清水理史の「イニシャルB」
この性能と拡張性は大きな魅力 AMDプラットフォームを搭載したQNAP「TVS-463」
(2015/9/21 09:00)
QNAPの「TVS-463」は、同社としては初となるAMDのプラットフォームを採用した製品だ。高いパフォーマンスと拡張性を備えながら、価格は抑え気味になっており、コストパフォーマンスの高い製品となっている。その実力を検証してみた。
今買うならコレ
もしも、今、わが家でメインに使っているSynology DS1512+が故障したとしたら、おそらく次の購入候補としてもっとも有力なのが、今回、取り上げるQNAPのTVS-463だ。
できれば、RAID6構成にして、さらにSSDキャッシュも追加したいので、6ベイのTVS-663が欲しいところだが、TVS-663の実売価格は16万円前後。実売価格12万円前後のTVS-463から少々値が上がるうえ、HDD台も余計にかかることを考えると、さすがに手を出しにくい。
企業ユースなら迷わずTVS-663をオススメするが、筆者のような個人事業なら4ベイのTVS-463で十分だ。
もちろん、このクラスにはあまたの競合製品が存在し、同じQNAPでも複数の選択肢があるが、パフォーマンスと拡張性という点を考えると、このTVS-463は現時点で頭ひとつ抜けている印象がある。
以下は、QNAPのホーム/SOHO、および小規模向けとなる10万円前後の4ベイモデル3機種を比較した表だ。
TVS-463 | TS-453mini | TS-451 | |
12万円前後 | 9万円前後 | 10万円前後 | |
CPU | クアッドコア AMD 2.4GHz | クアッドコア Intel Celeron 2GHz | デュアルコア Intel Celeron 2.4GHz |
搭載メモリ | 4GB | 2GB | 1GB |
最大メモリ | 16GB(2スロット) | 8GB(2スロット) | 8GB(2スロット) |
ベイ | 2.5/3.5×4 | 2.5/3.5×4 | 2.5/3.5×4 |
キーロック | ○ | × | × |
LAN | 1000BASE-T×2 | 1000BASE-T×2 | 1000BASE-T×2 |
10GbE | オプション対応 | × | × |
拡張PCI-E | 1 | × | × |
USB2.0/USB3.0 | 0/5 | 2/3 | 2/2 |
eSATA | × | × | × |
リモコン用赤外線ポート | ○ | ○ | ○ |
HDMI | 2(ミラー) | 1 | 1 |
LCD | ○ | × | × |
温度 | 0-40℃ | 0-35℃ | 0-40℃ |
消費電力(HDDスリープ/標準) | 34.77/50.38W | 17.18/30.23 | 15.85/31.07 |
ハードウェア暗号化 | ○ | × | × |
ハードウェアトランスコード | ○ | ○ | ○ |
同時接続最大数 | 1000 | 800 | 700 |
個人向けNASとしては、上部からHDDを差し込むデザインが斬新なTS-453miniの完成度も高いが(こちらの記事を参照)、やはり比較してみるとTVS-463のアドバンテージが光る。
メモリは標準で4GB搭載され、最大で16GBまで拡張できるうえ、HDDも盗難防止のためのキーロックが可能になっている。ネットワークも標準では1000BASE-T×2だが、PCI-Eの拡張スロットを備えており、1000BASE-T×4、もしくは10GbEに対応させることができる。管理や設定に便利なLCDパネルも搭載されるうえ、ハードウェアによるアクセラレーションが動画のトランスコードだけでなく、暗号化もサポートされるようになっている。
消費電力こそ3製品の中では最大となるが、同時接続最大数の違いからもわかる通り、しっかりとワンランク上の性能を備えているうえ、実際のパフォーマンスも文句ナシに高い(詳しくは後述)。
また、詳しくは機会をあらためて紹介する予定だが、QNAPは、現在、次期OSのQTS 4.2のベータテストを実施している。このOSでは、マルチメディア機能拡張されていたり、ハイパーバイザー型の仮想化とコンテナ型の仮想化の2種類をサポートするなど、数々の新機能が投入される予定となっている(詳しくはこちら)。
現状のQTS 4.1でも、HDMIで画面を出力したり、動画をトランスコードしたりと、すでに単なるデータ倉庫以上の役割をこなすようになっているが、さらにその上の進化がいよいよ目の前に迫ってきたという印象だ。
そう考えると、最新のQTS 4.2の性能をフルに発揮できる高いパフォーマンスと拡張性を備えながら、従来製品より若干高め程度にまで価格を押さえ込んだTVS-463は、かなりお買い得な製品と言って差し支えないだろう。
10GbEに対応可能でHDMIも2ポート装備
それでは製品を見ていこう。外観は、従来のQNAP製品のデザインを踏襲しているが、黒や白と地味だった従来製品とは一線を画すゴールドのカラーリングが特徴となっている。
ゴールドと言っても、色合いとしてはシルバーとの中間的な印象で、実物は決して派手ではない。むしろ落ち着きのあるイメージで、個人的には好印象だ。
特徴的なのは、背面の上部に備えられたPCI-Eの拡張スロットだろう。背面のネジを3本外してケースを開けると、PCI-Eスロットが確認できるので、ここにオプションとして1000BASE-T×2の「LAN-1G2T-D」や10GBASE-T×2の「LAN-102T-D」を装着することができる。
もちろん、個人やSOHOのレベルでは、まだまだ10GbEは敷居が高いが、デザインや動画などを扱う事務所などでは、10GbEのニーズは高い。オプションのNICは必要になるものの、その環境がこのクラスのNASでも整えられるのは大きなメリットだろう。今後、2.5GbEや5GbEが登場した際に、対応できる可能性があることも大きな魅力だ。
外観でもう1つの特徴となるのは、2ポートあるHDMIだろう。HDMIポートは最近のNASでは当たり前になってきた装備の1つで、テレビなどに接続してNASのメディアを直接再生するときに利用されるのが一般的だ。
TVS-463でも、もちろんメディアの再生が可能だが、この2つのポートがミラーに対応しており、2台のディスプレイに同じ画面を表示できるようになっている。これも一般的な用途ではあまり活躍の機会はなさそうだが、デジタルサイネージなどに活用した際に2台のディスプレイを利用できるようになる。店舗などでの活用が期待できるだろう。
一方、内部的な特徴は、何と言ってもAMDプラットフォームの採用に尽きるだろう。公式な発表は2.4GHzのクアッドコアCPUだが、試しに「/proc/cpuinfo」を表示してみたところ「AMD GX-424CC with Radeon R5E」と表示されたので、低消費電力版のJaguarコアのプロセッサだ。
現状、NASのCPUは、低価格帯の製品がARM系、SOHO向けがAtom、小規模向けがCeleron、中規模向けがIntel Core iで、大規模向けがXeonという場合が多いが、今回の製品は小規模のCeleronと中規模のCore iの中間的な位置付けとなりそうだ。
このプラットフォームの恩恵は、前述したPCI-EのサポートやHDMI×2などにも現れているのだが、パフォーマンスにも大きく現れている。
以下は、Western Digital WDRed WD40EFRXを4台装着し、ストレージプールのRAID5で構成後に、ネットワーク上のPC(Windows 10)からCrystalDiskMark 5.0.2を実行した結果だ。参考として、Synology DS1512+(Dual Core 2.13GHz/1GB/3TB×5 RAID6)の値も掲載しておく。
結果を見ると、シーケンシャルこそ互角だが、圧倒的にランダムアクセスが速い。大抵のNASは、4K Q32T1の値は50MB/s前後だが、TVS-463はリードで100MB/sオーバー、ライトでも80MB/sと超高速だ。4Kの値も明らかに上回っており、個人的に今まで使用したNASの中では最速の値となった。
正直、AMDプラットフォームの採用は、パフォーマンスというよりも、コスト削減という意味合いの方が強いのではないかと考えていたのだが、しっかりと実力も兼ね備えているようだ。
AMDによってNASのプラットフォームが増えたことで、ユーザーの選択肢も広がったことは多いに歓迎したいところだ。
動画のトランスコードも速い
続いて、動画のトランスコードも試してみた。前述したようにTVS-463にはAMD GX-424CC with Radeon R5Eが搭載されており、このGPUを使ってトランスコードのハードウェアアクセラレーションを有効にすることができる。
標準ではハードウェアアクセラレーションが無効になっているので、まずはこれを有効にしておく。必要なモジュールは、HDMI経由で画面を出力する際に必要なHybridDesk Station(HD Station)と一緒に導入されるので、画面の指示に従って自動で複数のパッケージをインストールすればいい。
インストールが完了するとハードウェアアクセラレーションが有効になるので、動画ファイルを指定してトランスコードのタスクに登録すればいい(特定のフォルダーを監視して自動的にトランスコードすることも可能)。
試しに9GB、60分間のMPEG2TSを360pのMPEG4にトランスコードさせてみたところ、16分37秒と、かなり速いスピードでトランスコードが完了した。以前、TS-453mini(Intel GPUのハードウェアアクセラレーション)で同等のファイルをトランスコードした際は22分前後の時間がかかったので、それを上回るスピードで変換できた。
ソースによっては、若干、音ズレが発生するようだが、ビデオ撮影した動画などをスマートフォンでも見られるように変換しておきたいとった場合は、非常に強い味方となるだろう。
HDMI経由でのセットアップが手軽
以上、主にAMDプラットフォームの性能を中心にQNAPのTVS-463を実際に使ってみたが、個人的にはかなり好印象だ。先日、発表されたTS-431+やTS-231+などのようにDTCP-IPに対応していないことが、唯一、残念だが、基本的なNASとしての性能は、このクラスではトップレベルで拡張性も備えており、すきのない製品だ。
基本的には、中小規模向けの製品だが、HDMIのおかげでリビングなどへの設置にも適している。しかも、QNAPのHDMIは、ブート時からきちんと画面出力される仕様となっており、テレビの画面を見ながら、USB接続したキーボードとマウスで初期設定をすることも可能となっている。
最近のNASは、ブラウザからインターネット経由で簡単にセットアップできるように工夫されているが、HDMIセットアップはそれ以上に敷居が低く、誰でも手軽に使えるようになっている。個人的には、オプションのリモコンを標準添付し、HDMIケーブルも同梱してくれれば、かなりNASのすそ野も広がるのではないかとも思えるほどだ。
もちろん、今回は触れなかったが、ファイル共有などの基本機能や外出先からのアクセスなど、QNAPのNASで共通の機能はそのまま利用できる。QANP製品の豊富な機能を高いパフォーマンスで実行できる点こそ、本製品ならではの特徴だ。
これまでに実績のないプラットフォームだけに、長期的な安定稼働と今後のサポートが懸念されるところではあるが、それを考慮しても、このパフォーマンスと拡張性は魅力的なので、これからNASを購入する場合の選択肢の1つとして検討すべき製品だ。