イベントレポート

Yahoo!ニュース 個人「オーサーカンファレンス2015」

ネットの言論空間に“集団分極化”の問題、“炎上”で重要なのは賛否両論になる話題の作り方

 ヤフー株式会社は1日、有識者や専門家が書き手(オーサー)となって発信する「Yahoo!ニュース 個人」のオーサー向けイベント「オーサーカンファレンス2015」を都内で開催した。

 Yahoo!ニュース 個人は、ニュース配信サイト「Yahoo!ニュース」のカテゴリーの1つで、有識者や専門家など約500名のオーサーが記事を寄稿するプラットフォーム。カンファレンスでは、オーサーの活動を支援する新たな施策の発表や、年間で最も活躍したオーサーの表彰が行われたほか、江川紹子氏、山本一郎氏ら著名オーサーによるパネルディスカッションが実施された。

「発見と言論が社会の課題を解決する」がコンセプト

 カンファレンスの第1部では、まず開会の挨拶として、ヤフー執行役員/メディアカンパニー長の宮澤弦氏が登壇。宮澤氏は「ヤフーはインターネットの会社。インターネットを使って、この国を良くする手伝いをしたい」と述べ、「その1つの形がYahoo!ニュース 個人だ」とした。また、Yahoo!ニュース 個人を通じて、「社会の課題発見や議論の喚起に役立ち、課題解決へのサポートをしたい」と語り、そのためにも「オーサーの皆さんが発信を継続していける体制を作っていきたい」と述べた。

ヤフー株式会社執行役員/メディアカンパニー長の宮澤弦氏

 次に登壇したメディアカンパニー/ニュース事業本部長の片岡裕氏は、Yahoo!ニュース 個人におけるオーサーへの支援施策について紹介。片岡氏は「『発見と言論が社会の課題を解決する』がYahoo!ニュース 個人のコンセプトであり、まずは、課題の発見と議論を喚起する記事をオーサーが発信することが第一歩」だとし、「昨年来、オーサーが活動を持続できる環境の実現のために取り組んできた」と語った。

 ヤフーでは、昨年12月に第1回となるオーサーカンファレンスを開催し、オーサーへの支援施策を発表していた。具体的には、PV(ページビュー)にとらわれない記事の評価制度として、「オーサーアワード」「月間MVA(Most Valuable Article)」を創設したほか、Yahoo!ニュースの記事ページにオーサー専用のコメント枠を設置する「オーサーコメント」などを導入。これらの支援施策の結果、1年前と比べて、記事の寄稿本数は約1.5倍、記事1本あたりのオーサーへの支払額は約4倍になったという。

ヤフー株式会社メディアカンパニー/ニュース事業本部長の片岡裕氏

 そして片岡氏からは、新たな支援施策の発表も行われた。今後実施されるのは、Yahoo!ニュース編集部によるオーサーへの執筆依頼、海外メディアへの翻訳配信、出版社との連携による出版機会の創出など。片岡氏は「オーサーが活動を持続できる環境を創出してこそ、良質なコンテンツが生まれ、ユーザーに届けられる。この仕組みを磨き上げていく」と述べた。

「オーサーアワード2015」は、“組体操問題”伝えた内田良氏が受賞

 続いて、年間で最も活躍したオーサーへ贈られる「オーサーアワード2015」の贈賞式が実施された。オーサーアワードは、オーサーの活動がどれだけ社会的なインパクトを与え、課題解決に貢献したかを基準に選定される賞。ヤフー代表取締役社長CEOの宮坂学氏から受賞者の発表が行われた。

ヤフー株式会社代表取締役社長CEOの宮坂学氏

 発表に先立って挨拶した宮坂氏は「これまでYahoo!ニュースの価値軸の1つは、1人でも多くの人に記事を読んでもらいたいということだった」と述べた。しかし、「(2015年は)多くの人に読まれるニュースサイトが、本当に良いニュースサイトなのかを考えさせられる1年だった」とし、「当たり前のことだが、多くの人に読まれるのはもちろん、内容が重要という原点に立ち返ろうと思う」と語った。

 宮坂氏は「量から質への転換を図る」と述べ、今回から設けたオーサーアワードも「“量から質”を体現したもの」だとした。

 オーサーアワード2015に選ばれたのは、名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授の内田良氏。教育現場における“組体操問題”などを取り上げた記事が評価された。内田氏は受賞の挨拶として、「記事を書くことで、問題に直面している当事者からの声が届くようになった。さらに、行動を起こす人が出てきたり、行政が動いてくれることもある」と情報発信の効果を語り、「今後も社会の問題解決に貢献していきたい」と述べた。

「オーサーアワード2015」に選ばれた名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授の内田良氏

「Yahoo!ニュース 個人」では選択肢の豊富さを追求

 カンファレンスの第2部では、Yahoo!ニュース 個人に寄稿する著名オーサーによるパネルディスカッションが実施された。登壇したオーサーは、オーサーアワード2015を受賞した内田氏のほか、ジャーナリストの江川紹子氏、ライターの松谷創一郎氏、個人投資家の山本一郎氏の4名。また、ヤフーからはYahoo!ニュース 個人サービスマネージャーの岡田聡氏が登壇した。

(左から)オーサーの内田良氏、江川紹子氏、松谷創一郎氏、山本一郎氏、ヤフー株式会社の岡田聡氏

 パネルディスカッションのテーマは、「社会の課題解決に向け、ネットの発信が果たす役割は?」。まず、ネットの言論空間について、どのような変化を感じているかを聞かれた内田氏は、「昨年5月に初めて“組体操”の問題提起をしたときは、心が折れるくらい批判が多かった」と語る。しかし、記事を出し続けた結果、マスコミにも問題が取り上げられるようになり、情勢が「段々変わってきた」という。

 また、ネットの言論空間がどうすればもっと面白くなるか問われた松谷氏は、「今のままでも十分面白い」としながらも、「よく言われる問題としては、“炎上”と“集団分極化”がある」と指摘。集団分極化とは、2つの相反する意見が一気に片方に偏ってしまうことで、例としては“五輪エンブレム問題”が挙げられるという。「(集団分極化が起こると)専門家の言葉がなかなか表に出なくなってしまう。そこは改善したほうが良い」と松谷氏。

 江川氏は、議論を喚起できるのがネットの言論空間の良い所だと述べつつ、「最近は、本音を激しく言えばいいという風潮が横行している」と指摘する。そして、高校生による外国人サッカー選手への差別的な投稿があった問題に触れ、「自分から謝罪できるような子が、なぜ差別的なことを言ってしまったのか、もっと真剣に受け止める必要がある」と述べた。

 また、山本氏は、ネット上の“炎上”について語り、「炎上は皆の注目を引くことが大事で、続けることに意味がある」とする。その上で、「(炎上しているけれど)一部は正論だよね、という意見をいかに引き出すかが重要」だと述べる。山本氏は、議論を呼ぶ炎上を仕掛けるために、「テクニックとして、皆が賛否両論になるような話題の作り方をしている」とし、「Yahoo!ニュースにはコメント欄があるので、そうした読者のリアクションを引き出せるかどうかが、見過ごせなくなっている」と語った。

 最後に、ヤフーの岡田氏は「ネットがより良い役割を果たすために、これから大事になると考えているのは“丁寧さ”だ」と述べた。丁寧さとは、「きちっと物事を整理して解説し、さらに、ユーザーに多くの選択肢を提供すること」であり、「Yahoo!ニュース 個人は、いろいろなジャンルの人に書いてもらっている。今後も選択肢の豊富さを追求していきたい」と語った。

(鈴木 友博)