インタビュー
マンガアプリ「comico」タイ版の事業展開、漫画家発掘と育成方法
2016年6月6日 05:55
マンガアプリ「comico」のタイ進出を記念したイベントが、バンコクで5月25日に行われた。同イベントにも登壇したNHN Entertainment Thaiの代表であるJongbum Park氏に、タイにおけるサービスの展開・取り組みについて聞いた。あわせて、タイ、台湾、韓国、日本のcomicoで活躍する作家にも話を聞いた。
ジャンルの幅を広げ、年内に500万ダウンロードを目指す
comicoは、縦スクロール/フルカラーで読み進める形式のマンガアプリ。2013年10月に日本でサービスを開始し、続いて2014年7月に台湾、10月に韓国、そして2016年2月にタイというように海外へ事業を展開してきた。
タイ版comicoでは一般投稿システムが導入されていないため、公開されている作品は公式漫画に限られる。2016年5月時点で、日本(37タイトル)、台湾(20タイトル)、韓国(16タイトル)の各国comicoの人気作品に加え、タイ作家によるオリジナル作品(52タイトル)、計125タイトルをラインアップしている。
タイにおけるcomicoのダウンロード数はAndroidが30万、iOSが10万で、月間アクティブユーザー数(MAU)は20万人。直近30日間の男女比は、女性が76.1%、男性が23.9%。3月は女性82.5%、男性17.5%、4月は女性79.7%、男性20.3%だったことと比較すると、男性の占める割合が増加傾向にある。年齢構成は、18~24歳が58.39%、25~34歳が27.76%、35~44歳が7.53%、45~54歳が3.22%、55~64歳が1.13%、65歳以上が1.97%。
タイではcomico以外に「LINE Webtoon」「Ookbee」といったウェブマンガサービスが展開されている。紙のマンガに対するデジタルマンガの比率は2013年は1.8%だったが、2018年には9.4%まで上がる見込みだという。タイ版comicoは、2016年内に500万ダウンロードを目指す。
タイでは「週刊少年ジャンプ」といった雑誌にも海賊版が出回っており、海賊版の購入者が多いことから、正規版の売上はヒット作でも3~4万部程度になる。「デジタルマンガは、IP(知的財産)保護の観点から見ると、有利にサービスを展開できる」とPark氏はいう。
「タイ、台湾、韓国の市場規模は日本と比較すると小さなものではあるが、アニメや雑誌、ノベルなどさまざまな媒体に展開できるように考えている。日本のcomicoの経営面、例えば作家との契約内容、関係作り、人気作品の単行本化などといった事業展開に関しても参考にしている。」
タイ版comicoのランキング上位1~3位はタイ、4位は韓国、5位以降は日本の作品が並ぶ。Park氏によると、タイのウェブマンガ作品は家族ものや、異性同士の恋愛を題材にした作品に加え、同性間の恋愛も描かれるようになったものの、ジャンルは豊富ではないという。今後は、ミステリー、アドベンチャー、スポーツ、グルメなどジャンルの幅を広げたり、男性読者を増やすための取り組みも行っていく。
具体的には、各ジャンルを得意とする作家を募集する。「comicoはサービス開始から3年程度。作品作りのノウハウがなく、また、日本の出版社のように1対1の打ち合わせで作品を作ることはできない」。そのため、読者の年代や性別、読者数の増減などのデータをもとに作家自身で作品の方向性を判断する必要がある。編集部では、作家が突飛なストーリー構成で読者を増やそうとする動きを止めるストッパーとしての役割を担うとしている。なお、ランキング上位の一部の作家とは直接会って作品作りを行っているという。
ネットとリアルで作家を発掘、まずはスター作家の育成から
タイでも同人誌の即売会が頻繁に行われており、そのような場所にスタッフが直接出向くこともある。他媒体からスカウトを受けないようにその場で契約することが多いという。また、Facebookにマンガ作品を投稿する作家も多くいるため、外部の学生に委託し、2週間に1回の頻度で約20作品を選出。その中から有力な作家に声を掛けて人材を発掘していく。
契約した作家でも週間ペースの連載にギブアップし、休載する作家も多いという。今後は、あらかじめ作品のストックを作った状態から公開する方法も検討しているようだ。さらに、海外作品のストックも抱えているため、休載した作家が出た場合でも、コンテンツの少なさを感じさせないように更新できるとしている。
タイの作家は副業をしているケースが多く、他社の絵本の表紙や挿絵の仕事を受けることもあるそうだ。Park氏は、comicoで作家が成功する事例が必要だという。「スター作家を生み出し、アマチュアの漫画家に夢を見せることができれば、マンガを描く人は増えていく」と考える。
今後は各国の編集部との連携強化や、スマートフォン向けのゲーム化を見据えた作品作りを行うとしている。
「comico」で連載する4カ国――タイ・台湾・韓国・日本の作家
続いて、comicoに連載を持つタイ、台湾、韓国、日本の作家陣に、comicoに投稿を始めた経緯、comico独自の縦スクロール形式の特徴と日本のマンガのイメージについてうかがった。
Vicmon氏(タイ)
Vicmon氏の「3rd Time Kiss」は不思議な力を持った狐少女メローと彼女を取り巻く少年たちの恋物語。
ウェブマンガはcomicoのみに投稿しているが、小説の表紙やグラフィックブックを描くこともあるという。縦スクロール形式は読みやすく、スローモーションなどの動きを見せやすい特徴があると述べる。
「日本のマンガは子供から大人向けまでジャンルの幅が広く、他の国にはない特徴がある。」
SALLY氏(台湾)
SALLY氏の「一起搭捷運,好嗎?(日本語訳:一緒に地下鉄に乗りませんか?)」は2人のサラリーマンの出会いの物語。
5、6年前に「ComiComi」といった他のウェブマンガサービスでの投稿や、本の出版経験を持つ。台湾版comicoのローンチ前からからスカウトを受けていたため、サービス開始時から掲載している。
「本のマンガのコマの読み進め方が分からなくても、縦読みなら順番が分かりやすく読みやすい。一般的なマンガであれば、1ページごとのレイアウトで見せ方を考える必要があるが、縦スクロールならリズムを持たせることができる。」
日本のマンガは子供のころから読んでおり、小さいころは少女マンガ、大人になってからは少年マンガや青年マンガを読むようになったという。
kaab氏(韓国)
kaab氏の「flowerboy,花郎」は、韓国の武士が現代にタイムスリップし、アイドルになって恋愛する物語。
デビュー時は、「NAVER Webtoon」などのサービスが勢力を広げていたが、知り合いの漫画家に自分のマンガがどのようにしたら世に広まるか相談したところ、comicoを紹介されたという。現在、comicoを中心にタイ、台湾、韓国、日本の4カ国で連載を持っている。
もともとアニメーション制作会社に所属しており、ページをめくる動作の必要な一般的なマンガでは、連続的なコマの見せ方やアクション、モーションの表現が難しかったという。縦スクロール形式はアニメの絵コンテの流れのようにテンポよくモーションや動きを演出できるとしている。
「日本のマンガは『うたの☆プリンスさまっ♪』『ONE PIECE』を見ている。韓国のマンガもクオリティが上がってきたが、日本の作品は基本的なクオリティがとても高い水準にあるのでいつも参考にしている。」