清水理史の「イニシャルB」
スペックで海外勢に真っ向勝負 バッファロー「WXR-1900DHP」
(2014/11/17 06:00)
バッファローからIEEE 802.11ac準拠の無線LANルーター「WXR-1900DHP」が発売された。5GHz帯(11ac)の1300Mbps+2.4GHz帯(11n)の600Mbpsに対応した製品で、1GHzのデュアルコアCPUを搭載していることが1つの特徴の製品だ。海外勢を中心に展開されるハイスペック競争に勝利することができるのか? その実力を検証してみた。
テクノロジーギャップの越え方の違い
テクノロジー主導で躊躇なくギャップを越える海外勢。市場重視でテクノロジーのギャップを埋めようとする国内勢。
簡単に言えば、こんなところだろうか。
現時点での無線LANルーターの市場へのアプローチの方法は、海外と国内メーカーで違いがあって、なかなか面白い。
すでに国内では、ASUSがIEEE 802.11ac Wave2対応の4x4 MIMO製品(最大1734Mbps)を発売したが、海外メーカーが最新技術を積極的に採用した製品を市場に投入する一方で、国内メーカーはどちらかと言えば保守的で、ローエンドから全般的にラインナップを充実させる方向性で進んできた。
しかし、国内市場に後発で参入したASUSなどの海外メーカーが、知名度の向上と市場へのインパクトを狙ってハイスペックな製品を投入する、という選択のウケが想定以上によかったのだろうか。ついに、バッファローもついにスペックを前面に押し出した製品を発売してきた。
「WXR-1900DHP」、バッファロー史上最高性能と謳われるこの無線LANルーターは、IEEE 802.11ac準拠の最大1300Mbps対応製品ながら、2.4GHz帯のIEEE 802.11nで11acの256QAM変調を取り入れた最大600Mbpsの転送速度と、1GHzのデュアルコアによる高い処理性能を特徴にした製品となっている。
さすがにIEEE 802.11ac Wave 2の4x4は、市場が求めるスペックとのギャップが大きく、広く受け入れられるかどうかが未知数となる。それよりも、現状の1300Mbpsの実効速度をいかに向上させるか、という方向で進化させた製品が、今回のWXR-1900DHPというわけだ。
今後、非Broadcom陣営のAtermシリーズを擁するNECプラットフォームズが、この分野にどう対抗していくのかも個人的には興味があるが、このような競争をきっかけに無線LAN機器の市場が盛り上がることは、素直に歓迎したいところだ。
この工夫が国内メーカーの魅力
それでは、製品をチェックしてみよう。まずは、外観だが、どことなく、かつてのAirstationシリーズを彷彿とさせるデザインになった。
白の本体カラーもそうだが、正面から見ると前後の距離感がなくなって楕円形に見え、IEEE 802.11b時代の同シリーズのシルエットを彷彿とさせる。その一方で、側面から見ると、最近の製品と同じ角丸の四角になっており、新旧デザインがうまく融合している印象だ。
目に付くのは、大きなアンテナだ。ここ最近、バッファローの製品もアンテナが内蔵されるモデルが多かったのだが、今回は3本、しかも2枚の板を洗濯ばさみのように組み合わせた個性的なアンテナが搭載されている。
前述した海外勢の製品はアンテナ外付けが当たり前なので、スペック重視の製品と考えれば珍しくはないのだが、せっかくアンテナ内蔵の姿に見慣れてきただけに、また外付けになってしまったのは、若干、違和感がある。
ただし、外付けには、なかなか難しいところはあるものの、通信範囲を調整できるメリットがある。特筆すべきは、同社のWebサイトからダウンロードできる「アンテナ調整ガイド」が提供されている点だ。
「異なる階にも電波を届ける」や「本製品を家の隅に設定したり高い位置に壁掛けする場合」など、3つのケースのアンテナの調整方法が紹介されており、はじめてでもどうアンテナを調整すればいいのかを確認できる。
もう少し、設置ケースを増やしてほしい上、どうせなら製品に同梱してほしかったが、これぞユーザー重視の国内メーカーの真骨頂といった親切さに大いに感心した。これなら、アンテナの調整をしたことがないというユーザーでも、迷わず角度を調整できる。高度なスペックをどう使ってもらうかをきちんと考えている点は、海外メーカーも参考になるだろう。
インターフェイスは、1000BASE-T対応のLANポート×4、WANポート×1に加え、背面にUSB 2.0、前面にUSB 3.0ポートが搭載されている。前面のUSB 3.0は、カバーが同梱されており、使わないときは、これを取り付けておくこともできる。
外観で、もう1つ気になるのは、側面のカバーだ。製品情報Webページなどでは「カードスロット」と記載されているので、通信用のカードでも装着するのかと思ったが、実際はSSIDや暗号キーなどの設定情報が記載されたカードが収納されている部分となる。
以前は、本体底面に栞(しおり)のような細長いカードが収納されていたが、よりわかりやすい位置に変更された。本製品の方法であれば、来客時などでも設定情報が他人に見られる心配がない。こういった工夫も、高く評価できるポイントだ。
実は兄弟
続いて、スペックを見ていこう。すでに少し触れたように、本製品の特徴は、1GHz越えを果たしたCPU性能にある。搭載されているCPUは公開されていないが、海外のサイトなどを参照すると、おそらくBroadcom BCM4709Aが搭載されていると考えられる。
これは、先行して発売されているNETGEARのR7000と同等で、ASUSのRT-AC68Uに搭載されているBCM4708Aの高クロック版となる。
Buffalo | NETGEAR | ASUS | |
WXR-1900DHP | R7000 | RT-AC68U | |
CPU | BCM4709A | BCM4709A | BCM4708A |
周波数 | 1GHz | 1GHz | 800MHz |
メモリ | 512MB | 256MB | 256MB |
2.4GHz | BCM4360 | BCM4360 | BCM4360 |
5GHz | BCM4360 | BCM4360 | BCM4360 |
現状、IEEE 802.11acの無線LANはBroadcomのチップを採用するメーカーが多く、いわば兄弟のようになっているわけだ。
ただし、今回、比較した3製品の中では、WXR-1900DHPがメモリ搭載量が512MBと多く、他製品を少し引き離している。これがパフォーマンスにどう影響するかは、ファームの出来次第という面もあるが、スペック的には優秀な製品だ。
機能面も充実
機能面では、IPv6サービスに対応している点が1つの特徴となる。利用するには、フレッツ光ネクストや対応プロバイダーのサービスが必要になるため、利用環境が限られるうえ、今すぐ必要なサービスというわけではないが、IPv6環境を利用したいユーザーには1つの選択肢となるだろう。
他の製品にはない機能としては、USB-DAC接続に対応している。筆者は、オーディオにあまり興味がないため、あまりメリットを感じないが、TEAC UD-501やパイオニアN-50などをWXR-1900DHPに接続し、デバイスサーバー機能を利用してPCからネットワーク経由で、これらのUSB-DACを利用することができる。
このほか、IPsecに対応したVPNサーバー機能を搭載。IPsecの実効スループットで公称47.7Mbps(IxChariot計測)を実現するなど、高性能なCPUを生かして、高度な処理も快適にこなすことが可能となっている。
個人的に感心したのは、新たに搭載された「AirStation引っ越し機能」だ。WPSによるボタン設定を利用することで、既存の無線LANルーターからSSIDやパスワードの設定を本機にコピーすることができる。
無線LANルーターを買い替えた場合、SSIDが変更されてしまうことで、今まで接続していた複数のクライアント端末の接続設定を変更しなければならなくなってしまうが、本機能を利用すれば今まで通りのSSIDとパスワードを利用できるため、クライアントの再設定が必要ない。
同様の機能は、業界に先駆けてアイ・オー・データ機器の無線LANルーターに搭載されていたが、アイ・オー・データ機器の機能が2.4GHz帯の設定しかコピーできないのに対して、本製品では2.4GHz、5GHzの両方の設定をコピーできる(Buffalo製品以外からの移行では操作が2回必要)。
実際に試してみたところ、ランプの状態を確認しながらの作業に若干手間取ったが、ASUS RT-AC68Uから、2.4GHz/5GHz両方の設定を無事にコピーすることができた。これは非常に便利だ。
コピーと言っても、標準のSSIDが変更されるわけではなく、旧無線LANルーターのSSIDが、WXR-1900DHPのSSID3として新たに追加される。このため、既存の製品は旧SSIDで接続しつつ、新たにWPSなどで端末を接続する際は、WXR-1900DHPの標準のSSIDに接続されることになる。
個人的には、1GHzのCPUよりも、こちらの機能の方が断然利便性が高いため、もっとアピールした方がよさそうに思える。
パフォーマンスも良好
気になるパフォーマンスだが、確かにCPU性能の恩恵はありそうだ。
以下は、木造3階建ての筆者宅にて、iPerfによる速度を計測した結果だ。せっかくなので、同梱の「アンテナ設置ガイド」に従って、アンテナを90度に傾けた状態で設定し、上階に向かって電波が届くように調整して計測した。
なお、今回、同一機種を2台用意できなかったため、クライアント側には同じくBuffaloのWZR-1750DHP2を利用している。
親機 | 子機 | 1F | 2F | 3F | |
RT-AC68U | WZR-1750DHP2 | 1300Mbps | 739 | 503 | 390 |
WXR-1900DHP | WZR-1750DHP2 | 1300Mbps | 811 | 505 | 389 |
MacBook Air 11 | 867Mbps | 627 | 487 | 264 |
- ※サーバー:Intel NUC DC3217IYE
- ※サーバー側:iperf -s、クライアント側:iperf -c [IP] -t10 -i1 -P3
結果を見ると、近距離で800Mbpsオーバーを実現できており、優秀な結果が得られた。さすがにCPUパワーが向上しているだけのことはある。一方、2階、および3階は、それぞれ505Mbps、389Mbpsとなった。値としては、かなり優秀な結果だが、ASUSのRT-AC68Uと速度的には大差ない。
前述したように、CPUパワーが向上しているため近距離では速度が向上するが(大量のデータを処理できる)、無線LANチップはRT-AC68Uと同等のため、CPUの差が出るほどデータを転送できない長距離では、明確な差が現れなかったと考えられる。
なお、867MbpsのMac Book Airでも計測してみたが、1階で627Mbps、3階で264Mbpsと高速な結果が得られている。iPad Air 2など、タブレットでも867Mbps対応の製品が登場しつつあるので、こういった製品を高速にインターネットに接続したい場合にも効果があるだろう。
パフォーマンス+気配り
以上、バッファローのWXR-1900DHPを実際に利用してみたが、評判通りの高いパフォーマンスを実現しながら、アンテナの調整方法の解説や既存の無線LANルーターからの入れ替えが簡単にできるなど、非常に丁寧に作り込まれた製品と言える。
当初はスペックで海外勢と真正面から勝負する製品なのかと思ったが、ふたを開けてみれば国内製品らしい気配りが満載で、身近に使えるハイスペックという印象を受けた。
ただし、ネックは実売価格で2万円以上する価格となる。スペックだけでなく、付加機能や親切丁寧なガイドなどを考えれば、海外メーカー製品よりも出費に対する対価は大きいが、通信機器に2万円出すのはなかなか勇気がいる。
おすすめできる製品であることに間違いはないが、純粋にスペックだけを求めるなら、海外製の別の選択肢もあるだけに悩みどころだ。スペックだけでなく、使いやすさに費用を払えるかどうかが、本製品を選ぶ決め手になるだろう。