イベントレポート

Internet Week 2013

クラウドサービスにおける著作権侵害のリスク〜市川弁護士講演

 2013年11月26日〜29日まで開催されたInternet Week 2013において、「インターネット対応を迫られる法制度〜著作権とプライバシー〜」と題するプログラムに参加した。

 虎ノ門南法律事務所の弁護士である市川 穰氏は、「クラウド時代の著作権」をテーマに発表を行った。尚、同氏の所属する虎ノ門南法律事務所は、IT分野における著作権侵害等案件を多く扱っているという。

クラウドサービスの著作権侵害のリスク

 クラウドサービスはその過程において、データやコンテンツの複製、送信を含む場合が多い。クラウドサービスを利用するユーザーの指示によって複製や送信を行う場合であっても、対象となるデータに第三者の著作権が及ぶ場合には、クラウドサービスを提供する事業者にも間接的な著作権侵害の問題が発生する可能性があると市川弁護士は警告する。

 その例として市川弁護士は、実際に著作権の侵害で問題となったサービスの例をいくつか紹介した。その中でも「ファイルローグ事件」や「Winny事件」と並んで印象的だったのは「MYUTA事件」である。

 「MYUTA事件」では、会員のPCに発行するアクセスキーと携帯電話固有のキーで紐付ける仕組みをとっており、ユーザー個別のセーフティボックスをインターネット上に持つことができる仕組みだった。この「オンリーワンセイフティーボックス機能」により、著作権法上で認められている私的複製の領域内のサービスとして位置付けられると説明していた。楽曲のアップロードには、会員ユーザーに無償貸与する専用のアプリケーションソフト「MUSIC UPLOADER」を利用する。

 このサービスに対してJASRACでは、MYUTAの発表直後に運営会社のイメージシティ(当時コンピュータシティ)に話し合いを申し入れ、このサービスには複製権や公衆送信権などの権利が及ぶとして、JASRACの許諾を得た上でサービスを開始するよう確認を求めていたが、両社で合意には至らなかった。

 イメージシティは、法的にグレーな状況のままでサービスを継続するわけにはいかないことから、2006年3月末にMYUTAのサービスを終了。同年5月に、JASRACの差止請求権がMYUTAに及ばないことの確認を東京地裁に求めて訴訟を起こしたが、訴えは棄却された。

 この判決に市川氏はとても驚いたという。そもそも音楽データの所有者が個人利用のために複製することは、法律的に認められた行為である。にも関わらず、MYUTAが著作権(複製権、公衆送信権)を侵害していると認められたのは、MYUTAが専用のアプリケーションを使ってデータを複製して加工し、アップロードとダウンロードの機能を提供したことから、MYUTA自身がデータの複製と公衆送信を実施した主体者とみなされたためである。

 その他にも、インターネット経由で遠隔地からテレビ番組を視聴可能にする「ロクラクII事件」や「まねきTV事件」の例なども取り上げ、実際にはユーザーが複製して送信しているにも関わらず、サービスを提供する事業者の責任が問われることもあることを市川弁護士は警告する。

  • お詫びと訂正:

     記事初出時、MYUTAサービスについて「社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)は、自身が管理する著作権に基づく差止請求権が及ぶサービスであるとして、サービスの差止を求める訴訟を起こした」との記述がありましたが、JASRACの差止請求権がMYUTAに及ばないことの確認を求めて提訴したのはサービス提供側でした。関連記事
     また、初出時、「結果的にこの訴えは認められ、MYUTAはサービスを終了した」との記述がありましたが、サービス終了は提訴前でした。お詫びして訂正いたします。

著作権に対する日本と米国の違い

 昨今クラウドサービスにおいて著作権侵害が問題になるケースが増えている背景には、「日本の著作権法が技術の進歩する速度に追い付いておらず、判例も集積されていない」ことにあると市川弁護士は述べる。その上で、間接侵害法理が拡大していくことを懸念しているという。

 一方、米国では包括的なフェアユース(公正な利用)規定が存在し、利用が営利を目的としているかどうかや、著作物の性格などによって著作権の侵害に当たるかどうかが判断される。また、DMCA(Digital Millenium Copyright Act:デジタルミレニアム著作権法)では、著作権を侵害していることが判明した場合、事業者は該当するデータを削除すれば免責を得ることができる。

 日本にもプロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)はあるが、著作権侵害行為の判断リスクを事業者が負担しなければならない。つまり事業者は大丈夫だと思っていても、訴えられて裁判で負ければサービスを終了したり、多額の賠償金を支払わなければならなくなるかもしれないのだ。

 なお、プロバイダ責任制限法で規定している「特定電気通信役務提供者」には、ISPのようなプロバイダーのみならず、掲示板などを設置するWebサイトの運営者なども含まれる。そのため、たとえ個人であっても特定電気通信役務提供者として法的な責任を追及される可能性があるという。

ビジネスの進歩を阻害しないためにも法整備が必要

 市川弁護士はさまざまな企業から、自分たちが提供を検討しているサービスが、法的に問題ないかどうかを相談される立場にある。相談されたサービスが法的にグレーゾーンにあると判断した場合、法律家として市川弁護士は「やめておいた方がいいですよ」と安全側に倒したアドバイスをすることが多いという。

 しかし、常に安全側に倒すことで、革新的なサービスが生まれにくくなることを市川弁護士は危惧しているという。「日本の法律は権利者保護にはあつい反面、新しいビジネスを展開する際には非常にリスクが伴います。サービス事業者は、データやコンテンツがどこで複製されるか、複製したデータはどこに送信されるのか、サービス事業者がどの程度関与しているのかの度合いを常に意識しなければなりません。一方で、米国では著作権侵害を指摘されたとしても、該当するデータやコンテンツを削除すれば、事業者は法的な責任を問われることがないため、思い切ったサービスを展開することが可能です。個人的には日本にも同様の仕組みが必要だと思います」と述べた。

 最後に市川弁護士は、いまの日本はクラウドビジネスをどのように発展させる方向を選択しなければならない岐路にあるとし、「健全なビジネスの進歩を阻害しないための法整備を実現するため、多くの人がこの問題に関心を持ち、いろいろな場所で発言してほしい。そうすることで何かが変わっていくかもしれない」と締めくくった。

(北原 静香)