イベントレポート

新経済サミット 2014

Fitbit、Livescribe、PayPalの経営陣が語る、開発の裏側や成功の秘訣

 新経済連盟が4月9日・10日の2日間に渡り開催中の「新経済サミット」の初日、「イノベーション - つながりゆく世界」と題し、IoTやウェアラブル、クラウド決済といったキーワードが語られた。このセッションには、Fitbit CEO・共同創業者のジェームス・パーク氏、Livescribe 会長兼CEOのジル・ブシャール氏、PayPal グローバルプロダクトソリューションVPのキャリー・コラジェイ氏の3名が登壇。それぞれのサービスの紹介や、パネルディスカッションが行われた。

セッションはそれぞれの事業の紹介から始まり、パネルディスカッションも行われた

リストバンド型ヘルスケア端末「Fitbit」、開発のきっかけは任天堂Wii

 セッションの冒頭では、リストバンド型のヘルスケア端末「Fitbit」を手掛けるパーク氏が、開発に乗り出したきっかけを語った。パーク氏によると、「任天堂のWiiを買って感動した」ことで、知識がない中ハードウェアの開発を学ぼうとしたという。そこから2年かけ、サンフランシスコのカンファレンスで発表にこぎつけた。

FitbitのCEO・共同創業者 ジェームス・パーク氏
パーク氏は、画面を見せながらFitbitの特徴を解説

 Wiiがなぜ、Fitbitにつながったかという点に関して、パーク氏は「センサー」の大衆化が重要だったと語る。

「Wiiは、我々にセンサーの大衆化という気づきを与えた。(Wiiリモコンは)29ドルのBluetoothと加速度センサーがついたデバイスだったが、まず、これがたったの29ドルということに大変驚いた。以前だったら、まずこの手のデバイスに載っていなかったものだ」

 とは言え、ハードウェアについては素人に近かったというだけに、開発には苦労もあった。パーク氏は「早い段階でエンジニアリングとセンサーの問題があった」と明かし、製品をリリースする直前に大きな問題が発覚したエピソードを語った。

 「一番大きなチャレンジだったのは、シンガポールのホテルに泊まっていたとき、あと数週間で商品を出荷しなければいけない段階で、無線が数cmしか届かないことがわかったこと。なぜうまくいかないのか、状況を悲観したことを覚えている。問題を見つけるための作業も大変だった。最終的には、アセンブル(組み立て)段階で、ディスプレイとアンテナが近すぎ(て干渉す)ることがわかった。これは前もって予測できなかった。そこで生産工程を改善し、アンテナがディスプレイをよけるようにして、やっと出荷できた。」

 Wiiとの出会いが原点となり、ヘルスケア商品のFitbitに至ったのは、「見えないものを見える化して、意思決定ができるようにしたかった」から。「人々は活動量を増やしたい、よく眠りたい、体重を減らしたいと思っているが、意思決定をするためのデータがなかった」ことから、それを実現するFitbitが生まれた。その後、展開地域や店舗を着実に拡大し、日本ではソフトバンクとの提携を発表。また、Fitbit自身の流通経路でも、端末を発売することになった。

 ウェアラブル端末についての見通しを尋ねられたパーク氏は「今後、センサーの技術が改善されれば、ファッションとテクノロジーの融合が起きる」としながら、同社がファッションブランドの「Tory Burch」とコラボレーションした製品を発売することも語った。アプローチはTory Burch側からあったといい、こうした動きをパーク氏は「ファッション業界も先を読んでいる」と評価する。同氏によると、ファッション業界もウェアラブルに注目し始めており、「スイスの時計メーカーも、スマートウォッチを潜在的なチャンス、または脅威だと感じているようだ」という。

小ロットでスタートし完成度を高めたLivescribe

 ノートなどに取ったメモがiPadなどのアプリに再現される「Livescribe」を展開するブシャール氏は、IT製品やモバイル製品がこれだけ普及した今でも、「多くの人が手書きでメモを取っていて、この数字がなかなか変わらない」という点に目をつけた。

Livescribe 会長兼CEOのジル・ブシャール氏
スマートフォンやタブレットと連携し、紙に取ったメモがそのままデータとして記録される

 「使いやすく自然で、普通のペンと同じようにポケットから取り出して書けるもの」を目指し、スマートペンを開発した。同時に、「モバイルアプリでいつもやっていることを同じようにできることも大切」といい、アプリ側にも力を入れているという。

 製品の開発にあたっては、「心配なことはない」としながらも、「ハードウェアとソフトウェア、両方を扱うと問題は無限に出てくると」という。そのため、同社ではまず小規模なロットで販売を開始し、トラブルにはすぐに対応できるようにした。ブシャール氏は「何万も出荷していっぺんに回収となると大変。評判も大切なので、先走らず、しっかりやることが重要」とのポリシーを語った。

 デザインについてもこだわりを持っており、あとからTory BurchとコラボレーションしたFitbitに対し、Livescribeは「最初からプロのデザイナーを採用し、高級な店舗で売ったら成功した。カルティエやモンブランと並べていただいたが、すばらしい経験だった」という。また、ブシャール氏も、先に挙げたFitbitのパーク氏と同様、「テクノロジーとライフスタイルの融合が起こっている」という見方を示す。実際に、Livescribeも「ファッション業界からもアプローチを受けている」という。

継続して使うことにこだわった結果、記録された筆記の数は1億を突破した
日本に導入された際にも、IT関連メディアにとどまらず、さまざまなメディアから反響があったという

PayPal「特徴は安心、安全」~スマートウォッチ対応など新しい取り組みも

 ハードウェアが中心の2社に対し、PayPalはオンライン決済が事業の中心だ。最近では「PayPal Here」のように、実店舗でクレジットカード決済を行うデバイスも販売している。そのPaypalの特徴を、コラジェイ氏は「特徴は安心、安全」としながら、次のように語る。

PayPal グローバルプロダクトソリューションVPのキャリー・コラジェイ氏
日本で発表されたばかりの、「顔パス」機能を使ったヤマダ電機との取り組みも紹介された

 「何かを購入するとき、クレジットカードの申請をしたり、口座を開いたりすることは、自分のアイデンティティを相手に渡しているのと同じ。PayPalなら、IDとパスワードだけでいい。15年やってきて、セキュリティのアルゴリズムも構築した。不正が起きる前に見つける、もし不正が発生した場合は、リアルタイムで是正する。」

オンラインでの安全な取引を特徴とする
お財布のクラウド化を掲げ、さまざまなサービスを行う

 また、ハードウェアとのコラボレーションという観点からは、サムスン電子の「GALAXY S5」に搭載された指紋センサーを活用した機能を紹介。これを利用すると、PayPalアカウントに指紋の読み取りだけでアクセスできるようになる。ウェアラブル端末については、スマートウォッチの「Gear 2」に対応するといった取り組みも行っている。

サムスン電子の「GALAXY S5」や「Gear 2」での取り組みも紹介

 そんなPayPalだが、コラジェイ氏は「2年ほど前まで、新しいものが出てこない時期があった」と明かす。「競合他社もどんどん出てきて、カードや銀行といった従来の金融機関ではない、将来のビジョンを持ったところ(Squareなど)が出てきた」。この状況が変わるきっかになったのが、2年間の社長交代だ。

 このとき、「トップダウンだが、長年働いてきた人が変化を起こせると信じた」といい、実際にそこからさまざまな製品が登場したという。

 このセッションで唯一の女性登壇者ということもあり、コラジェイ氏は女性の立場から、ウェアラブル端末のデザインについても積極的に意見を述べていた。同氏は「女性の観点からは、自分の洋服に合うかどうか重要。Google Glassは目立ちすぎる」といい、よりライフスタイルに寄り添うデザインの必要性を説いた。こうした点から、コラジェイ氏はFitbitとTory Burchのコラボレーションを「素晴らしい」と評価。「GoogleもRay-Ban(の親会社)と協力する話があり、これも素晴らしいこと」だと述べた。

(石野 純也)