イベントレポート

JANOG32 Meeting

「JANOG32 Meeting」、災害時の無線LAN開放などネットワーク運用について議論

 日本のネットワークオペレーターのグループであるJANOG(JApan Network Operator's Group)は、7月4日と5日に渡り、大阪市の大阪国際交流センターで「JANOG32 Meeting」を開催した。

JANOG32 Meetingの会場

 JANOGは、インターネットにおける技術的事項およびそれにまつわるオペレーションに関する事項を議論、検討、紹介することにより日本のインターネット技術者、および、利用者に貢献することを目的としたグループ。ネットワークオペレーターを中心とした関係者が参加し、メーリングリストで議論や情報提供を行うとともに、年2~3回のミーティングを開催している。

 今回のJANOG32は、さくらインターネット株式会社がホストとなって大阪で開催。会場では、運用チームの作り方についての情報共有や、SPDY/HTTP 2.0がネットワーク運用に与える影響、ロードバランスに関する議論など、ネットワーク運用やその周辺に関する各種のプログラムが催された。

災害時の「無線LAN開放」について方式の共通化を提案

 開催初日の最初のプログラムとしては、情報処理学会のIOT研究会で議論が進められている、緊急時において無線LANによるインターネットアクセスを開放する方式の共通化に関するパネルディスカッションが行われた。

 東日本大震災では、公衆無線LANなどのインターネット回線を無料開放する措置が多く行われ、一定の成果を挙げたが、さらに提供方式などを共通化することで、より使いやすいものにしていこうという提案だ。

 東京大学の藤枝俊輔氏は、通信事業者による無線LAN開放が評価された一方、利用方法の周知には時間がかかり、たとえば地震当日の帰宅困難者などには周知は間に合わなかったと説明。また、提供方式がばらばらでは混乱期にユーザーが利用方法を理解できないといった問題があるとして、平時からこうした問題について検討しておくことが必要だとして、協議会を作って話し合うことの重要性を訴えた。

東京大学の藤枝俊輔氏
東日本大震災でも無線LAN開放は評価されたが、利用方法の周知には時間がかかった
無線LAN開放にまつわる問題
平時から準備しておくための協議会の設立を提案

 国立天文台の大江将史氏は、東日本大震災で被災地にインターネット接続環境を提供する取り組みを行った経験から、被災地では当初は震災下で不足している情報を入手する目的でインターネットが使われるが、徐々にYouTubeなどの娯楽や、教育、職業訓練といった用途にインターネットが使われるようになるという利用状況を紹介。また、震災直後には設備被害は小さくても、輻輳により実質的に利用できなくなるケースが見られたとして、ネットワークをうまく制御することでこうした問題を解決できるのではないかとした。

国立天文台の大江将史氏
被災地でインターネットの果たす役割
生きるためのネットから娯楽用途へと変化
震災時に必要な通信サービス

 京都大学の畑山満則氏は、災害時に情報が果たす役割として「安全の確保、安心の形成」があると指摘。「安全」は客観的なデータなどから言うことができるが、「安心」は主観的な問題であるため、周囲の状況や知り合いの安全、救援状況といった情報によって不安が解消されることが安心につながるとした。また、技術の進歩に対して巨大災害は発生頻度が低いため、たとえば「災害伝言板」が当初はスマートフォンでは利用できなかったといった、前回の災害時に決めたことが次の災害までに状況が変化していることがあるとして、継続的に議論していくことが重要だと訴えた。

京都大学の畑山満則氏
安全の確保と安心の形成
不安の解消にも情報が大きな役割
次の巨大災害で対応するためには継続的な議論が必要

 藤枝氏は、無線LANを緊急時に開放する方式を「可能な範囲で共通化」することを目指した協議会の準備を進めており、事業者などが次の災害時に無線LANの開放を行いやすい環境を整えるため、提供方式などをガイドラインとしてまとめることを目指している。

 現在のガイドラインのたたき台には、「MUST(必須)」の項目として、「無料、期間限定、インターネットへアクセス可能、利用の事実やログ情報の営利目的利用禁止、組織が提供」といった内容が含まれている。

 また、「SHOULD(推奨)」の項目としては、各社が共通のSSIDを利用することや、暗号化や認証については無しで提供すること、ブラックホール化したAP(インターネットにアクセスできなくなったAP)を停止することなどが盛り込まれている。

 SSIDについては、たとえば「171」といった各社共通のもので提供することで、ユーザーが一度設定すればどこでも使えるといったメリットがあるが、ユーザーが意図してAPを選択することが困難になるため、「171-xxx」といった形で分離することも検討しているという。

 また、東日本大震災の際には、緊急時ということで容認されてきた部分もあったが、社会的にグレーな部分、法律面での問題や、不正利用された場合の追跡の問題、また非暗号化無線LANを使うことについての利用者への注意や、開放を装った悪意のある基地局など、セキュリティ面の問題についても話し合っていきたいとした。

 ガイドラインの対象については、平時から公衆無線LANなどを提供している事業者だけでなく、一般企業などでも普段は来客者向けに提供している無線LANを開放するといったケースも考えられるため、広い範囲の組織に適用できるものを考えていると説明。今後はさらに、ウェブから参加可能な協議会により、ガイドラインの作成と継続的なディスカッションを行っていくとして、来場者にも参加を呼び掛けた。

現在ガイドラインのたたき台として検討している項目
共通のSSIDを検討
法的・社会的にグレーな問題、セキュリティ面の検討も
協議会への参加を呼び掛けた

(三柳 英樹)