清水理史の「イニシャルB」
PCライクにUbuntuを使えるLinux Station搭載 QANPの4ベイNAS「TS-453A」
(2016/4/18 06:00)
QNAPの「TS-453A」は、Celeron N3150を搭載した中小環境向けの4ベイNASだ。NAS用OSであるQTSに加え、HDMI経由で画面出力できるUbuntuが動作するデュアルシステムが特徴だが、動画のハードウェアトランスコードなどにも対応した万能選手と言える。
QNAPを追加購入
長らく使ってきたSynology DS1512+の置き換えというわけではないが、検証用も兼ねたバックアップ用のNASとしてQNAPのTS-453Aを購入した。
昨年までは、AMD CPUを搭載したTVS-463が最有力候補だったのだが、昨年末にTS-453Aが登場したことで、より新しいこちらを選択することにした。
購入価格は10万7851円(税込)。消費税のおかげで10万円を超えてしまったのがイタイが、ビジネス向けのNASとしては妥当な価格。HDDが大容量化してきた今なら2ベイのTS-253Aでも十分かと考えたが、TS-253AとTS-453Aの価格差が1万円ちょっとしかなかったため、それならということで、4ベイモデルを購入した。
TS-453Aは、QNAPのNASの中では、中小規模のビジネス環境向けに分類される製品。モデルとしての位置づけは、ビジネスモデルの中では中間で、いわゆるスタンダードモデルといったところになる。
ビジネス向けとは言いながらも、HDMI経由で画面を表示した際に使えるリモコンが付属するうえ、背面には「OceanKTV」と呼ばれる、カラオケアプリで使うと思われるマイク用の端子まで搭載されており、家庭向け製品としての側面も備えている。
加えて、現状、QNAPのNASで特徴的に紹介されている機能は、HDMI出力、ハードウェア動画トランスコード、Virualization StationとContainer Stationの2種類の仮想化技術などがあるが、これらほとんどの機能に対応する「よくばり」なモデルとなる。
各アプリのバージョンアップにより、たとえばクラウドストレージとの同期アプリで、かつてはできなかったOneDriveとの同期に対応するなど、機能的にかなり充実してきた。
当初は、サブ的な位置づけで購入したNASだが、メインに昇格させてもいいんじゃないかと思い始めているところだ。
QNAPならではの盛りだくさん感
ハードウェアとしては、従来のQNAP製品を踏襲するデザインで特に目新しいところはない。
ハードウェアにも強いQNAPらしく全体的な完成度は高く、筐体の立てつけもしっかりとしている。ビジネスで使うならHDDベイがロックできないのが惜しいところではあるが、前述したように家庭向けとしての側面もあるため、そこまでは贅沢だろう。
背面のインターフェイス類は、なかなか豪華。上部に前述したカラオケ用のマイク×2とスピーカー×1が備えられるほか、画面出力用のHDMIポートが2つ搭載されるうえ、USB 3.0×3、さらにLANポートも1Gbps対応が4ポートも搭載される。
「LANポートなんて4つもいらないよ」、と思うかもしれないが、2ポートを負荷分散用にポートとランキングで束ねて、1ポートを後述するLinux Station用、残りをVirtualization Stationの仮想環境用などと使い分けていくと、ちょうどいい、と言うかもう2ポートくらいあってもいいかなと思えてくる。
今後、NASはファイルサーバーとしての用途に加え、プラットフォームとしての活用例も増えてくると考えられる。特にQNAPのNASの場合、完全仮想化とコンテナの2種類の仮想化に対応しており、NAS上で別のOSを動作させたり、DockerやLXCのコンテナを使ってさまざまな環境を共存させたりすることが可能となっている。
特にコンテナは便利で、イメージさえダウンロードしておけば、UbuntuやCentOSなどの環境を数秒で準備できるうえ、GitLabやWordpressなどの環境もすぐに用意できる。
コンテナ型の仮想化では、Synologyが先行していたが、QNAPは後発ながらDockerとLXCの両方に対応したうえ、QNAP側で動作検証したオフィシャルのイメージを20ほど用意しており、その充実ぶりは他をしのぐ勢いだ。
今後、段階的に紹介していくつもりだが、コンテナや内部のDBをうまく活用すると、オープンソースの請求書発行や管理、勤怠管理、グループウェア、ERPなどを動作させることも可能で(しかも日本語対応、日本製、日本商習慣対応)、小規模なオフィスならこれ1台で日常業務をカバーできるんじゃないかというくらいに利便性が向上している。
QNAPのNASは、もりだくさんだが、細かな部分のツメが甘いイメージがあったのだが、今まで弱点と考えられていたソフトウェア面も徐々に充実してきており、一部では他をしのぐ完成度を実現している印象だ。
ちなみに、筆者はテスト用ということもあり、今回、TS-453Aのメモリを16GBに増設している。
標準搭載のメモリは4GBで、正式にサポートされるのは4GB×2の8GBまでとなっているが、試しにCFDの「D3N1600PS-L8G(DDR3 8GB 1.35V)」を2枚装着して実際に運用しているが、今のところ問題なく認識され、稼働を続けている。
仮想環境を活用するなら、なるべくたくさんのメモリを装着しておくことを推奨する(ただしケースが相当カッチリ閉められているので開けるのに苦労するが……)。
Ubuntuをデスクトップとして利用可能
最大の特徴でもあるLinux Stationは、前述したコンテナの技術を使ってUbuntuを稼働させる技術だ。
設定画面からLinux Stationをインストール後、利用するOS(現状はUbuntuのみ、将来的にはFedora、Debianに対応予定)を選択すると、しばらくしてHDMI経由でUbuntuのデスクトップ画面が表示される。
TS-453A背面のUSBポートにキーボードとマウスを接続すれば、Ubuntuそのもので、ブラウジングやLibreOfficeなどの各種アプリを利用することができる。
QNAPでは、このソリューションをいわゆるIoT向けと位置付けている。ちょっとピンとこないが、要するに、自由度の高いLinuxをゲートウェイとして、データをNAS側に保存しつつ、他のIoTデバイスをLinuxから制御したり、QNAPのインターフェイス(HDMIやオーディオ)端子を使ってNASそのものをもっと汎用的な制御デバイスとして活用したりしよう、というのが狙いだ。
もともとQNAPは、デジタルサイネージなどのシステムにも対応していたため、こういった分野は得意とするところだが、NASがオフィスよりも「現場」に近くなるというイメージだろうか。
というわけで、せっかくの新機能だが、家庭での出番はあまり多くない。このため、家庭で使うのであれば、従来製品と同様にHD Stationをインストールしてメディアプレーヤーとして活用するのがおすすめだ。
Linux StationとHD Stationは、排他の機能となっており、どちらかしか一方しか稼働できないため、Ubuntuを使うことはできなくなるが、その代わり、メディアプレーヤーのKODIを使って、付属のリモコンで動画や音楽などのメディアを再生できるようになる。
4K動画など、ソースによっては若干スムースさに欠ける印象もあったが、テレビの横に設置して、デジタルカメラやビデオカメラのデータを吸い上げる役目兼、メディアプレーヤーとしても活用できそうだ。
オールマイティなモデル
以上、QNAPのTS-453Aを実際に使ってみたが、なかなか完成度の高い製品と言ってよさそうだ。
購入から数週間ほど、Synologyの代わりとして、データの保存はもちろんのこと、編集部のとのファイルのやり取り、PCのデータ同期、スマートフォンからのアクセスなど、今までと同じ使い方をしているが、細かな部分に違いはあるものの、特にできない機能などもなく、日常に不満を感じることはない。
パフォーマンスも良好で、ファイル共有のスピードには全く不満はない。さすがに、コンテナを多数立ち上げ、ウイルススキャンが実行され、クラウドとの同期が実行されたりすると、若干、苦し気な様子も見られるが、一般的な用途なら十分に対応できる性能の持ち主だ。
個人的に1つ注文を付けるとすれば、ファイル共有の操作だろうか。Qsyncで同期させたファイルをPCから共有する際に、毎回、IPアドレスや期限などを設定する画面が表示されるのが面倒(よく使う設定は記憶してほしい)なのが唯一の不満くらいで、ほかは満足できている。
繰り返しになるが、「盛りだくさん感」については、現状、もっとも高いレベルにある製品で、Linux Stationや仮想化機能のおかげで「何でもできる感」も相当に高い。
欲を言えば、もう少し価格が下がってくれるとうれしいが、ここまで機能が豊富なのだから我慢するしかないだろう。これで、あと3年、できれば5年ほど戦えればうれしいところだ。