イベントレポート

Japan IT Week 春 2013

Amazon、海外への販売を支援へ。決済などモジュール化しECサイト構築支援も

 8日、東京ビッグサイトで「第1回 通販ソリューション展 春」が開催され、アマゾン ジャパン セラーサービス事業本部長の前田 宏氏が「ネットの先駆者、Amazonが目指すもの」と題して講演。これまでのAmazonの歩みをなぞるとともに、通販事業者が海外販売する際の支援策や、事業者がもつECサイトへAmazonのサービスを提供する新たな施策を発表した。

Amazon開設から18年。100万冊の本から世界最大級のマーケットへ

アマゾン ジャパン セラーサービス事業本部長 前田 宏氏

 前田氏は、2005年までソニーでテレビ製品の企画・マーケティングなどを手掛け、その後アマゾン ジャパンに転職。現在は出品事業を担当するセラーサービス事業本部に在籍している。

 講演では、Amazonを象徴する数字を次々に提示していく形で話題を展開。最初に現れた数字は“18”で、Amazon.comのWebサイトが1995年に初めて開設されて以来、今年で18年経過したことを報告した。開設当時は画像が極端に少ない文字ベースのウェブサイトで、「100万冊の本を低価格で販売」することを前面に打ち出していた。

 それに対して現在は、「本から脱却して他のものも売るネット通販に」というコンセプトを掲げてきた結果、さまざまな現物商品や電子書籍をはじめとするデジタルコンテンツなど、あらゆるアイテムを扱う一大マーケットに成長。「商品を探しやすいWebとはどうあるべきか」を大前提にウェブデザインを行っている。

 Amazonの最初の事業所は、ワシントン州のベルビューにあるほとんど民家のような一軒家だった。現在は同じくワシントン州のシアトルにあるが、大学のキャンバスのような広大な敷地に、大小さまざまな建物が建ち並んでいる。このうち敷地の隅に位置しているビルは“Wainwright”と名付けられており、Amazonで初めて商品を注文した人物の名字なのだという。

 次に表示された数字は“11”。現在Amazonは世界11カ国に向けてウェブサイトを開設しており、最近ではブラジル市場向けにオープンしたばかり。11カ国でしか事業展開していないのは意外に少なく感じてしまうが、Amazonが新しく他国で事業を立ち上げる際には、その国のインターネット普及率、ECの成長性、物流、カスタマーサービスを提供するための地域の雇用、パートナー企業との協業といった、あらゆるインフラ的な側面から慎重に調査し、検討を行っているから、とのこと。「Amazonが顧客に約束したいと思っている質の高いサービスを長期的に提供するためには、徹底的に検証したうえでオープンする」ことが前提で、創業者であるCEO ジェフ・ベゾスが常に意識していることなのだという。

 “61”という数字は、2012年度のAmazon全体の総売上610億ドルを表したもの。対前年比で27%増となっており、日本国内の売上は610億ドルのうち13%ほどを占めているとしている。

他社の動向に気は払うが、それには呼応しない

 Amazonが創業以来、18年間不変としている経営理念は、“We seek to be Earth's most customer-centric company.(地球上で最もお客様を大切にする企業)”。

 前田氏は、「お客様が何を考えているのか、何を求めているのか、どんなことに困っているのかなどをまず考えて、それを我々がどう解決できるのかを考える」という取り組み方で、新サービスの開発、既存サービスのブラッシュアップを行っていると話し、競合他社の動向に気は払うが、その動きによってAmazonが何か対応するようなことはないと断言した。

 また、同社社員が行動の指針としている理念の1つは、「Customer Centricity(お客様中心)」。これを前提に顧客満足度を高めるためには、「品揃え(Selection)」、「利便性(Convinience)」、「低価格(Price)」という3つの要素が必要だと同氏は語った。この3要素は技術革新(Innovation)」という土台の上に成り立っており、たとえば利便性を向上させる“迅速・正確・低コスト”を実現すべく、物流に関わる技術革新、投資を積極的に行ってきたと強調した。

 もう1つの理念は、「Invention(発明)」。同氏いわく、ジェフ・ベゾスはいつも何を発明しようか考えている経営者であることから、Amazonとしても顧客満足度を高めるための数々の発明を生み出している。1クリックで商品を購入できる技術や、ブロガーのサイトに商品の広告を掲載するアフィリエイト機能、おすすめの商品を自動でリコメンドする機能、さらにはKindleや音楽配信サービスなどを発明の例として挙げた。

 ただ、こうして常にお客様の声に耳を傾けながらサービスを開発しているものの、それだけでは十分ではないと同氏。「お客様が次に何を求めているのか、それを予測して、お客様がそれに気付く前に発明をすること」も、Amazonが心がけていることであると主張した。

 最後の理念は、「Long Term Thinking(長期的思考)」。短期的な利益ではなく、およそ5年から7年先にどのようなサービスを提供するのか、という将来を見越して開発を行い、長期的な視野に立った経営判断を行っているという。これから成長するであろう分野には積極的な投資を行ってきており、たとえばKindleなどの新デバイスの開発、全世界レベルの物流ネットワーク整備のためのインフラ投資などは、同社の確固たる理念を如実に表していると言えるだろう。

自社ECサイトへAmazonの機能を統合可能に

 “50000000”という数字は、現在Amazon.co.jpで取り扱っている商品の種類。ユーザーが探しているどんな商品でも必ず見つかるウェブサイトにしたい、という目標を目指す中で達成した数字だが、これにはAmazon以外の通販事業者が寄与している部分も多いと前田氏が補足した。

 Amazonには自らが商品を仕入れて販売する「アマゾン直販」と、他の通販事業者が商品を出品する「アマゾン出品サービス」という2種類の販売方法があり、いわばハイブリッド型の通販モデルを作り上げている。2012年時点で「アマゾン出品サービス」を利用している事業者は、ビックカメラ、JINS、東急ハンズ、CAINZなどで、すでにその成長率はアマゾン直販を上回っているという。

 同社の日本国内の物流センターは、現在11カ所。この物流センターも着実に増設、進化しており、迅速、正確、低コストで商品配送する物流インフラとして稼働させ、2006年10月には、翌日までに商品を手元に届ける「お急ぎ便」サービスを開始した。

 当初は当日配送可能なエリアが首都圏のみだったところ、6年以上経った現在では関東圏だけでなく中部、関西、中国や九州の一部にまで範囲を拡大。翌日中配達は、北海道などを除くほぼ全国に対応した状況になっている。今年2013年は、Amazonとしては最大級となる延床面積6万坪の巨大な物流センターを神奈川県小田原に開業する予定で、それと同時に1000名規模の雇用機会も創出するという。

 2008年4月から開始している「フルフィルメント by Amazon(FBA)」と呼ばれる同社のプラットフォームも、今後ますます積極的に展開していく方針。これは、同社の物流センターに通販事業者の商品を保管し、Amazon上に出品した商品の注文があれば、アマゾン直販と同様のサービスメニューに則って無料配送、当日配送、ギフト対応、24時間365日対応、カスタマーサービスなどを一貫して代行するというもの。さらには、通販事業者自身の通販サイト上で注文のあった商品を、Amazonの物流センターにある在庫から発送するという連携も可能となっている。

 最後に、「on Amazon」および「off Amazon」と題して、近く日本国内の通販事業者に対し、業務を支援する施策を行うことも発表した。

 前者の「on Amazon」では、国内の通販事業者が海外向けに商品を販売するための仕組みを強化。通関処理や商品説明文の翻訳といった煩雑な手続きや作業などを必要とせず、Amazonの物流センターと連携してスムーズに海外の顧客に販売できるようにする。イギリスの事業者が商品をAmazonの物流センターに預け、欧州各国へ国境を越えて販売、配送しているという実例もすでにあり、日本でも同様に他国へ簡単に販売できるようにする環境を整えていく計画だ。

 後者の「off Amazon」は、通販事業者独自のECサイトを支援する内容。Amazonのユーザー管理や決済システム「Amazaon Payments」などの仕組みをコンポーネント、モジュール化してECサイトに提供するもので、システム構築の簡略化だけでなく、Amazon IDでログインできることからユーザーの利便性向上も図れる。「フルフィルメント by Amazon」も組み合わせれば、通販事業者にとっては大幅なコスト削減や管理業務の抑制を実現できることになる。

(日沼 諭史)