イベントレポート

第22回東京国際ブックフェア

本を買いたくなる空間づくりや舞台設定と、クチコミなどの周辺情報

 NPO法人本の学校が7月4日、東京ビッグサイトで行われた「第22回東京国際ブックフェア」の会場内で、「出版産業シンポジウム 2015 in 東京」を開催した。本記事では第3分科会『「本との出会い方」~読書情報の変化とこれからの読者像』をレポートする。

 パネリストは、株式会社ブクログ取締役の大西隆幸氏、久禮書店〈KUREBOOKS〉店主の久禮亮太氏、『マガジン航』編集発行人で文筆家の仲俣暁生氏。コーディネーターは、『HAB』発行人で本屋「小屋BOOKS」店主の松井祐輔氏。

(左から)『マガジン航』編集発行人/文筆家の仲俣暁生氏、株式会社ブクログ取締役の大西隆幸氏、久禮書店〈KUREBOOKS〉店主の久禮亮太氏、『HAB』発行人/本屋「小屋BOOKS」店主の松井祐輔氏

ウェブにおける本の情報と、書店の現状

 従来、読者が本と出会うのは、書店の店頭や新聞書評、新聞広告などが中心だった。ところがインターネットの普及により、通販サイトAmazonのレビューやFacebookなどのSNSでも、本と出会えるようになった。ではどういう工夫をすれば本が売れるのか?について、事例を交えながら意見交換を行ったのがこの分科会だ。

 仲俣氏は、自身が編集発行人を務めるウェブマガジンの『マガジン航』で連載していた『本で床は抜けるのか』の事例を紹介。ウェブで人気があった連載を、ウェブ記事は残したまま単行本化した結果、かなり売れているという。

 大西氏は、ブクログの現状について紹介。登録アカウント数は90万、レビュー数は680万、アイテム数は6300万。会員は女性が6割。20代~30代が6割。レビューを読んで購入判断する人が多い。出版社向けツール「ブクログインサイト」は、会員属性や本棚登録情報推移、読書ステータスデータなどを分析できる。

ブクログの現状

 久禮氏は、新刊書店の店長をやっていたが、この4月に辞めて「フリーランス書店員」をやっている。新刊書店では、返品率を下げると取次から報奨金が出る。本を売るより儲かるので、どうしても「売れるかも」と前向きにトライするより、在庫を多く持ってはいけないと萎縮する方向になってしまうという。その圧力に、勤め人として明確なロジックで抗うのは難しいそうだ。

人気作発売で平台開けて待ってたのに配本1冊、代わりにタケノコを売った

 久禮氏は在職中から「小さくても面白い本屋を自分でやりたい」と考えていた。しかし、採算など現実的に考えると、雑貨と古書のショップというのが解になってしまうという。新刊書店へのこだわりから「自分の技能を活かしてくれるところに出かけていこう!」と考えていたら、出版社の営業から東京都昭島市のブックカフェを紹介してもらえたそうだ。

 そこは、現オーナーの両親がやっていた書店。跡を継いだら「儲からない」ことが分かり、さまざまなチャレンジや模索をするようになったという。以前、村上春樹氏の『1984』が発売された時、平台を開けて待ってたのに配本が1冊しかなかった。仕方がないので、知り合いに掘らせてもらったタケノコを代わりに置いたらめちゃくちゃ売れて、500冊分くらいの粗利が出た。その経験から、駅前の商店としてお客さんに役立つ方向へと店を変化させたそうだ。店の半分を改装し、カフェにしたのもその一環。

久禮書店〈KUREBOOKS〉店主の久禮亮太氏

 そういうオーナーから「おもしろい棚つくってよ!」とオファーを受け、600冊くらい並べられるスペースを好きにやらせてもらっているという。いわゆるブックコーディネーターだ。つくった棚を、お客さんがどう壊していくか。売れた本と売れなかった本、それをどうやって棚にまた反映するか。常駐してない状態で、外からどう棚を維持するか。そこには工夫が必要となる。

 限られた商材の中で利益率を高めるため、八木書店(第二出版販売)からバーゲンブック(B本)を仕入れるようにしたという。バーゲンの楽しさで演出ができるから、どの書店も取り組むべきだと久禮氏。他にも、地元のキッズカフェに棚だけ置かせてもらい、サテライトミニ書店を開いているという。

出版社の新入社員が3割しか新聞を読んでいなかった

 松井氏から、最近は新聞書評や広告が見られなくなっているという問題提起がなされた。出版社の新入社員研修会に行き、「新聞を毎日読んでますか?」と質問をしたところ、手が挙がったのは3割くらいだったそうだ。

 大西氏が広告代理店と話をしていると、やはり新聞広告が以前に比べると効かなくなったと言われるそうだ。それにもかかわらず、出版社の広告予算はまだ4マス(新聞・雑誌・テレビ・ラジオ)が中心で、ウェブに対する広告予算は少ないという。

株式会社ブクログ取締役の大西隆幸氏

 新聞広告の効果は、ある程度の相関関係でしか測れず曖昧だが、ウェブ広告は実数が出てしまう。だから、今までと同じ考え方では難しい。そこで、目標を「買う」ではなく、エンゲージメント(いいね!やコメントなど)に設定している出版社も出てきているそうだ。これは生活消費財でも同じことが起きているという。

 仲俣氏は大西氏に、出版社の広告予算が相変わらず新聞に多く割かれてる中、どうやってウェブ広告の出稿を説得しているか?と質問。マス広告は見る人を特にセグメント(区分)しないが、ブクログの場合は「この本を読んでいる人」といったセグメントでプッシュできるとか、登録者の多い「SmartNews」読書チャンネルへの情報掲載が無料といった訴求をしているという。

面で攻めるリアル店舗と、ピンポイントのウェブ

 読者が「こういう本が出てるんだ!」という情報と出会ったら、次の問題はどこで買うか。ブクログの場合、複数のインターネット書店へリンクを張ってはいるが、多くの場合Amazonが選ばれるという。仲俣氏も、東京堂書店へ行って新刊を手にとって、ふと「これもうAmazonで古本売ってるよな?」と思ってしまうという。

『マガジン航』編集発行人/文筆家の仲俣暁生氏

 久禮氏も、目的が明確なものはAmazonで買う。それは、買う側の素朴な行動だと。それに対し、書店員として棚をつくる上で日々意識していたのは、「買う気を煽っていく」こと。店の中を回遊するだけでも面白い、という棚づくり。単品の繋がりが、面で迫ってくるようにするそうだ。

 大西氏は、ウェブは無限に面をつくれるため、つい欲張ってしまうところが問題だと指摘。何を基準にして並べるか。デジタルの世界はファジーにできないが、リアル書店ならファジーにできる。場所の制限が、むしろ羨ましいと感じられるという。

スリップでプロファイリング

 久禮氏は、本のスリップを時系列順にためておき、後で購入者のプロファイリングをするそうだ。どんな本を買って行ったかで、なんとなく人物像が思い描けるという。そして、ピンポイントでその人に買ってもらおうとして本を仕入れるそうだ。それは、書店が提案する文脈だ、と。

 それで継続して売れるか、新陳代謝していくかを確認、仕入れに客の反応を組み込んでいく。客が「この本は私のために用意してくれたのね」と思ってくれるのが理想だそうだ。仲俣氏は、「Amazonがやってるレコメンドを、人力でやっている」と評した。同じことは、客に対し自分が主体的にかかわりたいと思えば、誰にでもできると久禮氏。

スリップに書かれた久禮氏のメモ

 大西氏は、ブクログでも本当はそれぞれの人に合わせたレコメンドを表示したいけど、エンジニア的に大変で実現できてないそうだ。松井氏が「KUREBOOKSのような取り組みは本来ウェブの方が得意なはず」と問うと、実現できても今度は集客が問題になると指摘。もともと集客できている場にレコメンドを表示するならともかく、レコメンドだけで集客することは難しいというわけだ。

地元の書店なのに「おたくどこだっけ?」

 集客という話の流れで、都心で長く営業している書店でも、地元民には認知度が低かった事例を久禮氏が紹介。その地域の100年を記録した写真集が出る時、新聞の折り込みチラシを入れたらすごい件数の予約が入ったが、半分くらいの人に「ところで、おたくの場所どこだっけ?」と言われてしまったという。

 仲俣氏は、もしかしたらそれは、高齢化していて普段あまり外へ出てない人なのかも?と指摘。新聞の折り込みチラシで訴求できる層で、地元の写真集という普段あまり本を読まない人でも興味を示しそうな内容の本だから、という特殊な事例かもしれない。

 ただ、久禮氏はそもそも入店客数自体が落ちている実感があるという。本屋に入って本を選ぶ時間の使い方や、読書に没頭する時間を確保するのが難しくなってるとのではと問い掛ける。大西氏も、ブクログの退会理由の多くは「生活スタイルが変わって、本を読めなくなった」だと指摘。

 電車の中の暇つぶしは、多くの人がスマートフォンでゲームやソーシャルメディアで、昔のように雑誌や文庫本を読む人は少なくなっている。他の娯楽と、可処分時間の奪い合いだと大西氏。仲俣氏も、本を読むには余裕が必要で、ある意味贅沢な時間の使い方だという。

ウェブもリアルも、いろんなところに玉を投げなきゃダメ

 『本で床は抜けるのか』の単行本は、もともとウェブで連載していたというのもあり、やはりソーシャルメディアでのクチコミが強いそうだ。大西氏も、リアルのクチコミが強いのは当然として、ウェブのクチコミも強くなってきていると指摘。

 例えばブクログの書誌情報は、Amazon APIから取得するだけでは全然情報が足らないので、総出でメタデータを増やしたり、動画配信をやったりと、さまざまな工夫をこらしてクチコミが発生しやすくなるような工夫をこらしているそうだ。「いろんなところに玉を投げないとダメ」と大西氏。

 久禮氏も、オーソドックスな新刊書店のことを卑下するわけではないが、今の佇まいのままじゃダメだと指摘。サテライトで動線を張ったり、買いたくなる空間づくりや舞台設定であったり。そこかしこに客とやりとりできる仕掛けを用意し、いろんな人が耕していくことが必要だと締めくくった。

(鷹野 凌)