クラウド導入で情シス部門は不要? 「プライベートクラウド」をテーマに議論


 東京・秋葉原の富士ソフトアキバプラザで開催中の「Internet Week 2010」の初日となる24日、プライベートクラウドをテーマにしたプログラム「仮想化DAY」が行われた。

 社内システムにもクラウドの技術を取り入れる「プライベートクラウド」についての技術や最新動向を紹介するセッションの他、プログラムの最後には「クラウドがもたらす影響 ~情報システム部イラネ~」と題したパネルディスカッションが行われ、クラウドはエンジニアにどのような影響をもたらすのかについて議論が交わされた。

クラウド時代の技術者に求められるものとは

デロイトトーマツリスクサービスの丸山満彦氏
クラウド利用促進機構の荒井康宏氏

 デロイトトーマツリスクサービス株式会社の丸山満彦氏は、「いろいろな企業の方とお話をさせていただく中で、情報システム部門はいらなくなるのではないかと感じた」と問題を提起。ある企業の経営企画担当者から「クラウドサービスは金額も安いしサービスも悪くない。金融機関が使っているくらいセキュリティも万全らしい。事業部が情報システム部門に開発を依頼したら、金額は倍、リリースまでの時間も倍で話にならない。極論ではあるが、もう情報システム部門はいらなくなるのではないか」といった話を聞いたとして、クラウドサービスの導入により情報システム部門で必要とされる人数が減り、「IT業界は大リストラ時代になるのでは」と語った。

 一般社団法人クラウド利用促進機構の荒井康宏氏は、技術者視点からクラウド化がもたらす影響について説明。日本でも企業のクラウドサービス導入が進んでいるが、海外ではさらに多様なサービスがクラウド化されており、技術者にとってはこれまでに作ってきた経験やスキル、人脈の価値が減少することが予想されるとした。中でも「SIerは大ピンチ」だとして、受託開発システム市場が標準化されたクラウドサービスに代替されることで、大きな構造変化に直面することになると説明。一方で、クラウドを利用する力を持っている技術者・企業にとっては、この状況はチャンスでもあると語った。

日本大学の相川成周氏
ライブドアの伊勢幸一氏

 日本大学でシステム管理を担当する相川成周氏は、クラウドサービスを導入したことによる効果を説明。日本大学では学生や教職員のメールシステムにGmailを採用するなど、各種クラウドサービスの導入を進めたことで、「他にやりたいことができるようになった」と説明。「もともと人数が少ないので、手間のかかっていたメールシステムなどを外部に任せたことで、これまで手が回っていなかった部分ができるようになった」とクラウドサービス導入のメリットを語った。

 パネルディスカッションのチェアを務めた株式会社ライブドアの伊勢幸一氏は、「クラウドの導入で本来やりかたった業務ができるということになれば、情報システム部門は不要ということにはならないのではないか」とコメント。これに対して丸山氏は、「バランスの問題だと思う。景気が悪くなればコスト削減の圧力もあり、業務はなるべくシンプルに減らそうという方向に向かう。情報システム部門がゼロになるとは思わないが、全体としては削減に向かうのでは」と語った。

 伊勢氏が「情報システム部門の人数が減る方向にあるとして、生き残るために技術者としては何が必要だと思うか」と質問したのに対し、荒井氏は「クラウドを利用すべきか、すべきでないかを判断できることがポイント。各クラウドサービスのメリットを把握し、必要かつ適切なクラウドサービスを選択できるようになることが重要だ」と返答。クラウドに対する知識を付けるとともに、遅れるほど苦手意識が強くなるとして「なにはともあれ、まず試しに使ってみることが重要」と説明。また、各種の勉強会に参加したり、TwitterやFacebookなどでキーマンをフォローしておくことなども、人よりも一歩先を行くためには重要だとした。

 伊勢氏は、「情報システム部門はいらなくなるわけではないが、過剰な人員は必要ではなくなるということではないか」とコメントし、各パネリストもこれに賛同。また、丸山氏は、クラウドの導入には決断力や判断力も必要だが、日本企業にはそうした問題を経営側から判断するCIO(最高情報責任者)のような人材が不足している点が問題だとした。

 相川氏は、「今後は組織としてのフットワークの軽さが重要になると思う」として、日本大学が最初にGmailの導入を決定するまでには時間がかかったが、2回目以降はハードルも下がり、徐々にフットワークが軽くなってきていると説明。導入経験からは、「クラウドは、インターネットの各レイヤーを下から上まで理解していないと、使いこなせないという感覚だ」として、今後は技術者にとってさらに多様な知識が求められるようになるだろうと語った。

 荒井氏は、「ピンチはチャンスでもあり、クラウドをうまく使うことでこれまでできなかった新しいこともできるようになる。技術者はチャレンジしていかないといけないし、クラウドはそのための新しいツールでもある。また、チャレンジのためには、それを提案するためのビジネス的な理解も技術者に求められる」と語った。

 丸山氏は、「新しいチャレンジは重要で、これからの技術者は日本に閉じこもらず、海外にクラウドを売っていこうというぐらいの勢いが欲しい。世界に出て行くチャレンジ精神のある技術者が増えていくといいのかなと思う」とコメント。プログラム全体の司会を務めた日本UNIXユーザー会の山田幸志氏は、「ここで挙げられた提案をすべて自分でできる人はなかなかいないと思うが、コミュニティの力を使うのもひとつの解ではないか」として、勉強会やコミュニティに参加することで得られるものがあるのではないかとした。

 伊勢氏は「クラウドに技術者はどう対応すべきかという今回のテーマに限らないが、ある意味では危機感かもしれないが、やはり知識欲や好奇心を持っている人が、いつの時代にも必要とされていると個人的には思う」とした上で、「各パネリストの話をまとめると、技術者には多方面の知識と判断力、決断力が必要で、さらに政治力というか説得力のある提案をできる能力も必要で、コミュニティにも参加するなど人間力も必要だと。クラウド時代の技術者は神になれと言うことですね」と聴衆の笑いを誘い、パネルディスカッションを締めくくった。


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(三柳 英樹)

2010/11/25 06:00