機能を利用可能

外出先での端末設定が不要なのは大きなメリット

 実際、都内のホテルで使ってみたが、何より便利に感じたのは端末側の設定をしなくても済む点だった。

 今回、利用したホテルでは、有線LANによるインターネット接続に加えて、無線LANによるインターネット接続も全室で無料で使えるようになっていたのだが、無線LANは暗号化されていないSSIDに接続後、Webで認証する方式となっていた。

 暗号化設定されていないSSIDに接続することにもかなり抵抗があったが、何より、PC、スマートフォン、タブレットと、持ち込んだ複数の端末で、一台ずつSSIDを検索して接続し、Web認証をしていくという「儀式」が非常に面倒だった。

 環境によっては、一定時間経過後に定期的にWeb認証が必要になるケースがあったり、無線LANの利用者が多くなったときにパフォーマンスが低下しがちになるなど、決して使いやすい環境とは言えないこともある。

 これに対して、AtermW300Pを利用した場合、あらかじめ自宅で設定を済ませておいたおかげで、ホテルではAtermW300Pを有線につなぐだけ、端末側の設定は一切不要で複数台の機器から自動的にインターネットに接続することができたうえ、有線LANを使うおかげで安定性や速度もまったく問題なかった。

 訪問先のホテルで無線LAN環境が提供されている場合でも、利便性を考えるとAtermW300Pを使うメリットがあるというのは意外な発見だった。

都内のホテルで利用してみたが、無線LANが使える環境でも、あえて有線LANをAtermW300P経由で利用する方が利便性は高かった

信頼性の高い一台

 以上、NECアクセステクニカが新たにラインナップに追加した小型の無線LANルーター「AtermW300P」を実際に使ってみたが、コンパクトな外見ながら、しっかりとAtermシリーズならではの特徴を受け継いでいるという印象だ。

 ハードウェアとしての質感が高いのはもちろんのこと、設定しやすく、安定して動作するうえ、何よりセキュリティも万全で安心して利用できる製品と言える。この手の製品の場合、どうしてもサイズと価格のみが購入基準になってしまいがちだが、本製品の場合、ギュッと詰め込まれた機能と使いやすさにこそ注目して欲しいところだ。

 価格も3500円前後と入手しやすい設定になっている。旅行や帰省時のお伴として、年末のお小遣いで購入することをおすすめしたい製品だ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。