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10代のネット利用を追う

変わる学校のケータイ所持ルール、東日本大震災を機に教育現場で見直しの動き


 3月11日に発生した東日本大震災を機に、教育現場でさまざな見直しが行われつつある。例えば、非常食や水、寝袋や毛布、ライトなどの備蓄品、保護者への緊急連絡方法や子どもを安全に帰宅させる方法などについて、学校に課題が突きつけられている。

 その1つに、学校への携帯電話持ち込みに関するルールがある。これまでは、2009年1月に文部科学省が示した「小中学校には携帯電話は原則持ち込み禁止」という通達の影響もあり、携帯電話は持たせない、あるいは校内に持ち込ませないという学校が多かった。ところが一部の学校では東日本大震災後、保護者からの携帯電話所持を認めてほしいという要望により状況が変わってきているという。

 保護者が要望する理由は主に2つ。1つめは、余震が続き、再び大地震が起こるかもしれない状況の中、家族の安否確認や緊急連絡のための手段が欲しいという考えから。2つめは、地震や避難経路などに関する情報の取得が身の安全の確保につながると期待されているためだ。連絡手段、そして情報取得手段としてTwitterやFacebook、mixiなどのソーシャルメディアの価値が見直されたことも影響している。

 株式会社ガイアックスで先日、「東日本大震災から考える、携帯の扱いとソーシャルメディア」というテーマで定期勉強会が開催された。参加した私立学校に話を聞き、学校における子どもの携帯電話所持に関する事情がどのように変わってきているのかレポートする。

ケータイ「禁止」から「許可」に変えた学校も

 携帯電話所持に関するルールを「禁止」から「許可」に変えた学校もある。禁止は禁止のままだが、許可制で所持できるようになったところもある。

 私立桜美林中学校・高等学校(東京都町田市)では3月11日、停電が起きてしまった。学内のコンピューターがダウンしてしまい、ホームページが役に立たなかったため、保護者へは子どもが各自携帯電話で連絡を取る状態となっていた。携帯電話所持はそれまで許可制にしていたが、大震災を機に非常事態に使えるよう持たせることを決断。ただし、校内に入ったら使用禁止であり、ルールが守れなければ取り上げる約束だ。

 最近の中間試験の時には、電源を切ったことを必ず確認するよう徹底したが、「それまでは禁止だったので違和感がありました」と教員の1人は語る。「電源を切るように」と言ってもマナーモードにしていてバイブを鳴らしてしまう生徒もおり、指導を思案しているところだという。

 私立東洋英和女学院中等部・高等部(東京都港区)では、3月11日は試験休み期間中だったため、クラブ活動の生徒のみが登校していた。地震発生後、家庭との連絡は公衆電話で取り、保護者が迎えに来たら生徒を帰すようにした。これまでは、登下校を含め学校内に携帯を持ち込み禁止、学外で制服着用時の使用も禁止していた。

 しかし震災時には、保護者内に「通学の往復の間だけでも持たせてほしい」という要望があると考え、現在も基本「禁止」のままだが、届け出制で校内への持ち込みを許可した。始業前に電源を切った状態で集め、帰りに返却することとしている。「緊急時にはつながらないだろうが、メール機能の回復は早いので、保護者の安心のため」、そのように変えたという。基本禁止なのは、携帯電話によるリスクの方が利便性よりも大きいと考えてのことだ。

 私立洗足学園中学高等学校(川崎市高津区)は、震災前後とも「保護者に緊急に連絡を取らなければならない状況が生じた場合」のみ受け付け期間内に担任教諭に申請書を提出後、許可としている。案内自体は変わらず、運用面が所持できる方向に変化しているが、明文化はせず口頭でのみ伝えている。

 運用の際のルールは細かく定められており、登下校時は使用時以外は常にカバンに入れた状態とし、緊急時・必要時以外、保護者との連絡以外の使用を禁止している。校内での使用は一切禁止、登校したらすぐに電源をオフにしてロッカーにしまい、下校時は電源をオフにしたまま鞄にしまうこと、ルールに違反した場合は携帯電話を学校で預かり指導を行い、保護者同席の上、指導時に返却すること、ロッカーは盗難対策上必ず鍵をかけることなどが定められている。

 また、申請が許可されてもロッカーへのしまい忘れ、電源の切り忘れといったルール違反により授業が妨げられる可能性があるため、緊急の場合を除いては極力学校に持ち込まないこと、保護者機能により有害サイトへのアクセスが制限でき、盗難もしくは防犯対策が講じられている機種であることが注意事項として挙げられている。運用が変化しても申請が急激に増えたということはなく、各学年とも数十名増えた程度だという。

 携帯電話所持を条件付きでも許可することは、学校にとって大きな影響をもたらす。所持してもいいとなれば当然、ルール決めや指導、情報モラル教育などが必要となる。一方で、震災後に保護者からの要望が増えても、これまで通り携帯電話の所持を許可しない学校ももちろんある。しかし、前述のように保護者との緊急連絡手段をどうするのかなど、携帯電話所持を許可しないなりの対応を求められるため、同様に難しい面がありそうだ。

 今回紹介したのは、あくまでも首都圏の都市部にある私立校での事例ということは留意すべきだが、東日本大震災を機に、携帯電話に対する学校の意識は変わっていくのかもしれない。

すでにケータイを活用していた学校では、その日……

 こうした動きに先んじて、すでに2009年、携帯電話の所持禁止から一転して積極活用に転じた学校がある。その大胆な方針転換が当時、新聞報道などでも取り上げられた私立高知中央高等学校(高知県高知市)だ。

高知中央高等学校・副校長の鍋島一兆氏

 同校はもともと、携帯電話のルール違反について警告を3回もらうと指導となる「3ポイント制」を取っていた。しかし、現校長である楠井克治氏が校長に就任したタイミングで、携帯電話の所持を認めることを提案した。並行して生徒会に働きかけ、所持を認めることを要求する生徒からの声をまとめさせた。前任校の経験から「携帯電話を持たせた方が保護者と連絡が取れて子どもたちが安心する」という考えがあったためだ。高知中央高等学校は地元から進学する生徒が多いが、関西・関東地方などから入学し、寮に入る生徒もいる。東日本大震災時には、携帯電話で保護者と連絡を取らせることができたという。

 また、高知県は太平洋に面しているため、3月11日には「前代未聞の津波警報」が来た。当然、学校側は「沿岸地域に住んでいる生徒が家にいるかもしれない」と心配になる。実際は津波はそれほど大きくはなかったが、携帯電話のおかげで生徒とは無事連絡がとれた。「携帯電話でつながっておかねばならないと再認識しました」と副校長の鍋島一兆氏は語る。

生徒指導で役立つケータイ、学校がiPhoneを20台用意

 同校では、担任のメールアドレスは全保護者に公開するとともに、生徒たちとも最初にメール交換している。携帯電話は現在、主にクラス担任が生徒指導や保護者とのコミュニケーションをとるために使われている。

さくら日記

 生徒からの相談や欠席の連絡だけでなく、勝手にサボって帰った生徒に「なぜ帰った?」とメールをしたら「ごめんね」と返ってくるようなやりとりもあったという。不登校の生徒など、メールや携帯電話だからこそつながれるケースもある。雨で教室を変更する際の告知や、校内での呼び出しもメールを使う。「住宅街なので、たった1人の生徒を呼び出すために放送するのは迷惑だし、プライバシーの問題もある」からだ。

 高知中央高等学校のサイトには「さくら日記」というウェブ日記がある。クラブのメンバーやクラスの日直がその日の感想を書き込む決まりであり、この書き込みも携帯電話から行われている。「悪いことを書くのではないかという懸念もあったが、記名させると変なことは書かない。特にクラブについてはみな乗り気で書いている」。保護者からも、学校での子どもの様子が垣間見れるということで好評だ。

 携帯電話を持ってない生徒をカバーするために学校でiPhoneを20台購入し、一部授業では携帯電話を取り入れた学習も行っている。今回の東日本大震災では、生徒全員で被災地へのお見舞いメッセージも書いた。

トラブル減少、生徒からの相談も

 方針転換から2年、生徒が携帯電話を持つようになり、高知中央高等学校では何が変わったのか?

 「ポイント制の時は、警告に相当する行為を見つけた時点で指導が終わっていました。しかし今は、『なぜ集会中には携帯電話を使ってはだめか』など具体的な指導をしており、ポイント制だった時代より良くなっています。」

 また、携帯電話禁止の時代は、生徒は携帯電話絡みでトラブルがあっても学校には隠すことが多かったが、今はほとんどがオープンになっているという。生徒から「携帯電話がなくなった」「振り込み詐欺が来た」などの相談がきちんと寄せられる。学校側も、定期的に情報モラル教育を実施。個人情報や誹謗中傷などをネット上に書き込んでいるのを見つけた際は、削除や指導を行っている。

 本当に大切なのは、子どもの安全と健やかな成長だ。教育現場には、携帯電話の所持を認めるか否かにかかわらず、適切なルールと指導のもと、子どもたちの心身の安全を確保することが求められている。

 一方で文部科学省の通達から2年が経過し、子どもだけでなく、社会全体とインターネットを取り巻く状況が大きく変化しているのも事実だ。子どもに携帯電話を持たせない、学校に持ち込ませないという方針で今後も対応していくのかどうか? 東日本大震災は、教育現場や保護者、社会全体があらためて子どもと携帯電話について考えるきっかけになるのかもしれない。


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2011/6/30 12:00


高橋 暁子
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。Mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三 笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人” が関わるネット全般に興味を持っている。