mixi笠原社長「顔見知り前提のコミュニティに適したアプリ開発を」


 ブロードバンド推進協議会は17日、オンラインゲームとコミュニティをテーマにしたコンファレンス「OGC 2010(Online Game & Community Service Conference)」を都内で開催した。オープニングの基調講演にはSNS「mixi」の運営会社である株式会社ミクシィの代表取締役社長・笠原健治氏が登壇。外部企業も利用可能なアプリケーション開発プラットフォーム「mixiアプリ」の提供によって変わりつつあるmixiの現状を解説した。

mixiと無料ゲームサイトの違いは“ソーシャルグラフ”か否か

 mixiは2009年末現在でユーザー数1858万人という巨大なSNSだが、その根幹は、会員同士がお互いを登録しあう「マイミク」機能にあると笠原氏はまず説明。「マイミク同士、つまり顔見知りの友人同士がネット上で一緒に楽しむサイトであることがすべての土台になっている」と話す。

株式会社ミクシィ代表取締役社長の笠原健治氏

 同様に、ユーザー間のコミュニティ機能を全面に押し出したサービスは他社からも多数リリースされており、例えばモバゲータウンやGREEといった携帯電話向け無料ゲームが特色のSNSが挙げられる。mixiでも「mixiアプリ」を使って開発されたゲームが増加。エンドユーザーが一見しただけでは、サービスの傾向が似通っているともいえる状況だ。

 しかし笠原氏は、モバゲータウンなど“ゲームコミュニティサイト”とmixiの間には、目指しているコンセプトに決定的な違いがあると指摘する。

 その違いとは、ユーザー1人1人が当初持ちあわせているモチベーションだという。笠原氏は「mixiはもともと招待制サービスだったこともあり、顔見知りの友人・知人同士が誘い合って利用し始める。最初は日記を見せ合うのが一般的で、mixiアプリで提供されているゲームが主目的の人は少ない」とmixiユーザーの傾向を説明する。現実世界での友人・知人関係をSNSに持ち込むというこのスタイルを、ミクシィでは“ソーシャルグラフ”と呼称している。

 一方のモバゲータウンやGREEは、やり応えのあるゲームを公開し、それをプレイするために集まってきた匿名ユーザー同士が結果的にコミュニティを形成しているとミクシィでは分析。ゲームをプレイするという大きな目的を共有しながらも、現実においては見ず知らずの関係であることから“バーチャルグラフ”という対称的な用語を充てている。

 笠原氏は「ソーシャルグラフとバーチャルグラフのどちらが優れているかと比較する意図はなく、それぞれのビジョンが異なるというだけ。ただ(コストをかけて)アプリを作る以上、この違いを理解していただいたほうが、よりポテンシャルの高いサービスを作れるはずだ」と説明する。


顔見知り同士のコミュニケーションを前提とした“ソーシャルグラフ”であることがmixiの大きな特徴という“ソーシャルグラフ”と“バーチャルグラフ”の差を比較した表

バイラル効果の高いmixiアプリ

 mixiアプリはPC版サービスを2009年8月に提供開始。モバイル向けも合わせるとすでに1000種類以上のアプリがリリースされた。Rekoo Media開発の「サンシャイン牧場」が登録者数452万人(2月8日現在)に達するなど、ヒット作も誕生している。このほか「ハッピーアクアリウム」「おみせやさん」などのゲームも人気を集めつつある。

 mixiアプリの登場は、mixiユーザー間のコミュニティを活性化する効果もあった。2009年度第1四半期末(6月30日)で150.6億件だったPV(ページビュー)が、同年度第3四半期末(12月31日)には276.2億件にまで伸長。これまでの日記機能を中心としたユーザー間コミュニケーションのスタイルに、新たにmixiアプリが加わった格好という。

 mixiアプリを開発するにあたっては、友人・知人間のコミュニケーションを促進する機能を盛り込むことが重要という。笠原氏は「ゲームにそれほど興味のない人に対しても、友人からの紹介というバイラル効果が期待できる。サンシャイン牧場の場合、もともと農場ゲームが好きだからプレイしている人は少ないはずで、あくまでも友人が遊んでいるから自分もやってみようという人がほとんどのはずだ」と語る。

 実際、「友達に誘われたからmixiアプリを使い始めた」という回答が80%以上を占める統計もあったと笠原氏は説明。従来のゲームファン向け市場とは完全に方向性の異なる“ソーシャルアプリ”の市場が開拓できるだろうとも補足した。


mixiアプリの登場によってPVも大幅に上昇したmixiには「顔見知りの友人・知人と一緒に遊んで楽しいアプリ」が適しているという

全国大会ならぬ“マイミク大会”が鍵?!

 ではmixiアプリの開発を検討する企業は、具体的にどんなことに留意して製品を作るべきなのだろうか。笠原氏はサンシャイン牧場の人気を分析した場合、4つのポイントがあると説明。「友人から誘われた人であっても、チュートリアルを読まずに気軽に楽しめる“わかりやすさ”がやはり重要だろう。また、マイミクと一緒にプレイしている空気感作り、逆に言えばマイミク以外を表示せずに“ソーシャル性”を高めることも必要だ」とまとめる。

 このほかマイミクを誘うことにアイテムなどの形で明確なメリットを与える“巻き込み性”、ユーザーを飽きさせないためにコンテンツを更新していく“継続性”にも目を向けるべきとした。

 ヒット作に必ずある要件として挙げたのは、顔見知りの友人・知人同士だからこそ生まれる感情、“ソーシャル・エモーション”のバリエーションを増やすような仕組み作りという。それほど興味のないゲームであっても、友達への義理があるので遊んでみる。顔見知りの友達相手だからこそ、大変な作業を手伝ったり、ギリギリで許されそうなイタズラをしてみる──。ソーシャルグラフのmixiだからこそ発生しうる感情を、効果的に課金へ繋げることが開発者の腕の見せ所ともなりそうだ。

 そして笠原氏はmixiの実態として、1800万人以上のユーザーすべてが相互に濃密なコミュニケーションをしているわけではなく、数十人程度のマイミクが集まる“小さな村”の単位で交流が行われていると明かす。それぞれの小さな村は同級生、職場の同僚など現実にもごく身近な関係であるケースがほとんどだ。その上で「mixi全ユーザーが参加するような全国大会に興味がなくても、小さな村単位で行われる“マイミク大会”なら参加するユーザーもいる」と言及する。

 オンラインゲームは利用者が少ない場合に“過疎化している”とマイナスイメージで捉えられるため、もともと少人数である“小さな村”単位でのサービスに抵抗感のある事業者も少なくないと見られる。しかしソーシャルグラフであるmixiであればその懸念は少なく、顔見知りへの安心感から“小さな村”の全員が利用する可能性も高い。この少人数集団の構造を意識しすることも重要だと笠原氏は語る。

 mixiではこのほかにも開発者向けサポートとして、広告や課金代行といった収益化プログラムも提供。新たな開発業者の参入を呼びかけて、講演を締めくくった。


「サンシャイン牧場」に学ぶ、人気アプリの条件顔見知り同士だからこそ生まれる感情を、ゲームシステムに反映させることも重要だ

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(森田 秀一)

2010/2/17 17:04