イベントレポート
Interop Tokyo 2013
ニワンゴ、グリー、LINE――3社が考える今後のSNSのあるべき姿とは
「Interop Tokyo 2013」パネルディスカッションレポート
(2013/6/13 06:00)
千葉幕張メッセで開催されている「Interop Tokyo 2013」で、初日となる12日、ニワンゴ(ニコニコ動画)、グリー、LINEという国内の大手ソーシャルメディア各社のキーマンが登場し、パネルディスカッションを行った。「日本のSNSはどこに向かうのか~3大ソーシャルメディアに聞く、展望と戦略~」と題して、各社のサービスにおける現状と今後の見通しなどについてそれぞれ率直な意見を交わした。
世界におけるネットと社会のつながりを津田氏が解説
パネルディスカッションは、ジャーナリストの津田 大介氏がモデレータを務め、各社の代表に質問を投げかける形で進行。最初に津田氏は、ディスカッションを始める前に、数年前からのネットと社会のつながりに関する動きを、スライドとともに振り返った。
まず、2010年末頃から発生した「アラブの春」と称される反政府デモや抗議活動において、人々の間での呼びかけに利用されるなど、SNSが大きな役割を果たしたと言われている事件を紹介。これがSNSが全世界に広がるきっかけの1つになったとされる。日本では東日本大震災を契機にSNSが情報流通のインフラとして積極的に利用されるようになり、2012年の首相官邸前のデモにおいても、SNSでの呼びかけが人を集める力になるという前例が作られた。
また、米オバマ大統領がいち早く自身のTwitterアカウントで大統領再選を報告したのをはじめ、大統領選の選挙活動中に行われたテレビ討論では、視聴者がテレビを見ながらTwitter上で討論内容について意見を表明し合い、秒間16万ツイートを記録したこと、当時候補者だったオバマ氏とロムニー氏が、それらのツイートの内容を分析して次のテレビ討論の材料にした、などの出来事から、昨今は「ネットが政治を動かす」流れができ始めていることを示した。
津田氏は、テレビや新聞などでは“デモをやっていた”といったような事実しか伝えないが、TwitterやFacebookなどのSNSでは“一緒に行こうよ”と呼びかけることから、それを見て実際に動くきっかけになりがちだと指摘。しかしながら、今後は“人が集まった先に何をしていくか”というのが問われることになると述べた。
たとえば、近くインターネットでの選挙活動が解禁されるが、これによって後援会、知名度、資金力に頼らずネットを活用した議員が誕生したり、候補者とSNSを介してコミュニケーションし、じっくり投票先を検討できる、といったことが考えられる。ニコニコ動画で政見放送を流したり、Twitterなどで街頭演説をする場所をあらかじめ知らせることも可能になり、個人献金の増加に貢献する可能性もあるとする。
その一方で、ポスターやビラのような従来型の宣伝手法も廃止するわけにはいかず、ネットを使う分コスト増になるのではないか、という点や、候補者のなりすましなどの問題、ネットで人気を集める人は本当に政治家として力があるのか、という疑問もある、というようなデメリットも挙げた。
想定されるネットやSNSの政治への関わり方として、同氏はさらに個人的な意見を披露。1つは、ビッグデータを用いることで、ネット上での書き込みをもとにした世論の分析を行い、選挙活動に活かすことが考えられるとする。また、審議中の政策に関する情報公開を行ったり、それに対して意見を表明するリアルタイムなパブリックコメントの実現、政治家に直接意見するといったネットを使ったロビー活動の展開、公約していた政策を実現できた議員には賛同者から献金できるといったクラウドファンディング的な発想も出てくるだろうとした。また、SNSで多くのフォロワーを獲得している人気のある人が、参議院選挙の比例区で当選する例もあるかもしれない、という。
桁違いのユーザー数、アクセス数を披露した3社
以上のように津田氏が披露した今現在の“ネットと社会のつながり”を踏まえつつ、今回パネルディスカッションに参加したニワンゴ、グリー、LINEの各代表には、“SNSやソーシャルメディアはマスメディアとどのように棲み分けるのか、あるいは連携していくのか”、“O2Oをどう考えているのか”、“今後の展開”といったテーマを提示し、意見を交わした。
まずニコニコ動画について、株式会社ニワンゴ 代表取締役社長の杉本 誠司氏によると、現在のユーザー数は全体で3306万人、そのうち有料のプレミアムユーザーが198万人で、ユーザーの平均滞在時間は1日平均68分と、「おそらく通常のWebサービスと比べると群を抜いて長い」時間になっているという。4月に同じく幕張メッセで「ニコニコ超会議2」を開催したことに触れ、会期2日間で延べ10万人以上が来場し、ネット視聴による参加者は500万人を超えたことも改めて報告した。
ニコニコ動画はテレビの敵?
津田氏からの「ニコニコ動画はテレビの敵なのか」という歯に衣着せぬ問いについては、「敵視された時代はあったが、我々はテレビや新聞といった従来のメディアに敵意はない。ただ、コンテンツ(をどう見せるか)をベースに考えていくとユーザーインターフェイスとして似てくる部分が出てきて、(テレビなどと)対立しているような見え方になってしまう。彼らのマーケットが浸食されているようなイメージも持たれる」と話し、あくまでもニワンゴとしては意図していないことを強調しつつ、現在は良好な関係にあることを示唆した。
最近ではテレビ番組が終わった後に、それを受けてニコニコ動画の番組に同じタレントが出演するといった編成にしていることも多い。杉本氏は「通常は見せない裏の部分で、濃密な情報交換や会話がなされている。そこを出すことで(出演者と視聴者らが)コミュニケーションしていくのが大事」と言い、自己主張し、存在価値を認識してもらうためにコンテンツを作るユーザーがニコニコ動画の原動力になっていることとも合わせ、単に動画を見るというより、動画を通じてコミュニケーションを取る、という部分がニコニコ動画のコアになっていると語った。
分断されていたTVとネットの世界をどうつなげるかが課題に
一方、グリー株式会社 取締役 執行役員常務 最高技術責任者 開発本部長の藤本 真樹氏は、ユーザーのサービス利用状況について、現在の登録ID数はおよそ4000万で、1日あたりのリクエスト数が1兆近くに達していると明らかにした。
グリーではテレビCMを頻繁に流しているが、「インターネットメディアやコミュニティ、電波や(紙などの)媒体で、性格の違い、できることの違いがすごく感じるようになった。それぞれの媒体でどういう効果があるのかというノウハウがこの5年くらいで貯まってきた」と話し、媒体に応じた使い分けはあと数年もすれば成熟して、より効果的に宣伝できるようになるだろうという見通しを示した。
同社ではテレビからネットへユーザーをどのように誘導し、いかにコンバージョンを獲得するか、さまざまなトライを行っており、最近はほとんど“○○で検索”で締めるというパターンになっている。このパターンの是非について藤本氏はあえて論じなかったものの、「完全に分断されていた(テレビとネットの)世界をどうつなげていくか」がキモになってきているという。
ニワンゴの親会社であるドワンゴも、かつて着メロコンテンツをテレビCMで宣伝して多くのユーザーを獲得した経験があるが、コミュニケーションアプリのLINEはテレビCMを流すことなく口コミなどで莫大なユーザーを獲得した。LINEの現在のユーザー数は全世界で1億7千万となり、LINE株式会社 執行役員の舛田 淳氏によれば、「年初に1億ユーザーを達成した以降の方が、伸び率は高い」という。国内のユーザーはそのうち3~4割ほどで、海外ユーザーの比率が高まってきているとアピール。VoIPによるボイスコミュニケーションとメッセージングを合わせ、1日約50億ものコミュニケーションが発生しており、「毎日お祭りのような状態でサーバーを増やしている」という。
インターネットは3周目に入っている
LINEがなぜここまで急成長したのか、その理由を津田氏に問われた舛田氏は、他でも同じように回答しているが、と前置きしつつ「タイミングだ」と答え、LINEがさらに“モンスター”になるにはどうしたらいいかを検討した結果、最近になってテレビCMを流し始めたという。
また、同氏は「インターネットは3周目に入っている」とも語り、「1周目はPC、2周目はフィーチャーフォン、3周目はスマートフォンで、まさに今始まったところ。それぞれで共通していたのは、最初にキラーコンテンツになったのがコミュニケーションだったこと。PCはパソコン通信で、フィーチャーフォンではメール。スマートフォンでもユーザーニーズは変わらない。そのニーズを満たす形が変わるだけ」だとした。それに対しLINEの場合は、「クローズドでプライベートなスモールグループをベースとしたコミュニケーション」だったことから、そこが今のニーズに合致したのではないかとの見方を示した。
津田氏の、LINEは公式アカウントをうまく展開しているが、TwitterやFacebookと比べてLINEはどこに強みがあるのか、という質問には、日本のユーザー数は4500万人以上で、アクティブユーザーが毎日50~60%いるという圧倒的なユーザーベースがあることだとした。「毎日使っている人に対して情報を適切に届けられるもの(ツール)、リアルタイムでプッシュ性をもって届けられるのが我々しかいない」と述べ、LINEの運営側が許可しないと公式アカウントを利用できないことから、「我々がLINEのユーザーに対して提供したい情報であったり、ユーザーが求めている情報を提供する」ことができる点に優位性があると見ている。
あたかも公共インフラのような立場になることで、万が一の障害発生時には責任も生じるとされることについては、「責任感は日に日に増している。通信事業者として届け出ていて、障害が起きれば総務省に報告する。インターネットに閉じたインフラではなく、オフラインとの接点としてのインフラということも含めて考えている」と、すでにインフラ事業者として一定の努力を払っていることを強調。2012年の年末から2013年元日にかけては“あけおめメール”ならぬ“あけおめLINE”が大量に送られることを見越して、3キャリアとホットラインを引き、どんな状況になっても耐えられるよう対応したという実例も示した。
ここまでスマートデバイスが普及すると、PCからのインターネットアクセスはいずれなくなり、スマートデバイスだけになるという予測も立つ。これについてグリーの藤本氏は、家族にタブレットをプレゼントしたらPCを使わなくなった、という自身の経験も踏まえ、「もっとスマートデバイスに移行していくのは間違いない。PCを使う時間はまだまだ減っていくだろう。ゼロになることはないとは思うが、グリーとしてもスマートデバイスに注力していく」とした。
ニコニコ動画は今のところPCによる利用が中心であることから、ニワンゴの杉本氏は「このあたりはまさに課題」だとした。「スマートデバイス化の流れは大きいので、ニコニコ動画のユーザーインターフェイスはそれに対してしっかり作り込まなければならない。ニコニコ動画を支えているユーザーは、キーボードから(コメントなどの)情報を打ち込んでいる方なので、そのあたりをどうマージしていくのかが課題。危機感もある」と焦りを隠さなかった。
O2Oに対する各社の取り組みは?
ここのところスマートデバイスの周辺では「O2O」というキーワードが盛んに取り上げられている。バーチャルとリアルを連携して展開するこの「O2O」に対して各社がどのように取り組んでいくのかに関しても意見が交わされた。
これについてLINEの舛田氏は、「LINEクーポン」の活用例を挙げた。ローソンの公式アカウントがクーポンを発行し、1回あたり十数万人が割引き価格で“からあげクン”と引き換え、ついでに他の物を買うことで売上アップを狙ったことや、マツモトキヨシも同じようにクーポンで売上アップし、そのことをIRで社長が言及する、という出来事もあったと話した。
さらに、LINEでは「LINE@」という店舗のプロモーションに利用できるサービスも始めており、同氏は「全店舗、全企業、全ブランド、全商品にLINEのアカウントを付与できるようにしたいな、という夢がある」と語った。決済やチケット管理を実現したり、マイレージのようなポイントを発行し、オンラインとオフラインをうまくつなぎ込む仕組みの実現を目指したいとしたが、これに対しては津田氏から、「コンビニエンスストアを買収して“LINEマート”みたいなものを作ってみたらどうか」と提案され、会場の笑いを誘う場面もあった。
グリーの藤本氏は、O2Oへの具体的な取り組みは明らかにしなかったが、その一方でネットワーク内だけのコミュニケーションもさらに広がると見ている。「常にスマートデバイスを持ち歩いているので、ネットワークへの接続時間はもっと増えていく。ネットワークだけで完結する活動、コミュニケーションももっと増えていくだろう。(グリーで提供している)ゲームはそれぞれに世界観をもっているが、そこを超えていくようなハブになることも考えられる」とし、ゲームとゲームの垣根を越えた新たな展開について示唆した。また、LINEとはゲームの分野ではライバルであるとしながらも、協業の可能性も探っていきたいと話した。
ニコニコ動画は、すでにニコニコ超会議などのイベントでO2O的な取り組みを行っている。杉本氏は一般的な考えとして、「SNSが一層普及していくことで、いろんな形でリアルのものがマージしていくと思っている。今はまだリアルの社会とネットの社会は分断された状態でパラレルワールド化しているが、いろんなものがO2Oという形でマージされていったときに、そこが1つの世界になっていく。ローカルな生活空間が、リアルあるいはネットのどちらかに分けられないようになる、といったところにSNSが貢献していくのかなと思う」と、抽象的ながらもニコニコ動画やSNSの将来像を語った。
このパネルディスカッションは、何かと話題に上ることの多い3社が参加したこともあり、数百名分の座席がほぼすべて埋まるほどの人気。予定していた時間を大幅に超過しながらも、最後に津田氏は「インターネットというのはコミュニケーションインフラでありつつ、もともとは情報を入手するためのインフラという側面もあったが、その割合が変わってきている。その割合を変えているのがスマートデバイスであるんだなと感じた。そういうトレンドや、そこへ向かっていく3企業の展望を示せたのではないか」と締めくくった。